(C)2016 Disney. All Rights Reserved.
現在公開中の『モアナと伝説の海』が大好評で迎えられています。その魅力はいくら挙げてもキリがないほど!以下から、字幕版と吹替版を観た筆者が、その完成度の高さと面白さをたっぷり語ります!作中のセリフや楽曲に少し触れているところはありますが、大きなネタバレはありません!
- 1:3DCGアニメでできる到達点!“水”や“髪”の表現に注目!
- 2:『アナと雪の女王』と同じ方向性?キャッチーだけど“切なさ”もある楽曲の数々!
- 3:吹替版のここが素晴らしい!巨大なカニのウザさが最高だ!
- 4:字幕版の“相棒”を演じているのはロック様!収録時のエピソードがかわいい!
- 5:実は海洋アドベンチャー!冒険の幕開けだ!
- 6:テーマは“自己実現”、観た後は勇気をもらえる!
- 7:“脱ディズニープリンセス?”おとぎ話からの“外し”にも注目だ!
- 8:実は“海版マッドマックス”だ!
- 9:ジブリ作品の影響も!さらにこんな作品にも似ている!
- 10:同時上映の短編『インナー・ワーキング』はすべての“社畜”に捧げた傑作だ!
- おまけその1:今の劇場は“音楽映画”が豊作!
- おまけその2:『モアナ』が好きな人にこのアニメ映画をおすすめ!
- まとめ
1:3DCGアニメでできる到達点!“水”や“髪”の表現に注目!
本作で誰もが賞賛するのは、3DCGアニメーションとしての抜群の質の高さでしょう。特に“水”の表現は本物と見間違うほどの美しさであり、髪にまとわりつくときの“濡れ”の表現に至るまで、妥協がまったくありません。
それでいて、水に関する画にはアニメでなければ成し得ないファンタジックで幻想的な光景が満載、しかも“コミカルさ”までも備えていました。たとえば、本作の公式ページで紹介されているキャラクターに“海”がいて、観る前は「海が主要キャラってシュールだなあ」と思っていたのですが、本編ではこの海がめちゃくちゃキュートですぐに大好きになることができるのです。“無機質さ”がまったくなく、どのシーンもキャラも“血が通っているか”のようであることも、本作の大きな魅力でしょう。
なお、“髪”の表現は3DCGアニメにおいてもっとも表現の難しいものの1つだであり、『塔の上のラプンツェル』のスタッフたちも21メートルにもなるヒロインの髪の毛のライティング(光の当たり方)や質感などの表現のため、苦労に苦労を重ねたのだとか。本作『モアナ』においても、その髪への徹底したこだわりは半端なものではありません。主人公のモアナが海辺に行ったときの日の光の当たり方、夜に火の近くに行ったときなどの髪のツヤなど、1つとして違和感を覚えることはないでしょう。
本作は、ものすごい技術を持った精鋭たちを総動員して、時間とお金と労力をかけて、やっとの思いで作られたという事実は、長めのエンドロールにびっしりと書かれたスタッフの数の多さだけでもわかるでしょう。ライティングという一側面だけでも、それに関わった技術者の数は60名を超えていたりするのですから!
監督の1人であるジョン・マスカー氏が「手描きアニメの『リトル・マーメイド』の100倍大変だった」と語るだけのことはあります。この3DCGアニメでできる表現の到達点と言える『モアナ』の世界を、劇場で体験しないのはもったいなさすぎるのです!
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2:『アナと雪の女王』と同じ方向性?キャッチーだけど“切なさ”もある楽曲の数々!
