(C)2017「東京喰種」製作委員会
世界37カ国で刊行され、単行本の累計発行部数2300万部、全世界では累計発行部数3000万部を超える、石田スイ原作の超人気コミック『東京喰種 トーキョーグール』。その初の実写映画化となる映画『東京喰種 トーキョーグール』の公開が、いよいよ7月29日(土)に迫ってきました。
今回は、そんな本作をキックオフイベントから度々取材してきた私が、一足先に試写を観た率直な感想を取材した内容などを交えながらお伝えしたいと思います。
ストーリー
物語の舞台は、人の姿をしながら人を喰らう怪人“喰種(グール)”が潜む東京。そこに暮らす読書好きの平凡な大学生である金木研(カネキ)は、ある事件に遭い瀕死の重症を負ってしまうが、同じく瀕死の状態で病院に運び込まれた喰種の臓器を移植されることで一命を取り留めるも、半喰種となってしまう。
人間とも喰種ともつかない立場となったカネキは悩み苦しみながらも、喰種の拠り所となっている喫茶店『あんていく』のマスターや従業員たちに助けられながら、喰種の立場や感情を知り、そして共感していく。
やがて、カネキは喰種を駆逐しようとする人間側の組織『CCG(Commision of Counter Ghoul』と喰種との熾烈な戦いに巻き込まれながら、お互いにとって、あるべき世界を模索していく。
⇒予告編
キャストが演じるキャラクターが原作のイメージを上書きしていく
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私もそうですが、漫画であっても小説であっても、原作のファンというものは、自分の中で現実世界に落とし込みながらイメージを膨らまし、同時にキャラクターへの思い入れも強くなっていくものだと思います。
だからこそ、それが映像化された時に、自分の作り上げたイメージとのギャップが大きければ当然のように評価が下がります。
しかし、この映画『東京喰種 トーキョーグール』に関しては、原作者の石田スイ先生が「実写化するならカネキはこの人だと思っていた」と公言されている窪田正孝さんをはじめ、ほぼ全ての出演者が原作を読んで描いた自分のイメージを更にアップグレードしてくれます。
金木研(窪田正孝)
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主人公·カネキを演じる窪田正孝さんは、既に数々のドラマ·映画などに出演され、コミカルな役からシリアスな役まで幅広くこなし、刑事ドラマなどでは本格的なアクションも拝見していたので、窪田さんならカネキにもなれるんだろうなと思っていました。
この『カネキになれる』というのが凄く重要なのです。
単にビジュアルが似ているだけではダメなんです。 コスプレ写真などの静止画ならビジュアル重視で良いでしょうが、映画となると、動き、表情、話し方など全てを総動員してそのキャラクターを表現しなくてはならないのです。
ましてや、本作に至っては超人的な身体能力を持つ怪人にもなりますし、ド派手なアクションシーンもこなさなくてはならず、更にハードルは高かった訳ですが、その点においても窪田さんに不安要素はありませんでした。
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そして、実際に本編を観ると、想像以上の完成度に驚かされます。 窪田さんほどの人気者なら、恐怖のシーンだろうが、半狂乱でもがき苦しむシーンだろうが、もう少し格好つけても許されたんじゃないかなと思うぐらいに全力でカネキになりきっています。
半喰種になって人間の食事を受け付けなくなったばかりのカネキが、冷蔵庫の中のものを片っ端から食べては戻してしまうというシーンでも一切手抜きなし、寧ろ原作よりも惨めでエゲツなく見えるぐらい全力で演ってくれています。
原作にビジュアルを寄せるとか、そんな次元の話ではありません。
リゼに恋するウブな姿も、襲われ恐怖する姿も、喰種独特の空腹と自分の理性の狭間で半狂乱になる姿も、徐々に決意を固め(精神的にも肉体的にも)強くなっていく姿も、闘う姿も、どれも、カネキ以上のカネキがそこにいるのです。
霧嶋董香(清水富美加)
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それとは反対に試写を観るまで、正直ちょっと違うかなと思った方々もいました。
ヒロイン·霧島董香(トーカ)役の清水富美加さんは、私の中では仮面ライダー·フォーゼでの明るく元気いっぱいで天然キャラのイメージが未だ根強く残っていましたし、線は細いが俊敏で戦闘能力が高いというトーカのキャラとも少し印象が違うかなと思っていました。
そんな思いを抱きつつ試写に臨んだ私が、本編を全て観終わったときには「清水さんをトーカ役にキャスティングした人は天才だ!」と心の中で一人スタンディングオベーションをしていましたね。
