4月25日(水)にBlu-ray&DVDが発売となる『彼女がその名を知らない鳥たち』、そして現在公開中の映画『不能犯』。それぞれのメガホンをとった白石和彌監督と白石晃士監督に、“W白石対談”として作品の話題を中心に、お互いについてのお話などを伺いました。(最後のページはネタバレを含みますので、ご注意ください!)
また、両作品に出演している松坂桃李さんについても、「シネマズ女子部」としては気になるところ。そこで、お二人から見た“俳優・松坂桃李”についても語っていただきました!
──まず、『彼女がその名を知らない鳥たち』と『不能犯』、それぞれの作品について感想をお伺いしたいです。
白石晃士監督(以下、晃士監督):まずは十和子役の蒼井優さんですよね。とにかく蒼井優さんのすごさにやられました。なんですかね…仕事してみたいな、って(笑)。
白石和彌監督(以下、和彌監督):それはオファーしてくださいよ(笑)。
晃士監督:いくつかの作品を拝見して、世の中の見方とか映画の作り方とかから、和彌さんに真面目なイメージを持っているんですが、その和彌監督のよさがシンプルに出ている作品なんじゃないかなと思います。
原作モノではありますけど、市井の人、しかも底辺気味で…宣伝の言葉を借りるとゲスな人たちの姿を描いている。でも、その根っこには純粋なものがある、というところが和彌さんらしくてストレートな映画だなと思いましたね。私は和彌さんの映画の中では一番感動した映画でした。
和彌監督:ありがとうございます。
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
晃士監督:「かの鳥」の主人公2人(蒼井優さん演じる十和子と、阿部サダヲさん演じる陣治)は、特別な人じゃないんですよね。そこがなんというか…
和彌監督:食い合わせがよかった?
晃士監督:すごく素直でよかった。そこに素晴らしい役者さんも揃って、映像美術面も本当に素晴らしいクオリティで。同じ名字をもつ監督として、私としてはちょっと…悔しいな!という(笑)。
──逆に晃士監督の作品に対して、和彌監督はどんなイメージをお持ちですか?
和彌監督:物語に収まらないところに映画を持っていきたいんだろうな、ということでしょうか。「この展開なら、普通はこう終わるよね」というところに絶対に収めずに、そこでもがいて何かを生み出そうとしている。そして実際に生み出している。それは、毎度思いますね。
この前対談した時も話したけれど、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』みたいな、本棚の裏にどうやっていけばいいんだ、ということにいつも四苦八苦しているイメージ。それはよくわかりますね。
晃士監督:その通りです(笑)!
和彌監督:『不能犯』はキャラクター造形は面白いんですが、ある程度原作に縛られていくうえに連作ものなので、映画にはすごく向いていない題材だと思います。それを晃士監督の持つインテリジェンスで、ちゃんと1本の映画に仕上げている、という感じはとても受けました。
でも、さっき言った文脈での“本棚の裏側に行こうとする”点でいうと、ときには原作が枷になることがあるので、原作に収まらない方が持ち味を発揮する監督さんなんだろうなという印象もあります。同時にディティールの部分では、やっぱり晃士監督らしさが出ていたし、観た人にちゃんと白石映画としての爪痕を残していくのは流石だなと。桃李くんの使い方も面白かったですね。
──個人的には、『不能犯』の松坂さんの演じる宇相吹正は、ダークヒーローではありましたけど正統派なイメージで、「かの鳥」の水島はそこを超えた役柄を演じている印象でした。
和彌監督:主役じゃないからこそ遊べるというのはあるんですよね。題材にほぼかかわらず、主役はどうしても受けの芝居になってしまったり、リアクションが強く出る芝居になってしまうので、サブ的なポジションの方が遊び倒しやすいというか。まぁ、「かの鳥」は意識的にイケメンを逆手にとって、桃李くんと竹野内豊さんをキャスティングしているので。
–{白石和彌が松坂桃李に一言申す!?}–
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会
──ちなみに、松坂さんの魅力ってどんなところでしょうか。
和彌監督:そもそも僕はイケメンが好きじゃないんですよ。「かの鳥」の裏テーマも“イケメンと付き合ったらロクなことにならないからね”っていうメッセージが込められてるんだけど(笑)。
松坂くんは当然イケメンなんですけど、そこから、頭ひとつ抜けだした感がある。毎回思うんだけど、クレバーなんだよね。映画の中の自分の役割とかを本人がどれだけ考えているのか、聞いたことはないですけど、ちゃんと理解しきっている感じがあるんですよね。
それは「かの鳥」で水島のようなゲス男のポジションと、『孤狼の血』でバディもののように役所広司さんの隣で真ん中にどっしりいてくれた感じ、両方やったからすごく感じるというのはあるんですけど、自分の役割と、だからこそ今こういう芝居なんだというのを、バランスよく見ているなと感じますね。
──もともと持っていたイメージと、現場で感じたギャップはありますか?
