(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社
現在公開中の『ちはやふる -結び-』は各界から絶賛の声が相次ぎ、映画情報サービスFilmarksでは5.0点中4.2点という超高評価を記録、その口コミ効果もあって大ヒットをしています。
ここでも断言します。『ちはやふる -結び-』は青春映画の新たなマスターピースであり、マンガの実写映画化作品としても理想的であり、最高の完結編であると! なぜここまでの大傑作となったのか、大きなネタバレのない範囲で、その理由をたっぷりとご紹介します!
1:若手俳優たちの“2年間の成長”が、劇中の物語とシンクロした!
『ちはやふる』シリーズの何よりの魅力は、やはり若手俳優たちの活躍。(知名度ばかりを優先せずに)オーディションで選ばれた彼らが実力を存分に発揮し、「またあいつらに会いたい!」と強く願えるほど個性的で愛すべきキャラたちを熱演していたことに、異論のある方はほとんどいないでしょう。
本作『ちはやふる -結び-』は、2016年に公開された『ちはやふる 上の句』および『ちはやふる 下の句』の2年ぶりの続編となっており、そちらに出演していた彼らが、大きく成長して“帰ってきた”ことも特筆に値します。
広瀬すずは『ちはやふる』前2部作の公開当時から注目はされていたとはいえ、これまで映画で主演を演じたのは『海街diary』(それも4姉妹のうちの1人)のみでしたが、そちらで記憶に残る存在感を見せ絶賛で迎えられていました。野村周平は『クジラのいた夏』や『日々ロック』でも、上白石萌音は『舞妓はレディ』でも主演を務めていましたが、本作で初めてその存在を知ったという方も多いでしょう。
『ちはやふる』前2部作でさらに知名度をあげた若手俳優たちは、その後に公開された話題作にも次々と主演および出演をします。広瀬すずは『怒り』や『三度目の殺人』、野村周平は『帝一の國』や『22年目の告白 -私が殺人犯です-』、新田真剣佑は『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』や『不能犯』、松岡茉優は『勝手にふるえてろ』や『聲の形』(声の出演)、上白石萌音は『溺れるナイフ』や『君の名は。』(声の出演)、矢本悠馬は『君の膵臓をたべたい』や『トリガール!』、森永悠希は『あさひなぐ』などなど……。『ちはやふる』は、彼らの出世作として重要な作品でもあるのです。
そうして役者として活躍してきた彼らの2年間が、リアルタイムで2年の時を経て公開された『ちはやふる -結び-』の物語(高校1年生だった主人公たちが3年生になっている)ともシンクロしているかのようなのです。久しぶりに“再会”した彼らは、一見すると印象は変わらないけれど、その演技や表情には2年間という空白の時間にあった成長を感じさせる……そこには映画という虚構と、現実が結びついているかのような感動がありました。
なお、俳優陣はかるた競技の感覚を取り戻すため、クランクインの前にみっちりと合同練習をしたそうです。その甲斐もあって、競技の迫力も前2部作を超えていますよ!
(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社
2:“想定されていなかった続編”とはとても思えない! 脚本が神がかり的な完成度だ!
『上の句』および『下の句』では、原作マンガのエッセンスを拾い上げ、かつ限られた上映時間でまとめる映画ならではの“再構築”も抜群に上手く行われていました。2部作であることに必然性があり、題材となる百人一首の歌と絡めた物語運びも含め、エポックメイキングであったと言えるでしょう。
※原作マンガからの改変の上手さについては、以下の記事でもまとめています。
□『ちはやふる 上の句』のここを観て欲しい!王道スポ根の青春映画として最高峰である理由を大いに語る!
実は、今回の『-結び-』の企画はもともと想定されていませんでした。続編の可能性が浮上したのは『上の句』が完成した2015年の11月のことで、脚本を手がけた小泉徳宏監督は「2部作でやるべきことはやりきったつもりだったので、以降のことは何も考えていなかった」などとも語っているのです。
つまり『-結び-』の物語は“後付け”ということ。一歩間違えば「蛇足」や「せっかくの2部作が台無しになった」と言われてしまいそうな企画でもあるのですが……実際の本編を観てみると、そんな不安を持っていたことが申し訳なくなる、もはや神がかり的とも言ってよい完成度を誇っていました!
『-結び-』の脚本が素晴らしい理由は、以下の5点に集約されると言っていいでしょう。
(1)初登場のキャラクターそれぞれをこれ以上なく魅力的に描けている
(2)前2部作を踏まえたロジカルな構成になっている
(3)原作マンガのエッセンスを拾いつつ普遍的に響くメッセージを備えている
(4)競技かるたおよび百人一首への多大なるリスペクトがある
(5)原作マンガの“IF”をも描いている
以下からは、それぞれについて解説します!
(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社
3:初登場キャラが魅力的な理由はこれだ!
