(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.
9月9日に日本公開となる、クリストファー・ノーラン監督最新作『ダンケルク』。一足お先に鑑賞をさせて頂きましたので語り倒したいと思います。
本当に見事な作品でした!
※本作は史実を元としているため史実としてのネタバレをしております。また2ページ目では映画の構成に触れております。(一部ニュース配信サービスでは1ページ表示となりますので、構成に触れる前に注意書きを行います)
『ダンケルク』の作品概要
映画『ダンケルク』は第2次世界大戦のお話。
1940年、ナチス・ドイツ優勢の中フランスのダンケルクに追い詰められたイギリス軍とフランス軍。その両軍をイギリス本土へ救出するために時のイギリス首相チャーチルは「ダイナモ作戦」の実施を司令。後に「史上最大の救出作戦」と語られることになった大規模な救出作戦を「1:陸」「2:海」「3:空」の3つの視点から描く作品となっています。
3つの物語はそれぞれ“クリストファー・ノーラン監督らしい構成で”混ざり合い、感動のクライマックスへと突き進んでいきます。
『ダークナイト』シリーズ、『インセプション』、『インターステラー』と2時間半前後の長さの傑作を生み続けてきたノーラン監督が描く本作の上映時間は何とたった1時半47分(107分)で、エンドロールを除いた本編上映時間は99分!!直近のノーラン監督作品では特出して短い上映時間ですが、映画の体験はプライスレス。
一切の無駄なく、ダンケルクの戦闘のど真ん中へ観客を誘います。
一切の無駄なく突き進む99分、戦争のど真ん中な本編!
本編はたった99分。
映画が始まって1カット目からいきなりダンケルクの戦闘地域。いきなりの銃撃戦で幕を開け頭で考えている暇なく戦闘地域のど真ん中へ観客は突っ込まれます。
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その1カット目からクライマックスの数分以外、物語はひたすら”イギリスの地へと帰るサバイバル劇”のみを描きます。途中で家族を思い出したり、回想シーンで何かを描いたりなどなし。
実際のダイナモ作戦がそうであったように、休んでいる余裕など全くないサバイバル作戦が緊張感たっぷりに進んでいきます。
物語は冒頭説明したように「1:陸」「2:海」「3:空」の3つの物語が同時に進みますが、一息入れる間もなく目まぐるしく3つの物語が同時に進行していきます。途中で感動したり、笑ったりするところは一切なし。とにかくクライマックスまで台詞は最小限に突っ走ります。
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サバイバル作戦を見ながら私たちが抱く感情がたった1つ、それは“絶望”です。
陸にいる兵士たちはなかなか救出されず、船に乗れたと思ったらドイツ軍の魚雷で船が沈没なんてことも。
海からの救助に駆り出された一般船舶に乗る一般人たちもすんなり救助をできず。
空でドイツ軍と空中戦をしていた空軍も最後はたった1機しか残らない事態に。
どのシーンを取ってもとにかく“絶望”を感じ、史実でこの作戦が成功したことを知っていても、「これって、無理なんじゃないか・・・」と思ってしまうほど困難を極める作戦でした。
「一難去ってまた一難」がクライマックスを除いてひたすら展開されていきました。
3つの物語がクライマックス直前思わぬ展開を見せ(後述します)、映画はクライマックスへと一気になだれ込みます。そのクライマックスでも家族が出てきたり、回想シーンだったりは描かれず、非常にシンプルながら胸に響くこれ以上無い熱いラストが待っていました。
映画が終わって思ったことは「凄まじい」「何て素晴らしい」「圧巻の体験だった」と語彙不足の感想になったのが事実です。しかし、そのシンプルな感想の中に映画で描かれたダイナモ作戦とその周りに幾重にも折り重なる史実を思い出し、非常に重層的な何かが私の心を覆い尽くしました。
※ここから先では今作『ダンケルク』の映画の構成について書き進めます。これを読んでも映画の圧倒的な凄まじさは損なわれませんが、ネタバレを避けたい方はいったんここで閉じて、映画公開後にここから先をご覧ください。
–{『ダンケルク』の構成は如何に}–
『ダンケルク』の構成は如何に
本作は前述の通り3つの物語が同時に進行します。
1:陸の物語
・描かれる時間軸(期間)は1週間。・ダンケルクに追い詰められた兵士たちがイギリス本土へ帰還するまでを描く。
・ケネス・ブラナー、ジェームズ・ダーシーら上官らの描写とフィオン・ホワイトヘッド、ハリー・スタイルズら兵士たちの描写がメインで展開。キリアン・マーフィーのエピソードは海の物語と横断して展開される。
2:海の物語
・描かれる時間軸(期間)は1日。・イギリスの海岸からダンケルク救出作戦に駆り出された一般船舶が帰還するまでを描く。
・マーク・ライランスらの描写がメインで展開。キリアン・マーフィーのエピソードは陸の物語と横断して展開される。
3:空の物語
・描かれる時間軸(期間)は1時間。・ダイナモ作戦が成功するように空からの援護を行い、ドイツ空軍を撃退するまでを描く。
・トーム・ハーディ、ジャック・ロウデン二人の描写がメインで展開。
