(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
いきなりズバリ書くと、韓国映画『The Witch/魔女』には度肝を抜かれたと言わざるをえない。その衝撃度といえば近年の作品でも思い当たらないぐらいで、改めて韓国産バイオレンスアクションの底力を見せつけられた気分だ。監督は『新しき世界』や『隻眼の虎』といったヒット作を手がけているパク・フンジョンで、「魔女」という邦題からは想像がつきにくいが、“最強アサシン”として生み出された少女・ジャユンの想像を絶する戦いを描く。
本作は全国ロードショー作品ではなく、シネマート新宿/心斎橋の番組編成担当・野村武寛氏が選りすぐったレア作品を紹介する「のむらコレクション(のむコレ)」での上映。企画上映作品について紹介するのも申し訳ないところではあるものの、それを差し引いてもプッシュしたい強烈なインパクトを秘めた作品ということで、今回は『The Witch/魔女』の魅力についてご紹介したい。
常識を超える怒涛のサイキックアクション!
本作のあらすじをざっくり紹介すると、物語はとある研究施設から幼きジャユンが逃走するところから始まる。鍵を握るペク博士(チョ・ミンス)や、ペクの指示を受けて動くミスター・チェ(パク・ヒスン)の追跡から逃れ、酪農家の敷地内で意識を失っていたところを夫婦に拾われるジャユン。記憶を失いながらも実の娘のように育てられて高校生へと成長したジャユン(キム・ダミ)は、家庭のサポートをしながら認知症を患う養母の治療費などを稼ぐためにオーディション番組に出場する。そこで“ある手品”を見せたことがきっかけで、謎の男たちに執拗につけ狙われてしまう──というストーリーだ。
要は秘密を抱えていたジャユンがテレビに出演したことでペク博士らに見つかってしまう流れで、それまでジャユンはどこにでもいそうな“平凡な女子高生”として描かれている。そのくだりだけで作品の前半部が過ぎていくのでもどかしさを感じるかもしれないが、友人も泊まりにきていた夜に武装チームが来襲したことでムードは一転。追い詰められたジャユンは何かのスイッチが入ったように頭に突きつけられた銃で素早く反撃に出ると、正確無比の射撃で武装チームを“瞬殺”してしまう。ジャユンという本来のキャラクター性が瞬間的に爆発するこのシーンで、思わず筆者は感嘆の声を上げそうになったくらいだ。ここからいよいよ彼女の生い立ちが明らかとなり、舞台はオープニングで描かれた施設へと移って怒涛のバトルシーンへとなだれ込む。
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ここまで書いてしまえばジャユンが戦闘兵器として生み出された少女であることは明白だろう。武装チームを瞬殺する様子からも、いかに彼女が優れた能力を有しているかが伺えるが、本作の魅力は本当の意味でジャユンが“覚醒”した瞬間から炸裂する。韓国お得意の“バイオレンスアクション”ということで、例えば今年2月に公開されたスタイリッシュアクション『悪女/AKUJO』を思い出す人もいるかもしれない。もちろん本作ではアサシンとしての能力が十二分に発揮された射撃シーンもふんだんに盛り込まれているが、さらに特筆すべきは、“サイキック”=念動力まで駆使されることも大きな魅力となっている。本作ポスターに「最強少女、覚醒」のコピーが添えられているが、ジャユンの場合、戦闘スキルの覚醒という意味ではなく脳レベルでの覚醒を意味する。同じテーマとしてはスカーレット・ヨハンソン主演の『LUCY/ルーシー』が挙げられるが、ジャユンは超人としての変貌を見せて比類なき力を見せつける。
そんなジャユンに敵意をさらけ出すのが、同じ施設で育てられた青年クィ・ゴンジャだ。『新感染 ファイナル・エクスプレス』での好演が記憶に新しいチェ・ウシク演じるゴンジャも、ジャユンと同じアサシンとしての使命を背負っており、彼が率いる暗殺者集団ともども冷酷な感情を見せる。ラストバトルはそんな“能力者”同士の激突が描かれるのでその熱量は半端なく、VFXまで駆使した圧巻の異能バトルがこれでもかと展開。その点でもサイキックというポイントが存分に威力を発揮し、ハリウッド映画顔負けの超絶アクションが繰り広げられる様は興奮度が凄まじい。さらにミスター・チェ率いる特殊部隊も参戦して怒涛の三つ巴バイオレンス・サイキック・アクションが展開されるので、少しでもアクション作品に興味がある人なら鑑賞して損になるようなことは絶対にないと断言したい。筆者としては今年のベスト・アクション・シークエンスとして推したいくらいだ。
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–{まさかの韓国版“カメ止め”?}–
練りに練られた構成でまさかの韓国版“カメ止め”?
