今年2019年の上半期だけで3本の出演映画が公開される長澤まさみ。東野圭吾のベストセラーミステリーを豪華キャストで映画化した『マスカレード・ホテル』では木村拓哉とダブル主演で仕事に厳しいホテルのフロントクラークを演じています。
そしてGWを挟む形で公開される『キングダム』では山の民の美しき王・楊端和に扮し、主演した月9ドラマの劇場版でもある『コンフィデンスマンJP』では引き続き、欲望に暴走する詐欺師ダー子を演じています。
(C)2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会
昨年も『嘘を愛する女』『50回目のファーストキス』『BLEACH』の3本の映画に加えて、舞台では劇団新感線の「メタルマクベス」、ドラマでは「コンフィデンスマンJP」に主演と今まさに、脂がのっている状態といっていいのではないでしょうか?
『世界の中心で、愛を叫ぶ』で大ブレイクも…。
長澤まさみは第5回(1999年度)東宝シンデレラオーディションでグランプリ(当時最年少の12歳・小学6年生)を受賞して芸能界入り。2000年の映画『クロスファイア』でデビューしました。
その出自らしく同じオーディションで審査員特別賞に選ばれた大塚ちひろと共に『ゴジラ☓モスラ☓メカゴジラ 東京SOS』と『ゴジラFINAL WARS』でモスラを守護神として崇める妖精“コスモス”を演じたりもしています。
そして、一大転機となったのが2004年公開の『世界の中心で、愛を叫ぶ』です。
森山未來、大沢たかお、柴咲コウといった人気俳優に囲まれながら、白血病に倒れるヒロインを熱演。副作用で髪の毛を失う展開に合わせて、実際に髪を剃ったことは大きな話題になりました。
『世界の中心で、愛を叫ぶ』は“セカチュー”という愛称と共にこの年の実写邦画の1位の大ヒットを記録、社会現象となります。
原作は300万部を突破し、平井堅の歌う主題歌「瞳をとじて」もミリオンセラーを記録します。のちにドラマ版も製作されました(この時のヒロインはその後『海街diary』で姉妹役を演じることになる綾瀬はるか)。
本作で大ブレイクした長澤まさみのもとには“セカチュー”のイメージを踏襲したような正統派企画が次々と舞い込み結果として、彼女は『タッチ』で浅倉南を『ラフ ROUGH』で二ノ宮亜美、そしてテレビドラマ「セーラー服と機関銃」で星泉(役名でCDデビューも…)という、すでに強烈なパブリックイメージのある役を演じていきます。
“セカチューでブレイクした若手女優長澤まさみ”を正統派として売り出すには悪くないチョイスです。
ただ“正統派売り”のためのキャスティングのはずが、いつの間にか、“正統派な役どころ”ができたので“長澤まさみに回すという風に思考の順番が逆転してしまう現象が起こり始めました。
妻夫木聡と兄妹役を演じた『涙そうそう』や黒澤明監督の名作をリメイクした『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』はまさにその流れの順番が入れかわってしまった例だと思われます。
むしろ、“セカチュー”の陰に隠れがちですが、その前後の『ロボコン』(その後共演が続く小栗旬との初共演作品)や香里奈や大森南朋などと共演した『深呼吸の必要』などのような濃淡のあるキャラクターの方が活き活きとして見える気がします。
その後も共演が続くことになる山田孝之と初共演の『そのときは彼によろしく』などは役柄に濃淡をつけることを試みた作品といっていいかもしれませんが、残念ながら原作の設定から大きく年齢を下げたことで物語に無理をきたして、映画自体をいびつなものにしてしまい、メインキャストの変に無理をした背伸びだけが目につきました。
–{長澤まさみのターニングポイントは?}–
ターニングポイントは2011年
伸び悩みとも違うのですが、若干の行き詰まりのような状態にあった長澤まさみが大きくはじけたのが2011年です。
この年、彼女は初めて舞台に出演します。芥川賞作家でもあり、劇作家でもある本谷有希子作・演出の『クレイジーハニー』に出演した彼女は周囲を振り回すピュアなファムファタールとでも言うべき役に見事にはまりました。
ここで大きな振り切りを見せた彼女はそれまでに封印してきたある種の無邪気なセクシーな部分武器にし始めます。
もちろんこれは20代も折り返す頃というタイミングがあってのことだと思いますが、この後以降の作品との出会いもあって、長澤まさみは大きく変わっていきます。
象徴的なことに劇場版『モテキ』で“セカチュー”以来の森山未來との共演ということがありました。。
この二人が揃えば良くも悪くも“セカチュー”を思い起こしてしまうところで、本人たちもそこに意識がなかったと言えばウソになるでしょう。
ただ、この『モテキ』のタイミングで森山未來はもちろん長澤まさみも“セカチュー”のままではないという部分をしっかりと築き始めていてい、“セカチュー”の二人という見られ方をされることも織り込んだうえで、全く違う“『モテキ』の二人”を見せてきました。
その後は自身が美人であることを認識して、それを武器に使うドラマ「都市伝説の女」シリーズなどに主演。
2015年の『海街diary』では是枝裕和監督から“お色気担当”ですと言われた次女役をしっかりと受け止め自分のものにして好演しました。
舞台も1~2年に一本は出演していて三谷幸喜作・演出の「紫式部ダイアリー」では奔放な天才肌の紫式部を、ミュージカル『キャバレー』ではセクシーなヒロインを、劇団新感線の『メタルマクベス』ではマクベス夫人を好演しています。
機会があれば舞台の長澤まさみもお試しください。
また、舞台出演と共に2013年~15年にかけて中国語圏で映画やドラマに出演して、新しい環境を経験していたことも大きなポイントとなるでしょう。
–{“スーパーサブ”としての道も築いた長澤まさみ}–
“セカチュー”から15年、2019年の長澤まさみ
2015年の『海街diary』を経て、主役でも輝く一方で“スーパーサブ”としても物語の中で生きるという道と得た長澤まさみは、ここから大きなふり幅を見せます。
立て続けにパートナーの立ち位置に着いた『散歩する侵略者』『嘘を愛する女』では謎めいた男性を支えていきます。
この路線で”スーパーサブ“に回ると『銀魂』シリーズや『BLEACH』になります。
これにクールビューティというアレンジを加えた最新形態が『キングダム』の山の民の王楊端和と言って言いいでしょう。舞台で自身の長身(168センチ)を体感したこともあったのか、ダイナミックな身体使いのアクションを披露しています。
(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会
一方、主役路線も手堅く『50回目のファーストキス』や『マスカレード・ホテル』ではアンサンブルキャストの中のヒロインを演じきっています。
Ⓒ2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 Ⓒ東野圭吾/集英社
この路線に舞台の弾けたファムファタールの要素たっぷりと注ぎ込んで完成したのがドラマ、そして映画の『コンフィデンスマンJP』のヒロインダー子です。
(C)2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会
本作のヒロイン“ダー子”は長澤まさみの主役キャラとしてある種の完成形・到達点というべきキャラで、過去にも共演している東出昌大や小日向文世達を含む共演者を見事に振り回します。
ゴールデンウイークを挟んで、『キングダム』と『コンフィデンスマンJP」で全く違う顔を見せる長澤まさみ。ぜひ劇場で体感してください。
(文 村松健太郎)