『-結び-』では、前2部作にはいなかった初登場のキャラがなんと4人もいます。優希美青演じる“恋に超特急な新入部員”、佐野勇斗演じる“実力があるけど不遜な新入部員”、賀来賢人演じる“感じの良い問題人物”、清原果耶演じる“恋のライバル”な映画オリジナルキャラがそうです。 –
これだけのキャラを新たに描くとなれば、物語が散漫になってしまったり、彼らの魅力を十分に描けていないといった不満が出そうなものですが、まったくそんなことがないというのが驚異的! 彼らのことも大好きになることができ、かつ全体の物語の躍動感、完成度に一役も二役も買っているのです。
なぜ彼らのことを魅力的に感じるのかと言えば、短い上映時間の間に“価値観の転換”が行われるからでしょう。たとえば、恋心を募らせるがあまり起こした行動がどうなるか、かるたの団体戦での独断がどのような結果になるか、どのようなことを講義で諭すのか、そしてかるた競技でどのような戦い方をするか……彼らの行動および成長は(後述しますが)普遍的に届く、尊いメッセージにも昇華されているのです。
小泉徳宏監督は、『ちはやふる』前2部作は言うに及ばず、(主演に限らず)脇役を演じた若手俳優の魅力を引き出すことにも定評があります。その点においても、この『-結び-』は完璧。新キャラを演じた4人それぞれの若手俳優の今後の活躍を、追い続けたくなることは間違いありません。
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4:前2部作を踏まえたロジカルな構成がすごすぎる!
ここで明言しておきたいのが、本作『-結び-』は、『上の句』と『下の句』を観てくおくことで、感動が何倍にも膨らむということ。なぜなら、その前2部作での数々の伏線が、本作で回収されるからです。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、『上の句』で主人公の千早の行動は(原作マンガにもあった)本作の“チャンス”についての教えにつながり、『下の句』での太一の行動にも新たな驚きと感動を与えてくれます。さらには、2部作それぞれのメッセージ、特に“かるた競技にかける情熱”、“かるた競技を続ける理由”もが伏線となり、それらをひっくるめて(これも後述しますが)普遍的な“青春の意義”をも問い直していました。
さらに、“勝つことに明確なロジックがある戦い”が、前2部作でのキャラの成長も踏まえたものになっていることも見事! 今回の団体戦で肉まんくんが新入部員にとあることを諭した時に、彼が『上の句』の団体戦ではどのような戦略を取っていたか、を思いだしてみるといいでしょう。
さらにさらに、机くんが団体戦でとある活躍をすることも、古典オタクの奏ちゃんが百人一首の歌に込められた恋心を語ることも、現クイーンの詩暢が笑みを浮かべた理由も、そして千早に切ない恋心を抱いていた太一の行動も、前2部作で描かれたキャラの性格や成長を踏まえたものになっているのです!
『-結び-』の物語そのものは前2部作から独立していますし、かるた競技のルールも簡潔に説明されているので、「初めて観る方でも楽しめる」要素も十分にあります。しかしながら、筆者個人としては、やはり「『上の句』と『下の句』を観てから劇場に足を運んで欲しい!」と強く願います。
その理由は、前述したように若手俳優たちの成長を感じられることと、前2部作での数々の伏線が回収されること、何よりも“かるた競技にかけた3年間の青春”を体感できるからこその感動もあるからなのです。前2部作を観たことがないという方は、Huluで『上の句』および『下の句』が配信されているので、ぜひ鑑賞してみてください!
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–{5:輝かしい青春時代を送れなかった人にも届くメッセージもあった!}–
5:輝かしい青春時代を送れなかった人にも届くメッセージもあった!
劇中では、「道徳の授業で若い人に鑑賞して欲しい!」と強く願えるほど、青春に賭ける(賭けた)すべての方に通ずるメッセージも提示されています。それは『-結び-』というタイトルに通ずる、“人のつながりの大切さ”や“何かを継承していくことがいかに尊いか”などといった、若者に限らず彼らを取り巻く大人にも響くものになっています。それらが、まったく説教くさくないというのもすごい!
さらに素晴らしいのは、(主人公の千早たちのように)輝かしい青春時代を送れなかった人も、誰かのためにできることがある、という教えも内包されていること。実際、高校時代はキラキラなんかしていなかった、無味乾燥な青春を送ってしまったと後悔したり、自己を卑下してしまう方は少なくはないでしょう。そのような人でも(であればこそ)、『-結び-』の“問題人物”が告げたとある言葉には、きっと勇気づけられるはずです。
さらに、それらのメッセージが、原作マンガのキャラクターの性格やセリフを拾い上げたものになっているというのも驚くべきこと! 前述した“チャンス”もそうですが、原作マンガの精神性が映画においても過不足なく表れている、それどころかさらに説得力を増しているという……これはもう、ある種の奇跡と言ってもいいのではないでしょうか。
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6:競技かるたの“一瞬”と“永遠”を見事に描いていた!
