(C)2018 Bona Entertainment Company Limited
1970年代初頭のブルース・リーから後半のジャッキー・チェンの台頭など、当時の香港映画といえばクンフー映画のイメージが定着していましたが、80年代半ばになってジョン・ウー監督の『男たちの挽歌』(86)が公開されるや、香港製バイオレンス・アクション=香港ノワールの波が日本中を席捲するようになりました。
また同時期、香港ニューウエーブの若手気鋭の監督らによる人間ドラマ主体の珠玉の作品も多々お目見えしていくことになります。
その双方に主演し続け、“亜州影帝”の異名をとるようになった映画スターがチョウ・ユンファでした。
90年代末にはハリウッド進出も果たし、世界的名声を勝ち得た彼。
しかし、リアルタイムでチョウ・ユンファを見続けてきたファンとしては、やはり香港ノワールにおける彼こそが真骨頂と思いたいもの……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街437》
そんなチョウ・ユンファのファンにとって垂涎の香港ノワール快作が登場しました。
その名も『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』。
サブタイトルに偽りなく、贋札をめぐる男たちの熱く激しいバイオレンス・アクション超大作です!
贋札製造集団のカリスマ・ボスその笑顔の奥には……
『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』は、贋札製造グループの一員だったレイ・マン(アーロン・クォック)がタイの刑務所から香港警察へ身柄を引き渡され、そこで取り調べを受けるところから始まります。
するとそこに突然、国宝級の画家ユン・マン(チャン・ジンチュー)が現れて、レイの保釈を求めてきました。
彼女の申し入れに対し、副署長のホー(アレックス・フォン)は、今なお行方不明のグループのボス“画家”(チョウ・ユンファ)について話すことをレイに要求。
かくしてレイは“画家”の報復を恐れつつ、自身と彼との過去について語り始めていきます……。
まずは1995年。画家カップルのレイとユンはカナダで貧乏な日常にあえいでいましたが、まもなくしてユンは才能が認められ、逆にレイは有名絵画の贋作を手掛けるまで落ちぶれてしまいます。
そんな彼の前に現れたのが“画家”でした。
親子三代にわたって贋作製造に勤しみ、一度も捕らえられたことがないのを誇りとする“画家”の温厚そうな笑顔と奥に秘めたカリスマ性に魅せられ、レイは彼の仲間になり、贋作の製造に従事していくのですが……。
–{とにもかくにもチョウ・ユンファ!}–
とにもかくにもチョウ・ユンファ!
回想に入ってから映画の前半は贋作づくりのノウハウなどがミステリ・タッチで綿密に描かれていき、見る側の興味も大いにそそられていきます。
しかし本作はそうした作業を淡々と描く地味な作品なのかというと、これが徐々にハードなバイオレンス・アクションへと転身していき、それとともに“画家”の冷酷無比な素顔も露になっていくのが妙味。
特に後半は『ランボー』もかくやの一大スペクタクル戦闘と化し、しかも今回“画家”は二丁拳銃で敵をバッタバッタとぶち殺していく!(やはりチョウ・ユンファはこうでなきゃ!)
本作におけるチョウ・ユンファは持ち前の笑顔をさわやかに見せつけながら、次第にそれが邪悪な素顔の仮面であったことを魅惑的かつ倒錯的に示していきます。
レイ同様、最初は気を許していた観客も、もはやその狂える魅力から逃れることはできず、後はあれよあれよとジェットコースターのように転がりまくるストーリー展開に翻弄され、ついには……おっとこれ以上ネタバレしてしまうと“画家”ならずともどんな報復されるかわからないほどに大胆不敵なクライマックスが用意されているのです!
(もっとも「贋札」というキーワードは、ぜひ心の片隅に留めておくとよいでしょう)
チョウ・ユンファは本作で海南島国際映画祭2018やアジア・フィルム・アワード2019で主演男優賞を受賞。また作品自体も香港電影金像奨で作品賞など7部門を受賞。それらもすべて“亜州影帝”久々の香港ノワール復帰を祝福する香港映画人たちのリスペクトの賜物とも評されています。
現在65歳のチョウ・ユンファですが、年齢の老いなどまったく感じさせない精悍さと機敏なアクション、そして正邪双方併せ持つ笑顔の魅力!
嗚呼、チョウ・ユンファ!
とにもかくにもチョウ・ユンファ!
とどのつまり、こうとしか言いようがないほどチョウ・ユンファの魅力が満載の『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』は、彼のファンは当然として、未だに『男たちの挽歌』を見たことがない若い映画ファンにも必見の快作なのでした!
(文:増當竜也)