『あの頃。』レビュー:2000年代アイドルオタクたちの熱く燃えた青春グラフィティ!

映画コラム

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

劔樹人の自伝的青春コミックエッセイを原作に、脚本・冨永昌敬、監督・今泉力哉という夢のコンビネーションで贈る、2000年代アイドル・オタクたちの青春記。

当時「ハロー!プロジェクト」に青春を捧げつつ、熱い日々を過ごした主人公に松坂桃李が扮しています。

最近はすっかりカメレオンのごとくどのような役も果敢にこなす彼、今回も一目でオタクとわかるような風貌と存在感を披露。

しかし、それが決して見ていて不快な感じにならないのは、彼の映画スターとしての好もしきオーラの賜物でしょう。

主人公と共に昼夜を問わずオタ活に励む仲間たち(仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、お笑いコンビ「ロッチ」のコカドケンタロウ、大下ヒロト)それぞれの個性もユニークに描き分けられています。

実際、彼らの行動は単なるオタク興味に留まらることなく、アイドル研究はもとよりライヴ・イベントなどパフォーマンス活動も旺盛に行うなど、実に能動的で、ついにはノリで「恋愛研究会。」なるバンドまで結成してしまうほど。

映画全体の構成は、前半部がこうしたオタクたちのファンダンゴを面白おかしく描きつつ、月日の流れは残酷なもので、いつまでもこういうことをしていられなくなる現実とも向き合わざるを得なくなっていく後半戦へ突入。

しかし、そうした中で「性格が悪い」「嫌な奴」「小心者」「ネット弁慶」などと称され、まったくもって良いとこなしなのに、なぜか憎めないキャラクターのコズミンは、アイドルやAV系に留まらず、アニメにまで興味の範疇を拡大させながらオタク道をまっとうしていきます。

このコズミンに扮する仲野太賀が出色の素晴らしさで、2021年もまだ2月になったばかりではありますが、早くも本年度助演男優賞の有力候補に推し讃えたい好演なのでした。

アイドルそのものへの興味云々を抜きにしても、若者たちの「面白うて、やがてはかなく、しかしそれでもメッチャ明るい!」青春グラフィティは、老若男女を問わず共感していただけるものと確信しております。

良いです、この映画!

(文:増當竜也)

–{『あの頃。』作品情報}–

『あの頃。』作品情報

ストーリー
大学院受験に失敗し、彼女なし、お金なし、楽しいことなど何もない、どん底の生活を送っていた劔(松坂桃李)。そんなある日、松浦亜弥のMVを観て“ハロー!プロジェクト”に魅せられた彼は、イベントで出会った仲間と共に、アイドルに情熱を傾けるようになる。ケチで下ネタ好きのコズミン(仲野太賀)を始め、個性的な面々と共に学園祭でアイドルの啓蒙活動をしたり、“恋愛研究会。”という名のバンドを組んでみたり……。振り返ってみれば“どうかしていた”としか思えない、くだらなくも愛おしい青春の日々を謳歌していた。やがて時は流れ、仲間たちはアイドルよりも大切なものを見つけ、次第に離れ離れになっていく。そんな中、劔はコズミンが癌に冒されていることを知り、久々に“恋愛研究会。”のメンバーと再会するが……。 

予告編

基本情報
出演:松坂桃李/仲野太賀/山中崇/若葉竜也/芹澤興人/コカドケンタロウ/大下ヒロト/木口健太/中田青渚/片山友希/山﨑夢羽/西田尚美 ほか
 
監督:今泉力哉

製作国:日本

製作年:2021

公開日:2021年2月19日

上映時間:117分

製作会社:「あの頃。」製作委員会(製作幹事:日活=ファントム・フィルム/制作プロダクション:レスパスビジョン)

配給:ファントム・フィルム