本作の楽曲の素晴らしさは、もう言うまでもありません。そのメロディーのキャッチーさもさることながら、『アナと雪の女王』(以下『アナ雪』)と同様の“ミュージカル映画でしか成し得ない”魅力があることにも感動しました。具体的には、『アナ雪』の「Let It Go」と、『モアナ』の「Where You Are」は、“楽しい楽曲だけど、どこか寂しさを感じさせる”ことが共通しているのです。
『アナ雪』でエルサが「Let It Go」を歌ったのは、外界を拒絶する氷の城を作り上げる時でした。メロディーはポジティブのようでも、歌詞およびエルサの抱えている感情は複雑であり、決して“良いこと”とばかりとは言えません。
『モアナ』で島の住人(とモアナ)が「Where You Are」を歌っているのは、島の生活がいかに素晴らしいか、そこには何でもある、という一聞するとポジティブなメッセージです。しかし、この時に主人公モアナは島の外の海に出たいという秘めた想いも持っている……“実際に持っている感情”と“歌われている曲”にギャップがあり、ポジティブとネガティブが入り混じったような“複雑な感情”を表現できています。これは、ミュージカル映画でしかできないことです。
そして、メインとなる楽曲「How Far I’ll Go」が、この「Where You Are」の“アンサーソング”と言える内容になっていることがまた素晴らしい!「Where You Are」は「ここにいる理由がある」ことを、「How Far I’ll Go」は「空と海が出会う線(水平線)が私を呼んでいる(でも行けるかはわからない)」ことを歌っており、よりモアナの“本当の想い”が伝わるようになっているのです。
しかも、この「How Far I’ll Go」は作中で何度か歌われており、それぞれのシーンにおけるモアナの感情が異なっているため、歌に込められた“本質”も違い、もたらされるカタルシスもまた別個のものになっているのです。1つの歌にも多様な解釈や登場人物の想いが見える……ほかの娯楽媒体では絶対に体験できない、まさに“ミュージカル映画だけの感動”がそこにはありました!
3:吹替版のここが素晴らしい!巨大なカニのウザさが最高だ!
本作は吹替版と字幕版それぞれが公開されています。どちらも素晴らしいクオリティーでした!
吹替版で主役の2人を演じているのは、“ミュージカルのど自慢”で最優秀賞を受賞した現役大学生の屋比久知奈(やびくともな)さんと、歌舞伎俳優の尾上松也(おのえまつや)さん。それぞれの歌声および演技力の素晴らしさもさることながら、(こう言うと失礼ではありますが)一般的な知名度を度外視した、実力のある若手の方を抜擢するキャスティングも賞賛すべきでしょう。
さらに特筆すべきは、自己顕示欲が旺盛な巨大なカニ“タマトア”を演じてたミュージシャンのROLLYさんでしょう。これがもう……はっきり言ってウザい(褒めています)!イライラする(褒めています)!キャラクターおよび楽曲が本来持っているムカつきっぷりを十分すぎるほどに理解し、これ以上なく表現できている!このシーンだけでも、吹替版を堪能する価値があります!
なお吹替版の“意訳”もよくできています。たとえば、モアナがおバカなニワトリのヘイヘイのことを「能ある鷹は爪を隠すって言うでしょ?」と言っていたのは吹替版オリジナルだったりします。終盤には“物語の根幹”に関わるセリフにもとあるアレンジがあるので、字幕版しか観ていない人にもぜひ確認してみて欲しいです。
加藤ミリヤさんが歌う、日本版エンドソング「どこまでも 〜 How Far I’ll Go〜」も、本編とはまた違った歌い方、伸びのある歌声が素晴らしいですよ。
4:字幕版の“相棒”を演じているのはロック様!収録時のエピソードがかわいい!
字幕版で素晴らしいのは、英語の響きの美しさ。楽曲「How Far I’ll Go」ももちろんですが、終盤で“誰か”に訴えかけている、とあるセリフの反芻には、吹き替え版とはまた違う感動がありました。
字幕版で主役の2人を演じているのは、2000年生まれで若干16歳(製作時は14〜15歳)の新鋭のアウリイ・クラヴァーリョ、そしてアクション映画ファンなら誰しもが憧れるドウェイン・ジョンソン(通称:ロック様)。2人は(その他のキャストのほとんども)キャラクターと同じポリネシア系だったりします。
どちらも演技と歌声が素晴らしいのは言うに及ばず。実はロック様は今までの俳優人生で今回の声の演技がもっとも難しいと思ってナーバスになっていたそうで、繰り返しほかのキャストに「良いパフォーマンスできていたかな?」と聞いていたそうです。かわいい、かわいいよロック様!演技も歌も最高に良かったよ!
ちなみに、字幕版では吹替版ではわからなかったジョークもありますよ。相棒のマウイがモアナに出会い、オールを指差したときのセリフは、思いっきり“現代の皮肉”になっていて笑ってしまいました。
5:実は海洋アドベンチャー!冒険の幕開けだ!
本作は日本版のポスターや特報では、“南の島を舞台にした愛の物語”な印象があるかもしれません。しかし、実際は「選ばれし者が世界を救う!」な厨二……じゃなかった、王道的な冒険活劇であり、作中ではハラハラドキドキするスペクタクルシーンが満載なのです。
それでいて、凸凹コンビが共に困難に立ち向かっていくという“バディもの”の魅力もたっぷり、一方で“これが運命な人なのね!”な恋愛やロマンスはほとんどありません(もちろんいい意味で)。「冒険だ!」「私たちが世界を救うんだ!」なテンションで観るのがおすすめです!
