子ども版グランド・セフト・オートな映画が公開される件 監督に聞いた“教育上問題ない理由”とは?

映画コラム

(C)Veit Helmer Film-produktion

2月11日より公開の『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』というドイツ映画をご存知でしょうか?パッと見のビジュアルは「子どもが活躍するかわいい作品かな?」と思うでしょう。確かに子どもたちはかわいい、かわいいんだけど、実はそれだけじゃない、とんでもない作品でした!以下にその魅力を紹介します!

1:これは幼稚園児のギャング団による『グランド・セフト・オート』だ!

本作の第一印象は、子ども版『グランド・セフト・オート』(以下、グラセフ)でした。ご存知ない方にご紹介いたしますと、グラセフとは世界的に有名なテレビゲームシリーズでして、“街の中で何をしてもいい”という自由度が大きな売りになっています。当然、その“何を”には窃盗などの犯罪も含まれます。グラセフは青少年の健全育成に極めて悪く、18禁指定は大納得なのですが、良識をわきまえた大人にとっては至高の娯楽なのです。

そして、本作『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』の子どもたちは、自らを“ハナグマ・ギャング団”と名乗り、イタズラという言葉ではすまされない、犯罪行為を街中で繰り返していきます。

不法侵入?当たり前。

詐欺?当たり前。

車の強奪?当たり前。

しかも終盤には街じゅうに……おっと、これはネタバレになるので書けない。もしこれがグラセフなら指名手配レベルは☆3以上をマークするでしょう。公式Twitterには「この子どもたち、可愛いだけじゃありません」とありますが、かわいいどころかモノホンの犯罪者集団じゃねーか!とツッコまざるを得ないのです。

観る人が観れば「ンマー!こんな教育上悪い映画は許さないザマス!」と叫ぶかもしれませんし、少なくとも文部省の推薦が受けられないことは間違いありません。それでも本作はG(全年齢)指定ですし、この犯罪行為の限りを尽くしても、(グラセフとは違い)最終的にはとても教育上とてもよい(※本当です!)作品に仕上がっていました。この記事の最後に、監督から聞いた“教育上問題ない理由”を書いていますので、そちらもあわせてお読みください。

2:これは「クレヨンしんちゃん」の実写版だ!

本作で連想したものが、グラセフ以外にもう1つあります。それは、日本人なら誰もが知る国民的アニメ「クレヨンしんちゃん」です。何せ、劇中で出てくるのは4歳児が6人でチームを組むのですから。しんのすけ、ネネちゃん、マサオくん、風間くん、ボーちゃんから結成される“かすかべ防衛隊”を彷彿とさせるではないですか(1人多いけど)!

しかも、あの歴史的大傑作映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』のカーチェイスをもほうふつとさせるシーンがあるのです!具体的には……いや、やっぱりネタバレなので書くのはよしておきましょう。幼稚園児に車を強奪させ、さらには“あの方法”を使ったカーチェイスまでさせるとは!クレヨンしんちゃんでしかありえなかったシーンを実写で観られる!もう必見ではないですか!

また、このハナグマ・ギャング団が“ただ歩くだけ”のシーンがめちゃくちゃカッコいいです。その出立ちは、まるで「Gメン’75」のオープニングのようでもありました。

(C)Veit Helmer Film-produktion

3:『ラ・ラ・ランド』に負けていない!子どもたちによるミュージカル映画だ!

本作の魅力はそれだけではありません。なんと、すでに各方面で絶賛の声が相次いでいる映画『ラ・ラ・ランド』(2月24日公開)に匹敵する、ミュージカル映画でもあるのです!

オープニングの歌からもうかわいくって仕方がないですし、楽曲そのもののクオリティーが高く、子どもたちの歌唱力も侮れないものがありました。子どもから親への不満、そして“立場の逆転”を歌ったあの曲は、子どもこそ共感できるでしょう(大人は怖くなるかも?)

