現在、コロナ・パニックの影響で、家の中での自粛を余儀なくされている方はさぞ多かろうと思われます。
それを受けてスポーツ界や芸能界など肉体派の人々が室内でできる体操やらエクササイズやらを動画にアップし、ネットやテレビで紹介されたりしています。
ただ、この手のものって身体を動かすことが好きな方ならともかく、自分からやってみようと思わない限りは、なかなか重い腰を上げる気分にならないのでは? とも個人的には思ったりしてしまいます。
ふと自分自身を振り返ると、高校時代に『ランニング』(79)というマイケル・ダグラス製作総指揮・主演のマラソン映画を見て感化され、以後1年ほど毎日ジョギング&筋トレしたりしていたものでした。
映画に触発されて運動する。映画ファンにとってこれが一番有効な手段ではないかな? とも思いまして……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街458》
まあ、そうなると一番熱く燃えることができるのは、やはり『ロッキー』シリーズですよね!
『ロッキー』でみんな真似した生卵5個一気飲み!
『ロッキー』シリーズについて今更くどくど述べても仕方ないかなとは思いますが、一応基本的なことを記しておくと、無名のチンピラ4回戦ボクサーだったロッキー・バルモア(シルヴェスター・スタローン)がヘビー級チャンピオン、アポロ・クリード(カール・ウェザース)の気まぐれで対戦相手に選ばれ、恋人エイドリアン(タリア・シャイア)やそのぐうたらな兄ポーリー(バート・ヤング)、老トレーナーのミッキー(バージェス・メレディス)らの支えを得て大奮闘したことを機に(ここまでが第1作のストーリー)、やがては世界中からリスペクトされる存在にまでのしあがっていく姿を描いたもの。
現在までに全6作のシリーズが、加えて老いたロッキーがアポロの息子のトレーナーになって援護していく『クリード』シリーズ2作(こちらは今後も作られる可能性ありますね)が作られています。
まずは第49回アカデミー賞作品賞&監督賞&編集賞を受賞した記念すべき第1作目『ロッキー』(76)ですが、それまでロッキーさながら売れない俳優だったシルヴェスター・スタローンが書き上げたシナリオを基に、自らの主演で映画化したものです。
フィラデルフィアの寂れた下町で繰り広げられるロッキーとエイドリアンのぎこちない恋愛模様をはじめとする寂しくもヒューマニズムあふれる描写の数々と、一転してクライマックスの試合シーンの白熱は、今やだれも知らぬ者はいないといっても過言でないほどのビル・コンティ作曲のテーマ曲とともに大いに見る者の胸を熱く震えさせてくれました。
そのロッキーのトレーニングですが、早朝のジョギングなどは当然として(ただし彼の孤独を表す名シーンのひとつですね)、精肉工場の中に吊るされた冷凍生肉の塊をサンドバッグ代わりに叩いたり、また生卵を5個コップに入れて一気飲みするシーンは、当時の中高生男子の多くが真似しては気持ち悪くなってむせまくっていたことが思い返されます。
両足首にたるみ60センチの紐をくくりつけて、切れないように動いて打つミッキーの訓練法も、さりげなくもなるほどと唸らされるものがありました。右腕と左腕を交互に片手腕立て伏せするあたりも、こんなやり方があるのか! と驚かされたものでした。
–{片手腕立て伏せが印象的な『ロッキー2』}–
片手腕立て伏せが印象的な『ロッキー2』
第1作の大ヒットによってシルヴェスター・スタローンが監督も兼ねることになった『ロッキー2』(79)は、エイドリアンと結婚したロッキー(動物園でのプロポーズが情感あふれていました)がアポロからの挑発を受けての再戦を決意。
ここではニワトリを捕まえさせたりするなどのユニークなトレーニング法をミッキーが提示しますが、肝心のロッキーはエイドリアンが試合に反対しているためにイマイチやる気なし。
しかし、夫婦の間に子供が生まれ、エイドリアンが「Win.(勝って!)」と発した直後、ロッキーが美しい朝日を受けての片手腕立て伏せを開始!(これもまた当時、みんなが真似したものでした)
『ロッキー2』といえば、私にはビル・コンティ自身による1作目テーマ曲の粋なジャズ・アレンジと、この片手腕立て伏せが即脳裏に浮かび上がります。
また『ロッキー2』では大勢の子どもたちがジョギングするロッキーの後を追いかけていくシーンがありますが、それは第1作との対比にもなり得ているように思えました。既にロッキーはフィラデルフィアのヒーローになっていたのです。
