緊急事態宣言がようやく全国的に解除とはなりましたが、まだまだ油断はできないところで、現に第2波の危機が訪れている地区も出ている中、ウイルスもしくは細菌パニックを題材にした映画も引き続き心の備えとして見続けて良いものかと思われます。
今回ご紹介する『クレイジーズ』(10)もそうしたジャンルの1本ですが、実はこの作品、マスター・オブ・ホラーことジョージ・A・ロメロ監督の名作『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』(73)のリメイクなのでした!
人々を凶暴化させる軍事ウイルス兵器が漏洩!
『ザ・クレジーズ』の舞台はアイオワ州ののどかな田舎町オグデンマーシュ。
野球観戦していた保安官のデヴィッド(ティモシー・オリファント)は、突然ショットガンを持ってグラウンドに現れた住民を、やむなく射殺。
同じころ、デヴィッドの妻で医者のジュディ(ラダ・ミッチェル)が診察した農夫がその夜、妻子を閉じ込めて家ごと焼き殺してしまいます。
やがて郊外の川の底に軍の輸送機が沈んでいるのが発見されますが、それは異常行動を起こした者たちの住む家の水源に近いところでもありました。
デヴィッドは輸送機の積み荷によって川が汚染されたのではないかと睨んで、即時給水を遮断します。
しかし時すでに遅く、水を飲んだ町の人々が次々と凶暴化!
そう、輸送機の積み荷は、軍がひそかに開発していたウイルスだったのです!
そして重要軍事機密の漏洩を恐れた軍は、またたくまに感染の有無を問わずに町の住民たちを拘束し、町ごと封じ込めようとしていくのですが……。
–{ゾンビ映画の変形としてのウイルス・パニック映画}–
ゾンビ映画の変形としてのウイルス・パニック映画
軍事兵器としてのウイルスが漏洩するパニックを描いた映画は『復活の日』(80)など多数ありますが、ここでは感染した人々が病気になるのではなく、凶暴化してしまうというのがミソ。
その姿はまさにゾンビといっても過言ではないほどですが、感染者は死者ではなく、あくまでも生者なのです。
本作のオリジナルを監督したジョージ・A・ロメロは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)以降多数のゾンビ映画の名作を手掛けていますが、その変形パターンが『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』であったともいえるでしょう。
そしてリメイク版『クレイジーズ』は、21世紀に入って顕著となってきたゾンビによるパンデミックの恐怖を大いに意識した作りになっており、たとえば「ウォーキング・デッド」ファンにはもってこいの作品となっています。
(感染者の特殊メイクは、もうほとんどゾンビといってもいいほど!)
オリジナル版の「感染者も非感染者も、そして軍隊もまたクレイジー!」といったメッセージは正直薄まっていますが、その代わりにサバイバル映画としての色は強まっており、特に前半部のじわじわとした盛り上げ方は秀逸。
また感染者は凶暴化しても人間としての能力は保持したままなので、ある意味ゾンビより始末に悪いともいえるでしょう!?
洗車場でのバトル・シーンなどかなりの迫力。
(あと校長先生がすごいです……)
こうした作品は平和な時代と今のようなコロナ禍の時代とでは見え方がかなり変わってくるかと思われますが、いずれにしましてもこういった危機的状況に自分が置かれたら? といった心のシミュレーションとして、見ておいて決して損ではないでしょう。
また本作が気に入ったら、ロメロ監督のオリジナル版もぜひ一見をお勧めします。
P.S.現在公開中の『CURED キュアード』は、治癒に成功した凶暴化ウイルス感染者たちが非感染者たちから誹謗中傷の差別と迫害を受けるところから始まる戦慄の社会派サスペンス映画で、まさに『クレイジーズ』のその後を描いたかのような作品であり、コロナ禍の今こそ見るにふさわしい問題作です!
(文:増當竜也)