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1月24日より公開となるミュージカル映画『キャッツ』が早くも世界中で賛否の嵐を吹き荒らしています。
1981年にイギリス・ロンドンで初演され、82年にアメリカ・ブロードウェイで、そして83年より日本でも劇団四季によって上演され続けたアンドルー・ロイド・ウェバー作曲の大ヒット・ミュージカルを、映画版『レ・ミゼラブル』のトム・フーパー監督のメガホンで映画化。
……したまでは良かったのですが、問題は舞台同様に猫のキャラクターを猫人間仕様で登場させたことで、舞台なら何ら違和感のなかった諸描写が映像だと妙にリアルに映えてしまい、不気味に感じたり艶めかしく感じたりと、一種異様な雰囲気が醸し出されてしまい、そこに賛否の意見が飛び交うようになってしまいました。
もっとも最初からそういう作品であると認識した上で鑑賞すれば、カルト的なミュージカル大作映画として堪能することも大いに可能ではあり、事実、私自身はそうやって愉しむことができました。
いずれにしましても、あまりSNSの炎上記事などに惑わされることなく、自分自身の目で確かめていただくことをお勧めしたいと思います。
名作舞台『コーラスライン』のオーディション風景を収録!
さて、そんな映画『キャッツ』の原作ともなった舞台版はもとより、人気ミュージカルの舞台はどのように作られていくのでしょうか?
特に役者志向の人であれば、どういう風にキャスティングを選んでいくのか? という点も大いに気になるところではあるでしょう。
そんな疑問に答えてくれるドキュメンタリー映画が『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』なのでした。
(C)Vienna Waits Productions LLC.
本作に収められているのは、2006年に再演された『コーラスライン』のオーディション現場の模様。
『コーラスライン』は1975年にブロードウェイで初演され、1985年には反戦ミュージカル映画の傑作『素晴らしき戦争』(69)の巨匠リチャード・アッテンボロー監督で映画化もされている名作です(日本でも劇団四季で上演)。
その内容は、ブロードウェイの劇場でコーラスライン(そもそもは稽古の際、メインキャストとコーラス=役目のないキャストを隔てるために壇上に引かれる線のこと)のオーディションに参加した17人のダンサーたちの合否の運命を描いた群像劇。
つまり『ブロードウェイ♪ブロードウェイ』とは、オーディションを受けるダンサーたちを題材にした舞台ミュージカル『コーラスライン』の、実際のオーディション風景を映像に収めたものなのです!
–{夢を追い求める者の上に成り立つエンタテインメント}–
夢を追い求める者の上に成り立つエンタテインメント
本作はまず1974年のNYで演出家兼振付師のマイケル・ベネットが22名のダンサーに取材して『コーラスライン』を作り上げていった事実が紹介されます。
まもなくして時間軸は2006年再演版『コーラスライン』のコーラスダンサー・オーディション風景へと、一気にタイムスリップ。
(もっとも、その後もベネット自身の肉声や映像、関係者のコメントなどで、初演前後のエピソードの数々も同時に綴られていきます)。
オーディションにはおよそ3000人の応募がありましたが、そこから最終的には19人まで絞る必要がありました。
かくして映画は、合格するために熾烈な戦いを繰り広げることになるダンサーたちにスポットを当て、彼ら彼女らの青春の夢や苦悩などを描出していくのでした。
その中には沖縄出身の高良由香(YUKA)さんもいて、日本人としては彼女の成り行きも大いに気になるところ。
YUKAさんはコニーという中国系アメリカ人女性の役を受けるのですが、オーディションでは初演でコニーを演じた女性もレッスン&選考に参加していて、どうも彼女のことをあまり気に入ってない様子……などなど、こうした選ぶ側のスタンスなども描かれていきます。
それ以外にも、役を取り合う者同士の本音と建て前のバチバチと火花散る様子や、家族に電話で状況を伝えたりする光景も見られます。
時に投げやりになる者もいれば愚痴り出す者、生意気なまでに余裕しゃくしゃくなふるまいをする者もいれば、不安を隠すことなく心情を語る者……。
まさに千差万別の感情が絡まりあいながら、最後に選ばれる者は? といった興味もさながら、やはり夢を追い求める者の光と影、即ち人生の機微みたいなものがぎっちり濃縮された93分となっています。
ダンサーや役者に限らず、現在目標をもって歩もうとしている人も、かつて夢を抱いて邁進し、それが叶えられた人も叶えられなかった人も、見終えて何某かの感慨を抱くこと必至でしょう。
またこの作品を見てから映画『キャッツ』を見れば、おいそれと嘲笑などできなくなるかもしれませんね。
だってどのような作品=エンタテインメントも、多くの人々の渦巻く想いの上に成り立っているわけですから。
(文:増當竜也)