和彌監督:よく、桃李くんは本当に人がいいとか、スレてないとか、芸能人っぽくないとか、聞いてましたけど、本当にそのとおり。
晃士監督:そう! 僕も周りからそういう話をちょいちょい聞いていて、そこはそのとおりでしたね。我々に見せてない部分もあると思いますけど(笑)。
和彌監督:実際に仕事をして感じたのは、心配になっちゃうくらいに真面目。
晃士監督:仕事はとにかく真面目だし、自分でやれることはなるべく限界までやる。だから『不能犯』も宣伝のために、役者の本業ではないバラエティ番組に出るっていう仕事もめちゃめちゃやってくれました。普通、あそこまでやってくれないですよ。
和彌監督:超、出てたもんね。
晃士監督:多分、普通はありえない。だから今ヒットしているのは、それだけ松坂くんが頑張ってくれたおかげだと思ってます。もちろん、役に対する気持ちも真面目だし。だから、各作品のことはもちろん見ていると思うんですけど、ちゃんと遠くを見ているというか、俳優という大きな仕事の向こう側を見ながら、広い海に向けて舵をきっている感じがするな、と。
和彌監督:あぁ、それはそう感じる。
晃士監督:そこがあるから、信じられるというか。
和彌監督:人生において、自分がどういう時期にいるのかとか、結構俯瞰で見てるんですよね、きっと。
あと、栄養ドリンクを毎日3本くらい飲むんですよ。それはやめたほうがいいぞ、って書いておいてください。心配だぞ、って。朝必ず1本飲んで、朝ごはんはバナナ1本しか食べないんだよね。
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
晃士監督:よう知ってますね〜。そこまで全然知らないです(笑)。ちなみに、「かの鳥」で松坂くんのシーンの最後があるじゃないですか。あのリアクションについては、演出的にはお互いにどんなやりとりをしたんですか?
和彌監督:無様に去っていってほしい、というのは話しましたね。
晃士監督:あぁ〜。
和彌監督:台本には1行もないんだけど、この状況なら思わずこう言うでしょう、ということを大げさにやってほしいと伝えたら、彼はそれを噛み砕いてくれて。何回かやってもらいました。無様に去っていく、というのがあそこのテーマですね。
–{境界線をこえる瞬間が観られる白石晃士作品}–
──和彌監督は現場で台本にない演出をつけられることが多いと聞いたのですが、晃士監督はいかがですか?
晃士監督:僕は結構役者さんに任せるというか、「語尾とか変えちゃっていいですよ」とは言います。自然に変える役者さんもいるんですけど、整合性がつく限りは生かすことが多いですね。よりよくなるなら、台本にとらわれないし、役者さんにあった言葉をチョイスしてほしいとは思うので。でも、そう伝えても、ほとんどの人は変えないです。その方が安全だからだと思いますけど。
和彌監督:劇的に変えてくる人っていたんですか?
晃士監督:安藤政信さんとかですね。
和彌監督:あぁ、安藤さん。そうなんだ。
晃士監督:その場の感覚で、毎回変えて演じている感じでした。自分の言葉で喋ってもらった方がセリフが自然になるので、整合性が取れていたらOKですね。
和彌監督:稀に、考え抜いて、考え抜いて変えるパターンってあるじゃないですか。
晃士監督:それはあんまりよくないね(笑)。
和彌監督:それは、だいたい自分がよく見えるような感じにしかならないから。その場のインスピレーションで変える分にはいいと思うんですけど、たまに気に食わない役者っていうのがいるんですよ。初めての現場で、「あぁ、こういう感じか」って思う人が…書いていいのかなコレ(笑)。そういう人には、一言一句変えるな、って言うことがありますね。
晃士監督:今回はだいたい台本通りなんですか? ちょいちょい現場でこんな感じというのが。
和彌監督:そうですね。時間に余裕があるときややれるときは、前後を撮っちゃうんですよね。台本に書かれているのは、ここからここまでだけど、そこに行き着くまでの1分前くらいからはじめて、終わってからもしばらくやっているとか。だいたいそこは切っちゃうんですけど。
晃士監督:へぇ〜!
