『シライサン』のレビュー:貞子や加耶子に負けず劣らずの新たなホラー・クィーン誕生!

映画コラム

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古くは『四谷怪談』のお岩、最近では『リング』シリーズの貞子や『呪怨』シリーズの加耶子&俊雄など、これまで数々の魅惑的かつ驚愕のホラー・キャラクターが創造されてきていますが、2020年1月、また新たなホラー・クィーンが登場します……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街429》

その名も安達寛高(乙一)監督の映画『シライサン』に登場するシライサン。

うっかり彼女を見てしまい、そこで目をそらしたら殺される!

シライサン……その名を知ったが最後!

映画『シライサン』は、主人公の女子大生・瑞紀(飯豊まりえ)とランチをとっていた親友の香奈(江野沢愛美)が突然怯え出して「来ないで!」と叫んだ直後に、眼球を破裂させて死んでしまった事件から始まります。

一方、大学生の春男(稲葉友)は弟・和人(渡辺佑太朗)からの不穏な電話に胸騒ぎを覚えて彼の許へ赴くと、同じく眼球を破裂させた死体と化していました。

数日後、春男は瑞紀を訪ねます。和人は香奈と同じバイト先で働いていて、SNSで香奈の変死を知った春男はその真相を探ろうと瑞紀を誘ったのでした。

ふたりは香奈&和人のバイト仲間で、一緒に旅行をしていた詠子(仁村紗和)から話を聞きます。

香奈と和人と詠子は宿泊先の旅館でたまたま出会った酒屋の配達人(染谷将太)から、聞き手を巻き込むタイプのよくある怪談話を聞かされていました。

それは異様に目の大きい女性で、その名を知った者は皆死んでしまうという……。

瑞紀と春男にその名を伝えようとはしない詠子でしたが、その直後に彼女は自殺を図り、すんでのところでふたりに命を救われますが、そのとき「シライサンが来る」といったうわごとを聞いてしまいます。

かくして、シライサンの名を知ってしまった瑞紀と春男も呪われてしまったのでした……。

–{恐怖のポイントを巧みに突いた秀逸な演出とキャストの魅力}–

恐怖のポイントを巧みに突いた秀逸な演出とキャストの魅力

この後、映画は3人の変死事件に疑問を抱いて取材を始めるジャーナリストの間宮(忍成修吾)を絡めながら、シライサンの謎を追う瑞紀と春男の恐怖体験が描かれていきます。

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シライサンが現れたら、決して目をそらしてはいけない。そらしたが最後、殺されてしまう……。

こうなってくると、見る側としてはシライサンは実際どういう姿をしているのか気になってくるかと思われます。

普段のホラー映画のパターンだと、なかなかその姿をクライマックスあたりまで見せないのが通例ではあるでしょう。

しかし本作はかなり早い段階でシライサンの姿を堂々と提示し、各登場人物と対峙させてくれます。

そのおぞましい形相は夢に出てきそうなほどで、特殊メイクの妙もさながら、なかなか大胆不敵な手に打って出て、それが成功していることにも感服。

これまで「乙一」名義で様々なジャンルの小説や脚本、短編映画の監督などクリエイティヴな活動を続け、これが長編映画デビューとなる安達寛高監督の演出はオーソドックスながらも恐怖のポイントを巧みに突いた秀逸なもので、いわゆる下世話なこけおどし的なことは一切やっていないあたりも好感がもてるとともに、このジャンルに対するリスペクトみたいなものまで感じられてなりません。

キャストの活かし方も実に心得ていて、飯豊まりえ&稲葉友をはじめとする若手俳優の個性を魅力的に引き出しつつ、シライサンのおぞましさとのギャップを大いに醸し出してくれています。特に飯豊まりえはさりげなくも存在感豊かにシライサンと対峙し得ており、その意味でも見事にホラー・ヒロインとしての大任を全うしてくれています。

知る人ぞ知る自然と野生と人の関係性を綴った秀作『アルビノの木』(16)の監督としても知られる金子雅和撮影監督が映し出す映像も、見事なまでにダークでファンタジックな世界観を構築しており、総じてスタッフワークも良好なのでした。

スマホとイヤホン持参で愉しむユニークな音響システム!

また本作は音響面でも「イヤホン360」なるユニークな方式が採用されています。

要はスマホにアプリをダウンロードして(上映直前に場内でできます)、持参したイヤホンを耳に付けて360度サラウンド音響をダイレクトに愉しむというシステム。

世代的には、かつてダリオ・アルジェント監督の傑作ホラー『フェノミナ』(85)が日本公開された際、ラジオ付きウォークマンで場内を飛ぶFM電波をキャッチして、イヤホンで立体音響を愉しむという“クランキー・サウンド”方式で上映していたのを思い出します(あのときは怖かった! 実は今回悔しいかな、試写当日うっかりイヤホンを持参するのを失念していたもので、このシステムを未だ体験できておりません。今度は忘れずに劇場に行かねば!)。

通常の映画館のスピーカーから聞こえてくるテイストのものとは一味異なる、耳に直接ダイレクトに響く恐怖の音を、ぜひお試しのほどを。
(ただし上映中のスマホの光など、マナーにはくれぐれも留意してくださいね)

正直、見る前はさほど期待していたわけではなかったのですが、まさかここまで自分好みのホラー映画になっているとは思いもよらず、上映終了後は恐怖心もさながら、どことなくカタルシスあふれる気分にすらなっていたのでした。

それでは、目をそらすことなくご鑑賞ください!

–{作品情報・公開情報}–

作品情報

タイトル
=シライサン

公開日
=2020年01月10日

製作国
=日本

上映時間
=99分

ストーリー

眼球が破裂した死体が連続して発見された。直接の死因は心不全だった。そして、死の直前“何か”に怯え取り憑かれたような奇妙な共 通点があった。 親友を目の前で亡くした大学生の瑞紀(飯豊)と、弟を失った春男(稲葉)。二人は共に 事件を調べ始める。鍵を握 る詠子を探し出すが、ほどなく彼女は「シライサン…」という謎の言葉を残し、眼球を破裂させ心 不全で死亡した。 事件に目を付けた雑 誌記者の間宮も加わり、徐々に明かされてゆく“シライサン”の呪い…。核心に近づく三人の前に、理解を超えた、戦慄の事実が待ち受け ていた・・・。

監督
安達寛高

脚本
安達寛高

出演者
飯豊まりえ、稲葉友、忍成修吾、谷村美月、江野沢愛美、染谷将太

公式サイト
https://shiraisan.jp/

公式Twitter
https://twitter.com/shiraisan_movie

配給
=松竹

(文:増當竜也)