女優・綾瀬はるか、「進化と深化」の20年を辿る

俳優・映画人コラム


(C)2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会

2000年のホリプロタレントスカウトキャラバンで審査員特別賞を受賞して芸能界デビューした綾瀬はるかは、翌年2001の女優デビューを飾ります。

ということは、こと2021年は綾瀬はるかにとって女優デビュー20周年イヤーとなります。

そんな20周年イヤーの綾瀬はるか。ドラマは1月クールのTBS日曜劇場「天国と地獄~サイコな2人~」、映画は『劇場版 奥様は取り扱い注意』が3月公開予定とスタートからエンジン全開モードです。

そこで、今回は、綾瀬はるかのこれまでのドラマと映画の足跡を追いながら、その変遷を楽しんでいきたいと思います。

ドラマの綾瀬はるか“ザ・ヒロイン”として

綾瀬はるかの名前が一気に知れ渡ったのは2004年のベストセラー小説のドラマ化作品「世界の中心で、愛をさけぶ」でしょう。

同年の長澤まさみ版の映画が公開されたばかりでのドラマシリーズの展開と、当時まだ無名に近かった綾瀬はるかの抜擢ということで、大きな話題となりました(相手役は山田孝之)。同年に同じ役を演じたことで長澤まさみとはこれ以降何かと比較されるようにもなりましたね。(後年映画『海街diary』で姉妹役で共演)。

映画に続いてドラマもヒットした「世界の中心で、愛をさけぶ」のおかげで一気に知名度が上がった綾瀬はるかですが、映画の長澤まさみ同様、役柄のイメージが強くなりその後も芯のあるヒロイン像を求められるようになりました。

役柄が俳優を支配してしまう逆転現象は俳優にとって必ずしもプラスではないのですが、その路線を求められることがしばらく続いています。

山田孝之と再共演した「白夜行」や大沢たかお主演の「JIN-仁-」、「南極大陸」などの作品がそれにあたります。その一つの到達点が2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」の主演と言うことになるでしょう。

コメディ路線への展開

きっかけはゲストキャラクターとして登場した木村拓哉の大ヒットシリーズ「HERO」の2006年の特別編とその後公開された映画版だったのではないかと思います。ここで綾瀬はるかはザ・ヒロインというキャラクターに加えてコメディ的な演技を披露します。

このコメディ路線は2007年の「ホタルノヒカリ」に結び付きます。「ホタルノヒカリ」は2010年にドラマでパート2、さらに2012年に映画版も公開されるコメディ路線の綾瀬はるかの代表タイトルとなります。

以降、木村拓哉との再共演となった2009年の「Mr.BRAIN」や2014年の「きょうは会社やすみます。」などに繋がっていきます。

これらの作品の間に「JIN-仁-」の完結編や「南極大陸」もあり、ザ・ヒロイン路線とコメディエンヌ路線の両輪が機能していきます。この両輪が評価されて2013年「八重の桜」への起用に繋がったと思います。

番組宣伝などのために出演したバラエティ番組で見せてくれる素顔の綾瀬はるかはかなりの天然系のキャラクターなので、彼女自身が本来、持ち合わせていた“楽しさ”“明るさ”がキャスティングの面でも活かされるようになったといえるでしょう。

–{変化球もこなせる余裕}–

変化球もこなせる余裕

凛々しさとコミカルさを持った綾瀬はるかによる「八重の桜」の新島八重は、物語のけん引役としてしっかりとその責任を果たし、この実績が2016年から3年間に渡る大作企画のNHK大河ファンタジードラマ「精霊の守り人」へと繋がっていきます。

「八重の桜」、「精霊の守り人」を経た綾瀬はるかは一つの作品の中でシリアスからコメディ、さらにアクションや変化球キャラクターまでこなす余裕を感じさせるようになります。

「精霊の守り人」を完走した後の作品は「奥様は、取り扱い注意」「義母と娘のブルース」そして最新作の「天国と地獄~サイコな2人~」とどれも正統派とはカテゴライズしがたい部分を持つ作品です。しかし、どれも非常に独特な魅力を持った作品となり、また視聴率の面でも好記録を残し、綾瀬はるかの余裕=万能さが際立って見ることができます。

「世界の中心で、愛をさけぶ」以降の一時期、型通りのザ・ヒロインを求め続けられていたころが嘘のようです。

「奥様は取り扱い注意」は映画『ICHI』や「精霊の守り人」で見せた綾瀬はるかのアクション俳優としての素養を前面に押し出した企画で、「SP」シリーズを兼ねた金城一紀が綾瀬はるかありきで作った作品で、今年2021年3月に劇場版も公開されます。

「義母と娘のブルース」では元キャリアウーマンで上白石萌歌の義母という役どころ。どこに行くにもスーツ姿、会話はビジネス用語という今までにないキャラクターを演じた本作はその後も特別編が放映されるほどのヒット作となりました。

最新作は入れ替わりサスペンス!?


