2021年2月14日より放送開始となったNHKの大河ドラマ「青天を衝け」。
吉沢亮が主演を務め、新しい1万円札の顔にも採用された渋沢栄一の幕末から明治の激動の時代を描いていく。
NHK連続テレビ小説「風のハルカ」「あさが来た」などの大森美香さんが脚本を担当。
天保11(1840)年、豪農の家に生まれた栄一は、幕末の動乱期に尊王攘夷思想に傾倒するが、江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜との出会いで人生が大きく転換。慶喜の元、幕臣としてパリに渡って、株式会社や銀行の仕組みを学ぶ。
その後、大政奉還を受け帰国、明治新政府に仕官され、日本の近代化に向けて奔走。33歳の時に辞表を出して民間人へと転身。実業家として、実業界を引退する1916年(栄一76歳)まで、近代日本の礎を築き上げることに貢献していく。
もくじ
第1話のあらすじ&感想
第1話のあらすじ
武蔵国血洗島村(現在の埼玉県深谷市)で養蚕と藍玉作りを営む農家の長男として生まれた栄一(子役・小林優仁)。
人一倍おしゃべりの剛情っぱりで、いつも大人を困らせていた。
ある日、罪人が藩の陣屋に送られてきたことを知った栄一は、近くに住むいとこの喜作(子役・石澤柊斗)らと忍び込もうとたくらむが…。
一方、江戸では、次期将軍候補とすべく、水戸藩主・徳川斉昭(竹中直人)の息子、七郎麻呂(子役・笠松基生)を御三卿の一橋家に迎え入れる話が進んでいた。
第1話の感想
「どうして怒りは敵なのか?」ーーそう子どもに聞かれたとき、即答できるだろうか。
渋沢栄一の子ども時代は、とても”強情っぱり”に描かれている。両親が出かけると知れば「何がなんでもついていく!」と駄々をこね、行方をくらますのは日常茶飯事。辛抱が足らないと父親から説教をされている間でさえ、いちいち口を挟む始末だ。
減らず口で人騒がせな幼少期の渋沢栄一。しかし、文字の読み書きをいち早く覚える記憶力の良さや、友人の宝物である櫛が川に流されてしまったときに我先に飛び出す心の優しさも持ち合わせている。幼少期の栄一を演じる小林優仁の愛らしさは見ていて飽きない。
1話の冒頭、成長した渋沢栄一が徳川慶喜に対し「私を使ってください!」と直談判しに行ったシーンからも、幼少期からの気の強さは変わらず残っていることがうかがえるだろう。徳川慶喜と渋沢栄一の出会いは、確実に今の日本の姿に影響しているーー「なぜ怒りは敵なのか?」と違和感をもった彼が、日本を変えようと奮起した原動力は、まさに怒りだったのではないだろうか。
囚われの身である高島秋帆と栄一が言葉を交わす終盤。「皆がそれぞれ自分の胸に聞き、動かねばならんのだ」と諭す高島の声が胸に迫る。この時代も、今の日本も、ひとりひとりが自身の頭で考え、答えを見つけねばならないのは一緒だと思うのだ。人に答えを聞くのでもなく、責任から逃れることばかりを考えるのではなく、自分の胸に聞く。
渋沢栄一の物語が始まった。これから一年、”自分で選ぶ生き方”を学ぶときが来たのかもしれない。
–{第2話のあらすじ&感想}–
第2話のあらすじ&感想
第2話のあらすじ
父・市郎右衛門(小林 薫)から藍の商いを、いとこ・新五郎(田辺誠一)から読書を習い始めた栄一(子役・小林優仁)。
でも一番の楽しみは、村祭りで獅子舞を舞うことだ。しかし、大人の事情で祭りは中止に。
がっかりした栄一だが、ある計画を思いつく。
一方、一橋家の養子に入った七郎麻呂(子役・笠松基生)は、慶喜と名を改め、将軍・家慶(吉 幾三)から実子のようにかわいがられていた。
隠居の身の斉昭(竹中直人)は、息子を頼みの綱に政界に返り咲こうとする。
