“差しブス”じゃなくて、まさかの“ゴリブス”(笑)『犬猿』ニッチェ・江上敬子インタビュー

INTERVIEW

2018年2月10日(土)公開の映画『犬猿』は、『ヒメアノ~ル』『麦子さんと』などを手がけた田恵輔監督の4年ぶりオリジナル作品。

(C)2018『犬猿』製作委員会

本作は羨望、嫉妬、愛憎など複雑な思いを抱えながらも、血のつながりを意識せずにいられない兄弟姉妹の関係を描いたヒューマンドラマに仕上がっている。

真面目だけれど姑息な面を持つ和成(窪田正孝)とその兄で刑務所上がりの卓司(新井浩文)、そして家業の印刷会社を継いだ幾野家の長女・由利亜(江上敬子)と芸能活動をしている妹の真子(筧美和子)。仕事はできるものの外見にコンプレックスを抱える由利亜が、仕事相手の和成に恋心を抱いたことをきっかけに、4人の関係が動いていく。

シネマズby松竹では、姉の由利亜を演じた江上敬子(ニッチェ)さんにインタビュー。意外にも本作が女優デビューという江上さんに、お芝居に関する話題や、女同士の嫉妬やバトルなどご自身についてのお話を伺いました。

──江上さんはもともと女優志望でいらっしゃったそうですね。

江上敬子(以下、江上):そうですね。でも、それも専門学校に通っていた間くらいで、今日までずっとお芝居はやってこなかったです。

──普段、コントをやっていらっしゃることが、お芝居につながっているのかなと思ったのですが。

江上:お芝居というものに関しては、ギャップにずっと悩んできたんですよ。専門学校のときに習ったのは、オーバーなことはせずに、むしろ「何もするな、それが俳優だ」みたいなこと。当時はちんぷんかんぷんで、こんなことしか教えてくれないの?って思ったけど、それが心理なんでしょうね。

(C)2018『犬猿』製作委員会

でも、芸人になったら、コントでは動きや表情のひとつひとつを大きく演じろ、そのほうがウケるっていう、わかりやすい演技が求められる。そこでまず、それまで教わってきたこととのギャップに苦しみましたね。そうして十数年間コントをやりつづけて、芸人としてのお芝居が定着したところに、今回このお仕事のお話をいただけたんですが、この芝居がまたちょっと違う。

顔を作ったり、大きく動くということをコントで培っちゃったので、現場で監督によく「引き算で。江上さん、何もしなくていいよ」って言われてました。

──引き算が一番苦労されたんですね。

江上:どうしても、顔が動いちゃうんですよ。由利亜はほとんどのシーンで怒っているんですが、コントだと目を見開いて「あぁん?」って感じになるところを、自然に「はぁ?」って怒るようにしなきゃいけない。でも、怒るという感情が入ると、どうしても顔がついてきちゃうので、そうしないように、って気をつけて演じましたね。

──怒るシーンが大げさになると、コメディっぽくなっちゃいますもんね。

江上:そう。だから私、それが心配だったんです。みんな、笑っちゃうんじゃないかなって。

──全然そんなことなかったです! 初めての女優のお仕事ということですが、お話が来た時はどういう感じだったんですか?

江上:こんなに出番がある役だとは思っていなかったです。今までも仮でそういうお話がきていたことはあって、台本を読ませていただいたことも何度かあったんです。まぁ本当に、ちょっと出てくるブスな女、“差しブス”だったんですよ。わかります? “差しブス”(笑)。

そんな感じだったので、今回も「お、“差しブス”役か?」くらいに思ってたんですけど、まさかの“ゴリブス”でしたね(笑)。「ゴリゴリに出番があるブスじゃないか!」って、驚きました。でも、緊張しますよね。セリフに専門用語も多かったので。

──印刷会社の社長役ということで、普段なかなか聞かない言葉もありましたね。

江上:でも、なんの縁なのか、私の主人が印刷会社の社長なんですよ(笑)。だから、印刷に関するちょっとした知識があったんです。そういう言葉を耳にするような環境じゃなかったら、インクとか紙の種類とか、そういうのがよくわからなかったと思います。

──それはすごいですね。本当に偶然だったんですか?

江上:思わず、「私の主人が印刷会社の社長と知っての配役ですか?」って監督に聞いたら「知らない、知らない! 俺もそこで選ばないし(笑)」って(笑)。それで縁を感じましたね。

──意外な縁もあった由利亜ですが、どういうキャラクターと捉えて演じられたんですか?

江上:怒りのバランスとか技術面というのは監督にお任せしたんですけど、役については、ほぼほぼ自分で作ったと言っても過言ではないと思います。というのも、由利亜が自分とかぶる部分がとても多くて。最初に読んだときに感情移入して、めちゃめちゃ泣いちゃったんですよ。

由利亜がものすごく感じているのと同じようなコンプレックスを私自身も持っていたので、恋愛にうまく踏み込めない気持ちとか、周りにどういう接し方をしてこられたんだろうなとか、想像するだけで泣けました。本当に、自分を重ね合わせて演じましたね。

–{江上さんのタイプは和成?卓司?}–

──そんな由利亜の恋愛感情がストーリーの要になってきますが、江上さんとしては、和成くんと卓司さん、どちらがタイプですか?

(C)2018『犬猿』製作委員会

江上:ま、和成ですね。卓司さん、怖すぎるっしょ。どう考えても。

──刑務所で更生して戻ってきていても…

江上:いや、怖すぎるでしょ! それ一点です(笑)。

──劇中はなかなか張り詰めた部分もあったかと思いますが、現場ではどういう感じで過ごされていたんですか?

