『スパイダーマン:スパイダーバース』が大傑作となった「8つ」の理由!全人類必見!

映画コラム

アニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』が3月1日から3日までの3日間限定でIMAX版が(T・ジョイ博多のDolby Cinemaでも)先行公開、3月8日より本公開となります。

先に結論を申し上げておきましょう。本作は「お願いします!全人類観てください!」とただ訴えるしかない、スパイダーマン映画史上最高傑作、いやアメコミ映画史上最高傑作であったと!エンターテインメントとしてただただ面白く、映画としてほぼ完璧であり、何度でも観たくなる奥深さもあり、アニメとしての新たな表現にも感動できるという、『トイ・ストーリー3』や『ヒックとドラゴン』と並び世代を超えて愛されていくこと間違いなしの超名作アニメ映画になっていたと! その魅力を、大きなネタバレのない範囲で以下にたっぷりとお伝えします!

1:歴史に残る圧倒的な超高評価!アカデミー賞だけじゃない!

個人の感想を抜きにして、本作『スパイダーマン:スパイダーバース』は各方面から圧倒的な超高評価で迎えられているという事実があります。

先日に行われた第91回アカデミー賞で長編アニメーション映画賞を受賞したことはご存知の通り。実は、スパイダーマン映画シリーズにおいてアカデミー賞の技術関連賞以外での受賞は(ノミネートでも)初めてのこと。ディズニー/ピクサー作品以外での受賞は、2011年の『ランゴ』以来なのです。

しかもアカデミー賞だけでなく、ゴールデングローブ賞でアニメーション作品賞に輝き、アニー賞では長編作品賞をはじめ7部門を獲得、その他にも放送映画批評家協会賞でアニメ映画賞、ニューヨーク映画批評家協会賞でもアニメ映画賞などなど……ここには挙げきれないほど数多くの権威ある賞を受賞しています。

さらに米映画情報サイトIMDbでは8.6点、Rotten Tomatoesでは97%を記録し、レビューサイトや映画専門雑誌でも軒並み超高評価。大坂なおみ選手、ケイティ・ペリー、ギレルモ・デルトロ監督などの著名人も絶賛のコメントを寄せています。大げさでも誇張でもなく、『スパイダーマン:スパイダーバース』にはアニメーション映画史上における最高レベルの絶賛の嵐となっているのです。

さらに、全人類に観て欲しい理由は、ただ世間的に高評価の超名作ということだけではありません。数あるヒーロー映画の中でも、間違いなくもっとも観る人を選ばない、老若男女を問わず誰にでも楽しめる間口の広い作品にもなっていたのです。さらに、スパイダーマンやアメコミヒーローを愛してきた方たちには、さらなる“感涙できるプレゼント”(これについては少し後述します)も用意されている……!

以上をもって全人類に観て欲しい理由を、箇条書きで簡易的にまとめると以下のようになります。

・世間的な評価はアニメ映画の歴史を塗り替えているレベル

・子どもから大人までおすすめできる

・アメコミヒーローを知らなくても楽しめる

・スパイダーマンへの愛があればより泣ける

・(ヒーロー)映画としてほぼ完璧

・退屈するシーンはゼロ

・ただただエンタメとして面白い

・何度でも観られる奥深さがある

・アニメとしての斬新な表現にも感動できる(これについては後述します)

事前に知っておく事実はこれだけでもOKです。予備知識が一切なくても構いません。詳しいことはいいので!以下の劇場情報を調べて!デートでも家族とでも1人で観てもきっと最高の思い出になりますから!観に行ってください!お願いします!

<『スパイダーマン:スパイダーバース』劇場情報>

2:いろんなタイプのスパイダーマンがめちゃくちゃ魅力的!特にペニー・パーカーの可愛さにメロメロだ!