そんな中、ペリー(モーリー・ロバートソン)が日本にやってくることになり…。
第2話の感想
栄一は農家の生まれ。「農家出身」と聞くと貧しい家の出だと勘違いしてしまうが、栄一の実家はいわゆる豪農だった。藍玉作りを主な生業としながら、地域を束ねる役割をも担う。幼い頃から経済や人とのコミュニケーションを間近で見てきた栄一にとって、将来武士として幕府に入ったり、現・みずほ銀行を立ち上げて数々のスタートアップを支援したりするのは、自然な流れだったのかもしれない。
「藍玉作りを褒められるのは、自分の息子を褒められるのと同じこと」とする父親の嬉しそうな顔を見て、心が満たされる栄一。教育は決して甘いものではなかったようだが、父親に対する敬意が至るところにみられる。家族を第一に愛した渋沢栄一という人物が、日本の経済を背負って立ち改革に尽力したというのは、同じ日本人として誇ってもいいことに思える。
6月は、藍玉作りにおいて最も大事な時期だという。葉の色素が変化しないうちに刈り取らねばならず、同時に蚕も繭を作りはじめるため、人手が必要なのだ。そんなときに村の男達にはお代官様から土木作業の命が下った。昼は土木作業、夜は遅くまで藍の刈り取り……。身体的につらい毎日を、村の皆と歌をうたいながら乗り越える。それは栄一を含めた子どもたちも一緒にだ。
忙しい時期だからと中止されることになった村の祭り。だが、はいそうですかと大人しく承知するほど栄一は物分かりがよくない。特急で藍の刈り取りを終わらせ、喜作とともに少しの間、獅子の舞を踊ってみせた。つかの間、村に笑顔が戻ってくる。栄一はどこまでも、人の笑顔を大事にしたかったのだ。
成長した栄一。春には江戸に行けるかもしれないとわかるや否や、まるで子どもの頃のように跳ねて喜ぶ。日頃の稽古で剣の腕を磨き、読書に明け暮れる栄一が、江戸で学ぶことによってさらに見識を深めるのだ。次回も、日本経済を背負って立つ栄一のルーツが垣間見える物語になりそうだ。
–{第3話のあらすじ&感想}–
第3話のあらすじ&感想
第3話のあらすじ
市郎右衛門(小林 薫)と初めて江戸へ行った栄一(吉沢 亮)は、江戸の華やかさに驚くとともに、父の姿に商売の難しさを知る。
その年の藍葉の不作により窮地に陥った父を助けるため、自ら藍葉の買い付けに行きたいと考える栄一だが…。
一方、黒船が襲来した江戸は、大騒ぎ。家慶(吉 幾三)が亡くなり、次期将軍候補に慶喜(草彅 剛)の名が挙がるも、慶喜は反発する。
そんな慶喜の腹心の部下にと、ある男に白羽の矢が立つ。
第3話の感想
「おなごとて、人だに」ーー女性であろうと男性であろうと関係ない。人なら人らしく、物事の理を知りたいと思うのは自然なこと。この台詞は、この時代に乗せるからこそ、あらゆる立場の人に響くだろう。女性でも勉学をしたい、物事を知りたいと強く思う気持ちが現代に繋がり、世界をまるごと包む空気感ごと変えようとしている。
成長した栄一が、初めて江戸へ行く回だ。いつの時代も変わらず、江戸や東京は日本の中でも特別な地であることがわかる。目に見えるもの、耳に聞こえるもの、すべてが新鮮な力を持って響いてきた。全身でそれを味わいながらはしゃぐ栄一は、もうすっかり青年だけれども、少年らしい可愛らしさも持っている。
幼少期から父の後につき、藍の買い付けを横目で見ていたからこそ、栄一の目は着実に養われていた。家を襲った害虫被害という緊急事態にも、栄一は自身の持てる力をすべて発揮し対応してみせた。窮地を脱し、父親から直に褒めの言葉をもらった栄一の、なんと嬉しそうな顔……!少しずつ、しかし着実に成長している息子を見て、両親も嬉しかったことだろう。
