2013年の秋、1枚の写真がインターネットで拡散されたことで“1000年に一人の美少女!”として注目され、地元・福岡から一気に全国区に躍り出ることになった橋本環奈(このときまだ中学3年生)。
その可愛らしさは今更こちらがどうこう言うものではないほどではありますが、もともと彼女は女優志向だったようで、福岡時代に是枝裕和監督の『奇跡』(11)で映画デビューを果たし、ブレイク後は『セーラー服と機関銃―卒業―』(16)で初主演。続けて青春映画の佳作『ハルチカ』(17)で吹奏楽部のフルート少女を好演していました。
(C)2019映画「午前0時、キスしに来てよ」製作委員会
そんな橋本環奈の女優としてのステップアップは、福田雄一監督との出会いにあったように思われます。
『銀魂』(17)『銀魂2 掟は破るためにこそある』(18)で原作漫画から飛び出してきたかのような人気ヒロイン神楽をはつらつと演じて従来の美少女的イメージをぶち破ったかと思えば、『斉木楠雄のΨ難』(17)では逆に自分が美少女であることを過剰なまでに意識している“おっふ”なマドンナを、TV「今日から俺は‼」では元ヤンのスケバンをそれぞれ好演するとともに、そのチャレンジングな姿勢に注目が集まりました。
2019年も既に『十二人の死にたい子どもたち』『キングダム』『かぐや様は告られたい~天才たちの恋愛頭脳戦』と映画出演。
そしてこの年末年始、とどめを刺すかのように2本の新作主演映画『午前0時、キスしに来てよ』と『シグナル100』が公開となります……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街421》
全くジャンルを違えたこの2作、橋本環奈のさらなる魅力が引き出されています!
映画史に残るキス・シーンの数々!?『午前0時、キスしに来てよ』
(C)2019映画「午前0時、キスしに来てよ」製作委員会
まず12月6日より公開の『午前0時、キスしに来てよ』はみきもと凛の人気コミックを原作とする青春恋愛映画です。
橋本環奈としては『かぐや様は告らせたい』に続く王道のキラキラ映画ですが、ここで彼女が演じるのは、一見カタブツながらも心の中はおとぎ話のような恋を夢見る乙女・花澤日奈々。
お話は、そんな日奈々が通う学校に映画のロケ隊がやってきて、その主演男優で人気アイドル・ユニットの元メンバーで超イケメンの綾瀬楓が日奈々に興味を抱いたことから、それまで平凡だった彼女の日常はガラリと変わっていきます。
楓を演じるのはGENERATIONS from EXILE TRIBEのボーカルで、『兄に愛されすぎて困ってます』(17)など俳優としても活躍中の片寄涼太。
今年は映画『PRINCE OF LEGEND』やTV「3年A組―今から皆さんは、人質です」に出演し、アニメ映画『きみと、波にのれたら』では声優にも挑戦していますが、同性から見ても「世の中はやはり不公平にできている!」と素直に敗北を認めざるを得ないそのイケメンぶりは溜息が出るほど(楓はおしり大好きキャラという設定なのに、セクハラ色が皆無というのも奇跡的!)。
しかもイケメンでなければ絶対に決めることのできない言動の一つ一つを実にスマートにこなせてしまう彼の存在感を目の当たりにしては、ヒロインならずともキュン死すること必至。
特に彼がマスクをつけたまま日奈々に交わすキスと、彼女の鼻の形に唇を合わせるかのような鼻かじキスには、往年の名作『また逢う日まで』(50)のガラス越しのキスを彷彿させるほどのものがあり(たとえが古い?)、まさに『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)のキス・シーンを集めたフィルム・コマ集の中に加えてもらいたいほどの優れもの!
