『ムルゲ 王朝の怪物』レビュー:『パラサイト』長男も出演! 韓国製ウイルス&怪獣&アクション&時代劇エンタメ快作!

映画コラム

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『パラサイト 半地下の家族』が世界中で大ヒットし、アカデミー賞作品賞まで受賞、またシム・ウギョンが『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞するなど、このところ一気に韓国映画への注目が高まってきている感があります。

現にここ20年程の韓国映画の躍進は大いに称賛に値するところで、正直今の日本映画界はかなり差をつけられたなといった印象も否めません。

発表される作品のジャンルもアート気質なものからサスペンス、コメディ、キラキラ系恋愛ものなど実に多彩なエンタテインメント志向であることも手伝ってか、イ・ビョンホンのようにハリウッド進出をスムーズに果たせた映画人も多いですね。

そうした多彩なジャンルの中で、かつては日本映画が十八番としていた怪獣映画にしても、それこそ『パラサイト』のポン・ジュノ監督が『グエムル 漢江の怪物』(06)を世に放って当時は大きな話題となりましたが、ここにきてまたまたとてつもない怪獣映画の一大快作を韓国映画界が世に放ちました!

その名も『ムルゲ 王朝の怪物』(18)!

実はこの作品……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街447》

怪獣映画であるとともに、時代劇であり、王朝陰謀劇でもあり、壮絶なアクション映画であり、さらにはウイルスまで重要なモチーフになっているという、エンタメ要素てんこ盛りの作品なのでした!

人を襲いウイルスを撒き散らす怪物の噂は真実か嘘か?

『ムルゲ 王朝の怪物』の舞台は、朝鮮・中宗〈チュンジョン〉22年(1527年/日本は戦国時代真っ盛りの時期です。ちなみにNHK大河ドラマ『麒麟が来る』の主人公・明智光秀は生年不詳ですが、1528年と1516年説が有力とのこと。織田信長は1534年生まれです)。

中宗(パク・ヒスン)は暴君として悪名高い燕山君〈ヨンサングン/『王の男』など彼を主人公にした映画もありますね〉に代わって1506年に第11代の王位に就いたものの、反対派勢力の圧力などのためにその権威は脆弱で、常に党争の狭間に置かれていました。

そのあおりをうけて国中は混乱を極め、さらには1514年より半島内で疫病が蔓延(今でいうウイルスですね。たまたま偶然ではありますが、何ともタイムリー過ぎる設定……)という最大の国難まで迎えてしまい、官憲はろくに検査もせずに感染したとみなされた者を皆殺しにするという、残虐非道な行為に出ました。

そして1527年、王都の背後にそびえる仁王山〈イナンサン〉に物怪〈ムルゲ〉が現れて人民を殺めるか、もしくは遭遇しただけで疫病にかかってしまうとの噂が、まことしやかに国中に流れ始めていきます。

これは「不徳な王がいると天災地変が絶えない」といった伝承を利用して、中宗の失権を目論む領議政〈ヨンイジョン〉(イ・ギョンヨン)の陰謀なのではないか?

中宗は噂の真偽を確かめて人民の不安を払拭させるべく、かつて朝廷より追放された最強の武官であり英雄でもあったユン・ギョム(キム・ミョンミン)のもとを直々に訪れて任務を下します。

かくしてユンは長年の同僚で彼を兄貴と慕うソン・ハン(キム・イングォン)や、弓矢と医術に長けたミョン(イ・ヘリ)、彼女に惹かれる若き宣伝官〈ソンジョングァン〉のホ(チェ・ウシク)、そして領議政の部下ジン(パク・ソンウン)とその部隊、さらには彼らに無理やり連れてこられた一般庶民とともに仁王山へ向かうのですが……。

–{想像の翼を広げて構築された見事なまでのエンタメ!}–

想像の翼を広げて構築された見事なまでのエンタメ!

本作の監督・脚本を手掛けたホ・ジョンホによると、本作は『朝鮮王朝実録』の中に記されていた「中宗の治世時に物怪によって宮殿中がパニックになり、王が居城からの撤去を余儀なくされた」といった短い一節を基に、想像の翼を広げられるだけ広げて創作を加えながら企画していった作品とのことです。

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韓国語で物怪〈ムルゲ〉のムル=物、ゲ=奇怪な、といった意味があるそうで、ホ監督はこれを1匹の怪物とみなしながら、怪獣パニック時代劇として、しかもソード・アクションなどを巧みに融合させながら、見事なまでのエンタテインメントに仕立て上げています。

とにもかくにも怪獣ものとしての要素と王朝陰謀劇、刀を主としたハード・アクション、さらには若者たちのほのかな恋模様までもがドラマを全く疎外させることなく(むしろそれがあるがゆえにスリリングな情緒も高まっている!)機能し得ているのには驚くほどのものがあります。

キャストも『朝鮮名探偵 鬼〈トッケピ〉の秘密』など「彼が出ている作品に外れなし」の誉れも高いキム・ミョンミンを筆頭に、『美男(イケメン)ですね』(キム・イングォン)、『1987 ある闘いの真実』のパク・ヒスン、そして『ホワイトバッジ』の名優イ・ギョンヨンなど芸達者が勢揃い。

そして『パラサイト 半地下の家族』で長男を演じたチェ・ウシクの登場も『パラサイト』を見たばかりの映画ファンにとってなじみやすいものがあることでしょう。

彼が扮するホ宣伝官と淡い恋に落ちるユン・ギョムの娘ミョンに扮するイ・ヘリは、日本でも知られるK―POPグループ“Girl’s Day”のメンバーで、TVドラマ「恋のスケッチ~応答せよ1988~』(16)で女優としてもブレイクしています。彼女のさっそうとした弓裁きも見どころの一つです。

そしてなんといっても今回登場する物怪ムルゲのおぞましくもどこかしらグロ可愛い造型と、彼(彼女?)を動かすダイナミックなVFXの見事さ!

若干ご都合主義的な設定もありますが、そういった弱点も、ダイナミックな描写の連続とテンポの良さで帳消しとなり、あとはもうひたすらワクワクドキドキしながら鑑賞するのみ!

正直、どうしてこういう作品を日本映画界は作れないのか? と久々に敗北感に打ちひしがれるほどの面白さなのでした。

(『シン・ゴジラ』みたいなものとは、またテイストは違いますからね。あ、その伝でいいますと、私、昨年のハリウッド・ゴジラ映画『GMK』よりも断然こちらを推します!)

『パラサイト』で韓国映画の面白さに気づかれた方や、『GMK』くらいでは満足できない怪獣映画ファン、とにもかくにも面白い映画に飢えている方などなど、万民にオススメしたいエンタテインメントの誉れが『ムルゲ 王朝の怪物』なのです!

(文:増當竜也)