誇らしそうにソロバンを弾く栄一の姿を見ていると、日本の経済を背負って立った渋沢栄一のルーツは、家業や生育環境にあったのだと知れる。彼がいなければ、日本の今の姿はどうなっていただろうかーー今、あわゆる情報に惑わされ、迷いやすい時代だからこそ観るべきドラマだと感じる。
–{第4話のあらすじ&感想}–
第4話のあらすじ&感想
第4話のあらすじ
栄一(吉沢 亮)は仕事にますます励み、もっとよい藍を作るにはどうしたらよいかと思い巡らせていたが、ある妙案を思いつく。
一方、幕府はペリー(モーリー・ロバートソン)の再来航が迫り混乱していた。
斉昭(竹中直人)は、次期将軍候補である息子・慶喜(草彅 剛)に優秀な家臣を付けようと、変わり者の平岡円四郎(堤 真一)を小姓に据える。
そしてついに、日米和親条約が締結。
開港のうわさは血洗島にも届き、栄一たちはがく然とする。
そんな中、父・市郎右衛門(小林 薫)の名代として、多額の御用金を申し渡された栄一は、その理不尽さに、この世は何かがおかしいと感じ始める。
第4話の感想
1850年代、激動の時代だ。ペリーが黒船で来航し、開国を要求し、日米和親条約を締結せよと迫った。日本としても各国との貿易を取り付けたほうが経済が安定するとわかってはいても、鎖国を解く不安は凝り固まって消えない。そんな中、「御用金だから」といとも簡単に金を持っていってしまうお上に対し、怒りを抑えられない栄一の心境は……現代の私たちにも想像しやすいところだろう。
政府を信頼し、国を治めるための政治を任せたい気持ちは山々だが、いざ納税となると気が進まないのは、相応の働きを実感できていないからではないか。約150年前も今も、民たちの複雑な気持ちは変わらないのかもしれない。
幼少期から家業を手伝い、藍の買い付けも任せられるようになった栄一は、どんどん商いの面白さに目覚めていく。よりよい藍をつくるためには、一日一日の農民たちの地道な働きが必要なのだ。算盤を弾きながらも、人としての道理を忘れることのなかった栄一。誰よりも人の感情を重んじたからこそ、現代にまで名が残っているのかもしれない。
日本は開国した。各国との貿易が活発になるにつれ、栄一の出番も増えていくだろう。それと同時に、世の中にまかり通ってきた不条理にも対面することになる。いちいち怒ってはいられない。世界や日本を着実に変えていくためには「具体的な行動」と「実利」がいるのだと、栄一が学ぶのもすぐだろう。
–{第5話のあらすじ&感想}–
第5話のあらすじ&感想
第5話のあらすじ
惇忠(田辺誠一)に薦められた本で、清がアヘン戦争でいかに英国に敗れたかを知った栄一(吉沢 亮)は、開国した日本の未来を危惧する。
そんな中、栄一の姉・なか(村川絵梨)は、自身の縁談を、“相手の家に憑き物(つきもの)がいる”という迷信的な理由で伯父・宗助(平泉 成)たちから反対され、ふさぎ込んでしまう。
一方、幕府の方針をなおも受け入れられない斉昭(竹中直人)は暴走。老中・阿部正弘(大谷亮平)と斉昭の側近・藤田東湖(渡辺いっけい)は斉昭を必死にいさめる。そんなとき、大地震が江戸を襲う。
第5話の感想
1850年代、ペリー来航からの開国にともない、日本は混乱の最中にあった。異人が国内に入ってくることにより疫病や”たたり”が発生すると信じられていた時代。現代では到底考えられないことだが、いつの世も新しすぎるものは敬遠される傾向にある。
1850年頃と比べると、あらゆるものが良好に流れている気もする。女性の地位は向上し、外国人が道を歩いていても珍しくもなんともなく、アメリカや韓国の文化が根付き、ボタンひとつでインドやタイの映画も観られる時代だ。それでも、人の根っこには拭いきれない不安や恐怖があるのかもしれない。いつか、別の国に乗っ取られる日が来るのではないかと。