『ロッキー3』(82)では時代の寵児となったロッキーが新進気鋭のクラバー・ランク(ミスターT)に敗れ(ミッキーの乗った自転車をロッキーが引っ張りながら走るトレーニング方法は、画的に映えていたのですが……)、さらにはミッキーの死といった悲劇に見舞われるものの、前2作の宿敵だったアポロとの友情およびエイドリアンの愛ある助言を得て、再戦に臨みます。
アポロがデビューした時期のスラム街ジムをベースに繰り広げられる熱いトレーニング風景は奇をてらったものこそありませんが(水泳がトレーニングに組み込まれたのは新味かな)、ロッキーとアポロが海岸を共に走るシーンなど印象深くもあります。
かくしてサバイバーの勢いある主題歌《アイ・オブ・ザ・タイガー》さながら、幸せボケしていたロッキーは、再び“虎の目”を取り戻していくのでした。
–{徹底したアナログ訓練!『ロッキー4/炎の友情』}–
徹底したアナログ訓練!『ロッキー4/炎の友情』
『ロッキー4/炎の友情』(85)は音楽がビル・コンティではなく、ヴィンス・ディコーラに代わったことで前3作とは雰囲気が妙に異なり(やはりあのテーマ曲が流れないと『ロッキー』としての気分が出ませんね)、またここでの敵はソ連のアマチュアボクシング・ヘビー級チャンピオン、イワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)という当時の米ソ冷戦構造の代理戦争的要素を強めたストーリー展開、加えてアポロの死などドラマティック極まりないものになっています。
ソ連に赴いたロッキーは、デジタル的に管理されたトレーニングに従事るドラゴとは真逆に、雪山に籠って転倒した馬車を助けたり、木をノコギリで切ったり担いだり、ついには生えている大木を斧で切り倒したり、さらには石を運んだり、ソリを引っ張ったりなどなど、アナログな筋トレを徹底させているあたり、ちょっと笑ってしまうものもありました。
『ロッキー5/最後のドラマ』(90)は当時完結編として製作されたもので、監督は1作目のジョン・G・アビルドセンを再び招き、音楽もビル・コンティに戻して原点回帰を図っていますが、2~4作と回を経る毎に紳士的になっていったロッキーが、急に1作目の続きのようにガサツな風情になっているのが奇妙な作品ではあります(また4作目からほんの少ししか経ってない設定なのに、息子が急成長している! スタローンが実の息子を起用しちゃったからなのですが……)。
ストーリーもポーリーのせいで破産&パンチドランカーの危機を知って引退を決意したり、さらにはトレーナーになって育て上げた新人ボクサーのトミー・ガン(トミー・モリソン)に裏切られ、果ては彼とストリート・ファイトするという、なかなかぶっとんだ設定になっていますが、おかげでロッキーそのもののトレーニング・シーンはありません(トミーと一緒に片手腕立て伏せくらいはしていますが)。
–{第1作と同じトレーニング風景も!『ロッキー ザ・ファイナル』}–
第1作と同じトレーニング風景も!『ロッキー ザ・ファイナル』
16年の月日を経て製作された真のシリーズ完結編『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)は、何と引退して久しかったロッキーが再びリングに立つというお話ゆえ(ちなみに『5』のパンチ・ドランカーという設定はなくなっています。16年の歳月で完治した?)、老骨に鞭打って(?)の過酷なトレーニングが描かれます。
関節の衰えでなかなかスピードを出せないロッキーに、かつてのアポロのトレーナーだったデユーク(トニー・バートン/彼はスタローンとバート・ヤング同様シリーズ全作品に出演しました)がコーチング。
正直今回はさほど奇をてらったトレーニングは見受けられませんが、一方では生卵の一気飲みや冷凍生肉サンドバッグなど、第1作と同じ訓練風景が見られるのは、当初からのファンとしては涙ものでしょう(実際この作品、第1作からの月日の流れを痛感させる好ショットがあまた散りばめられています)。
これにて『ロッキー』シリーズそのものは幕を閉じますが、この後、アポロ・クリードの遺児アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)を主人公に、ロッキーがそのトレーナーとなるスピンオフ『クリード チャンプを継ぐ男』(15)および、何とクリードが父親を殺した『ロッキー4』のドラゴの息子と因縁の対戦を迎える『クリード 炎の宿敵』(18)が作られました。
これらでロッキーがクリードにどのようなトレーニングを施しているかは、実際にその目でお確かめいただくとして、こういった見る側をやる気にさせてくれる映画を見ながら、上手い具合に室内で身体を動かしながらストレス発散してみてはいかがでしょうか。
(文:増當竜也)