和彌監督:そのシーンの空気感を掴むために。でも「かの鳥」は、ある程度日常を題材にしている内容だからできるんであって、『孤狼の血』みたいにヤクザと警察の話で1分って言われてもできないでしょうから、題材によりけりですね。
──『不能犯』では、夢原理沙を演じた芦名星さんも、今まで演じられてきた役のイメージとは違う印象を受けました。
晃士監督:やっぱり、暴走するキャラクターって魅力的ですよね。芦名さんは、根っこに持っているものがエネルギッシュな方。それが芝居にも出ていて、夢原という役にあっていたなと思いました。自分は暴走する役が好きなんですよね。
和彌監督:晃士監督が暴走してるキャラを描いているときは、本当に気持ちよさそうだなと。
晃士監督:だって、「人間って暴走しますよね」「自分でも思ってもみない行動をしちゃうときってありますよね」って思うわけですよ。その方が驚きもあるけど、納得もできる。人生もだいたい思い通りにはいかないから面白いので、なるべくそういうキャラクターがいいなと思いますね。
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会
和彌監督:僕は、倫理観みたいなもの、その境界線を超える瞬間が見たくて映画を観ているところがあるんですね。白石先輩の映画はそういう瞬間を見せてくれるので、それはいつも楽しいですね。
晃士監督:恐縮です(笑)。
–{「かの鳥」結末について白石晃士が切り込む! ※ネタバレあり}–
──以前、和彌監督は「かの鳥」の陣治にすごく共感しながら撮っていた、というお話を以前伺ったのですが、晃士監督はいかがでしたか?
晃士監督:共感しますね。陣治にも共感しますし、十和子にも共感しますし、水島や竹野内豊さん演じる黒崎も、共感ではないですけど理解はできますね。みんな、その辺にもいるし、自分の中にも、みなさんの中にもその要素はありますよねって。
──男性で十和子にも共感するというお話が、少し意外だったのですが。
和彌監督:男性でも、共感というか理解できるという話はありましたね。
晃士監督:だって別に、恋に狂っちゃえば…ありますよね。恋というものは繁殖のために必要な精神病だと思うので、恋してるときはみんな狂ってるんですよ。なので、私も恋でおかしくなることはありましたし、裏切られて殺したいと思う気持ちもわかるし。そういう人たちのことを全然かわいいなって思うので、陣治の気持ちもわかります。彼の場合は恋ではなく、愛情だと思いますけど。
和彌監督:陣治は父性を意識したんです。帰ってきて、食事を与えて、毎日お金をあげて、最後まで十和子が生きていくことを望む姿に、十和子と同じ目線ではなく完全に親目線をもつ人なんだろうなと、原作を読んだときから思っていたので。ラストの展開も最初は理解できなかったんですけど、親だと考えたらわかるなって、僕も人の親なので、それはすごく感じたんですね。その感覚がなかったら作れてなかったかな。
晃士監督:実は僕も原作が出た頃に読んでいて、ラストを理解できなかったんですよ。ついこの間子供が生まれたんですけど、正直、映画を観ても、まだそこは理解できなかった。だから、どういう理解で陣治が死を選んだのか、もっと聞いてみたいなって思ったんですけど。
和彌監督:やっぱりまほかるさんって元々僧侶なので、輪廻転生的な哲学が原作にあるんですね。死ぬに当たって「俺の子供を埋め」というのは、最大の呪いみたいな言い方をする人もいるんだけど。でも、あの瞬間、確かに陣治が十和子の中に宿って、陣治の愛に気づいて産んだとしたら、十和子がちゃんとまともな人生を歩めるようになるんじゃないのかなって、なんとなく思ったんですよね。そうだったら、原作のように描いてもいいかなと思えたのが大きいですかね。
晃士監督:陣治が一緒に生きていくほうが、十和子にとっていいんじゃないのかな、ってちょっと思うんですけど…。
和彌監督:それは本当に思います。
晃士監督:映画も、その展開の直前まで大好きで、でも原作を読んだときと同じく、そこだけ納得ができなかったなって。今までずっと彼女のための行動だったのが、人生の結末として、最後だけ自分のためのナルシスティックな行動をしたように映るというか。
和彌監督:それは本当に僕も同じ感覚だったけれど、彼女のための行動として僕の中で置き換えることができたのは大きかった。ラストでバシャンって落ちた後、カメラもぶくぶくと沈んで…実はそれが子宮の中、という画を取ろうかな、とかいろんなことを考えたりもしたんだけど、でも、ストレートにいった方が物語としては強いんだろうなと、思い至ったラストですね。
監督デビュー前からお互いを知っていたという和彌監督と晃士監督。用がなければ、なかなか会うこともないということでしたが、ウィットに富んだ会話を交えながらお話される様子から、仲のよさとお互いの作品へのリスペクトが伝わってきました。
白石和彌監督の『彼女がその名を知らない鳥たち』は4月25日(水)にBlu-ray&DVDが発売、白石晃士監督の『不能犯』は現在公開中です。
『彼女がその名を知らない鳥たち』
2018年4月25日(水)ブルーレイ&DVDリリース
ブルーレイ特別版2枚組 6700円+税、DVD特別版2枚組 5800円+税
発売元:クロックワークス 販売元:松竹
『不能犯』
2月1日(木)全国公開
配給:ショウゲート
公式HP:funohan.jp
公式Twitter:@FunohanMovie
(取材・文:大谷和美)
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