『殺人鬼を飼う女』が挑む四重人格を4人の女優が演じ分けるユニークな試み

映画コラム

(C)2019「殺人鬼を飼う女」製作委員会

多重人格をめぐるサスペンス映画は昔も今もあれこれ見受けられますが、今回『リング』の中田秀夫監督がこの題材に挑みます。

題して『殺人鬼を飼う女』。

ひとりの女の中に潜む4人の人格を、映画はいかにして処理しているか?

そしてエロス+サスペンス+ホラーの融合は、一体どのような結末をもたらすのか……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街373》

それは見てのお楽しみ!

4つの人格を持つ女に翻弄される小説家

(C)2019「殺人鬼を飼う女」製作委員会

映画『殺人鬼を飼う女』は、『甘い鞭』『呪怨』などの話題作を世に送り出してきた大石圭の人気小説を原作にしています。

主人公は、小説家の田島冬樹(水橋研二)。

最近スランプ気味の彼は、とあるきっかけでマンションの隣人キョウコ(飛鳥凛)と知り合います。

冬樹の小説のファンだというキョウコに、冬樹はレアな自著をあげようと彼女の部屋の呼び鈴を押しますが、そこに現れたキョウコはまったく別人のように彼をあしらい、おまけにその本を捨ててしまいます。

そして翌朝、彼の前に現れたキョウコは昨日のことなど何もなかったかのようにこやかに接しようとし、冬樹を戸惑わせていきます……。

実はキョウコには幼い頃に義父から性的虐待を受けた過去があり、そのトラウマにより、複数の人格が潜んでいたのです。

キョウコを愛するレズビアンの直美(大島正華)。冬樹に嫉妬して、小説を捨ててしまうのも彼女です。

ビッチで自由奔放なゆかり(松山愛里)。ちなみに顔所の名前はキョウコのビッチな母・友香里(根岸季衣)と同じです。

小学生のままの幼い人格を保つハル(中谷仁美)。

……と、ここまで書くとおわかりのように、多重人格を描いた映画は一人の俳優が何役ものキャラを演じ分けるのが常ではありますが、本作はそれぞれ別人格を別の俳優が演じることで、その個性を際立たせるとともに、映画ならではのマジックを画に具現化させることに成功しているのです。

–{中田秀夫監督独自の 本来の資質と才覚}–

中田秀夫監督独自の本来の資質と才覚

中田秀夫監督はご存知『リング』で名をあげ、5月にはシリーズ最新作『貞子』のメガホンもとっていますが、もともとの本領はメロドラマにある監督でもあり、そこを基調とした女たちのサスペンスやホラーを際立たせることに長けているようにも思えます。

一方で日活出身の彼は日活ロマンポルノに傾倒し、実際に2016年の日活ロマンポルノ45周年記念“ロマンポルノ・リブート・プロジェクト”に参加し、『ホワイトリリー』を演出しています(この時の主演は飛鳥凛なのでした)。

そういったことから、多重人格の哀しみを内包するヒロインの恋が周囲の思惑や運命のいたずらでなかなか報われていかないサスペンス、その結果もたらされる狂気=ホラーの発露、さらにロマンポルノさながらのエロス描写を絡ませながら、本作は中田秀夫監督ならではの味わいを魅せてくれています。

飛鳥凛を筆頭とする4人の女優たちの体当たりの熱演に加え、鬼のような母を演じる根岸季衣の怪演と、とにもかくにも“女”の業が画面狭しと剥き出しになり、これには水橋研二ならずとも男たちは成す術なしといった圧力が非常に魅力的なのです。

ちなみに本作はKADOKAWA×ハピネットの共同製作による“ハイテンション・ムービー・プロジェクト”第1弾で、これはタブーとされる題材を恐れることなくクリエイターの感性と才能を重視して描出させていこうという意向のプロジェクトでもあります。

続く第2弾も大石圭原作の『アンダー・ユア・ベッド』で、監督は『劇場版零(ゼロ)』や『氷菓』の安里麻里。今夏公開予定とのことで、こちらも期待したいところです。

(文:増當竜也)