栄一の姉が、突如人が変わったように落ち込んでしまったのも、狐に憑かれたからだとして周囲から恐れられた。なぜ気落ちしていたのか詳しい理由が語られることはなかったが、栄一が得意の語りでエセ祈祷師を追い払ったのを影で見てからというもの、すっかり元の元気を取り戻すことに。おかしいことはおかしい、変なことは変だと言える人間がもっと増えれば、さらに違った世の中がみられるのかもしれない。
そして今回は橋本愛の演技もますます光った。「強く見える者ほど、弱きものです。弱き者とて、強いところもある。人は一面ではございません」ーーこれからの時代を生きていく私たちにとって、大事に心にとっておきたい名台詞のひとつだろう。人は複雑で、決して単純ではない。そのことをひとりひとりが忘れることのないよう生きていれば、無用な争いは起こらないのだと感じる。
–{第6話のあらすじ&感想}–
第6話のあらすじ&感想
第6話のあらすじ
長七郎(満島真之介)や喜作(高良健吾)と共に剣術の稽古に励む栄一(吉沢 亮)は「百姓にだって何かできるはずだ」と意気込む。
そんなとき、千代(橋本 愛)から突然思いを告げられ、胸がぐるぐるしてしまう栄一。さらに、道場破りの真田範之助(板橋駿谷)が栄一らの道場に現れて……。
一方、東湖(渡辺いっけい)を失った斉昭(竹中直人)はさらに過激な言動が増え、慶喜(草彅 剛)らに引退を勧められるが、「慶喜が将軍になるなら引退する」と突っぱねる。
ほかにも慶喜は、正室に迎えた美賀君(川栄李奈)の気性に頭を悩ませていた。
第6話の感想
この時代に生きていたら、自分はどう行動していただろう……と考える。身分格差が激しい時代であったから、百姓の子として生まれたか、武士の子として生まれたか、男か女かでも相当変わってくるだろう。仮に百姓の子、女として生まれたなら、父親や兄弟の世話を焼きながらせっせと花嫁修業をし、いつか嫁に行くその日まで(それは本人の希望なんてそっちのけで、ほぼ確定事項として取り扱われる……)家事に炊事に精を出すことになるのだ。
こう書いてみると、現代日本に生まれただけで、大層な幸せ者だと感じてしまう。生まれや身分など関係なく、多少の豊かさの差はあれど、仕事や結婚する・しないも本人の選択次第なのだ。自由には責任が付き物という言葉もあるけれど、自由と責任の両方を背負い生きていく人生のほうが豊かだと、どうしても思ってしまう。
今回の6話、栄一とお千代が互いに存在を意識し始める回……。見ているとこちらまで胸がうずうずしてしまう!好きなら「好き」と相手に伝えることもままならない時代、ふたりが無事に結ばれるまでにどんな紆余曲折があるのだろうか。
それにしても、嫁にやる・やらない、または欲しい・欲しくないの話が、本人のいない場&他人の意思のみで進められるだなんて……。時代は変わった。この頃から比べたら、日の本は相当良くなってきていると実感せざるを得ない。
–{第7話のあらすじ&感想}–
第7話のあらすじ&感想
第7話のあらすじ
老中・阿部(大谷亮平)が亡くなり、幕府は大混乱。そんな中、慶喜(草彅 剛)を次期将軍に推す声が日ごとに高まり……。
一方、血洗島では、長七郎(満島真之介)が真田(板橋駿谷)に勧められ、武者修行のため江戸へ行くことに。
栄一(吉沢 亮)は、依然、千代(橋本 愛)とぎくしゃくした関係のままであったが、喜作(高良健吾)が千代を嫁にもらいたいと言い出し動揺する。
惇忠(田辺誠一)と藍売りに出かけた栄一は、漢詩を詠みながら山道を歩く中で自分の真の思いに気づき、そびえたつ山頂で……青天を衝く!