6:テーマは“自己実現”、観た後は勇気をもらえる!
昨今のディズニー映画はテーマが明確なうえ、そのテーマに真摯に向き合っています。今回のテーマは“自己実現”であると言っていいでしょう。主人公のモアナの行動から、人間としてどのように生きるか、どのように自己の能力や個性を実現させていくかを“学べる”作品に仕上がっていました。
そのようなことを促す自己啓発本を読むのももちろんいいですが、『モアナ』では2時間に満たない時間で、しかも極上のアニメを楽しみながら、これ以上なく自己実現のための勇気をもらえるのです。娯楽でありながら、人生を変えるほどの教訓もある。これこそ「映画」というのもの醍醐味です!
また、監督およびスタッフがポリネシアの文化を学び、それを物語にしっかり取り入れていることも素晴らしいですね。その土地に根付く風習や価値観を、時にはリアルに、時にはデフォルメしてテンポよく見せる手腕にも惚れ惚れするしかありません。
–{昨今のディズニーらしい、おとぎ話からの“外し”とは?}–
7:“脱ディズニープリンセス?”おとぎ話からの“外し”にも注目だ!
昨今のディズニー映画は、“王子様が現れてめでたしめでしたし”な王道のおとぎ話から、いい意味で“外れた”ものが多くなっています。
・『プリンセスと魔法のキス』
主人公は黒人の女の子で、目指しているのは王子様の結婚ではなく“自分のお店を開くこと”でした。
・『塔の上のラプンツェル』
主人公はお姫様ではありましたが、恋の相手となるのは“盗賊”な上、王子様なんか待たずに自分の意思で行動しまくっています。
・『アナと雪の女王』
男女の関係だけではなく、“姉妹愛”などの多様な愛の形が描かれており、作中では「王子様と出会ったその日に婚約するなんておかしいだろ」という冷静なツッコミが入ったりもしました。
・『マレフィセント』
悪役が主人公になっただけでなく、とうとう王子様が役にも立たない当て馬のようになっていきます(笑)。
・『ズートピア』
主人公の相棒となるのが“詐欺師”で、テーマがアメリカ社会を切り取った“差別”になっているなど、新たなディズニー映画の可能性を模索し、しかもそれが大成功をしている大傑作になっていました。
そして今回の『モアナ』がどうなったかと言えば……主人公のモアナは子どものころから怖い話を嬉々として聞いている勝気で行動力のある少女になり、その将来はお姫様ではなく村長(むらおさ)になることが示唆されていました。
さらに、その主人公の相棒のマウイは屈強な大男であり、鼻がつぶれていてお世辞にもイケメンとは言えないルックス!全身にタトゥーが入っていて不良っぽい(偏見)!しかも(少なくとも初登場時は)自意識過剰で性格までもがマジで悪かったりするのです。王子様の“お”の字も出てこないのがスガスガしい!良い意味でおとぎ話(ディズニー作品)から“外れ”まくっていました。
もちろんこのキャラ造形も意図的なもの。作中にはこんなセリフがあったりもしました。
モアナ:「私はお姫様じゃないわ(I am not a princess.)
マウイ:「ドレスを着て動物の親友がいればお姫様だよ(If you wear a dress and have an animal sidekick, you’re a princess.)」
しかも、その“動物の親友”というのが“おバカなニワトリ”だったりするので、あらゆる意味で皮肉的なのです。
そして、このキャラ造形こそが「世界は私たちが救うんだ!」という王道の冒険活劇、そして“自己実現”というテーマに必要不可欠なのです。どのキャラクターも、そして今までのおとぎ話からの“外し”も大好きになれました。
8:実は“海版マッドマックス”だ!
現在、Twitterで「モアナ」と検索欄に入れると、「マッドマックス」がサジェストされるようになっています。そう、2015年に公開され、世界中に熱狂を巻き起こした『マッドマックス 怒りのデスロード』をほうふつとさせるシーンが『モアナ』の劇中に存在し、観た方が「海版のマッドマックスだった!」と大興奮しているのです。
そのシーンを切り取った動画も公開されているのですが、これは「えーっ!」とびっくりするシーンでもあるので、ここでは紹介しないでおきます。ちなみに監督で1人であるジョン・マスカー氏も「マッドマックスのオマージュは意図的です」などと語っていますよ!