一方で橋本環奈はそれ以前が『銀魂』をはじめとするかっとび系異色ヒロインのイメージが強かっただけに、逆にこうした少女漫画原作ものならではのシンデレラ系ヒロイン日奈々を初々しくもロマンティックに体現し、女優としての新味を醸し出しています。
監督は『潔く柔く』(13)『四月は君の嘘』(16)『ひるなかの流星』(17)などの新城毅彦ですが、特に本作は彼のキャリアの中でも最良のものに思えます。
舞台となる鎌倉の風景の切り取り方もさながら、古き良き名画座を登場させるなど(建物がちと豪華すぎる気もしますが、まあそのあたりは映画のウソということで)クラシックなテイストをさりげなく描出し得ているあたりも、キラキラ映画の王道として似つかわしいものを感じさせられた次第です。
–{令和のバトル・ロワイアル!『シグナル100』}–
令和のバトル・ロワイアル!『シグナル100』
(C)2020「シグナル100」製作委員会
一転して2020年1月24日に公開となる『シグナル100』は宮月新&近藤しぐれのコミックを原作とする学園サバイバル・デス・ゲーム映画です。
高校の学園祭準備に追われる樫村怜奈(橋本環奈)ら3年C組の生徒36人が、早朝に担任教師・下部(中村獅童)に呼び出され、視聴覚室でいきなり不気味な映像を見せられます。
それは何と自殺を誘導させる催眠映像でした。
自殺を促すシグナルは全部で100。
それらは「遅刻する」「スマホを使う」「涙を流す」など、日常で何気なく行うものばかり。
タイムリミットは夜明けまでで、最後に生き残った者のみ催眠が解かれるというのです……。
まもなくして仕掛人の下部は、教室の窓から飛び降り自殺。
誰も助けに来てくれない校舎の中、生徒たちは次々とシグナルを発動させては死んでいき、残された者たちが次第に醜い本性をあらわしていく中、怜奈たちは必死に催眠を解くべく駆けずり回っていくのですが……。
深作欣二監督の傑作『バトル・ロワイアル』(00)などを手始めに、こうしたデス・ゲーム映画は手を変え品を変え作られてきていますが、およそありえないダーク・ファンタジーとしての極限状況の中、死の恐怖と対峙していく図式の数々からは、特にイジメや自殺がなくなることのない現代を生きる思春期の若者たちに、生と死が隣り合わせのものであるという人生の機微を痛感させつつ、その中でいかにサバイバルしていくべきかをシミュレーションさせる効能もあるようです。
本作の竹葉リサ監督も思春期の頃に『バトル・ロワイアル』を見て衝撃を受けたひとりで、そこからクリエイティヴな感性を刺激されつつ『さまよう小指』(14)『春子超常現象研究所』(15)といったブラック&コミカル・テイストのファンタジーや、本作と同じ20年1月に公開されるオール・カザフスタン・ロケの壮大な人間ドラマ『オルジャスの白い馬』といった作品を発表。
そして今回はまさに令和時代の『バトル・ロワイアル』として、混迷する今の若い世代に訴えかけようとしている意図がひしひしと感じられるのです。
またこうした学園集団劇は有名無名を問わず若手キャストの魅力や個性をいかに多数引き出し、彼らの今後を示唆してくれるかというのも見る側のお楽しみで、その意味でもクレジットのトップでもある橋本環奈の存在が彼らを大きく牽引してくれています。
制服がクラスメイトの血で赤く汚れていく凄惨な地獄の中、凛とした姿勢を誇示し続ける彼女のオーラに引き寄せられながら他のキャストも次々と魅力を放っていくという、まさに理想的な相乗効果がもたらされているのです。
誰が死に誰が生き残るのか、なぜこんなことを仕掛けたのか、などのネタバレはこの手の作品ゆえに当然厳禁ではありますが、公開前からホームページなどを覗いて出演者の顔ぶれやプロフィールなどをチェックしておくと、鑑賞の際の楽しみも増大することでしょう。
いずれにしましても年末年始の橋本環奈主演映画2作、映画の愉しさを満喫させてくれること必至であるとともに、彼女のさらなる飛躍を期待させるに足るものとしてオススメしておきます。
(文:増當竜也)