第7話の感想
好きなものはなんだ、やりたいことはなんだ、本当に欲しいものはなんだ?ーー江戸へ修行の旅に出ることになった長七郎を見送る惇忠は、「俺には家を守る役割がある。これでいいんだ」と繰り返す。本当は惇忠も江戸に行きたいのではないか?そう問いかけた栄一に対してではなく、自分で自分を諭すようにして。
喜作とお千代が一緒になるかもしれない話を耳にした栄一にしても、そうだ。自分の意思を確かめるよりも前に、わざと喜作に考え直すよう喧嘩をふっかけたり、お千代に「それでいいのか?」と問いかけたりしている。自分がどう思うか、よりも前に、周りがどう考えるかを気にかけて、無理やり納得しようとするのだ……。時代柄、仕方のないことなのかもしれないけれど。そんな姿が、歯がゆい。
「本当に欲しいものはなんだろう?」と真剣に問いかけてみたことなど、もしかしたら、ないかもしれない。ただ生きているだけで幸せだ、今こうして和やかに過ごす時間こそ大切だと、自分に言い聞かせて納得しようとしていた。栄一が生きていた当時と現在、随分と日本の様子は変わっているのにも関わらず、市井の人々の心持ちには対して違いがないのかもしれない。
世を動かす前に、家族の顔色をうかがう前に、まずは自分がどうしたいかを見極めることが大切だーーそれは、昔も今も変わりはしないのだ、きっと。
–{第8話のあらすじ&感想}–
第8話のあらすじ&感想
第8話のあらすじ
ついに、栄一(吉沢 亮)は自分の思いを語り、千代(橋本 愛)に結婚を申し込む。と、そこに待ったをかけたのは喜作(高良健吾)。栄一と喜作は剣術で勝負をすることに。
一方、幕府では、大老になった井伊直弼(岸谷五朗)が「日米修好通商条約」を結ぶが、調印は違勅だと大問題に発展。
井伊に意見した慶喜(草彅 剛)や斉昭(竹中直人)には処分が下され、安政の大獄と呼ばれる苛烈な弾圧が始まる。
第8話の感想
お千代をどちらが嫁にもらうかで、栄一と喜作が勝負する展開は、分かりやすい青春ラブコメのようで前回に引き続き胸が躍った……!ギリギリで勝負に勝った喜作が「栄一のような者にはしっかりした嫁が必要だ!」と身を引く流れにも、心あたたまるものがある。お千代が応援しているのは栄一のほうだと知り、兄貴分らしく男を見せたのだろう。
お互いに想い合った者同士の結婚が、この時代どれだけ珍しいのかは想像するしかないが、幼い頃から一緒のふたりが無事に祝言をあげられて、なんだか親のような気持ちでホロリとしてしまった。橋本愛の演技は控えめでありながら存在感があり、かつ嫌らしくない艶やかさもあって、画面でよく映える。
傍ら、幕府は怪しい動きを見せている。徳川家定が死に、後の徳川慶喜含め謹慎処分に処せられた。井伊直弼の動きがどんな影響を及ぼすのか?彼の寝首を狙う者たちも現れ始めるなかで、江戸に修行の旅へ出ている長七郎の動きも気になるところだ。
すっかり姿や雰囲気まで変わってしまったように見える長七郎……。何やら良くないことを考えていることだけは分かるが、いったい何をするつもりなのか?家族の顔を忘れないうちに、せめて大切に思ってくれる人達を傷つけるようなことだけはしないでくれーーそう願うばかりである。
–{第9話のあらすじ&感想}–
第9話のあらすじ&感想
第9話のあらすじ
井伊直弼(岸谷五朗)により、蟄居(ちっきょ)を命じられた斉昭(竹中直人)や慶喜(草彅 剛)は無言の抵抗を続ける。
しかし、その井伊は桜田門外の変で暗殺され、斉昭も突然の死去。父の死を耳にした慶喜は慟哭(どうこく)する。
一方、江戸から戻った長七郎(満島真之介)に感化され尊王攘夷の考えに傾倒し始めた栄一(吉沢 亮)は、喜作(高良健吾)に続いて自分も江戸へ行きたいと父・市郎右衛門(小林 薫)に懇願する。
第9話の感想
