ウイルスや細菌のワクチンの中には、その病原体が持つ病原性を弱めたものを用いる生ワクチンがありますが、「毒をもって毒を制す」ということわざが示唆するように、マイナスの状況にあるときにあえてプラスではなくマイナスの要素をぶつけてみるのも生きていく上でのコツではあるようです(もちろん時と場合にもよりますけど)。
映画にしても見る者をいや~んな気分にさせる目的で作られたものが多々ありますが(最近では『ミッドサマー』のクリーンヒットが挙げられますね)、どうして人はそういったものに惹かれて見てしまうのか? 人は負の感情に陥っているとき、負の感情をもたらす映画に接することで思考をプラスに転換させてくれる効果があるのかもしれません。
というわけで今回は、学園を舞台、もしくは学生たちをメインに繰り広げられる闇映画を2本ピックアップしてみましたが、みなさんそれぞれの心とご相談の上、お試しください!?
実は思春期の闇を突いた秀作『怪怪怪怪物!』
(C)2017 Star Ritz International Entertainment
いきなり衝撃的な作品からご紹介させていただきます。
その名も『怪怪怪怪物!』(17)!
イジメがはびこる高校を舞台にした台湾の青春ホラー映画で、視覚的にも精神的にもかなりショッキングな作品ですが、同時に人間の心の闇に鋭く言及した秀作です。
冒頭から2匹(いや2人と呼ぶべきでしょう)の食人鬼が登場してのスプラッタ・シーンを目の当たりにして、「こりゃ覚悟して見なきゃな」という気にさせられます。
その後一転して映画はクラス中からイジメを受けている少年リン・シューウェイのエピソードが始まりますが、その諸所のシーンもなかなかえげつなくて、見ている側が「許してください!」と叫びたくなるほど。
さらには生徒だけでなく「いじめられる側も悪い」とでもいった姿勢を露にする担任に至っては、本当に胸糞悪くなってしまいます。
(結局、世界中どこの国でもイジメは深刻な問題と化しているってことですね……)
やがてリンは、その担任からイジメっ子3人とともに独居老人の手伝いをする奉仕活動をやらされる羽目になるのですが、そこで彼らは食人鬼と遭遇し、小さいほうを捕まえて本人たちからすれば冗談半分のような独自の実験(ってか、拷問そのものです)を始めていきますが、そこから派生する残酷なエピソードもあれこれ見られます。
しかし食人鬼はもう1人いるわけでして、当然その後は『大巨獣ガッパ』スプラッタ・ホラー版のごとき様相を呈していくわけですが、それらは意外にもスタイリッシュに処理されていて、見せ方の工夫に怠りはありません。
(Yen Town Band Charaが歌う《マイ・ウェイ》が流れながらのスクールバスのくだりは圧巻!)
そうこうしながら本作が真に訴えかけていくのは人間、特に思春期特有の心に潜む邪悪な闇の要素の抽出にあり、それはまるで『ジョーカー』を先取りしていたかのような趣きすらあり(主人公がジョーカー風のメイクを施しているシーンもあります)、実は人間こそが最大のモンスターであると言った言葉すら空しく響くほど……。
実はこの作品の監督&脚本は、日本でも2018年に山田裕貴&齋藤飛鳥主演でリメイクされた『あの頃、君を追いかけた』(11)のデギンズ・コーです。
明るく溌溂としながら、いつしか切なく映えわたる繊細な青春群像劇を発表した彼は、続いて真逆ともいえる負の要素満載の青春映画に挑戦したのでした。
いわば『あの頃、君を追いかけた』と『怪怪怪怪物!』は、合わせ鏡のような関係性にあるともいえるでしょう。
食人鬼が誕生した理由と、それに準じつつ展開される残虐エピソードとのバランスや、イジメも含めた若者たちがしでかす数々の愚かさなども巧みにリンクしており、そのために見る側はより精神的にも追い詰められていきます。
またそれに伴い、クライマックスでは思わず感極まって涙腺が緩んでしまう方もいることでしょう。
おそらくはラストも賛否が大きく分かれることでしょうが、個人的には「なかなか見事に決めたな!」とニンマリしています。
–{21世紀版“恐るべき子供たち”?『スクールズ・アウト』}–
21世紀版“恐るべき子供たち”?『スクールズ・アウト』
(C)Avenue B Productions – 2L Productions
続いて2018年のフランス映画『スクールズ・アウト』は、『ほしがる女』(16)で注目されたセバスチャン・マルニエ監督による不可思議な学園心理サスペンスです。
さほど遠くないところに原発がそびえる名門サンジョゼフ中等学校の12人のエリートばかりを集めた3年1組の生徒たちの目の前で、担任教師が教室の窓から飛び降り自殺するという事件が起きました。
代用教員として学校にやってきたピエール(ロラン・ラフィット)は、一部の生徒が自分を小馬鹿にし、妙に反抗的な態度をとり続けることに戸惑います。
一方で3年1組は他のクラスの嫉妬を買っており、時に危害まで加えられている事実も知ります。
まもなくしてピエールは、3年1組の6人が時折集まっては暴力を含む何やら不穏な行為に及んでいるのを目撃。
彼らが所有するDVDを手に入れたピエールは、その中に収められている数々の崩壊映像を見て、彼らが何かを企んでいることを察知しますが、同時に謎の無言電話に悩まされ、そのストレスも手伝って次第に錯乱していき……。
一言で申せば21世紀版“恐るべき子供たち”であり、一方では“大人は判ってくれない”とも受け止められる、まるでニュータイプのようなエリート生徒らが織り成す謎の行動は、大人の目からはどこかホラー・チックに映えてしまうという、そんな不安心理が洗練された映像美で映し出されていきます。
演出タッチが途中からジョン・カーペンターとも黒沢清ともいえるようなものになっていくので、なおさら『ザ・チャイルド』のようなおぞましい結末を迎えるのではないかと思いきや、ラストは意外にもファンタジックなものではなく、現代社会を鋭く見据えた、それこそ日本における東日本大震災や現在のコロナ禍などとも共通するような要素を内包した秀逸なものとなっています。
ストーリー的には撒いた種をすべて刈り取り切れていない憾みこそ残るものの、それ以上に子どもたちの社会の闇を素直に見つめる純粋さと、そこに伴う幼さゆえの行動が醸し出す哀しみなど、さまざまな想いを見る者にもたらしてくれること必至。
見ている途中、Gが大量発生したりその手のものが苦手な方も含めて、どことなくいや~んな感を抱かせつつ、最後にはどこかしら良くも悪くものカタルシスをもたらしてくれる作品です。
(文:増當竜也)