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6月に入って映画館が全国的に再開し、それとともに徐々に新作映画の公開も始まってきました。
その先陣を切る話題作の1本が、ジム・ジャームッシュ監督の『デッド・ドント・ダイ』です。
タイトルから想像つくように、これは死なない死者=ゾンビを題材にしたホラー・コメディです。
単にゾンビもののホラー・コメディと言われても、今更さほど新鮮味を覚えないかもしれません。
しかし、この映画はジム・ジャームッシュ監督作品なのです。
映画ファンならもうそれだけで、タダですむはずはないと、事前に肌で察知することができるはず……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街474》
はい、察知できた方、大正解です!
これは今まで見たことないような、でもどこか懐かしく、そしてジム・ジャームッシュ作品特有のおとぼけ&シュールな笑いもふんだんな、それでいて意外に怖いところもある実にユニークな作品なのでした!
のどかな田舎町になぜかゾンビが現れた!
『デッド・ドント・ダイ』の舞台となるのは、アメリカの田舎町センターヴィル。
地元の警察は署長のクリフ・ロバートソン(ビル・マーレイ)と巡査のロニー・ピーターソン(アダム・ドライバー)、そして婦警のミンディ(クロエ・セヴィニー)の3人だけで十分まかないきれるほど平和が保たれています。
しかし、最近、地球全体が何やらおかしくなってきていたのでした。
夜になってもなかなか陽が沈まず、時計やスマホが突然動かなくなったり、無線の調子もイマイチだったり……。
こうした異常事態に対していろいろ説はあるようですが、それはそれとして、町ではペットの凶暴化やら家畜の失踪など動物の異常行動が目立ち始めています。
そんな折、ダイナーの経営者とウエイトレスが無残に内臓を食いちぎられた死体で発見されます。
まるでゾンビが現れたかのような……。
はい、その通り。ゾンビが墓地から這い出して今まさに町の人々に襲いかかろうとしていたのです。
一方で、変死事件を知った町の人々は噂話でもちきりとなり、たまたま都会から町を訪れた若者たちはモーテルから出ないよう警察から忠告。
少年拘置所に収容されている3人のティーンエイジャーたちは「ゾンビ黙示録が始まった」などと真顔で話しあっています。
雑貨店を営むホラー・オタクのボビー(ケイレヴ・ランドリー・ジョーンズ)は喜々として金物屋のハンク(ダニー・グローヴァー)とともに立てこもりの準備を始めます。
そんなこんなで夜となり、墓地から多数のゾンビが現れて人々を襲い始めていくのですが……。
–{ゾンビ映画に新風を吹かせる幻惑的イマジネーション}–
ゾンビ映画に新風を吹かせる幻惑的イマジネーション
こうして筋だけ書くと、どこにでもありがちなゾンビ・コメディのように勘違いされがちですが、本作の面白さはストーリーそのものよりもむしろゾンビをめぐるさまざまな設定のユニークさにあると言ってもいいでしょう。
最初にダイナーを襲ったゾンビ・カップル(イギー・ポップ&サラ・ドライヴァー)は生前コーヒーが好きだったという設定です。
つまり本作のゾンビたちは生きていたときの趣味やら嗜好、習性などを赤裸々に体現しながら蠢きまわっていくのでした。
ギター・ゾンビにサッカー・ゾンビ、Wifiゾンビ、ブルートゥース・ゾンビ……などなど、ちょっとオシャレなもの方なんじゃそれ?と突っ込みたくなるものまで、実にバラエティ豊かなゾンビたちが田舎町を徘徊していきます。
そこに3人の警察官はどう対処していくのか? が本作のメインストリートになっていきます。
と同時に、ひとり、何とも不可思議なキャラクターが登場します。
それは葬儀場のミステリアスな女主人ゼルダ(ティルダ・スウィントン)で、どうやら剣の達人でもあった彼女は、道着姿で日本刀を手にゾンビたちをバッサバッサと切り崩していくさまが圧巻! なのですが、実はこれ以上書くと大きなネタバレになってしまうのでやめとかないといけないものすごいものが……。
名優であり怪優でもあるティルダ・スウィントンですが、彼女はジム・ジャームッシュ監督の吸血鬼映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(13)出演中、彼に次はゾンビ映画を撮ったら? と提言したのことで、まさに本作の仕掛人でもあったのでした!
そもそもオフビートのオシャレでユーモラスな映画作りに長けるジム・ジャームッシュ監督ですが、その『オンリー・ラヴァーズ~』で彼が意外やホラー好きだったことに驚かれたファンも多かったと思われますが、今回はさらに磨きをかけて、世界の終焉を目前に控えたかのようなゾンビ映画に新風を巻き起こしています。
それと同時に、出だしこそコミカルな要素が強く、そこに時折ゾンビ・ショック描写が入るといったテイストだったのが、次第に笑いと恐怖が同居し始めていき、見ている側は笑っていいのか恐れていいのかわからなくなるという、実に幻惑的な想いに囚われていきます。
その意味でも本作はまさにジャームッシュ監督ならではの他の追従を許さない独自の、そして結構正統派なゾンビ映画として屹立しています。
ちょっとマニアックなキャスティングや音楽の使い方なども、いつもながらのジャームッシュ作品。
笑って、怖がって、その豊かなイマジネーションをとくとご堪能ください!
(文:増當竜也)