この時代に生きていたら、どうしていただろう……と毎回のように想像する。
男性たちは血気盛んに江戸で起こっていることについて日々話し合い、ときには拳を振り上げる。女性たちは黙々と家事に掃除に、家のことで手がいっぱいだ。筆者は女性として生まれ性自認も女性であるので、ついつい女性側に感情移入しながら物語を追ってしまう。そうだ、お千代はきっと、栄一に江戸に行ってほしくはないだろう。
変化を嫌う者たちと、好む者がいる。鎖国が解かれ、様々な異国の文化が流入し始めるちょうど境目の時期だ。「異人が入り込むから問題が起こるんだ」と息巻く勢と、「お偉方のやり方に問題があるんだ」と少々客観的に眺める勢とがいるだろう。
お千代は、どうだっただろう。
喜作が江戸に行くことを許され、それを知ったときの栄一が羨ましそうな顔をしているのを見た瞬間。時代の変化そのものを拒むというよりは、もっと自分の肌身に近いところで決定的な何かが違ってしまうのでは、それによって、大変なことが起こってしまうのではないかという生身の恐怖があったのではないか。
お千代は、きっと怖かっただろう。時代が変わろうとしていることよりも、栄一が変わってしまうこと自体に。
それでも栄一は江戸に行ってしまう。幼い頃から物事に対する見方や信念は変わらない栄一だが、周りから見たらそうとは捉えられない場合もある。そのことにどれだけ客観的になれるか。ふたりはどれだけ心を通わせ、支え合うことができるのか。
–{第10話のあらすじ&感想}–
第10話のあらすじ&感想
第10話のあらすじ
幕府では、暗殺された井伊直弼(岸谷五朗)に代わって老中・安藤信正(岩瀬 亮)が、孝明天皇(尾上右近)の妹・和宮(深川麻衣)の将軍・家茂(磯村勇斗)への降嫁を進めていた。
朝廷との結びつきを強めて幕府の権威回復を図った和宮降嫁は、尊王攘夷派の志士に火をつける。
一方、念願の江戸に来た栄一(吉沢 亮)は、尊王論者・大橋訥庵(山崎銀之丞)を紹介され、安藤の暗殺計画を知る。
長七郎(満島真之介)は、その計画のために命を捨てる覚悟を決めるが…。
第10話の感想
映画『大コメ騒動』でも描かれていた。幕府が日本を開国した途端に米の値段が上がり、市井の人たちの生活に影響が出た、と。国の行末を決めるのはいつの時代も幕府や政府だけれど、その影響をモロに受けるのはいつだって土着の人たちだ。変えようと思う人たちが立ち上がらなければ、いつまでも仕組みは変わらないままなのだろう。
「変える」ために行動する人たちがいる。栄一はその目で江戸の様子を確認して、百姓であっても日本を変えるために行動を起こせると気づいた。刀を持たずとも、たとえ「知識だけ豊か」と嫌味混じりに言われても、できることがある、と。彼らひとりひとりが、得た違和感に対し誠実に向き合い知恵を絞ってくれたからこそ、今の日本がある。そう思うと、現代を生きる私たちには感謝しかない。
安藤を討とうと腰を上げかける長七郎が、栄一たちに止められ悔しそうに顔を歪めるシーンが強く心に痕をつけた。日本を変えるため、何かしたい。そのためには刀をとり、悪と決めた一点に向け振り下ろすしかないと信じている。そんな人間に対し、もっと根本的な解決をと説得するのは互いにやりきれない思いを生むだろう。
何が正解なのか、何が間違っているのか、誰ひとりわからない時代なのだ。
–{第11話のあらすじ&感想}–
第11話のあらすじ&感想
第11話のあらすじ
武蔵国血洗島村(現在の埼玉県深谷市)で養蚕と藍玉作りを営む農家の長男として生まれた栄一(子役・小林優仁)。
人一倍おしゃべりの剛情っぱりで、いつも大人を困らせていた。
ある日、罪人が藩の陣屋に送られてきたことを知った栄一は、近くに住むいとこの喜作(子役・石澤柊斗)らと忍び込もうとたくらむが…。