『スパイダーマン:スパイダーバース』が今までのスパイダーマン映画ともっとも異なるのは、“複数のスパイダーマンが登場する”ということでしょう。原作となるコミックも並行世界(パラレルワールド)のスパイダーマンが大集結するという内容で、女性版のスパイダーガールやスパイダーウーマンが登場するのは序の口、日本の特撮ドラマ版(東映版)のスパイダーマンや、「コミックボンボン」に連載されていた日本のマンガ作品のスパイダーマンも“モノクロ”の姿で参戦するという、良い意味でとんでもない内容となっていました。

今回の映画では、今までのスパイダーマン映画での主人公でもあったピーター・パーカーが亡くなってしまい、新たに(原作コミックにもいる)アフリカ系とヒスパニック系のハーフの少年であるマイルス・モラレスが過酷な運命に立ち向います。彼のところには(原作コミックの中でも見た目が)特徴的なスパイダーマンたちがやってきて、それぞれが各々の特色と技量をもって共に戦うことになるのです。

この“いろんなタイプのスパイダーマンが見られる”ということだけでも楽しいのですが、さらに重要であるのがそれぞれのスパイダーマンがキャラクターとして超・絶・魅力的であるということ! 主人公のマイルスは思春期特有の悩みを持つ少年として感情移入しやすく、グウェン・ステイシー(スパイダーグウェン)はクールでカッコいい女の子として憧れることができ、“別の世界”のピーター・パーカーも初めは冷たいようでも次第に主人公と打ち解けていき、私立探偵のスパイダー・ノワールはハードボイルドな雰囲気とギャップのある茶目っ気をみせ、“ブタ”版のスパイダーマンことスパイダー・ハムもひょうきんで愛らしいと……誰もがすぐに彼らのことを大好きになれるでしょう。

&t=18s

中でも注目は、ペニー・パーカーという名前の女の子でしょう。端的に言って、めちゃくちゃ可愛い!可愛すぎる!日本のアニメ作品を思わせるキュートさ(もっと言えば“萌え”)にメロメロになる人はきっと多いことでしょう。さらに彼女の親友のパワースーツも頭部に顔文字が出てくるという負けず劣らず可愛いキャラになっています。このペニー・パーカーはすでに熱狂的なファンも呼んでいるようで、「peni parker」で検索すると多数のファンアートを見ることができますよ。

さらにさらに、魅力的なのはスパイダーマンたちだけではありません。主人公を愛しているけど過保護なお父さん、マイルスの良き理解者である叔父さん、他のスパイダーマン映画シリーズでもおなじみのメイおばさん、悪役となるキング・ピンに至るまで、ほんの少しのセリフからもその人となりや背景がわかることもあり、みんなが実在する人間のように(アニメなのに!)、忘れがたい存在になっていくのです。

–{コミックの質感を表現しきったクオリティ}–

3:アニメーションのクオリティがとにかくすごい!コミックの質感を表現しきっていた!

本作はアニメーションとしてのクオリティも最高峰!「こんなの見たことがない!」という喜びと驚きに満ち満ちており、ひと時たりとも退屈することはないと断言できます。

何よりの特徴は、3DCGアニメでありながら、コミックの質感を再現した“手書きのタッチ”にも見えるということ。この特殊で革新的な技術を配給会社であるソニー・ピクチャーズは特許出願しており、それも大納得の「コミックのキャラクターがそのままアニメで立体的に動いている!」という、本当に(重ねて書きますが)今までに見たことのない映像がこれでもかと押し寄せてくるのです。

ソニー・ピクチャーズ アニメーション史上最大となる180人のアニメーター(CGアニメーターとして日本人である若杉遼氏も参加)を総動員したものの、1人のアーティストが1週間かけて仕上げられるのは実際の映画におけるわずか2秒のみ、ショット数も大抵のアニメ映画の2,3倍は多くなり、結果として1フレームを完成させるためには通常のアニメ映画の4倍の時間がかけられたのだとか。大変な労力を伴い製作されたことに見合った、驚異の映像が完成しているということは、誰の目にも明らかでしょう、

アクションが大迫力であるということはもちろん、キャラそれぞれが“生きている”と思えるほどに豊かな動きを見せ、「コミックでしかできないはずの表現をアニメで再現する」というアイデアと超絶技巧にも感動しきり。まだまだ映像および映画には新たな可能性があるという希望も持てる、細いところまで作りに作り込まれた、瞬きすることも惜しいほどの映像のジェットコースター……!これを劇場の大スクリーンで観ることということ、それはただただ「幸せ!」になるとしか言えないではないですか!