なお、『ラ・ラ・ランド』はアカデミー賞にて、史上最多タイとなる14ノミネートを果たしていますが、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』も世界中で50の映画祭を席巻して大好評、いくつかの“最優秀子ども映画賞”を受賞するなど、並々ならぬ高評価を得ていますよ。

4:動物(アカハナグマ)がかわいい!

本作でかわいいのは子どもたちだけではありません。“アカハナグマ”という動物も超キュートなのです!具体的にこのアカハナグマがどういう活躍をするかはネタバレになるので秘密にしておきますが、「そんなこともしちゃうのか!」と驚けることは間違いありません。

このアカハナグマは、ドイツの著名な動物トレーナーの手で、1年以上調教された2匹が演じていたそうです。その芸達者ぶりは、大人顔負け、いや、人間顔負けですよ。

(C)Veit Helmer Film-produktion

5:日本語吹き替え版もあるよ!

本作は“日本語吹替版”が多く上映されています。そのため、大人も子どもも、家族みんなで楽しむことができるでしょう。

そうそう、本作は上映時間が83分と短いのも長所。テンポも早く、お子さんを退屈させてしまうことはないはずです。

おまけ:この映画が好きな人におすすめ!

本作で連想した、“この映画が好きなら絶対に気に入る!”と思えた、3つの作品をご紹介します。

(1)『ロッタちゃんのはじめてのおつかい』

この映画の主人公の女の子は“良い子”とは言えません。かんしゃく持ちで、つよがりで、生意気なのです。でも、子どもの生意気っていうのはかわいいものですよね。映画の序盤、家出をして倉庫で一生暮そうとするロッタちゃんの意地っ張りなところが愛おしく、その後のエピソードではそんな彼女がちょっぴり成長して、誰かを幸せにするシーンもあったりするのですから。
『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』とは、“子どもの一番の理解者はお年寄り(おばあちゃん)”なところが共通していますよ。

(2)『長くつ下ピッピの冒険物語』

児童文学『長くつ下のピッピ』を原作とした作品です(テレビシリーズやアニメ版もいくつか作られています)。イタズラが大好きでおてんばな女の子が、たいくつをしていた子どもたちの前に現れて、大旋風を巻き起こすという楽しい内容になっていました。
『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』と共通しているのは、街で大騒ぎをしてしまうということと、“普通なんかじゃつまらない!”というメッセージがあること。映画を観た後は、ルールや勉強だけに縛られているだけでなく、楽しく、自分らしくしよう!と思えるかもしれませんね。女の子が力持ち!というのは、現在公開中の映画『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』もほうふつとさせますよ。

(3)『劇場版ムーミン 南の海で楽しいバカンス』

ご存知ムーミン一家が、グラセフ並みに犯罪と破壊の限りを尽くす内容です(笑)。フィンランド製のアニメであり、日本以上に世界のアニメはフリーダムであることがわかるでしょう。ムーミンがビキニを着たフローレンに向かって言う「そんな格好ダメだよ!何も着ていないみたい!」は一生心に残るセリフでした。

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–{「子どもがマネしてしまうかも」と言われた時の、監督の切り返しが最高だった!}–

ここからは、本作の監督であるファイト・ヘルマーへのインタビューをご紹介しましょう。

1:“大人にとってはちょっと危険”な映画?

——この映画を作ったきっかけを教えてください。

「子どものための映画を撮ろう」というよりも、「息子と一緒に観る楽しい映画を作ろう」、「楽しいだけじゃなくて考えさせられる映画が観たい」と思ったことがきっかけになっています。その頃、映画館でかかっていたのは、アニメ映画か大人向けの映画しかなくて、息子と一緒に観たいと思う映画がなかったんです。僕は映画監督だったので「じゃあ自分で作るしかないな」と(笑)。

——本作はたくさんの映画祭で上映されていますが、映画を観た子どもたちの反応はいかがでしたか?

