(C)2017映画「亜人」製作委員会 (C)桜井画門/講談社
現在公開中の『亜人』は、累計570万部超を誇る人気マンガの実写映画化作品にして、佐藤健という実力と人気を兼ね備えた俳優が主演を務めた話題作。観てみると、アクションに次ぐアクションのすさまじさ、エンターテインメント性の高さに圧倒される快作でした! 大きなネタバレのない範囲で、以下にその魅力を紹介します!
1:上映時間は109分!原作からの大胆な“省略”でエンタメに徹した映画になった!
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いきなりですが、原作マンガには(とても優れた作品であるという前提で)どうしても気になってしまうポイントがあります。それは「亜人という存在が、なぜそれほど迫害と差別をされないといけないのかが(少なくとも序盤は)わからない」ということです。
原作マンガにおいて、主人公は事故死してから生き返ったことで、不死身の亜人と認定され、懸賞金をかけられて、全国民から追われる身になります。ところが、この時点では、亜人が危険な存在であるという“前例”はほとんど示されておらず、その見た目も人間と変わらず、ましてやつい先日までは普通の人間として生活を送っていたので、ここまでの迫害と差別はさすがにあり得ないのではないか、という疑問がノイズになってしまっていました。
しかし、今回の映画ではその“国民の迫害と差別から逃げ続ける”一連のシーン(原作マンガの1巻にあたる)がほぼまるごとカット!それどころか、亜人という存在が“生体実験”で一方的に痛めつけられるという、これ以上ない迫害と差別、人権無視という意味でも最悪中の最悪の、凄惨なシーンから物語が始まるのです。
この原作マンガからの大胆なカットにより、“亜人への差別と迫害”は納得しづらいものではなく、一部の人間による理不尽で非人道的な行いとして認識できるようになります。同時に、それは“国家をひっくり返そうとする亜人のテロリストの狂気の理由”の説得力をも増すことになり、説明を極力減らし、上映時間を109分とタイトにまとめあげることにも成功している!
こうしたマンガの実写映画化作品は、2時間弱の映画に収めるためのエピソードの取捨選択が求められる一方、つくり手が原作への愛情に溢れすぎているがあまり、語り口が冗長になることもよくあります。しかし、今回の『亜人』ほどの大胆な省略はなかなか類を見ないのではないでしょうか。本作が観客を一時も退屈させない、エンターテインメントに徹した映画として成功しているのは、まず“原作からの大幅なカット”が理由にあるのです。
2:アクションがぶっ続き!日本が誇るアクション監督・大内貴仁がネクストステージに到達!
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本作で皆が口をそろえて言うであろうことは、アクションのすさまじさ!四方八方から銃声が飛び交い、かつ肉体を最大限に駆使した体術もアリアリ、それがさまざまなバリエーションで展開するので、もう大興奮できるのです。
それもそのはず、アクション監督は『るろうに剣心』や『HiGH&LOW THE MOVIE』などで日本の頂点と言っても過言ではない迫力の画を作り上げた大内貴仁。今回も“大人数 VS 1人”の大立ち回りがあり、かつ『ジョン・ウィック』や『リベリオン』を彷彿とさせる“近接での格闘を交えた銃撃戦”が満載なのですから、たまりません。そのクオリティが、ハリウッドのアクション大作にまったく引けを取らないのがすごすぎる!
しかも、ただ迫力があるというだけでなく、他のアクション映画にはない“亜人のルール”に則った駆け引きもあります。具体的には、亜人は死に至ることで初めて再生能力が発揮されるので、場合によっては自らを銃で撃ち“死んで生き返る”ことで戦いを有利に進められます。敵はこのことを最大限に利用してくるので、迎え撃つ側は“頭脳戦”によりこの窮地を切り抜ければならない、という緊迫感も生まれているのです。
忘れてはいけないのが、亜人たちが繰り出す“黒い影”のCGによる格闘シーン!その造形は原作のイメージそのまま、かつ生身の人間を上回る“瞬き禁止”のハイスピードバトルが勃発するのです。黒いモヤがやがて人間の形をつくっていく過程のゾクゾク感、自然なライティング、背景との違和感のなさも半端なものではありませんでした。
それらのアクションのテンションをさらにブチ上げてくれるのが、菅野祐悟による音楽!