4:製作は『LEGO ムービー』のあのコンビ!その作家性も存分に表れていた!

本作の製作をフィル・ロードとクリス・ミラーというコンビが務めており、フィル・ロードは脚本を共同で執筆しているということも重要です。このコンビは『くもりときどきミートボール』などのファミリー向けのアニメ映画のほか、『21ジャンプストリート』という大人向けの実写映画の監督も手掛けており、関わった作品のほとんどが高い評価を得ているのです。

本作『スパイダーマン:スパイダーバース』も、「フィル・ロードとクリス・ミラーの作品だ!」と強く思える内容になっています。その作家性をかいつまんで言えば、エンターテインメント性がとにかく高いこと、おいしい展開や見せ場を良い意味で過剰なまでの物量で繰り出してくること、長ったらしい説明などせず超高速の編集で手っ取り早く見せるシーンがあること、お決まりの展開をあえて避ける“外し”が多いこと、ちょっと辛辣でブラックなギャグが伏線としても見事に回収されること、概ねで“オタク”なキャラクターが大活躍するということ、そして(詳しくは後述しますが)ふさぎ込んでいた主人公が自分の本当の役割や可能性に気づき、そして自己実現をしていくという物語が紡がれているということです。

そのコンビ作品にあるサービス精神や物量で攻める映像表現は“ドラッギー”と表現できるほどで、『くもりときどきミートボール』のなだれのように食べ物が襲ってくるシーンはいろいろな意味でとんでもなかったですし、『21ジャンプストリート』では文字通りにヤバいドラッグを吸った時に本気で頭がおかしいとしか思えない(超褒めています)狂った映像が繰り出されていたこともありました。

『LEGO ムービー』はレゴへの深い愛情と理解がある、大人も感涙必至のエンタメ性とテーマ性を兼ね備えた傑作であり、(ネタバレになるので詳しくは書きませんが)主人公が担う役割は『スパイダーマン:スパイダーバース』と似通っているところもありました。

とにかく言えるのは、「フィル・ロードとクリス・ミラーが関わった作品は確実に面白い!」ということ。彼らが製作または製作総指揮として関わっているアニメ映画『コウノトリ大作戦!』『レゴバットマン ザ・ムービー』『スモールフット』などでも、それはほぼ共通。これらの作品を合わせて観ると、以上に掲げたこのコンビの作家性を強く感じることができるでしょう。(『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では途中で監督を降板してしまったこともあり、その作家性があまりうまく生かされていないように感じてしまいましたが)

なお、本作では3人のクリエイターが共同監督を務めるという、ちょっと変わった製作体制になっています。『リトルプリンス 星の王子さまと私』で脚本を務めたボブ・ペルシケッティ、『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』の監督であるピーター・ラムジー、『リベンジ・マッチ』や『22ジャンプストリート』で脚本を担当したロドニー・ロスマン(脚本もフィル・ロードと共同執筆)とそれぞれがアニメ映画で実績のある人物であり、彼らの手腕をこれ以上なく引き出したフィル・ロードとクリス・ミラーの貢献も賞賛されてしかるべきでしょう。

余談ですが、2018年に公開されたフィル・ロードとクリス・ミラーが製作に関わった実写映画『ブリグズビー・ベア』は、全ての映画オタクが号泣必至の感動が待ち受けている、優しい作品であると同時に過酷な現実を描くことからも逃げていない素晴らしい作品になっていました。こちらも合わせて観てみてほしいです。

※『ブリグズビー・ベア』の解説記事はこちら↓
□『ブリグズビー・ベア』が大傑作である5つの理由!『スター・ウォーズ』のあの人が誘拐犯にキャスティングされた理由とは?