3つの物語が同時進行と言いましたが、上記の通り3つの物語は時間の幅が異なります。それが同時に進行するので、陸の直後に海の描写になった場合、それは別の時間軸を表しているのです。
軽めな手書きの図になりますが、以下のような感じです。
クリックで拡大表示ができます。
とは言うものの全てはサバイバル作戦なので、変に「この物語は時間軸で言うと少し前か」とか考えなくても大丈夫です。流れに身を任せると、複数箇所で「お!繋がった!」や「お!戻った!」などピンとくるはずです。
そして最後は見事に3つが融合してクライマックスへと突き進みます。
補足:ダンケルクの救出作戦の裏側で犠牲となったカレーのイギリス軍
この映画では描かれていませんが、ダンケルクの隣町のカレーでもイギリス軍とドイツ軍は戦闘を繰り広げていました。しかし、ダンケルクの救出作戦を成功させるためにカレーの部隊はダイナモ作戦のようには救出されませんでした。
他にも「ダンケルクの戦い」、「ダイナモ作戦」について様々調べると映画の世界の幅も相当広がります。映画を見た後に気になった方は是非様々歴史を調べてみてください。
物語は完全にアンサンブル
この物語は主役がおらずアンサンブル(群像劇)となっています。
イギリスの人気ボーイズグループ、ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズが出演しているのでハリーの出演時間が気になる方もいらっしゃると思いますが、ある程度の出演はありますが良い意味で目立たず一人の兵士をしっかりと演じられています。
この役者陣は隅々まで素晴らしい作品となっているのですが、強いて言うならば一般船舶の船長を演じたマーク・ライランスの頑固さ、トム・ハーディの内に秘めた信念、ケネス・ブラナーの責任感、フィオン・ホワイトヘッドの賢明さが強く印象に残っています。
どの俳優さんの演技が最も印象に残ったかは人ぞれぞれ異なる映画だなと思いますので、鑑賞後はご覧になられた方同士でそれを語り合っても良いかなと思います。
一般船籍の船長を演じたマーク・ライランス
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空軍パイロットを演じたトム・ハーディ
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上官を演じたケネス・ブラナー
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兵士を演じたフィオン・ホワイトヘッド
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さすがノーラン作品、IMAXの映像が凄まじい!
クリストファー・ノーラン監督作品と言えば、IMAXカメラで出来る限り実写で撮影する迫力の映像描写が大きな見どころ。
前作『インターステラー』の撮影を担当したホイテ・ヴァン・ホイテマによるIMAXカメラの撮影映像が見事に機能しています。特に空での戦闘シーンはまるで戦闘機に乗っているかのような大迫力の映像となっています。(メイキングを見る限り、IMAXカメラを飛行機に付けてました…)
今回は今までのクリストファー・ノーラン監督作品で最も台詞が少ないのではないかと思います。なので映像で語る部分が非常に多いんです。
洋画の場合字幕を見る方が大半だと思いますが、台詞が少なく映像で訴えかけてくるので映像全体をより堪能することができるのではないかなと思います。
公開したらできるだけ大きなスクリーンで、できればIMAX仕様のシアターでご覧になって頂きたいです。
(※IMAXデジタルシアター云々のIMAX規格の説明については今回は割愛致します)
お見事!ハンス・ジマーの音楽!
クリストファー・ノーラン監督作品の音楽といえば、ハンス・ジマーがお馴染みに。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』の「彼こそは海賊」の原曲と作り、『ライオン・キング』でアカデミー賞を受賞。『レインマン』、『グラディエーター』、『ダ・ヴィンチ・コード』など数多くの人気作品を手がけてきた映画音楽の巨匠です。
そんなハンス・ジマー、今回は『パイレーツ・オブ・カリビアン』最新作と制作が被ったため、『パイレーツ・オブ・カリビアン』は弟子のジェフ・ザネリに託して、この『ダンケルク』に全力投球!
1秒たりとも気の抜けない極限の世界を音楽で見事にアシストしています。緊張感を持たせることを主軸としているため、口ずさめるようなメロディーの音楽ではありませんが、公式に公開されている「SUPERMARINE」という曲を始め、凄まじい音楽で私たちを圧倒させてくれます。
まとめ:戦争映画、だけれども…!
『ダンケルク』は戦争映画のジャンルに分類される作品です。
前述の通り“絶望”を感じるものとなっていますが、今までのクリストファー・ノーラン監督作品のように血を全開で表現したりはなく、俗に言う「グロい」描写は皆無。一人でも多くの方にこの映画を“体験”してほしいなと思いました。
絶望に支配されながらも、最後は希望を私たちの心へも与えてくれます。
全編で107分、本編は99分!
2時間を切る映画ですので、集中力も心配せずに9月9日以降是非『ダンケルク』を体験してみてください。
本当に素晴らしかった。最高レベルの賛辞をこの映画に贈りたいです。本当に凄い体験をありがとうございました!!
(文:柳下修平)