トーカを演じ切る為に髪をバッサリと切り、身体もしっかり絞り込んで、アクションシーンも迫力満点でしたし、何よりトーカが抱える痛み、悲しみ、憎しみ、といった感情を実にストレートに観ている側に叩き付けてくる迫真の演技に圧倒され、そして、ぶっきらぼうだけど本当は優しく、弱い部分もあるトーカの魅力をそのままに、観ている者を引き込んでいきます。
私個人としては、主演の窪田さんは勿論のこと、清水さんの演じるトーカが無かったら本作の魅力は半減していたかもしれないと感じています。そのぐらいに要注目です。
真戸呉緒(大泉洋)
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そして、もうお一方、ちょっと不安だったのが、対喰種捜査機関·CCGの捜査官·真戸呉緒(まどくれお)役の大泉洋さんでした。
大泉さんに関しては、普段テレビのバラエティーやドラマで見せるコミカルなイメージが邪魔をして感情移入できなくなくなってしまうのではないかと心配していました。
勿論、シリアスな演技もできる役者さんであることは充分承知していますし、個人的にも大好きな役者さんです。 それでも、真戸呉緒という個性の強い役柄だけにシリアスなシーンでもどこかで普段の大泉洋を探してしまう自分がいるんじゃないかと、寧ろその部分を心配していました。
ここまで過去形で書けば、もうお分かりですね。はい、全く無用の心配でした。
大泉さんを侮っていました。ごめんなさい。
先日のジャパンプレミアの舞台挨拶で、大泉さんは「普段の自分とビジュアルがだいぶ違うので、出てきた時にプッと吹かないように」なんて冗談めかしてコメントされていましたが、吹くなんてとんでもない。スクリーンに映った瞬間から、狂気を秘め、執拗で、冷徹で、喰種にとって恐ろしい存在である真戸呉緒がそこにいました。
本作の劇中、大泉さんは、片目だけを大きく見開く真戸の特徴的なビジュアルを真似る事は一切していません。 多分、そんな小手先のモノマネで原作のキャラクターを再現しても意味のない事を分かってらっしゃるんでしょうね。
そして、獲物を狙う蛇のような眼差し、声の抑揚、仕草、あらゆるものが、原作を読んで自分が作ったイメージ、或いはアニメシリーズを見て補完された動く真戸のイメージをことごとく上書きしていきます。
実在の真戸呉緒はこんな感じで、それをモデルに原作者·石田スイ先生が『東京喰種』の真戸呉緒というキャラクターを描いたんじゃなかと、順番が逆転しちゃう程に真戸呉緒です。
そこには、もう、いつも私たちを笑わせてくれる大泉洋はいませんでした。
神代利世(蒼井優)
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また、神代利世(リゼ)役の蒼井優さんも流石だなと思わせてくれました。
試写前には「リゼにしては優し過ぎるかな。正体を見せる前まではイイけど、喰種化した姿はちょっと弱いかな」なんて勝手に想像していましたが、見事なまでにリゼの妖艶さと恐ろしさを見せてくれます。 蒼井さんがそこまでしちゃって大丈夫なんですか?と思うぐらいに、見事に喰種なリゼでした。
個人的にはリゼファンなのでもっと登場シーンを増やして欲しいぐらいです。
西尾錦(白石隼也)
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もう一人、再現度という意味で注目なのは(カネキの大学の先輩で喰種でもある)西尾錦役の白石隼也さんです。白石さんの西尾錦は、文句無く、原作のまんまの西尾錦でしたね。
あの路地裏での登場シーンの「どーん」も、そのまんま再現してくれていますし、カネキと親友のヒデを襲うシーンは若干シチュエーションが変わっていますが、西尾先輩の傍若無人ぶりは原作どおりです。
本作はコミックスの1~3巻を中心に描かれていますので、西尾錦が活躍するのはこの先の話ということになりますが、続編が決定して西尾錦のエピソードが描かれるのであれば、もう、白石さん以外にはないだろうと思っています。
そのぐらい西尾錦として完成されています。
芳村功善(村井國男)
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また、個人的には喰種たちが身を寄せる喫茶店『あんていく』のマスター·芳村役の村井國夫さんの存在感も見逃せません。
原作を読んで、芳村の正体を知っているせいもあると思いますが、村井さんの動き一つ一つ、発する言葉の一つ一つに重みがあって非常にカッコイイです。
有名なセリフ「君は、人間と喰種、ふたつの世界に居場所を持てる唯一人の存在なんだよ」が出た瞬間鳥肌が立ちました。 もう、原作の芳村のイメージは完全に村井國夫さんで上書きされてしまったので、今後原作を読み返す時は間違いなく村井さんの声で脳内再生されますね。
他のキャストも凄い!