さらに、フィル・ロードとクリス・ミラーが脚本と製作を務めた最新作『レゴ ムービー2』が、2019年3月29日に早くも公開予定となっています。こちらも前作に負けず劣らずの高評価を得ている作品であるので、ぜひチェックをしてみてください!

–{吹替の出来は100点満点で66兆2000億点}–

5:日本語吹替版がとにかく最高!悠木碧さん演じるヒロインが超カッコいい!

本作は日本語吹替版のクオリティが超最高であったことも強く訴えたい! 点数を簡単にインフレさせるのは安っぽいのでごく控えめに言いますが、吹替の出来は100点満点で66兆2000億点です!

何が素晴らしいって、実力と人気を兼ね備えた本業声優さんたちがハマりにハマりまくっているということ! 小野賢章さんは親しみやすい主人公にバッチリで、宮野真守さんのやさぐれ感と優しさを兼ね備えた“師匠”キャラにも惚れ惚れでき、大塚明夫さんの渋さと茶目っ気のある声には危うく想像妊娠しかけ、さらにはスパイダー・ハム役に吉野裕行さん、悪役のキング・ピンに玄田哲章さんと……声優さんのファンは耳が幸せどころじゃありません。吹替の素晴らしさそのものに感動して泣けるレベルです(自分は冗談抜きで泣きました)!

何より、悠木碧さんが演じるヒロインが超カッコいい! 彼女がいかに魅力的かということは、悠木碧さんご本人が「作中で一番イケメンだったと思います!」「たぶん生まれた瞬間からかっこいい!」「ナチュラルイケ女!」「器が大きい!」「演じながらずっとグウェンちゃんに惚れておりました!」などと興奮ぎみに絶賛するほど。“ミステリアスでクールなかっこいい系女子”の魅力を日本語で堪能したいのであれば、普段はキュートな役が多い悠木碧さんのカッコいい面を聞きたいのであれば、絶対に!吹替版を(も)!お願いですから!観てください!

&t=6s

さらには、前述したペニー・パーカーという名前の女の子を演じるのは、「魔法つかいプリキュア!」の朝日奈みらいや「この素晴らしい世界に祝福を!」のめぐみんなど、人気アニメ作品でキュートなキャラを演じてきた高橋李依さん。ただでさえ可愛いペニー・パーカーの破壊力(萌え的な意味で)が増し増しになっており、観た後は「彼女のスピンオフ作品を作ってください!マジでお願いします!」と心の底から訴えるほど!

さらには、多数のアニメ作品で音響監督を務め、現在は悠木碧さんも出演されている『劇場版 幼女戦記』が公開中の岩浪美和氏も、『スパイダーマン:スパイダーバース』の日本語吹替版での音響監督であることが予告編で大きく打ち出されています。実は『スパイダーマン:スパイダーバース』はアメリカ映画の音響編集のプロ集団が選ぶゴールデン・リール賞の長編アニメ映画音響効果部門も受賞しており、その優れたサウンドデザインも魅力となっているのです。

何より、本作は前述した通りフィル・ロードとクリス・ミラーのコンビらしい“おいしい展開や見せ場を良い意味で過剰なまでの物量で繰り出してくる”という内容であり、それは「字幕を追うのが大変なほどの情報が詰め込まれている!」ということでもあります。そのため、普段は字幕派という方は、今回は吹替版を(も)積極的に選んでみることをお勧めします! 吹替版限定でエンドロールに流れる“TK from 凛として時雨”の主題歌『P.S. RED I』も、映画の余韻を邪魔することがない、作品に合った素晴らしい楽曲だと思います。さらに、吹替版では劇中に表示される“吹き出し”のほとんどが丁寧に日本語化されていて、とても観やすくなっていますよ。

