©2020「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂 46」製作委員会
東京ローカルの話になってしまいますが、テレビ東京の日曜深夜は坂道アイドル系番組がずらりと揃って毎週ファンを愉しませてくれていて、その中には欅坂46の冠番組「欅って、書けない?」も含まれています。
たまさか2015年秋から放送開始された同番組を第2回目からほとんど見逃すことなく楽しませていただいている私は(ほぼ漏れ回なく録画しています)、当然ながら欅坂46のファンでもあり、同時に彼女たちの番組内での明るく可愛いイメージと2016年4月6日に1stシングル《サイレントマジョリティー》でデビューして以降の激しくクールなカリスマ・イメージとのギャップに驚きつつ、それもまた大きな魅力であることも認識しています。
そんな欅坂46も2020年、絶対的センターだった平手友梨奈の突然の脱退を経て、7月16日の配信ライヴにてグループの改名を発表。
それに伴い、9月4日からドキュメンタリー映画『僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46』が劇場公開されます。
デビューしてからおよそ5年の歳月が過ぎたわけですが、その間一体何があったのか? そして時代は各メンバーに一体何をもたらしたのか……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街499》
決してすべてではないものの、そうしたファンの疑問の数々に応えてくれるとともに、現代日本のショー・ビジネスの世界に身を置いた少女たちの運命とその未来の行く末を示唆した力作として、本作を高く評価したいと思っています。
従来のアイドルイメージを打ち破る挑戦的姿勢の結実
©2020「僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂 46」製作委員会
『僕たちの嘘と真実 DOCUMENTARY of 欅坂46』は、現在の欅坂46の状況を伝えるキャプテン菅井友香をはじめとするメンバーの数々のコメントを枕にして、2015年のデビュー前からおよそ5年間の彼女たちの歩みを、絶妙の編集で振り返っていきます。
TVバラエティ番組「欅って、書けない?」は欅坂46の本格デビュー前からオンエアされていたわけですが、当時の彼女たちの印象は正直おとなしめで奥ゆかしいものでもありました。
キャプテンの菅井友香が本当に“深層の令嬢”、つまりは生粋の“お嬢様”とのことで、そこからつけられた“菅井さま”というユーモラスで愛らしいニックネームも、欅坂46の一面を物語っているかのように思えることがあります。
(一方で副キャプテンの守屋茜は“軍曹”と呼ばれる武闘派乙女!? で、双方の真逆の個性もまた欅坂46の二律相反する魅力を象徴しているように映えています)
《サイレントマジョリティー》以降の欅坂46の楽曲で絶対的センターを務めることになる平手友梨奈も、デビュー以前はどちらかというと控え目で笑顔の可愛い少女といった印象で、番組をずっと見ていた側としては正直彼女がセンターに抜擢されたときは驚いたものでした。
また《サイレントマジョリティー》という楽曲そのものが若者特有の反逆性を大いに備え持つもので、これまたデビュー前のメンバーのイメージとは真逆のものだったことに戸惑いを隠せなかったほどです。
しかし、いざ同曲が発表されるや、その激しいパフォーマンス&徹底してクールな佇まいは、従来の彼女たちのイメージを打ち崩すほどのインパクトを世に放ち、結果として多くのファンの支持を集めることに成功。
そうした平手友梨奈をセンターに起用しての大胆な挑戦は、従来のアイドルの枠を優に超えたものとして屹立していくとともに、欅坂46のその後の運命を決定づけていったようです。
それからおよそ1年ほどは順調そのものに見えた欅坂46ですが、2017年4月5日に発表した4thシングル《不協和音》から徐々に“何か”が変わっていくのが、こちらのような浅はかなファンの目から見てもわかるようになっていきます。
最大の変化は、やはり平手友梨奈から笑顔がほとんど消え失せてしまったことで、またこの時期から「欅って、書けない?」にもほとんど出演することがなくなっていきます。
グループの冠番組に肝心要のセンターが不在といった事象は、確実に何かおかしいと思わせてしまうものがありました。
《不協和音》という楽曲がいかに精神的にも肉体的にも過酷な曲であったかは、同年暮れの紅白歌合戦に出演したときの彼女たちの熾烈なパフォーマンスとその後の顛末(平手を始め数名が過呼吸で倒れるなど)からも明らかですが、そういった事象もまた見る側に彼女たちの真摯な姿勢と同時に、そこまでやらなければいけないのか?といった想いをも同時に抱かさせてしまったのも確か。
いずれにしても既に“明るく可愛い”アイドルのイメージは微塵もなく、しかしながら「欅って、書けない?」などのバラエティ番組などで見せるメンバーの屈託のない笑顔などはまさに正統派アイドルの愛らしさであり、そのギャップにももはや戸惑うばかりでもありました。
–{改めて痛感させられるメンバーの深い絆}–
改めて痛感させられるメンバーの深い絆
本作はそういったこちら側の戸惑いや疑問の多くに、かなりの部分で真摯に答えてくれるものに成り得ていました。
絶対的センターとして瞬く間にグループのカリスマ的象徴と化していった平手友梨奈は、そのときそのとき何を考えていたのか?
またそのときそのときのメンバーは、彼女に対してどういった想いを抱いていたのか?
それらのことは実際に映画を見ていただければわかることなので説明は割愛しますが、すべてを見終えて痛感させられるのはやはり平手友梨奈とメンバーの深い絆であり、逆にその絆の深さが双方を追い込んでしまったところもあったのかもしれないということで、そこに改めて驚かされてしまう観客も多いことと思われます。
SNSなどでの心無い誹謗中傷も含めて、トップに立つ側の苦悩と孤独みたいなものが10代から20代にかけての少女たちに重くのしかかっていく中での、そのつどそのつどの彼女たちの、もしくはその周囲の人々の言動や対応などは、そのすべてが正しい判断であったかどうかは別として、常に状況と真摯に対峙していたことだけは間違いないでしょう。
そういった中で2019年2月27日に発表された8thシングル《黒い羊》が、今聞き直すと平手友梨奈をはじめメンバー全員の心の叫びでもあったように響いてなりません。
しかし、そういった真摯な叫びこそが多くの、特に若い世代の心を打つことになったのも間違いはなく、それこそ先日の香港民主化運動の先頭に立っていた周庭(アグネス・チョウ)さんが逮捕(その後保釈)された際に「《不協和音》の歌詞を思い出した」というエピソードも何やら象徴的です(ちなみに彼女は自他ともに日本のポップカルチュアやアニメをこよなく愛する“オタク”としても有名です)
欅坂46の5年の歩みは、ある意味“苦闘”といってもよいものかしれませんが、その間にファンに与えた影響力は国の内外を越えるほどのものがあった。
またそれだけ全力投球し続けた彼女たちの、これからの新しいステージは一体どうなるのか? にも刮目せざにはいられません。
個人的には2016年11月30日に発表した3rdシングル《二人セゾン》のような、切なく胸を打つ楽曲が欅坂46には本来似合っていたのではないかと思えてならない時期もありましたが、もうとっくにそういった域など越境してしまっている彼女たちの未来の羽ばたきを、これからも温かい目で見守っていきたい。
本作を見終えて多くの観客が、決意を新たにさせられることも必定でしょう。
(文:増當竜也)