その他にも、人を襲わない喰種·笛口リョーコを演じた相田翔子さん、その娘·笛口雛実を演じた桜田ひよりさんも、喰種の悲しみを象徴する事件の重要な登場人物として熱演されていて、思わず目頭が熱くなります。
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真戸呉緒の部下·亜門鋼太郎を演じた鈴木伸之さんは(人間にとっての)正義感に溢れ実直な亜門を好演されています。また、映画後半では窪田さん演じるカネキと死闘を演じ、窪田さんに負けず劣らずの迫力のアクションシーンを見せてくれます。
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全てのキャストが、原作のキャラクターに似ているとか、似せているという話ではなく、現実世界に存在したならこうに違いないと納得してしまう程キャラクターそのものに見えてくるのです。
自分が持っている原作キャラクターのイメージを、より現実的に、よりスケールアップして上書きしてくれるのです。
これには、原作ファンの皆さんも、きっと満足して頂けるはずです。
次のページでは映像表現、サウンド表現、そして最後に伝えたいことを書きます。
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–{赫子の映像表現やサウンド表現について}–
強く、美しく、しなやかで、悲しい赫子の映像表現
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戦闘時には武器となる喰種の捕食器官である赫子(カグネ)や、その赫子を喰種の遺体から剥ぎ取り作られる対喰種機関·CCGの武器であるクインケは、喰種の恐ろしさや悲しみ、人間の残酷さを表現する本作のもう一つの主役とも言えます。
その赫子やクインケは、時に鋼のように強靭で、鋭く切り裂き、貫き、砕き。時に鞭のようにしなやかに敵に襲い掛かります。
一見矛盾するこの特性に、生き物の身体の一部であるという生々しさも加わる訳で、それを実写で表現するのは容易ではなかったと思いますが、本作では見事に映像化されています。
しかも、カネキ(窪田さん)やトーカ(清水さん)、真戸(大泉さん)たちが本当に操っているかのように役者さんたちと一体化しています。
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そして、物語の前半では、おどろおどろしかった赫子が、物語のクライマックスでは美しく、また悲しげにも見えてきます。
これらの表現について、以前私が取材したトークイベントで、萩原監督とVFXスーパーバイザー·桑原さんは
「ただのバケモノで怖いという一面しかない喰種が、カネキを通して彼らの悲しみなどを知っていくことになるので、赫子(カグネ)に関しても『(気持ち悪さ)7:(美しさ)3』ぐらいの割合にしたかった。そうすることによって喰種の違う側面が見えてきた時に美しく見える。」
「その中にも痛々しさのようなものを表現するために『(気持ち悪さ)6:(美しさ)2:(痛々しさ)2』で作り上げた」
とお話しされていました。
そうした喰種の持つ苦悩や悲しみ、(心の)痛みといったものまでが練り込まれて完成されている赫子やクインケだからこそ、役者さんとの一体感も生まれ、見る側に与える印象もストーリーに合わせて変化していくのです。
▲ 萩原健太郎監督(映画『東京喰種 トーキョーグール』×UUUMクリエイター試写より)
そして、CGにまでも感情を練り込み、アクションエンターテイメントというだけでなく、ヒューマンドラマとしても完成度の高い本作の映像表現には萩原監督のキャリアが大きく影響しているのではないかと思っています。
萩原監督はアメリカ·カリフォルニア州にある『アートセンター·カレッジ·オブ·デザイン(Art Center College of Design)』の卒業生です。
アートセンターの卒業生には、映画『アルマゲドン』『ザ·ロック』『トランスフォーマー』シリーズなどを監督したマイケル・ベイ(Michael Bay)、映画『300(スリーハンドレッド)』『スーサイド・スクワッド』などのザック・スナイダー(Zack Snyder)、映画『グランド・イリュージョン』『キングコング 髑髏島の巨神』などの撮影監督を務めたラリー・フォン(Larry Fong)など、独自の映像表現で新たなアクション映画の世界を切り開いた錚々たる面々が名を連ねています。
