『ジョジョ・ラビット』『マイテイ・ソー』監督の出世作『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』の見どころ

映画コラム

(C)2019 Twentieth Century Fox

本年度のアカデミー賞に作品賞や監督賞など6部門にノミネートされたことが発表されたばかりの『ジョジョ・ラビット』が1月17日より公開となります。

これは戦時下のドイツを舞台にヒトラーを心の友とする軍国少年と、彼の家にひそかに匿われてたユダヤ人少女との数奇な交流を通してファシズムや戦争、差別や偏見の思想を厳しく糾弾していく傑作で、その語り口は辛口のユーモアで徹底されています。

監督のタイガ・ワイティティはマーベル映画『マイティ・ソー バトルロイヤル』で世界的ヒットメーカーの座に躍り出た才人ですが、同作を見てもおわかりのように、彼の資質の源泉がユーモアにあることは間違いなく、そこで今回はそれを裏付けるに足る出世作の2014年度作品『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』をご紹介したいと思います。

(C)SHADOW Pictures Ltd MMXIV 

邦題のまんまシェアハウスしているヴァンパイアたちが織り成すアドリブ満載の人を食った(いや噛んだ?)ホラー・コメディ。怖い映画が苦手な方でもほぼほぼ大丈夫な、人を食ったアイデアに満ちた快作です!

現代に潜むヴァンパイアの愉快な日常

『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』の舞台は現代のニュージーランドの首都ウェリントン。

その一角に379歳のヴィアゴ(タイカ・ワイティティ)や183歳のディーコン(ジョナサン・ブロー)、862歳のヴラゴ(ジェマイン・クレメント)、そして8000歳のピーター(ベン・フランシャム)といったヴァンパイアがシェアハウスしながら暮らしています。

夜ごとの演奏会やダンスを楽しみ、ときどき外出しては馴染みのパブで憩う彼らの日常はとても愉快そう。

そんなある日の晩餐で、ピーターが大学生のニック(コリ・ゴンザレス=マクエル)を甘噛みしてしまい、かくして彼もヴァンパイアとして仲間入り。

やがてニックは人間の友人スチュー(スチュー・ラザフォード)をシェアハウスに招き入れてしまいますが……。

–{モキュメンタリー方式とアドリブ演技が放つ異彩}–

モキュメンタリー方式とアドリブ演技が放つ異彩

本作はタイカ・ワイティティとジェマイン・クレメントの共同製作&脚本&監督作品で出演も兼ねています。

ユニークなのは役者の演技はほぼほぼ全編アドリブで、またヴァンパイアたちに密着取材を試みたフェイク・ドキュメンタリー=モキュメンタリー方式を採用しているところでしょう(このあたりはニール・ジョーダン監督の秀作『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』をオマージュ的に意識しているのかもしれません)。

これによってどことなく飄々としたおとぼけタッチが好もしく醸し出されたコメディとして屹立され、ヴァンパイア映画としても異彩を放ったものとなっています。

特にワイティティ監督はアドリブが好みのようで、本作が認められて大抜擢された『マイティ・ソー バトルロイヤル』や『ジョジョ・ラビット』でも現場のアドリブを重視しながら、俳優陣の資質を引き出すことに腐心しています。

このあたりは俳優でもある彼ならではの信念でもあるのでしょう。

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またニュージーランドといえば、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどのピーター・ジャクソン監督が若き日に『バッド・テイスト』などのグロテスク・ホラー映画で台頭し、やがて世界へ羽ばたいていった歴史もありますが、本作もどことなく風土的かつ資質的に似た雰囲気を感じないでもなく、時折出てくるグロテスクな描写もやはりブラック・ユーモアに裏打ちされています。

いずれにしても本作はトロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門やシッチェス映画祭で観客賞を受賞するなど世界中のファンタスティック映画ファンの支持を得て、ワイティティ&クレメント両監督のハリウッド進出の足掛かりとなりました。

本作自体も後にアメリカでワイティティ&クレメント両監督の総指揮による“WHAT WE DO IN THE SHADOWS”のタイトルでTVドラマ化されていますが、2020年の4月からスタート予定のシーズン2には『スター・ウォーズ』サーガのルーク・スカイウォーカー役で知られるマーク・ハミルがゲスト出演するとのこと。

日本ではまだ放送&配信などはされていませんが、今後の展開にも期待したいところです。

またワイカティティ監督は『スター・ウォーズ』サーガの世界観を踏襲したTVシリーズ“THE MANDALORIAN”の1エピソードを演出し、その後『マイティ・ソー』シリーズ第4作の監督を務める予定となっています。

(文:増當竜也)