アクションばかりを推し続けてきたが、肝心のストーリーとしてはどうか。あらすじだけを追えば秘めたる能力覚醒モノとしては普遍的なテーマと言えるだろう。また前述のように前半パートはジャユンが“普通の女の子”として描かれるので、「最強少女」という言葉に期待感を込めて活躍の場面を待っていると正直肩透かしを食らうかもしれない(ジャユンが覚醒する中盤までアクションらしいアクションがない)。そんな状況を経てジャユンがいきなり武装チームを一瞬で壊滅するわけだから高揚感が大きいのだが、実は脚本の妙は既にこの前半パートから現れている。彼女が中盤で覚醒するのが作品の転換点のように思えるのだが、作品に巧妙に仕込まれた伏線は前半でこそ静かに息づいており、後半で初めて“それ”が明かされたとき、観客は本当の意味で驚愕するはずだ。
残念ながら本作の魅力(ジャユンという存在そのもの)を語る上でその伏線を明かしてしまうのはあまりに無粋なことなので触れることはできないが、その衝撃はジャユンに対して“恐ろしさ”を感じるほどだ。この伏線回収が見事なあまり、本作はもう一度見返したくなるような作品に仕上がっており、言ってみれば作品の構造としては大ブームを巻き起こした『カメラを止めるな!』と通じる部分がある(もちろん内容は全く違うのだが)。一見すると意味を持たないような前半の風景が、種明かしと同時に色づく様はこちらの予想を覆されればされるほど感動が大きい。伏線を撒いておき収穫の時期がくれば的確な方法で摘み取る。特に本作は“それ”が明らかになる瞬間がはっきりしているので、脚本も担当したパク・フンジョン監督の「してやったり」顔を想像するだけでも悔しいくらいだ。
こうして丹念に練り込まれた脚本のおかげで、鑑賞後に作品にケチをつけようにも自ずとその芽はひょいと潰されてしまう。例えばジャユンがオーディションに出演して手品を披露するなど、自ら目立つことになってしまった行為すら実は後々になって意味がもたらされる。言い換えれば物語がなかなか動きださないとヤキモキする前半も含めて無駄なシーンがなく、全てがパク・フンジョン監督の掌で完璧なまでにコントロールされていたといえる。
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–{キム・ダミこそ本作における本当の“怪物”なのかもしれない}–
圧倒的存在感を放った新人女優
『The Witch/魔女』の屋台骨になっているのがジャユンであることは言わずもがなだが、そんな彼女を演じたキム・ダミこそ、実は本作における本当の“怪物”なのかもしれない。繰り返しになるが、本作は前半で描かれる普通の女の子としてのジャユンと、覚醒後のジャユンという真逆をいく二面性が物語のポイントになる。こう言ってしまうと失礼だが、前半のジャユンは片田舎にいそうな平凡な女子高生としてのオーラがすごい。養父から「女の子なのだからもっとちゃんとしなさい」と苦言を呈されるほど壊滅的にファッションセンスがないことも手伝い、おそらくその辺りを歩いていても特段目がいくような雰囲気でもない。ところが覚醒後のジャユンといえば余裕の表情すら浮かべながら敵を血祭りにあげており、むしろ戦闘を楽しんでいるような、格の違いを見せつけ痛めつけることを満喫しているような雰囲気すら漂わせている。
そんなジャユンの二面性を際立たせているのは、ひとえにキム・ダミの演技によるものだ。そして特訓を経て挑んだアクションシーンも光っており、彼女の存在なくしてはこの作品は成り立たなかっただろう。そんなキム・ダミという女優が“新人”であるという点が、本作における“怪物”であるという点を際立たせている。あの異能アクションをこなすだけでも相当な熱意をもって挑んだはずであり、いうなれば2つのジャユンの性格も演じきったことになる。キム・ギドク監督の『嘆きのピエタ』で主演を務めたチョ・ミンスや、パク・フンジョン監督作の常連パク・ヒスンの存在も、もちろんキム・ダミに影響を与えていただろう。それにしても本作における彼女の存在感は凄まじいものがあり、オーディションを経て自らの手で勝ち取った主役の座なので当然といえば当然だが、キム・ダミは作品内で紛れもなくジャユンそのものだったといえる。
まとめ
『The Witch/魔女』は本国でも今年6月に公開されたばかりであり、大ヒットを記録した作品(最後になったが本作は「Part1」にあたり、続編に向けたカットも含まれている)。今回は「のむコレ」での上映となったが、行動範囲として可能であるなら、ぜひ劇場鑑賞をおススメしたい。本作は屋内という限られた空間の中で高低差を利用したダイナミックでド迫力のアクションを展開しているので、本来ならスクリーンで楽しむに越したことはない。今回の上映でさらに話題を呼べば全国公開への糸口にだってなる可能性もある。そんな日を迎え多くの人の目に触れられることになるまで、『The Witch/魔女』というタイトルをぜひとも目に焼きつけておいてほしい。
(文:葦見川和哉)