『ミッドナイト・スワン』レビュー:草なぎ剛が演じる“母”の切ない温かさ!

映画コラム

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エンタテイナーとして「新しい地図」を開拓し始めて早や3年経つ草なぎ剛、香取慎吾、稲垣吾郎の3人ですが、それぞれが映画出演に意欲的で高評価をものにしてきているのも映画ファンにとっては心強い限りです。

そんな中で、草なぎ剛がまた1本、とてつもない意欲作に挑戦しました!

内田英治監督作品『ミッドナイトスワン』。

ここで彼が演じるのは、女性として生きているトランスジェンダーです。

そしてこの作品は……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街506》

親から虐待を受けてきた少女との疑似的な母娘関係の中から生まれる“愛”を描いた、実に美しくも切ないラブストーリーなのでした!

トランスジェンダー中年と親の虐待を受けた少女の交流

『ミッドナイト・スワン』の主人公は、新宿のニューハーフ・ショークラブ「スイートピー」でステージに立って踊る中年の健二=凪沙です。

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故郷・広島の親などには自分がトランスジェンダーであることを知らすことなく、都会の片隅でひっそりと孤独に暮らしていた凪沙ですが、そんな彼女のもとに母親(水川あさみ)のDVを受けていた親戚の娘・一果(服部樹咲)が預けられることに。

凪沙のことをいわゆる男の叔父さんだと思っていた一果は戸惑いを隠せず、一方で子どもが嫌いな凪沙も小さな同居人は迷惑でしかありません。

とはいえ、お互いがお互いの心を抑えながら暮らさざるを得ない日々が始まっていきます。

転校早々に凪沙の風貌をクラスメイトから中傷され、暴力事件を起こす一果。

「あんたが学校で何しようと構わないけど、私に迷惑かけないで」と、彼女を突き放す凪沙。

しかし、まもなくして一果はふと通りかかったバレエ教室の先生・実花(真飛聖)に声をかけられ、レッスンに参加することに。

バレエの月謝を払うべく、違法なバイトを始めた一果ですが、すぐさま警察に保護され、凪沙にもバレエのことがばれてしまいます。

一果にバレリーナとしての才能があることを知った凪沙は、次第に彼女のために生きていこうと思うようになっていきます。

それは「母になりたい」という凪沙の心の想いの芽生えでもありました……。

–{草なぎ剛の新境地たる母と娘のラブストーリー}–

草なぎ剛の新境地たる母と娘のラブストーリー

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草なぎ剛といえば、これまでいいひともやれば任侠のヘルパーさんもやれば、日本沈没を救う人もやれば……と、役者として変幻自在の活動を続けてきていますが、今回はまた新たな、そして大きなステップアップを遂げたなと、称賛に値する好演を示しています。

新宿の街を散策したことのある方なら、ここでの凪沙みたいな人をごく普通に認識することができるでしょう。

リアルの一言ではすまされないほどの存在感で凪沙を演じ切る草なぎ剛のひっそりとした佇まいは、一方では才能ある少女・一果のまぶしさも幼さもさらに引き立てることになっていきます。

一果を演じる新人・服部樹咲は実際にこれまで輝かしい成績を収めてきたバレリーナですが、演技未経験ながらもさすがはパフォーマー、草なぎ剛を相手に何ら臆することなく堂々とした個性を披露。

またクラブのオーナーに扮する田口トモロヲのベテランならではのいぶし銀のオーラ、虐待する母という嫌われ役に挑んだ水川あさみ、一果の裕福な友人に扮する上野鈴華など、周囲のキャラクターの魅力もさりげなく主演二人の”愛”をバックアップしながら映画に貢献してくれています。

監督は『下衆の愛』(16)やネットフリックス「全裸監督」(19)などの内田英治。

性別、年齢、才能など、人生におけるさまざまな光と影の対比から醸し出される、ささやかながらも温かい愛情の描出に長けた画と音の構築によって観る側の心に染み入る人間讃歌が見事になされています。

自分は陽の当たらないところにいるのではないか? そう思っている方にも思ってない方にも等しく奥深い感動を与えてくれる、“母”と“娘”といった疑似的関係をも優に越えた人間同士のラブストーリーとして、こちらもささやかながら(その実強く!)一見をお勧めします。

(文:増當竜也)