江上:監督が、みんなの緊張をほぐすようにずっとお話してくださってましたね。あと窪田くんがムードメーカーなんですよ、すごく。「俺、車好きなんですよね。車に乗ってるとき、生きてんな〜って気がするんですよ」って、自分のことなんかも気さくに話してくれて。

斎藤工はマブダチなんで別ですけど(笑)、他の役者さんとご一緒する機会があまりなかったので、どこまで踏み込んでいいんだろうって、距離の詰め方を迷ってたんです。でも、皆さんどんとこい、って感じだったので、「あ、行っちゃっていいんだ」って。すごく胸を借りた感じでしたね。

新井さんはもう、想像してたまんまでした。兄貴っぽくて、表裏のない方。筧ちゃんは一緒のシーンがいちばん多いので、撮影2回目くらいのときに、飲みに行こうって誘ったんですよ。そしたら、あの子も、天然で純粋なちょっとおバカな子なんですよ。それで大好きになっちゃって、すっごく仲良くなりました。今もちょいちょい飲んでます。ご飯に誘ってくれるし、私も誘うし。

(C)2018『犬猿』製作委員会

──そんな筧さんが演じる真子に由利亜は嫉妬しますが、江上さん自身は最近嫉妬したと思うことはありますか?

江上:最近かぁ…。嫉妬しなくなりましたね。自分の中の一番のコンプレックスが、男の人から好いてもらえないという自信の無さだったんですけど、結婚したことでそういう恋愛に関する嫉妬みたいなのが落ち着いちゃって。なんか、女子アナにもムカつかなくなっちゃったんですよね(笑)。

──昔はムカついてたんですか?

江上:今まで、すごいムカついてたんですよ(笑)! 女子アナがかわい子ぶって面白くないモノマネとかやったりしてても「まぁ、こういう子なんだろうな〜。うん、かわいいかわいい」って(笑)。芸人として突っ込まなきゃいけない場所なのに、受け入れちゃう自分がやばいなって思ってた時期もあったんですけどね。

あとは、すごく面白いネタをやっている人には嫉妬することもあります。「うわ〜! その発想、我々が先に思いつきたかった!」みたいな。あと、ひな壇ですごく上手にトークされてる方がいて、自分がうまくいけなかったときとか。嫉妬というか、自己嫌悪ですね。もっと勉強しなきゃなって。

──では、女同士のバトルはありますか? ご姉妹とか。

江上:小学生のころ、姉が雑誌の「りぼん」を買ってて、私は「なかよし」を買ってたんです。お互いのおこずかいで買った本だから、相手の漫画を読まないっていう約束のもとで。でも、私はこっそり姉の「りぼん」を読んでたんです。で、それをわかってた姉は怒りがつのっていたんだと思うんですけど、ある日、私が「りぼん」を読んでいるところに姉が来て、「私のお金で買ったりぼん読まないでよ!!」ってケンカになったことがあります。でも、そのくらいですね。

(C)2018『犬猿』製作委員会

姉はすごく真面目で、私はちょっとちゃらんぽらんなほうだったので、姉もそういう部分が許せなかったんだろうし、私は私で「ケチ!」って思ってたし。姉はやっぱり「あなたは真面目でいい子」って言われて、「ちゃんとしなきゃ」って思って生きてきたタイプだと思うんですよね。

──お姉さんが、まさに由利亜と重なっていたんですね。

江上:そう、逆なんですよね。でも、コンプレックス、嫉妬っていう部分では由利亜の気持ちがすごくわかるし、自分にもし妹がいて、あんな感じだったら、最悪だろうなって思います。ちゃらんぽらんなのに、人付き合いがうまくて、顔もスタイルもよくて、男なんてひくてあまたで…って考えたら、ぞっとします!

──自分の好きな人も奪われちゃうし…。

江上:もう、私、ぞっとする!! 由利亜はむしろ大人だなって思うくらい、私だったら、もっと切れてると思いますね。やっぱり、由利亜はお姉ちゃんで「しっかりしなきゃ」って思って生きて来た分、我慢しちゃうんでしょうね。私だったら絶対我慢できない。ぶん殴ってるかもしれない(笑)!

──女同士といえば、相方の近藤くみこさんとバトルをすることは…?

江上:10年くらい前、解散かも、っていうくらいのケンカをしましたね。全然面白いネタができなくて、近藤さんの部屋にずっとこもってネタを書いてたんです。そんなときに私がオナラをしちゃって。

それを聞いた近藤さんが「は〜ぁ」って、思わせぶりなため息をつくもんだから、「なんだよ!オナラくらいいいだろうが!!」って私が切れちゃって。そしたら近藤さんが「私だったら、オナラしていいって聞くけどね!」って反撃してきたので、「それはお前のものさしだろうが〜!!」ってヒートアップして。

もちろん今は仲よしですよ。オナラの件とか、いろいろ乗り越えての今なので、もうそんなケンカはしないです(笑)。

──では最後に、今後、演じてみたい役ってありますか?

江上:いや〜、考えたこともないですね。いただける役があれば、それを全力でやりたいな、という気持ちです。女優をやりたかったころの気持ちとは違うので、選んでもらったことに対しての喜びと、いただいた仕事をちゃんとした形にしたいという思いで、バランスよくいろんなことをやっていきたいですね。

映画『犬猿』は2018年2月10日(土)、全国ロードショーです。

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(撮影:HITOMI KAMATA、文:大谷和美)

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