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2019年12月27日より『男はつらいよ お帰り寅さん』が公開となります。
ご存じフーテンの寅さんこと車寅次郎と周囲の人々が織り成す人情喜劇シリーズ第50作。シリーズ第1作『男はつらいよ』(69)からちょうど50年にもなります。
しかし主演の渥美清は第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(95)を撮った後の1996年8月4日に亡くなっています(68歳でした)。
では一体どうやっておよそ四半世紀の時を経ての新作を作り得たのか?
これがもう、作品をご覧になれば大いに納得!
昭和に生まれて旅と恋を続け、平成の途中で姿を消した寅さんを、妹のさくら(倍賞千恵子)をはじめ、くるまやの人々は令和の時代に入ってもずっと帰りを待ちわびています。
そして脱サラして小説家になったさくらの息子・満男(吉岡秀隆)は亡き妻の七回忌を迎えた直後、若き日の恋人だったイズミ(後藤久美子)と再会します。
おいちゃんもおばちゃんも既に亡く、御前様も代替わりして久しい葛飾柴又はもとより、閉塞感に包まれて年々生きづらくなってきている現代日本そのものにおいて、もし寅さんが帰ってきたら今の満男たちに何を語りかけてくれるのだろうか?
過去の作品のドタバタ名場面を散りばめつつ、どこか寂し気な現代シーンと巧みに対比させながら、山田洋次監督は見事なまでに“今”の映画として観客に訴えかけてくれているのです。
では今回は、まだシリーズ未見といった方や、久しくシリーズを見直してない方々のために、手っ取り早く復習できる2作品をご紹介していきましょう。
若き日の満男の恋の結末?第48作『寅次郎紅の花』
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本来なら『お帰り寅さん』を見る前に、第1作『男はつらいよ』から順番に見られる時間の余裕があれば一番良いのですが、さすがにこの年の瀬で今からそれは難しいという方が圧倒的多数でしょうから、ならば実質的なシリーズ最終作となった第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』を見ておくことをお勧めします。
これは『お帰り寅さん』で実質的な主役となる満男が、その若き日に恋したイズミとのエピソードを描いた最後の作品でもあります。
おそらくこれを見れば、ふたりは確実に結ばれるであろうと誰もが確信するはず。
(実際、当初はふたりを続く49作目でゴールインさせて、50作目でシリーズを大団円で完結させる予定もあったと聞いています)
しかしそうではなかったという、意外な現実が『お帰り寅さん』の核になっているのです。
もし時間に少し余裕のある方でしたら、その満男とイズミの恋の始まりを描いたシリーズ第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(89)から第43作『寅次郎の休日』(90)、第44作『寅次郎の告白』(91)、第45作『寅次郎の青春』(92)、そして『寅次郎紅の花』をご覧になっておくと、『お帰り寅さん』の面白さも倍増するとともに、満男とイズミにとって寅さんが一体どういう存在だったのかが大いに理解できることでしょう。
また『寅次郎紅の花』のマドンナ、リリー(浅丘ルリ子)はおそらく寅さんがもっとも相性がよく、本来なら結ばれるべき存在でもありました。
その事実を改めて訴えているのが、渥美清亡き後に作られた第49作『男はつらいよ ハイビスカスの花 特別篇』(97)なのでした。
2019年12月27日現在、下記のサービスでご覧いただけます。
–{特別仕様から第49作へ『寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』}–
特別仕様から第49作へ『寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』
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リリーが初めてシリーズに登場したのは第11作『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』(73)で、これが好評につき、彼女は第15作『寅次郎相合い傘』(75)『寅次郎ハイビスカスの花』(80)そして『寅次郎紅の花』(95)と計4回出演し、寅さんと結ばれそうで(『寅次郎紅の花』では一時ながらも同棲しています)結局は上手くいかない恋の駆け引きを繰り返していきました。
最初は売れない歌手として地方をドサ周りしていたリリーは、同じく日本中を旅して回る寅さんと、その身の上も含めてどこかしら似た者同士的なものがあったのです。
渥美清が亡くなった翌1997年、セールスマンとして地方を回る満男が、ふと寅さんとリリーの恋を回想するという形式による特別編『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』が製作されました。
これは『寅次郎ハイビスカスの花』をメインにしつつ『寅次郎忘れな草』と『寅次郎相合い傘』のシーンも盛り込まれているので、二人の恋を手っ取り早くおさらいするのに持って来いの作品です。
満男のシーンは新撮され、その中に寅さんがCG合成で登場するショットも……。
またここでは主題歌を八代亜紀が歌っていることで特別篇としての色を強めていますが、今回の『お帰り寅さん』では桑田佳祐が主題歌を歌っているのも、この作品の流れから来ているのかもしれません。
2019年12月27日現在、下記のサービスでご覧いただけます。
本作は当初あくまでもシリーズ特別篇という扱いでしたが、『お帰り寅さん』を製作に伴って正式な第49作としてカウントされることになりました。そもそも『寅次郎紅の花』の後の満男も描かれているという点で、それはあながち間違いではないと思えますし、これによって『お帰り寅さん』がシリーズ第50作という、切り良くも気持ちの良いものとして屹立してくれた感があります。
本来なら満男編&リリー編の諸作品を全て見ておければばっちりではあるのですが、とりあえずこの2作をおさらいした上で『男はつらいよ お帰り寅さん』に臨んでみられてはいかがでしょうか?
(文:増當竜也)