一方、江戸では、次期将軍候補とすべく、水戸藩主・徳川斉昭(竹中直人)の息子、七郎麻呂(子役・笠松基生)を御三卿の一橋家に迎え入れる話が進んでいた。
第11話の感想
新しいことを始めようとしたり、これまでの仕組みを変えようとしたりするときに、必ず言われることがある。「なぜ、今のままではいけないのか?」ーー当たり前な疑問だ。当たり前過ぎるがゆえに、あらためて腰を据えて考えることをしてこなかった疑問でもある。
変わろうとする人と、変化を避ける人がいる。いつの時代もそうだ。国が開かれ、はしか等の病が流行し、尊皇攘夷の機運が高まりつつあったこの時代、栄一は「変わろうとする人」だった。百姓とはいえ比較的豊かな環境に生まれついたからこそ、自分さえ良ければそれで良し、と割り切ることができなかったのだろう。家を出て、国を変えるための仕事に就くことを選んだ。この時代、なかなかやろうと思ってもできないことだろう。
栄一が生きた時代から、約150年以上経っている現在。日本に限っていえば、状況は確実に変わった。世界各国と比べてみても群を抜いて治安が良く、食べ物にも仕事にも困らない。明日生きるのにも汲々としている人はごく少数だろう。
それでも、「この国をより良く変えよう」と志を定め、家業を捨ててまで自分の生きる道を自身の力で選び取ろうとする気概をもつ人は、どれほどいるのだろうか。
治安が良く、明日を生きるのにさほど困らない環境だからこそ、「万一何かあっても、誰かがなんとかしてくれるさ」とどこか他力本願な人のほうが多いのではないだろうか。家業を捨て、家族を捨て、自分以外の全員が幸せに生きられるようにと願いながら目の前に仕事に明け暮れた栄一の、残してくれたものはどこにあるのだろう。
自戒の気持ちを強めながら観終わった、第11話だった。
–{第12話のあらすじ&感想}–
第12話のあらすじ&感想
第12話のあらすじ
役人に追われる栄一(吉沢 亮)と喜作(高良健吾)をボロ屋に引き込んだのは、円四郎(堤 真一)だった。
円四郎は一橋家に仕えないかと勧めるが、栄一たちは断る。
血洗島村に戻った栄一は、惇忠(田辺誠一)らと高崎城乗っ取り計画の準備をしていた。
そこに京都から長七郎(満島真之介)が戻り、涙ながらに中止を訴える。
計画を断念した栄一と喜作は、再起をはかるため、村を離れ京都に向かうことを決意する。
第12話の感想
毎話思うことだが、今話は橋本愛の演技がとくに光る。
たまたま一橋家の家臣に知り合い、横浜焼き討ち計画を着々と進める栄一たち。血洗島へ戻ってきた長七郎の、命をかけての説得にほだされ計画は白紙となる。思慮浅く自らの命を投げ出そうとしたことを悔いる栄一に対し、「道は簡単ではありません。間違えても、ときに間違えて引き返してもいいじゃありませんか」と慰めながら、ともに泣いたお千代。
なんて健気で愛あふれる妻だろう……! 初めての子を病で亡くし、夫まで死んでしまうかもしれない怖さに苦しみながらも、栄一の意思を汲み取ろうとする。自分の寂しさ、そこから出る思いをぶつけることはなく、まずは夫のやりたいこと、目指す先を聞き想像しようとするのだ。なかなかできることじゃない。
新しく生まれた自分の子を抱きながら、みすみす死のうとしたことを後悔する栄一。しかし彼はもう百姓には戻れなかった。実家の儲けを拝借したことを父に詫び、あらためて政の道へ進むことを決意する。武家になることを夢見ていた父は止めない。「孝行というものが、まさか子から親ではなく、親から子へするものだったとは」と言いながら餞別を渡すシーンは、まさに涙なしでは観られない。
今話で血洗島編が終わる。栄一と喜作、ふたり揃って京へと向かうのだ。ここで思い出されるのは第1話の冒頭、草彅剛演じる後の徳川慶喜に対し「仕えさせてください!」と頭を下げるシーンだ。今後どのような流れであの場面へ繋がるのか。
(文:北村有)