その同じアートセンターで映画製作を学び、帰国後は『THE DIRECTORS GUILD』という映像ディレクター集団に参加し、多くのTV-CMやMV、ショートフィルムなどの制作に携わってきました。
ハリウッドの第一線で活躍し続ける面々と同じ環境で世界レベルの映像表現を学び、感性に磨きを掛けられた事は容易に想像できます。 また、TV-CMやミュージックビデオといった短く限られた時間の中で最大限のメッセージを伝えなくてはならない映像作品に多く携わる事で、効果的な魅せ方や視聴者に与える印象、映像による感情表現などを肌で感じ、自分のものにしてこられたのではないでしょうか。
そうした萩原監督のキャリアが今回の映画『東京喰種 トーキョーグール』でも遺憾無く発揮され、今回が長編映画初監督とは思えない迫力の映像、そして、切ないヒューマンドラマを見事に作り上げています。
サウンド面にも注目
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映画を盛り上げる要素として、各シーンに合わせたBGMの役割は大きく、音楽1つで印象がかなり変わってしまいます。
今回、そんな音楽を担当したのは『マトリックス』シリーズのドン·デーヴィス(Don Davis)。 彼の日本映画初の書き下ろしとなる本作のサウンドトラックは、悲しいシーンでは引き込まれるほど切なく、アクションシーンでは壮大さと疾走感で映像の迫力を更に押し上げ、ハリウッド作品のようなスケール感と重厚感で作品全体をグッと引き締めてくれます。
また、効果音も重要で、入念な音作りによって“赫子(カグネ)”や“クインケ”などにリアルな質感と命を吹き込みます。このサウンドエフェクトには、『バットマンビギンズ』や『ゼログラビティ』を担当したニコラス·ベッカー(Nicolas Becker)を迎え、前述したCG·VFXの作業と合わせ約9ヶ月という月日を掛けて完成させているのです。
このように世界の第一線で活躍するスタッフが、じっくりと拘り抜いて作ったサウンドが映画の完成度をより高い位置に押し上げているのです。
そして、最後に流れる映画『東京喰種 トーキョーグール』の主題歌「BANKA」も要注目です。 「BANKA」は、「RADWIMPS」のボーカル·野田洋次郎さんが、ソロプロジェクト「illion」として本作のために書き下ろしたオリジナル曲ですから、当然のように映画のイメージにマッチしていますし、何より歌詞が良い!
ですから、映画が終わったからとスグに席を立たずに、是非、最後まで歌詞を噛み締めながら聴いてみてください。きっと映画の余韻にとっぷりと浸れるはずです。
最後に
かなり長々と書き連ねてしまいましたが、これでもまだ語り尽くせていません。
原作で重要な感情の流れ、カネキの成長といった部分を大切に丁寧に描く為に、実写化するパートがコミックスの1~3巻に決まったとか、キャスト·スタッフ皆さんがキチンと原作を読み込んでいて、我々同様に原作への愛が半端ないとか、映画を観ただけでは分からない部分に関してももっと書きたい(しゃべりたい)です。
本当に止まらなくなるので、最後にもう1つだけ。
(C)2017「東京喰種」製作委員会
この映画『東京喰種 トーキョーグール』の完成度の高さを象徴するものとして、観終わった後にその魅力を語りたくなるというのがあります。
まだ本作を観ていない人にオススメしたいというのもありますが、映画を観た者同士で「あそこが良かった」「ここにシビれた」などとお互いの感想を語り合いたくなります。
そして、必ずお互いの反応は「そうそうそう!」「だよね!」といった感じになるはずです。
それほどに、この映画『東京喰種 トーキョーグール』は原作に寄り添いながら、更に原作の世界観をグレードアップして見せてくれます。
これには原作ファンにも、きっと満足してもらえると思いますし、その魅力を誰かと共有したくなるはずです。
そして、この美しく迫力ある映像はテレビサイズでは収まりませんので、是非、大きなスクリーンと音響設備の整った劇場でご覧ください。
私は、迫力のアクションシーンを体感するために今度は4DXで観ようかと思っています。
是非、皆さんも、映画『東京喰種 トーキョーグール』を観て、この高まる感情を共有しましょう!
映画『東京喰種 トーキョーグール』は2017年7月29日(土)、いよいよ世界公開です!
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(文:いぢま)