(C)2020「映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!」製作委員会
『キネマ旬報』という映画雑誌に『戯画日誌』という国産アニメーション映画のレビュー連載をかれこれ10年ほどやらせていただいています。
そのせいもあって、必然的にアニメーション映画を見る機会は多くなりがちなのですが、さすがに四捨五入したら還暦といった年齢にもなってくると、ファミリー向け作品を独りで映画館まで見に行くのは、実はかなり勇気がいる行為でもあります。
(意外にマニアックな作品は平気だったりするのですが)
特に対象年齢が幼児のものはなかなか恥ずかしいというのも本音で、またそういうものに限ってマスコミ試写がほとんどないのが困りものでもあるのですが(というよりも、現在日本で公開されるアニメ映画の大半はマスコミ試写がないという、悲しい現実があるのです)、いざ見てみると実に丁寧な作りがなされているものが多いので、やはり無視することはできません。
そんな中、『映画おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』のマスコミ試写会の案内が!
タイトルからおわかりのように、おっさんが一人で映画館に行くにはかなりの勇気を必要とする作品(前作の『おかあさんといっしょ はじめての大冒険』は映画館で見ましたけど……)。
これは絶好のレアな機会! と、勇んで試写室まで赴いたのですが……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街433》
これがもうなかなかに得難いシュールな体験をしてしまったのでした!
映画館デビューの子供たちに向けた体験型ムービー…なのですが?
『映画おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』はご存じNHK(Eテレ)の幼児教育番組として長年親しまれている同名番組の劇場用映画第2弾。
中身はTVでおなじみのうたのお兄さんお姉さんたちが客席に子どもたちがいるという想定の上で歌やお遊戯を促したりクイズを出していくといった趣向の、いわば映画館デビューであろう子どもたちに向けた観客参加型の体験ムービー。
基本は実写で、前作『はじめての大冒険』はその中に短編アニメ・コーナーが設けられていましたが、そのとき自分が劇場の中で見ていて驚いたのが、お兄さんお姉さんと一緒に場内で楽しく歌ったり踊ったりしていた子どもたちが、アニメが始まると急に場内せましの運動会モードになり、やがて子どもたちの多くがスクリーンの前まで集まり、皆が両手を上にさしかざすという、まるで銀幕から反射される光を身体全身で浴びようとしているかのような、あたかも『未知との遭遇』の一場面でも見ているかのような不思議な光景を目の当たりにしたのでした。
おそらくこれが映画館デビューであったろう子どもたちは、テレビとは違う大画面に興味を示して銀幕に近づいていったのでしょう。
さて、しかし今回は試写室での鑑賞です。
子供たちはもちろんゼロで、場内はネクタイを締めたおそらくは作品製作の関係者や、ママさん世代っぽいマスコミ女性たちがちらほら。
というわけで、映画が始まったのですが……。
–{お兄さんお姉さんがすごい!そして賀来賢人がものすごい!}–
お兄さんお姉さんがすごい!そして賀来賢人がものすごい!
さすがに今テレビの『おかあさんといっしょ』を見ることは正直ほとんどありませんが、資料によると今回は現在のゆういちろうお兄さん、あつこお姉さん、誠お兄さん、亜月お姉さんに加えて、卒業したよしお兄さんとりさお姉さんも登場! という、まるで春のプリキュア映画のような新旧豪華オールスター仕様(?)となっています。
そして今回は、画面のあちら側で楽しく歌い踊っていたよしおお兄さんが突然動物になってしまうという、びっくりどっきりのドラマ展開へ。
実はこれ、すりかえかめんとすりかえお嬢の仕業なのですが、やがてそのいたずらはどんどんエスカレートしていき、さらには彼らの秘密を知る謎の存在(今回のゲスト俳優・賀来賢人!)が現れて! というドラマ仕立てになっています(前作もドラマはありましたが、今回のほうがよりストーリー性は高い)。
で、とにかく見ていて驚かされるのが、こうしたお兄さんお姉さんたちが画面の向こうから子どもたちに何かと語りかけていく風情などがあまりにもシュールで、しかも全編ハイパー・ハイテンション演技が貫かれていることなのでした!
あいにく試写室の中に子どもたちは皆無なので、大人のこちらは一体どうしたらよいものやら……とだんだん困惑していきますが、そのうち何となくお兄さんお姉さんたちにつられてちょっと体を動かしたくなってきます(映画そのものが結構リズミカルに上手く作られているのです)。
でも、いざそれをやってしまうのはやはり恥ずかしい!(ふと周りを見ると、他の方々もみんなそういったもじもじモードに突入しているのが察知できます)
しかも今回この作品、アニメは別コーナーではなく実写と地続きになっていて、つまり突然実写の動物着ぐるみキャラがアニメ化したり、また元に戻ったりと、これまた何ともシュールな趣向で、さらには輪をかけての今や絶好調、賀来賢人のお兄さんお姉さんに負けないウルトラ・ハイパー・ハイテンションな存在感!
ついには一体自分は何を見せられているのか……と、どんどん頭がウニになっていき、それがまた快感になっていく!
お断りしておきますが、これはあくまでも子どもたちが映画館の中にいるという状況を想定した上で作られているので、こちらのこうした感想などは邪の極みです。
おそらく子どもたちは前回以上にこのハイパーかつシュールな世界観をごく自然なものとして受け止め、大いに楽しんでくれることでしょう(実写とアニメが地続きなので、前作のような『未知との遭遇』モードに突入するかどうかも興味あるところですが)。
ちなみに映画を見た翌日にテレビの『おかあさんといっしょ』を見ると、お兄さんお姉さんたちの演技が映画と何ら変わらないハイテンションなのに、全く違和感がないことにも驚かされました。
それはやはり、画面の中に子どもたちがいるかいないかの違いでもあるのでしょう。
またこちらが過剰では? と思えるほどに立ち振るまわらないと、実は子どもたちって反応してくれない。
つまりはそれほどまでに小さな子どもたちのエネルギーとは強烈なものであり、子育てとはこれほどのハイテンションで大人も臨まなければならない!という事実の証左にもなっていることまで痛感させられたのでした。
大人だけのイベント上映回をぜひとも設けてほしい!
もちろん幼いお子さん向けに作られた作品なので、ぜひご家族で大いに歌って踊って楽しんでいただきたいと思いつつ、ふと「大人しか入れない回をイベント的に催したら、どうなるだろう?」と、思わず想像してしまう自分もいます。
(しかも現在流行りの掛け声OKなどの応援上映ではなく、逆にどんなに画面の向こうのお兄さんお姉さんたちから呼びかけられても「じっと黙って見ていなければいけない!」といった上映形態だったら……と、これ以上書くと怒られそうな気もするので止めておきます!?)
でも、いずれにしましても、家族でこういった映画を見に行ける今のパパやママたち、そして何よりもお子さんたちをうらやましく感じてしまう次第でもあります。
(楽しく映画館デビューさせてあげてくださいね。何せ最初の映画体験こそが後々の映画ファンを育むことに繋がるのですから!)
(文:増當竜也)