『一度死んでみた』レビュー:こんな広瀬すずを見たかった!『なつぞら』ファンにも嬉しい作品に!

映画コラム

Ⓒ2020 松竹 フジテレビジョン 

広瀬すずといえば『ちはやふる』3部作(16~18)や『三度目の殺人』(17)『ラストレター』(20)など、人気も実力もピカイチの若手女優として今や日本映画界に欠かせない存在で、昨年のNHKテレビ小説『なつぞら』も大好評でした。

そんな彼女ですが、意外や意外、あからさまなコメディ作品への出演がこれまでなかったことに、今回ご紹介する『一度死んでみた』を見た際に気づかされた次第です。

(そういえば昨年『なつぞら』絡みでNHKの御笑い番組『LIFE』にゲスト出演した彼女、実に堂々とコントを披露していました)

その意味では今回、彼女を初の本格コメディに抜擢した製作サイドの着眼点は実に秀逸だったとも思われますが……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街449》

いやはや今回の広瀬すず、今まで見たことのないぶっとびかっとびデスメタル・モードで、またまた新たな可愛らしい魅力を大いに発揮してくれているのデス!

「2日間だけ死んじゃう薬」を飲んじゃった父親が火葬の危機!

『一度死んでみた』で広瀬すずが演じているのは、売れない(でも一部熱狂的ファンはいる)デスメタルバンドのヴォーカルをやっている21歳女子大生の野畑七瀬です。

実は彼女、製薬会社社長で研究のことしか頭にない野畑計(はかる/堤真一)の一人娘で、もともとは父親譲りの化学オタク。

計もゆくゆくは七瀬に研究の道へ進んでもらいたいと願っているようですが、母・百合子(木村多江)が臨終のときまで研究室に籠っていたことを機に、七瀬は遅れてきた反抗期へ突入し(特に父親の臭いが大嫌い!)、計をディスりまくるデスメタル女子へと一気に変貌!

ライヴハウスでは延々とDEATH DEATH DEATH DEATH を連呼!

しかしある日、本当に父が死んでしまった!?

「本当に死ぬなよ、クソオヤジ!」

絶叫する七瀬の前に現れたのは、何と計の幽霊!?

……実は計、研究者の藤井さん(松田翔太)が社内で進めていた若返りの薬“ロミオ”の開発途中で偶然出来てしまった「2日間だけ死んじゃう薬」“ジュリエット”を、部下の渡部(小沢征悦)に飲まされてしまったのでした。

かねがね“ロミオ”を横取りすべく、スパイとして渡部を野畑製薬に送り込んでいたライバル会社ワトソン製薬の田辺(嶋田久作)は、「死んだ人間を殺しても殺人にはならないよな」と、2日後に生き返る前に計を火葬にして、会社を合併してしまおうと画策!

かねがね自分の監視役で存在感がなさすぎて“ゴースト”とあだ名されている(そして静電気体質の)秘書・松岡(吉沢亮)の協力を得て、七瀬は火葬の前に父を生き返らせようと立ち上がるのでした!

–{実はさりげなくもオールスター映画!}–

実はさりげなくもオールスター映画!

広瀬すず初の本格ドタバタ・ナンセンス(&ヒューマニズムも少しあり)コメディへの挑戦は、結論から先に申せば実に大成功! と言えるでしょう。

髪をピンクにカラーリングしてパンチの利いたデスメタル曲を熱唱する彼女の姿はこれまでお目にかかったことのないハードなものですが、一方では“DEATH DEATH DEATH DEATH”と彼女が熱唱すればするほど、それは“デスデスデスデス”→“ですですですです”とお行儀のよい響きのようにも聞こえてくるのが、本来お嬢様として育てられたヒロインの品の良さを醸し出すと同時に、広瀬すずならではの好もしい個性を堪能できる仕組みにも成り得ています。

20歳を越えての反抗期こじらせ女子っぷりも意外にはまっていて(!?)、特に父親の臭いに過敏に反応しては消臭スプレーをぶっかけるさまは、世のお父さんを一気に悲しい想いにさせてしまうこと必至!?

その消臭スプレーをかけられまくるお父さん役の堤真一のコメディ演技も堂に入ったもので、特に今回は化学オタクぶりを前面に出した飄々とした雰囲気が功を奏しています。

また今回、広瀬すずの相手役が吉沢亮ということで、『なつぞら』ロスに陥って久しかったファンには嬉しいものがあると同時に、そもそも二枚目で影が薄いなどとは思えない彼ですが、ここでは見事なまでに存在感の薄い“ゴースト”そのものを体現してくれています。

実はこの作品、さりげなくオールスター映画で、先に挙げたキャスト陣の他にも霊界への案内人役のリリー・フランキーや妻夫木聡、大友康平、さらには竹中直人や佐藤健、池田エライザ、西野七瀬、志尊淳、古田新太などなど日本映画ファン垂涎の面々が次から次へと登場してきます。

この手のゲスト出演多数のものは時折映画そのものの流れを阻害することも多々ありますが、本作は全編ドタバタ・タッチなので、逆にこうした多彩な顔ぶれの登場はにぎやかな雰囲気を増幅させる結果になっています。

脚本はソフトバンク「白戸家」シリーズの澤本嘉光、監督はKDDI/au「三太郎」シリーズの浜崎慎治と、ともにCMクリエイターによる映画参戦ではありますが、双方ともにパンチの利いたノリノリの勢いで、細かいことなどお構いなしに(しかし脚本などかなり伏線を利かせている!)とにもかくにもかっ飛ばしていく疾走感は、今の時代にも見合ったものとして心地よく波に乗ることができます。

なかなか世知辛い閉塞的状況が続く今日この頃ですが、こういった作品で憂さ晴らし(?)するのも大いにありではないでしょうか?
(少なくともこちらは久々にストレス解消できました!)

そして広瀬すずには、これからも定期的にコメディエンヌとしての個性を発揮していただきたいものです。

(文:増當竜也)