「3、2、1」のカウントダウンから、ノリノリのBGMとともに戦闘が始まるという、良い意味でテレビゲームのような演出にもワクワクしました。
しかも、美術や衣装デザインも日本の最高峰のスタッフが揃っており、1つ1つのシーンがポストカードにしてしまいたいほどの美しさもある……もうビジュアルは100点満点で100点、文句のつけようがありません。
さらには、前述した通り原作マンガから大胆に物語を刈り込んでいるため、映画の半分以上が、この迫力のアクション × 最新のCG技術 × 美しいビジュアル × アゲアゲな音楽という、アドレナリンが全開のシーンで埋め尽くされているのです。この“日本最高峰のアクションがぶっ続き”こそが、実写映画版『亜人』の最大の特徴であり、原作ファンのみならず、すべての映画ファンも必見の理由だと断言します!
※アクション監督・大内貴仁氏は『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』での仕事も最高でした!以下もぜひお読みください・『ハイロー2』は映画を越えた別次元の何かに到達した!ヤバいテンションでその凄さを全力で語る!
3:佐藤健は“合理的で冷たい”キャラに?自身でほとんどのアクションをこなしていた!
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本作は押しも押されもせぬ人気俳優・佐藤健の主演作。正義感溢れる役柄も多くこなしていた彼ですが、今回は単なる正義の味方というわけでもない、“冷たい”と言われてしまうほどに合理的な判断をするキャラクターを演じています。綾野剛との会話や、微妙な表情の変化からも、“理屈に合わないことを望まない”ちょっとイヤな性格が存分に表れており、佐藤健の俳優としての実力をまたも見せつけられました。
その佐藤健が、ほとんどのシーンでスタントなしのアクションをこなしていたことも特筆に値します。しかもその理由は「(自分がスタントマンと)同じ男なんだから、誰かができるスタントだったら、俺にだってできるというスタンスで考えちゃうんです」とのこと……さすがは、何でもできる完璧超人ですね(嫉妬)、きっと撮影現場では、スタントマンの方々が悔しい思いをしていたに違いありません。
なお、主人公は原作マンガでは高校生でしたが、映画では研修医という設定に変えられています。こうなったのは、佐藤健がさすがに高校生役では厳しくなった、という事情もあるのでしょうが、結果的に良い改変になっていると思いました。
なぜなら、病気の妹のために猛勉強し、ようやく社会で人のために働ける段階に立てた研修医という職業こそが、“努力し続けていたのに、その人生がいきなり奪われてしまった”という主人公の悲哀につながっているからです。しかも、彼の極端な合理主義な性格が、とてつもない理不尽に立ち向かう成長の物語としても、しっかり昇華されている……原作マンガから大胆な省略があったとしても、それをおろそかにしない脚本の妙にも唸らされました。
ちなみに佐藤健は、敵となる綾野剛との“追いかけっこ”において、「『ターミネーター』のようにひたすら追われ、ひたすら逃げるという圧迫感を出したい」というアイデアを出しており、実際にそれがアクションシーンに大きく反映されたのだとか。そういえば、『ブレードランナー』っぽいシーンや、『ターミネーター2』らしいアイデアも持ち込まれていたかも……そうした映画ネタを探してみるのも、面白いですよ。
次ページでは綾野剛が全力で笑わせにくるシーンを解説
–{綾野剛が“笑える”理由はこれだ!}–
4:衝撃、いや“笑撃”に備えろ!綾野剛が爆笑レベルのギャグをぶっ込んでくるぞ!
