『ドクター・デスの遺産』レビュー:綾野剛&北川景子が安楽死殺人を追う!

映画コラム

©2020「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」製作委員会

「安楽死」この言葉に対して、みなさんどのような印象を抱かれるものでしょう?

治る見込みのない病に苦しみ続ける本人はもとよりその家族などが、ほんの一瞬でも「苦しみから解放されたい(させてあげたい)!」と思ってしまう気持ちは、実は多くの人が抱いてしまったことがあるのではないでしょうか。

そして、実際に安楽死を執り行う者は、犯罪者なのか? 当事者や遺族から感謝される救世主なのか?

この難問に、綾野剛&北川景子扮するデコボコ刑事コンビが挑みます!

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街519》

安楽死連続殺人事件を描いたクライム・サスペンス映画『ドクター・デスの遺産―BLACK FILE―』の開幕です!

被害者がいない連続殺人事件その真相に迫る刑事コンビ!

©2020「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」製作委員会

映画『ドクター・デスの遺産―BLACK FILE―』は、中山七里による刑事・犬養隼人シリーズの「ドクター・デスの遺産」を原作に、医療界禁断のテーマでもある安楽死を題材にしたものです。

自分の父親が殺されたという少年からの通報を受けて警視庁捜査一課の犬飼隼人(綾野剛)と高千穂明日香(北川景子)のコンビが動き出し、火葬寸前の遺体が解剖に回されます。

結果、それが病死ではなく、安楽死させられたものと判明しました。

「苦しむことなく殺してさしあげます」

このキャッチフレーズで安楽死を請け負う闇サイトの主ドクター・デス。

調べていくと、このドクター・デスによってかなりの数の人が安楽死させられていることが判明しました。

しかし、その遺族たちは誰もがドクター・デスのことを擁護してしまうので、なかなか捜査は進展しません。

家族を病魔の苦しみから解放させてくれた事に感謝している者も多数。

いわば被害者がいない連続殺人事件。

はたしてドクター・デスは殺人鬼なのか、救世主なのか。

やがて、驚愕の事実が犬養&高千穂コンビに降りかかっていくのでした……。

–{綾野剛&北川景子デコボコ・コンビの魅力}–

綾野剛&北川景子デコボコ・コンビの魅力

©2020「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」製作委員会

本作の原作は、実際に130人もの患者を安楽死させたアメリカの医師ジャック・ケヴォーアキンをモデルに創作されたものです。
(ちなみに2010年にTVドラマ『死を処方する男 ジャック・ケヴォーキアンの真実』が制作され、主演のアル・パチーノはエミー賞主演男優賞を受賞しています)

また日本の漫画ファンなら、手塚治虫の名作「ブラックジャック」に登場するブラック・ジャックのライバルで安楽死の身を請け負う医師ドクター・キリコを追思い浮かべるかたも多いのではないでしょうか。
(かつて小中和哉監督による実写版オリジナル・ビデオで草刈正雄がキリコを演じていましたが、なかなかの熱演でした)

回復の見込みがない患者に対し、本人の自発的意思に基づいて他者が致死性の薬物を服用もしくは投与して死に至らしめる積極的安楽死は、スイス、カナダ、オーストラリア、韓国のように合法化されている国もあります(アメリカは州によって異なります)。

しかし日本では、これは違法行為であり、安楽死事件のニュースが報じられるたびに、さまざまな議論がなされ続けています。

本作はこうした難しい問題をベースにしたクライム・ミステリであり、まずはドクター・デスの正体は? そして動機は? といったあたりに焦点が絞られていきます。 

何せ遺族から感謝されているような犯罪者ですから、捜査する側も大変です。

もっとも、そうした複雑怪奇で見る側も何某かの意見を言いたくなるような事件ながら、それを追い求めるデコボコ刑事コンビの陽性で快活な魅力が、映画そのものの魅力となって勢いをどんどんアップさせてくれているので、見る側もあれよあれよと乗せられていきます。

破天荒で直感型の犬養と、冷静沈着型の高千穂。

双方の個性がぶつかりあい、共闘し合いながら、いかにして事件の真相に辿り着くかはネタバレになるのでここには記せませんが、演じる綾野剛と北川景子のコンビネーションは実に鮮やか。

両者が一緒に画面の中にいるだけで、ワクワクさせてくれるものが多分にあるのです。
(居酒屋で高千穂がホッピーを飲んでる画も、妙に可愛い)

監督は『60歳のラブレター』(09)『神様のカルテ』二部作(11&14)『そらのレストラン』(19)など、温かなヒューマニズムを起点にした人間ドラマに定評のある深川栄洋。

本作は、そんな彼だからこそ、安楽死は犯罪か否か?といったジレンマに悩みながら捜査を続ける刑事コンビの人間味を巧みに醸し出してくれています。

今回は原作小説“犬養隼人シリーズ”第4作目を映画化したものなので、本作がヒットすれば映画のシリーズ化も見込めそうな、そんな期待も膨らむ作品です。

(文:増當竜也)