余談ですが、1995年の映画『ウォーターワールド』も、“海版のマッドマックス”と揶揄された作品でした。こちらはゴールデンラズベリー賞における最低作品賞・最低主演男優賞・最低監督賞・最低助演男優賞を受賞した大失敗作なのですが、個人的にはそんなに嫌いじゃありません。薄い髪が濡れて見た目がヤバいことになっているケヴィン・コスナーの毛根にハラハラし、ヒロインが全裸になってお茶の間が凍り、エンディングの唐突さにズッコケられるという、見どころ満載な素敵な映画ですよ。
(C)2016 Disney. All Rights Reserved.
9:ジブリ作品の影響も!さらにこんな作品にも似ている!
本作には『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』などのジブリ作品に影響を受けたと思しきところがあり、ジョン・マスカー監督は「企画の初期段階から宮崎駿監督の映画からの影響がありました」と、もう1人の監督であるロン・クレメンツ氏も「とある問題に対しての解決方法が“戦う”だけではないことにも、ジブリ作品の影響があるかもしれません」と語っていました。ジブリファンにとっても必見でしょう。
さらに劇中では、『ワイルド・スピード』シリーズや『キング・オブ・エジプト』や『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』や「ゼルダの伝説 風のタクト」(ゲーム)や「大神」(ゲーム)やら、いろいろな作品をほうふつとさせるところが満載。それぞれの作品が好きな人にとっても、きっとお気に入りの作品になるはずです。
10:同時上映の短編『インナー・ワーキング』はすべての“社畜”に捧げた傑作だ!
本作の同時上映作品である『インナー・ワーキング』も傑作です!詳しくは言わないでおきますが、これは“社畜”と呼ばれるほどに疲弊している日本人こそ、心に染み入る内容になっているのです。しかも『ファイナル・デスティネーション』シリーズのような「死でゲラゲラ笑う」という不謹慎すぎる楽しさもありますよ(ディズニー映画なのに)!
それでいて、この『インナー・ワーキング』が、本編の『モアナ』のテーマである“自己実現”を、“別の形”で描いているのがたまりません。『モアナ』は南の島を舞台にした“別の世界”の出来事を描いていますが、『インナー・ワーキング』で提示された“方法”は“私たちが今いる世界で実現可能”なものなのです。本編と、たった6分の短編とで、尊いテーマがリンクしていることも素晴らしい!
おまけその1:今の劇場は“音楽映画”が豊作!
現在、3月(春休み)には『モアナ』以外にも、それぞれで違った魅力を持つ音楽映画が公開されていることを、強く訴えておきたいです!
・『ラ・ラ・ランド』(公開中)
往年のミュージカル映画のオマージュが満載!
・『ハルチカ』(公開中)
吹奏楽部の演奏を誠実に描いた、“音楽”を主役した青春物語!
・『SING シング』(3月17日より公開)
みんなが知っている名曲がたっぷりのアニメーション!
もはやここまで来ると、映画館に行く楽しみが多すぎて、忙しいレベルですよ!
おまけその2:『モアナ』が好きな人にこのアニメ映画をおすすめ!
最後に、『モアナ』が好きな人にオススメのアニメ映画を2本紹介します。
・『リロ&スティッチ』
同じく南の島を舞台にしたディズニーアニメですが、なんとテーマは“家庭崩壊”!『アナ雪』と同様に“姉妹愛”が描かれていたりもします。
・『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
ジブリアニメへのオマージュが満載のアイルランド製アニメ。絵本のようなかわいい絵柄で、幼い兄妹による冒険が描かれています。“不安”、“幻想的”、“孤独”といった、他の子ども向け映画ではなかなか味わえない感情を与えてくれました。DVDとBlu-rayは4月5日発売です。
まとめ
いろいろと語ってきましたが、本作は“誰もが分け隔てなく、親子でも、デートでも、友達とでも最高に楽しめる、極めて万人向けの作品”であることは間違いありません。あまり映画館で映画を観ないという方も、きっと満足できるでしょう。可能であれば、字幕版と吹替版の両方を観て、それぞれの魅力も知ってほしいです。
そして、本作は「エンドロールの途中で帰らないで!」ということも、強く訴えておきたいです。素敵な余韻を残してくれる“おまけ”が最後にありますよ!
(文:ヒナタカ)