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本作でテロリストの首謀者であり、最大の敵を演じていたのは綾野剛。これまでもマンガの実写映画化作品でとてつもない存在感を見せつけていた彼ですが、史上最も“笑える”のは今回の役なのではないでしょうか。
綾野剛が主人公を何度も「永井くーん!」と嬉しそうに呼んでいるだけで顔がニヤけてきますし、不死身なのをいいことに大胆不敵に銃をぶっ放しまくり、まるで子どもがゲームを遊ぶかのように“無双”していく様も、良い意味で現実離れしすぎて笑ってしまうのです。
そして、(ネタバレになるので詳しくは言えないのですが)あの“歌”と“乗り物”、そして“登場”の時のあの“言葉”とあの“出で立ち”の合わせ技を見て、笑わないでいられる人がいるのでしょうか? いや、いない!原作からあったセリフもファンキーな感じにアレンジされているので、より腹筋が締め付けられました。
ちなみに、綾野剛の役・“佐藤”は原作漫画では初老に近い年齢のキャラだったので、30代中盤の綾野剛は役に合わないのでは? と、失礼ながら不安もありました。しかし、実際に映画を観てみるとそれはまったくの杞憂。原作の“冷徹な”不気味さは抑え目ですが、“狂気的な笑顔”と“ゲームのように楽しんでいる”恐ろしさはより際立っており、ひと目見るだけで忘れられないほどの悪役としての魅力を見せつけてくれたのですから。
なお、佐藤健同様、綾野剛もアクションへのこだわりが半端なものではなく、『亜人』よりも前の作品から、4ヶ月に渡り肉体改造をして挑んでいたそうです。その体術や銃撃シーン、そして肉体美は大スクリーンに映えまくり。綾野剛ファンにとっても、絶対に映画館で観なければならない1本でしょう。
ちなみに、佐藤健と綾野剛は『るろうに剣心』でも迫力かつハイスピードのバトルを繰り広げています。本作と合わせて観てみるのもよいでしょう。
その他のキャストでは、城田優と川栄李奈の“身長差38センチ”を逆手に取った立ち回りにも注目してほしいところ。このアクションは7回ほども取り直したそうで……苦労の甲斐がある、超アクロバティックなシーンに仕上がっていました。
5:IMAXもおすすめ!迫力の音響を十二分に楽しもう!
(C)2017映画「亜人」製作委員会 (C)桜井画門/講談社
これまで語った通り、本作は迫力のアクションで埋め尽くされている、サービス満点の娯楽作です。これが、目の前にいっぱいに広がるスクリーンで、かつこだわりの音響で観られる上映方式・IMAXとの相性が抜群に良い! 特に“あらゆる方向から聞こえてくる銃撃音”は、IMAXでより“戦闘の渦中にいる”感覚を増幅させてくれるでしょう。
IMAX用の予告編が作られており、佐藤健と綾野剛が(おそらく)お世辞抜きでの賞賛と推薦のコメントをしているのも、その自信の表れでしょう。お近くで上映されているのであれば、ぜひIMAX版をおすすめします。
おまけ:原作マンガで説明されていた“断頭で死ぬ”の意味とは?
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最後に、映画では説明されていなかった、原作マンガの“断頭で死ぬ”という言葉の意味を紹介しておきます。
映画を観みるとわかる通り、亜人の再生能力は不死身と呼べるものです。腕を切ろうが、首を落とそうが、蘇ることができます。しかし、その“首を落とした”時は、亜人は切り取られた頭から再生するのではなく、“身体のどこかを基本”として、頭も含めて肉体が蘇るのです。
つまり、それは“脳”が新しく作られたということ。他者から見ればその亜人は生き続けていますが、彼自身の精神(脳)は切り取られたほうの頭の中のままであり、新しい肉体に移ってはいません。つまり、“断頭で死ぬ”は、亜人その人にとって“自身が消えてなくなる”ということ、死と同義なのです。
この知っておくと、終盤の主人公や、敵の“佐藤”の行動に思うことがあるかも……詳しくはネタバレになるので書けませんが、想像以上に哲学的で、ハードな物語であると気付けるかもしれませんよ。
(文:ヒナタカ)