『グッバイ、リチャード!』レビュー:命短しジョニデ教授のハチャメチャ授業!

映画コラム

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もし、あなたがガンで余命を宣告されたら?

あまり想像したくはない事象ではありますが、もっとも映画やドラマではこうしたシチュエーションに基づくストーリーが数多く構築されてきています。

今や説明の必要もない大スター、ジョニー・デップが主演する『グッバイ、リチャード』も、ガンで余命180日を宣告された大学教授の物語…ではあるのですが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街496》

これが何とも見る側の予想を覆す、ぶっとびかっとびの痛快余命ライフを繰り広げていくのでした!

ガン宣告&妻の不倫を聞かされたプッツン大学教授の余命180日

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繰り返しますが、『グッバイ、リチャード!』の主人公は大学教授のリチャード(ジョニー・デップ)です。

自他ともに認めるような真面目&エレガント&博学な男で、素直な妻子にも恵まれ、何不自由ない生活を送っていた彼でしたが、ある日突然医者から余命180日を宣告されてしまいました。

末期ガンです……。

当然ながらショックを受けるリチャードに追い打ちをかけるかのように、病気のことを知らない妻ヴェロニカ(ローズマリー・デヴィッド)から、何と彼の上司と不倫していることをわざわざ本人の口から告白されてしまいました!?

さらには思春期真っただ中の娘からは、自分がレズビアンであることをカミングアウト!?

かくして、それまで真面目一筋に生きてきたリチャードの心の糸はプッツン!

死を目前に控えて、もう怖いものなど何もない!

とばかりに、リチャードは残りの人生を自分のために謳歌しようと決心するのでした。

他人に対して遠慮なくあけすけにモノを言うようになり、授業中にマリファナや酒を愉しみ、またその授業も生徒の大半がいなくなるようなハチャメチャなものと化し、プライベートでは妻の不倫相手を皮肉ってみたり、娘の恋を応援したり……。

こうした規制のモラルに縛られない自由な生き方を始めたリチャードですが、自分の病気のことだけは、妻子に伝えていません。

知っているのはただ一人、泣き虫の同僚で泣き虫の友人ピーター(ダニー・ヒューストン)だけです。

そうこうしているうちに、生徒たちや娘からは逆に慕われるようになっていき、本人も破天荒ライフが板につくようにもなっていくのですが、同時に彼の“終わりの日”も刻一刻と迫っていきます。

そして最期に彼が選んだ道とは……?

–{ハチャメチャなユーモアと秘められたヒューマニズム}–

ハチャメチャなユーモアと秘められたヒューマニズム

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「どんなに感動的であっても、病気を題材にした映画は見たくない!」という方でも(昔から病気を題材にした映画が流行するたびに、“難病映画”などと蔑まされたりすることが往々にしてあります)、この作品ならOKではないかと思われるほど、ハチャメチャなユーモアとその奥に秘められたヒューマニズムに包まれた映画です。

もはや見ている側がストレス解消できるほど!?

ジョニー・デップといえば『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのようなメジャー大作から小規模のインディペンデント映画まで、自分が出たいと思えるようなものにこそ出演するといった積極的姿勢でキャリアを進めてきたスターですが、そんな彼のまた新たな一面をここに見ることができるでしょう。

とにもかくにも、彼が進める授業の面白いこと!

はじめはあきれ果てていた生徒たちも、そのハチャメチャさの中に潜む何某かの人生の真実みたいなものを見出して、彼にシンパシーを寄せていくあたり、そもそもの彼の人間性の良さやインテリジェンスが上手く描出されているように思われます。

いまどきの映画らしくLGBT関連のネタも多いのですが、そのいずれにも飄々とユーモラスに、しかし実は真摯に対応している姿勢も好感が持てるところ。

個人的に見ていて楽しかったのは、ダニー・ヒューストン扮する友人ピーターの過剰な友愛ぶりで、きっと彼も主人公に対してLIKE以上のLOVEを見出しているのかもしれないと思えるほどでした。

プロデューサーは『ハートロッカー』(08)や『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)『デトロイト』(17)などキャサリン・ビグロー監督作品で組むことの多いグレッグ・シャピロ。

監督は『ケイティ・セイズ・グッバイ』(16)で国際的な評価を得た新鋭のウェイン・ロバーツ。

とかくシリアスになりがちな題材を、ジョニー・デップの個性に上手く寄り添いながら、どこかしら寓話的に気持ちの良いものに仕上げています。

見ているうちに「どうせいつかはあの世に旅立つのなら、自分もリチャードのようにぶっとんでみようかな」などと思わせてくれる、何とも好もしい作品でした。

(文:増當竜也)