なお、字幕版での声の出演は『トゥルー・グリット』や『バンブルビー』のヘイリー・スタインフェルドや、『ザ・ロック』や『フェイス/オフ』のニコラス・ケイジなどとやはり豪華。しかも主人公の叔父さんを、現在公開中の『アリータ:バトル・エンジェル』の他、アカデミー賞で作品賞を含む3部門に輝いた『グリーンブック』にも出演しているマハーシャラ・アリ(同作で助演男優賞を受賞)が声を当てています。言うまでもなく、字幕版でこれらの豪華な出演陣の声を堪能してみるのもいいでしょう。

余談ですが、主要登場人物を演じた小野賢章さん、宮野真守さん、悠木碧さんが出演する全4回の特別番組「スパイダーバース特別授業〜小野くんと悠木さんと宮野先生!〜」がYouTubeに公開されています。内容は本業のお笑い芸人さん顔負けのボケとツッコミが応酬する愉快なもので、悠木碧さんが「男の子を可愛く描くことに関してはマジですごく最高の作品だった!」「ありとあらゆる男の子がすごく可愛かった!最高!」「少年からおじさんまでそろえてる」などとキャラの魅力を絶賛していることや、とあるシーンで「君は闇が深いの?」と宮野真守さんにツッコまれていることにも注目ですよ。

6:泣けるのに笑える!笑えるのに泣ける!何度でも観たくなる理由もそこにあった!

本作はとにかく楽しいエンターテインメント作品であると同時に、「泣けるのに笑える!」「笑えるのに泣ける!」という、同じシーンに切なさと笑いが同居している作劇がなされているということも特筆に値します。

例えば、これまたフィル・ロードとクリス・ミラーらしい“超高速の編集で手っ取り早く見せるシーン”でサラッとキャラクターの過去が描かれるのですが、提示の仕方がコミカルで笑える一方、それは「え?これはかなりキツいのでは?」とも思える悲劇的な事実であったりもするのです。

その他にも、キャラクターの言動や行動はおおむねコミカルでクスクスと笑えるのですが、それらが各々の“自己犠牲的”な行動原理、または悲劇的な過去に裏打ちされていたものになっていたりするのです。

詳しくはネタバレになるので書けないのですが、序盤の主人公の叔父さんの言動、集まった並行世界のスパイダーマンたちが率先して担おうとしていた役割がどのようなものであったか、中年のピーター・パーカーが終盤に出会う人物が誰でありどういう立ち位置であるのかなどなど……それらは表向きには明るく楽しいシーンであるようで、彼らの心情を(後から)深く考えてみると……泣けて仕方がなくなるのです。

この特徴は、同じアメコミ映画で言うところの『デッドプール』および『デッドプール2』にも似ています。主人公のデッドプールはずっとおちゃらけているいい加減なキャラなのですが、そのおふざけは尋常ではないほどの悲劇な過去を背負っていたからこその“抵抗”としての手段、悲劇を笑いで覆い隠そうしているような不憫さや健気さも感じさせるのです。『スパイダーマン:スパイダーバース』のキャラそれぞれが悲しい過去を背負っているのに、表向きは明るく振舞っているというのは、デッドプールがふざけている理由とほぼ同じと言ってもいいのではないでしょうか。

本作が上手いのは、悲しいシーンで過剰に悲劇的な音楽を流すといった安易な演出に頼ることなく、表向きは明るく振る舞うキャラたちの姿を見せること、時には超高速の編集でサラッと見せることで、むしろ悲劇性が際立ってくるということ。悲劇的なシーンを「さあ泣け」と言わんばかりの大仰な演出でダラダラと見せるよりも、こうした方が盛り上がるし、人間ドラマにも泣けるんですよ!

それは同時に、本作が“何度でも観たくなる”奥深さを備えている理由にもなっています。ちょっとした言動や行動からも、(映画では明確に描かれなかった)心情や過去にも様々な想像が膨らみ、より一層キャラそれぞれが大好きになれるのですから。

そんな愛すべきキャラたちが終盤で…(ネタバレになるので自粛!)…する様は涙が頬を伝うどころじゃありません。“泣き笑い”による感動が極に達する最高のクライマックスを、ぜひ映画館で見届けてください!