ドラマ「天国と地獄」より

綾瀬はるかの最新作ドラマ「天国と地獄~サイコな2人~」では正義感あふれる熱血刑事とサイコパスの殺人鬼(=高橋一生)の魂が入れ替わるという突飛な設定のドラマ。

またもや正統派とは言い難いドラマですが、綾瀬はるか(と高橋一生)の存在感で視聴者の気持ちを引っ張り続けます。

あの「半沢直樹」などの池井戸潤作品で知られるTBS日曜劇場枠の新作で、こういうSF要素があるものはどうなのかな?とも思いましたが、綾瀬はるか自身が出演していた「JIN-仁-」もよくよく考えればタイムスリップものでしたね。まだ物語は半ばというころですが、果たして入れ替わった理由何なのか?犯人の動機は?別の真犯人がいるのか?そして、入れ替わった2人の魂は元に戻ることができるのか?

ドラマ後半戦に向けてまだまだ謎も要素も山積、どんな決着を見せてくれるのでしょうか?

脚本の森下佳子は「世界の中心で、愛をさけぶ」「JIN-仁-」「Mr.BRAIN」「義母と娘のブルース」で綾瀬はるかと組んできた脚本家で、彼女の活かし方を熟知しています。そのためにこれだけ突飛な設定のオリジナル脚本のドラマでも人を惹きつけ続けているのでしょう。

–{映画の綾瀬はるか“試行錯誤” }–

映画の綾瀬はるか“試行錯誤” 

映画の綾瀬はるかは試行錯誤と言う言葉がぴったりのフィルモグラフィです。それでもやはり2006~07年(ドラマと映画の『HERO』の時期)が一つのターニングポイントになっていることが分かります。2008年に三谷幸喜監督の『ザ・マジックアワー』や矢口史靖監督の『ハッピーフライト』に続けて出演しコメディエンヌとしての才能を発揮し始めます。

以降“ザ・ヒロイン”からの脱却が始まり黒沢清監督『リアル~完全なる首長竜の日~』や是枝裕和監督の『海街diary』などの作家性のある監督の作品にも出演するようになります。歴史ドラマ『海賊と呼ばれた男』がある一方で『ひみつのアッコちゃん』なんていう珍品もこなすわけですから、まぁそのふり幅たるやたいしたものです。

“試行錯誤”がやがて、“ふり幅の広さ”に繋がり“映画俳優綾瀬はるか”を形作るようになり30本近い出演作をほぼ毎年、私たちに見せてくれることになりました。

ドラマ、映画の主演作が毎年ちゃんと公開・放映されることは実はかなり難しいことなのですが、この綾瀬はるかの実績・出演歴は人気、実力に加えて視聴率や興行収入といった数字もついてきていることを証明しています。

–{3年ぶりの映画、最新作は日本版『Mr.&Mrs. スミス』?}–

3年ぶりの映画、最新作は日本版『Mr.&Mrs. スミス』?


(C)2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会

映画の綾瀬はるかの最新作は『劇場版 奥様は取り扱い注意』です。

これまで年に一本は新作映画を提供してくれた綾瀬はるかですが、なんと映画は3年ぶりとなります。コロナ禍で延期になった部分を差し引いてもこれだけ作品がなかったのはちょっとなかったことなので否が応でも期待が高まります。

綾瀬はるか演じる元特殊工作員の“奥様”と実は彼女を監視していた公安部のエリートの夫・西島秀俊との危なっかしい夫婦生活が今回も展開されます。


(C)2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会

2017年のドラマ版の最終回のラストシーンは、強烈なクリフハンガーのまま終わり、続編か?映画化か?と憶測が飛び交いましたが、ついにスクリーンに帰ってきます。しかも、奥様こと菜美はある事情から記憶を失っているという驚きの展開から物語をスタート、引き続き夫として公安エリートとして監視と愛情の間で苦悩する夫と名前を変えて地方都市に引っ越し、新たな生活を始めますが、そこにもまた問題があって…。

見どころはなんと言っても綾瀬はるかのアクション。元々岡田准一の「SP」シリーズや小栗旬主演で西島秀俊も出演している「CRISIS」の企画、脚本を手掛けた直木賞作家の金城一紀が“綾瀬はるかの身体能力”ありきで企画したドラマ作品でしたが、映画でもその部分は健在。綾瀬はるかが、清野菜名などと並んでジャパンアクションアワードの常連女優であることを再認識させてくれます。


(C)2020映画「奥様は、取り扱い注意」製作委員会

一方でタイトル『奥様は取り扱い注意』という言葉が指し示す通り“夫婦の絆”のあり方についてもドラマ以上に描かれ、アクションという名のラブシーンもたっぷり描かれ、まさに日本版『Mr.&Mrs. スミス』といった趣の作品に仕上がりました。
 

ドラマ、映画、双方で毎回違った顔を見せてくれる綾瀬はるか、次の一手は何になるのか?ドラマではNHKの「あなたのそばで明日が笑う」というタイトルがアナウンスされています、果たして?

(文:村松健太郎)