どうも、橋本淳です。
54回目の更新、今回もどうぞよろしくお願いします。
ウイルスの影響が色々なところに出ている状況を目の当たりにして、恐ろしさに慄いています。
何より恐いのはウイルスはもちろんですが、そこから派生した人と人との問題のほう。誰しもが、目に見えない相手に戦いに疲れ、いつの間にか目の前の違う意見の相手に行き場のない感情をぶつけて、潰し合う。この光景を見ているのが、自分としては本当に悲しいし、ツライ。
お互いのアイデンティティを尊重し合い、おもんばかる、奥ゆかしい日本人の精神はどこへやら。こういう時こそ、そういった日本人ならではの人間力や精神力を結束したいなと思うのです。
表立っては偏見をやめるべきだと言ってはいても、令和の時代になった今この時にも、未だにそれは無くならない。そんな時代に向けて、この監督はまたメッセージや思いの詰まった作品を出してくれました。
今回はコチラをご紹介。
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
(C)THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UK DONOVAN LTD.
2006年、ニューヨーク。1人の若きスター俳優、ジョン・F・ドノヴァン(キット・ハリントン)が亡くなったというニュースが流れる。それは自殺なのか、事件なのか、それとも事故なのか。その真相は分からない。ニュースが流れるテレビの前で1人の少年が硬直しながら、画面を見つめる。
2016年、プラハ。取材をうけている新進俳優のルパート・ターナー(ベン・シュネッツァー)。彼は「若き俳優への手紙」という本の出版を控えており、その本の内容をジャーナリストにカフェで語っていた。内容は、少年時代のルパートとスター俳優、ジョン・F・ドノヴァンとの交流であった。ルパートはジャーナリストに、自分だけが経験した美しい思い出を振り返る。
アメリカからイギリスに母親サム(ナタリー・ポートマン)と引っ越してきた11歳のルパート(ジェイコブ・トレンブレイ)は、子役をやっていた影響もあり、学校ではイジメられていた。
そんな彼が、唯一夢中になっていたのはTVドラマ『ヘルサム学園』に出演しているスター俳優、ジョン・F・ドノヴァンであった。彼が画面に映るたびにルパートは人が変わったかのように大興奮!そんな姿を、母親のサムも微笑み見つめていた。
ルパートには大きな秘密があった。その大興奮する相手、憧れのジョンと文通を何年も続けているということ。
ある日、学校の授業で、ルパートはいつもイジメてくるクラスメイトたちを見返してやろうと、自分はジョンと長く文通をしている。彼は友達なんだ。と発表する。しかし、クラスメイトはもちろん、先生も全く信じてはくれなかった。証拠の手紙もここにあるとカバンから出そうとするが、直前にいじめっ子たちに奪われてしまう。大切な手紙を取り返すためにルパートは、いじめっ子の家に無断で侵入するが、簡単に見つかってしまい、手紙ともども警察の元へ。
その手紙は、すぐにメディアの学校の餌食となる。スキャンダルは、これからのスター俳優としてさらに登り詰めようとしていたジョンに暗い影を落とすことになる、、、
–{『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』のレビューは次のページで}–
監督は、19歳に『マイ・マザー』で映画監督デビューを飾り、世界を驚かせたグザヴィエ・ドラン。
新作を出すたびに世界が驚き、さらには国際映画祭を席巻する。『マミー』ではカンヌ国際映画祭審査員賞、『たかが世界の終わり』ではカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞。
さらには、『胸騒ぎの恋人』『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』などがある。
わたしと同年代の映画作家グザヴィエ・ドラン。登場した頃から追いかけている1人。予告編が届くたびに公開日を毎作品楽しみにしています。
脚本、監督だけではなく、衣装、美術、アングル、そのほとんどにグザヴィエが入り。ディレクションしていく。すべてが合わさっての映画制作である、という思いがずっと変わることなく、本作もその色味のバランス、ビジュアル面や、台詞に違和感が全くなく、センスの塊のような作品でした。
今作は、さらに音楽の使い方が秀逸にハマっています。重要なシーンで世界的にメジャーな曲がかかる。アデル、グリーンデイ、さらにはスタンドバイミーのカヴァーなど。このような使い方は避けられがちですが、今作はそのシーンと歌詞が見事にハマるように構成されています。
そしてその人物の趣向も分かる効果も担っているようにも感じる。台詞と音楽、この2つが登場人物の叫びのように呼応しています。
嗚呼、見事。
そして、キャストは、ジョン役に、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」で一気にスター俳優に駆け上がったキット・ハリントン。少年ルパート役に、映画『ルーム』や『ワンダー 君は太陽』で世界的天才子役と大注目されている、ジェイコブ・トレンブレイ。母親サム役に、オスカー受賞経験、ノミネート多数のナタリー・ポートマン。ジョンのエージェント役に、最近では「リチャード・ジュエル」でアカデミー賞にノミネートされた世界的な名優、キャシー・ベイツ。
隙のないキャスティング。ジョン・F・ドノヴァン役のキット・ハリントンなんて、自身と役がぴったりマッチしています。(ゲーム・オブ・スローンズでの役名も”ジョン”・スノウですし、)テレビシリーズに学校を卒業したばかりの若手俳優が出演し、そのドラマのヒットとともにスター俳優の仲間入りしたその姿が、そのまま今作のジョンにぴったりです。
というか、キットに合わせて、グザヴィエが書き替えたというほうが正しいかと思います。キットも、インタビューで台本の改稿が進むたびに自分に近づいてきたと語っています。
そして、何より、天才子役!ジェイコブ・トレンブレイが今回も名演。泣かされました。ナタリーとの親子のシーンで見事に泣かされました。(曲とシチュエーションがずるい)
テンション高く天真爛漫になったり、暗いトーン、さらには激昂したり、涙を流したり、ほんとに人生何回経験したんだと問いたくなるくらいの演技の幅に感服します。大人顔負けです。
グザヴィエ・ドランのいままでのフィルモグラフィと比較すると、過去作より間口が広めに感じました。
これまで彼が試していたり、狙っていたことが、さらに鋭利に、時には丸く表現されていて、天才がさらに進化しています。
彼の世界に対するメッセージが映画を通して伝わる世の中になることを祈ります。見た方はきっと、この作品を理解し、それぞれが家に持ち帰るものがあると思います。私もその一人でした。
ぜひ。この作品で、心を震わせてください。
(文:橋本淳)