『ヲタクに恋は難しい』レビュー:ヲタクとミュージカルの融合が醸し出すロマンティシズムにあふれたラブコメディ!

映画コラム

 (C)2020映画「ヲタクに恋は難しい」製作委員会
(C)ふじた/一迅社

オタクとは、もともと山の手のご婦人方が用いていた「あなた様」といった敬語的ニュアンスの二人称「お宅様」が語源のようです(諸説あります)。

それが1970年代末から1980年代初頭にかけてアニメや漫画などの二次元世界に熱いこだわりを示す人たちが、なぜか他人としゃべる際に「お宅は(あなたは)~」といった言葉を使う傾向があったことから、いつしかポップカルチャーを主とした愛好者のことを総じて「オタク」と呼ぶようになったとのこと。
(諸説あります。当初は「お宅族」とか「オタッキー」とか、呼ばれ方もいろいろありましたね。その辺りは同時代的に何となく覚えています)。

ではオタクとマニアの違いは一体何なの? といった論議も昔から盛んに行われてきてはいます。
(岡田斗司夫氏曰く「文化を生み出す力があるのがオタク」といったポジティヴな説もあれば、「こだわりの中に性的意匠が含まれているのがオタク」といったものもあります。まあ、いろいろです)

いずれにしても最近はアニメやゲーム、映画など以外でも、ある対象に並々ならぬ愛情をもって臨み続ける人々のことをオタクと呼んでいるような感もあり(釣りオタクとか運動オタクとか車オタクとか)、おかげでかつては「キモい」の代名詞でもあったものが、21世紀に入ってからはかなり緩和されてきている気もしないではありません……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街438》

もっとも、それでもまだ偏見が完全に払拭されたわけではないようで、そのことに悩むオタクの諸氏諸嬢もまだまだ多いことかと思われます。

そして映画『ヲタクに恋は難しい』こそは、そんな悩めるオタク=ヲタクたちの慎ましやかながらもどこか異様な恋模様を、何とミュージカル仕立てでロマンティックに描いたラブ・コメディなのでした!

BLヲタクとゲーム・ヲタクが付き合ってみたらどうなるか?

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(C)ふじた/一迅社

『ヲタクに恋は難しい』はふじたの人気コミックを原作に実写映画化したものです。

主人公の百瀬成海(高畑充希)はBL好きな腐女子で生粋のヲタクなのですが、以前そのことがばれて恋人にふられてしまった過去から、今はヲタバレしないよう努める日々。

そんな成海が転職した会社に何と幼馴染の仁藤宏嵩(山﨑賢人)が務めていたことで、彼女は自分の素性を周囲にばらさないよう宏嵩に懇願。

ルックスは抜群ながらも徹底して無表情で何を考えているのかわからず、しかも重度のゲーム・ヲタクでもある宏嵩は、一方で成海がもっとも素直に自分を表に出せる存在でもありました。

そこで宏嵩から提案。

「ヲタク同士でつきあってみたら、快適なのでは?」

もともと成海は自分のことを棚に上げて、異性のヲタクが大の苦手でキモいと思ってしまう傾向があったのですが、宏嵩だとやはり安心感が勝るのか、この申し出を受けることに。

かくしてBLヲタクとゲーム・ヲタクの、周囲に内緒のカップル・ライフの幕が上がるのですが……?

–{ヲタクと歌は相性バツグンそれでも恋は難しい!?}–

ヲタクと歌は相性バツグンそれでも恋は難しい!?

本作は『銀魂』シリーズ(17・18)などで知られる才人・福田雄一監督がメガホンを取っていますが、もともとヲタクチックなギャグの数々をゆるく、しかしながら過剰に真面目に醸し出しながら独自の世界観を構築してきた彼も、今回は少女漫画原作で、またヲタクだけではないライトユーザーにも楽しんでいただきたいという意向もあってか、従来より我を抑えてロマンティシズム色を強調しながらヲタク讃歌を奏でるよう腐心している節が見て取れます。

その大きな象徴として挙げられるのが、やはり全編にわたってのミュージカル仕立てでしょう。

アニソンの21世紀における市民権の確立など、ヲタクと歌はどこかしら相性がよろしいようで、そこに目をつけての今回のアイデアもお見事と思われます。

そもそも主演の高畑充希は舞台ミュージカル・キャリアの持ち主でもあって、歌って踊っての身のこなしなどは画的にもエレガント。福田監督作品には『女子ーズ』(14)の洗礼も受けているので、ところどころのヘン顔やヲタ丸出しシークエンスの狂騒なども実に違和感なく演じ切れています。

山﨑賢人も同じく『斉木楠雄のψ難』(17)に続いての福田作品への参加ですが、前作同様の無表情キャラは既にお手の物といった安心感、プラスその奥に潜む感情の繊細な揺れまでこちらに伝わるかのようでした。

ミュージカル・シークエンスの数々には、よくぞこの場所で自然な雰囲気で撮れたものだなと感心しきりのものも多く、『ラ・ラ・ランド』に倣ったものもあったりで、実に楽しい仕上がり(正直、昨年の『ダンスウイズミー』で観客が真に見たかったのも、こういうテイストのものだったのではないかとも……)。

ミュージカル楽曲の作編曲は『新世紀エヴァンゲリオン』などでおなじみ鷺巣詩郎が担当していますが、これまでの日本映画におよそなかったロマンティックな世界観が見事に楽曲として結実しているのに驚かされました(あと、エンドタイトル曲にもご注目を!)。

一方で福田監督ならではのギャグ・パートを佐藤二朗やムロツヨシなどの個性派常連俳優陣が例によって繰り広げてくれますので(特にアイドル・ヲタ役の賀来賢人はイっちゃってます!)、福田作品ファンも一安心。

さらには今回そこに菜々緒や斎藤工といったツワモノも加わっていくのですが、原作未読の方のためにそれ以上のネタバレは避けておきます。どうぞ実際の画面でご確認ください!

モノづくりの世界では以前から「ヲタクこそが未来をクリエイトする」といった考えが浸透して久しく、事実、ひとつの事象に対して時に狂気すら伴う愛情をもって対峙する者こそが新たな時代や流行などを作り続けていることは古今東西未来永劫間違いないでしょう。

これからはもう本作の成海のようにヲタバレを恐れるのではなく、堂々と自分の夢の世界へ邁進していくほうが、ある意味クールなのかもしれません。

それに「ヲタクであろうがなかろうが、恋は難しい」ものですからね。

ところどころヲタク同士の日常会話が何を言っているのかわからなくなる瞬間があり(もっともそのときご丁寧に、ニコ動的な字幕を入れてくれるのが実に親切)、オールド・ヲタクのはしくれとしましては、急流のごとく目まぐるしく変動していく今のヲタク文化に思わず嘆息してしまったことも正直に白状しつつ……ヲタクの人もそうでない人も大いに楽しめる映画だと確信しております。

(文:増當竜也)