余談ですが、本作におけるギャグには辛辣でちょっとブラックなものもあり、お決まりの展開をあえて避ける“外し”も多いという、やはりフィル・ロードとクリス・ミラーらしさが全開です。その中には、スパイダーマンのファンであればより笑える小ネタや「えっ!」と驚ける設定も用意されています。それらの意味が分からなかったという方は、これまでのスパイダーマン映画シリーズを“後追い”で観てみるのも良いですよ。

–{コミックへの愛を肯定する素晴らしさ}–

7:存在意義を見つける尊い物語!コミックへの愛を肯定する素晴らしさもあった!

フィル・ロードとクリス・ミラーの作家性は、前にも少し触れた通り“ふさぎ込んでいた主人公が自分の本当の役割や可能性に気づき、そして自己実現をしていくという物語が紡がれている”ということにもあり、言うまでもなく『スパイダーマン:スパイダーバース』でもそれは共通しています。事実、2人は本作について以下のようなコメントをしています。

「この映画は、スーパーヒーローの体験を新鮮な角度から探求しながら、大人になること、行動を起こすこと、この世における自分の存在意義を見つけることといった、大きくて普遍的なテーマを扱っているんだ」

映画本編を観てみれば、本作はクモのスーパーパワーを持つスパイダーマンという架空のヒーローの活躍を描きながらも、同時に“ヒーロー”という概念を極めて普遍的かつ、限定されていない広義的な意味で使っていることに気づくでしょう。もっと言えば、「誰でもヒーローになることができる」という現実に根ざしたメッセージ性をも備えているのです。

さらに、フィル・ロードとクリス・ミラーは本作の主要テーマの1つとして「僕ら全員がパワーを持っていて、誰もが自分の追うべき責任をちゃんと果たさなければならない」ということを挙げています。それはスパイダーマンの映画シリーズで繰り返し強調されていた「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉につながっているのです。現実に根ざした“ヒーローとしての存在意義(および自己実現)”を示しながら、それがスパイダーマンという作品の根底にある精神性にリンクしているというのも、本作の美点でしょう。

それらは「コミックや創作物を愛することを肯定する」ことの尊さにもつながっていきます。並行世界のスパイダーマンたちが集結するということ、画風さえも異なるキャラたちが共に戦うというのは荒唐無稽ではあるのですが、本作ではそれを“コミックを再現したアニメ”という“これでしかできない”表現をして、それらのキャラが大活躍することで、全力で肯定してみせるのです。

スパイダーマンを、アメコミを(バカバカしくもある荒唐無稽も含めて)愛していたという方にとって、これほどに感涙できるプレゼントがあるのでしょうか!その嬉しさは、アメコミやスパイダーマンを知らないという方にも、きっと通じるはずです。

8:ありがとう、スティーブ・ディッコとスタン・リー

本作『スパイダーマン:スパイダーバース』は、2018年6月29日ごろに亡くなったスパイダーマンの原作コミックの共同クリエイターであるスティーブ・ディッコに捧げることになっていました。そして、本国での公開日の約1ヶ月前の2018年11月12日には、同じくスパイダーマンのクリエイターであるスタン・リーも亡くなりました。結果として、本作はスパイダーマンを生み出した2人の偉大なクリエイターに捧げられた作品になったのです。

2人がこの世にもういないことが寂しくて仕方がありませんが、これまで以上にスパイダーマンへの愛に溢れた、名実ともにスパイダーマン史上最高傑作が生まれたということ、この後も素晴らしいスパイダーマン映画が生まれていくであろうこと(『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は2019年夏公開予定)が嬉しい限り。ぜひぜひ、『スパイダーマン: スパイダーバース』を劇場で観て、最高の映画体験をしてください!

(文:ヒナタカ)