競技かるたは観ればわかる通り、“一瞬で勝負がつく戦い”です。対して、そのかるたに書かれている百人一首は“1000年の時を経ても伝わる芸術”と劇中で語られています。いわば、競技かるたは“時間”という概念において、“一瞬”と“永遠”という2つの矛盾した要素が共存している、とされているのです。
そして、その“一瞬”と“永遠”もまた、青春時代を送る(送った)すべての人に通ずる、とある尊いメッセージにも昇華されていました。それは、高校3年生になって将来を決めなければいけない千早(たちの)が目指すべき“夢”にもつながっている……一体、どこまで練りあげれば、これほどまでの脚本が完成するのでしょうか!
そして前2部作と同様に、百人一首の歌の解釈は劇中の物語にシンクロしています。今回でとくに重要となる歌は、「しのぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで」と「恋すてふ(ちょう)わが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか」の2つ。それぞれの歌の解釈を調べると、さらなる感動がありますよ!
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7:原作マンガのファンが願った“IF”の展開があった!
小泉徳宏監督は、『-結び-』を主人公の千早たちが3年生になってからの物語にすることを思いついてから、原作者の末次由紀から先の展開も聞き、それを踏まえて脚本の執筆を続けていたそうです。
その過程において、“千早とライバルの詩暢とのクイーン戦”をクライマックスに据えることを、思い切ってやめたのだとか。それは、原作マンガの冒頭や、『上の句』のオープニングでも“チラ見せ”されていたこと。いわば“物語の最後に描くことが決まっている戦い”でもあるのに、それをやめてしまうというのはかなり大胆な選択です。
では、代わりにどのような戦いがクライマックスになっているのか……それこそネタバレになるので絶対に書けないのですが、これは原作マンガのファンであれば、何より小泉徳宏監督自身が「こういうのが観たかった!」と願っていた“IF”の展開でもあるのです。
小泉徳宏監督がその改変を原作者の末次由紀さんに話したところ、「これは読者が観たかった、もう1つの『ちはやふる』ですね」と喜んで承知してくれたのだとか。そこには、原作を読んだ人はもちろん、読んだことがない人も鳥肌が立つような感動があるはず!
なお、前述した“物語の最後に描くことが決まっているクイーン戦”ですが、この完結編で完全にオミットされたわけではなく、“ある方法”で描いていることにも感動しました! これまたネタバレになるので具体的に書けないのがもどかしいですが、その“表現”そのものにも驚けることでしょう。
(C)2018 映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社
8:すべてにおいて褒めても褒めたりないことばかりだ!
北島直明プロデューサーは、小泉徳宏監督と脚本作りを話し合う中で、「原作マンガに囚われ過ぎない」「原作の再現にこだわりすぎるあまりダイジェスト感やコスプレ感のあるものにしない」「それでいて外してはいけない原作の“芯”を冷静に捉える」「原作の“核”の部分を抽出して2時間の映画での中で再構成する」ことなどを重視したのだそうです。この目標こそが実を結び、原作にあったエッセンスを存分に膨らませ、さまざまな要素やメッセージが有機的に絡み合い、一人ひとりのキャラが忘れられないほど魅力的になった、奇跡というべき物語が生まれたのでしょう。
脚本のことばかりに触れてきましたが、窓から溢れる“光”の表現、競技かるたをさらに面白くわかりやすく見せる映像の工夫の数々、カッコよく必然性もあるスローモーションの使い方、Perfumeによるポップな主題歌、横山克さんによる美しい音楽は今回も健在、いや、さらにさらに魅力的になっていました。総じて“映画”としての描き方が抜群に上手く、盛り上がりどころも外さず、極めてエモーショナルな内容になっている……。もう、いくら褒めても、褒めたりない!
余談ですが、『ちはやふる -結び-』と、ほぼ同時期に公開されたディズニー・ピクサー最新作である『リメンバー・ミー』には、“受け継いでいくことの大切さ”が描かれているという共通点があります。さらに、“チャンス”については正反対とも言える訴えもあるのもおもしろいですね。完全に偶然ではありますが、両者を見比べてみるのもいいでしょう。
※『リメンバー・ミー』の記事はこちら↓
□『リメンバー・ミー』、もっと面白くなる8つのポイント
なお、『ちはやふる -結び-』は音楽はもちろん、細かな調整が重ねられた音響も大きな魅力になっています。劇的なシーンにおける“無音”も重要になっており、映画館で観てこそ「みんなで固唾を飲んで見守る」という一体感も得られるでしょう。もうこれ以上は言うことはありません、この日本における青春映画の、マンガの実写映画化の最高傑作の1つを、絶対に映画館で観てください!
(文:ヒナタカ)