映画祭では2000人の子どもが集まったこともありました。まだ学校に通っていない年代の子どもだと、映画を観ながら踊り出していたりしていましたね。ただ、学校に行くような年齢だと、子どもといえども、やはりおとなしくなりますね。

実は、この映画を上映するときに必ず言うことがあります。それは、この映画が“大人にとってはちょっと危険”ということです。映画の中の子どもたちは、本当に生意気でわんぱくですからね。もし、大人たちがこの映画を観てあまりにも驚くようだったら、お子さんたちの手を、ご自身やほかの大人の顔の前に持って行って、観ないようにしてあげてください(笑)。

——この映画で、日本の有名なアニメ「クレヨンしんちゃん」を連想しました。クレヨンしんちゃんが好きな人に本作をおすすめしたいのですが、監督ご自身はご覧になったことはありますか?

昨日、日本の地下鉄で「クレヨンしんちゃん」の宣伝を見ましたね。ぜひ広告のタイアップをお願いしたいけど、無理かな(笑)。「クレヨンしんちゃん」が好きな方が、FacebookやTwitterでトレーラーなどで『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』を紹介してくれるとうれしいですね。

2:子どもが出演している映画ならではの苦労とは?

——子どもたちのオーディションや、撮影はどのように行われていたのでしょうか。

本作を企画するとき、まずは「子どもたちが何歳であるべきか」を議論したんです。僕は「3歳か4歳がいい」と言ったのですが、製作会社や配給会社、テレビ局といった資金援助をしてくれているスポンサーからは「6歳がいい」と言われたんです。

と言うのも、小さな子どもたちと映画を撮るとなると、どれくらいのリスクがあるのか想定できないところがあったんです。撮影の途中で嫌がったり、「もうやめたい」と言う子どもがいないとも限らないですからね。しかも、3から5歳までの子どもだと1日に3時間しか撮影できないという法律上の制約があるのですが、6歳になっていたら1日に5時間の撮影が可能になるんです。スポンサーが6歳を勧めるのも無理はありません。

そこで、初めのオーディションで3歳から6歳の子どもたちを1000人くらい見てみたのですが、やはり少し年のいった……年のいったと言っても6歳ですけど(笑)、そのくらいの子どもよりも、やはり3歳か4歳の子どものほうが、映画に出ていることが想像しやすかったんです。僕は映画監督である前にプロデューサーでもあるので、プロデューサーとしてリスクを負うなら、やはりその年齢でやりたいと主張しました。スポンサーも「映画としては3歳や4歳のほうが素敵だ」、「あなたの決断であればやってみてほしい」と言ってくれましたね。

——1日3時間しか撮影ができないとなると、撮影にも時間がかかったのではないでしょうか。

撮影期間は10週間にも及びました。でも、子どもたちは最後までずっと楽しみながら演技をしてくれたようで、とてもうれしかったです。
また、子どもたちとは1日3時間しか撮影できないのですけど、大人の俳優さんも出ていますし、アカハナグマも撮影しなければいけなかったので、結局は1日に12時間くらいは撮影をしていたんです。撮影期間が長いのは、僕が監督としてテンポがゆっくりしていたせいもありますけどね(笑)。

——そのアカハナグマの撮影は、子どもたち以上に大変そうですね。

アカハナグマが何かに怖がったりして、子どもに噛み付いてケガをさせてしまう危険性があったので、しっかりとした管理体制が必要でした。オーディションで選んだ子どもたちは、おとなしいとは言えない子ばかりだったので、余計に大変でしたね。なんとか、アカハナグマでの事故を1つも起こすことなく撮影を終えることができて、ほっとしています。

3:“壊す”ことにより、“何かを作る”ことを教える映画だった。

——この映画で子どもたちは多くのものを壊していきますが、実は創造性、何かを生み出すことのの素晴らしさを説いている映画であると感じました。

そうですね、子どもたちが壊すというのは、新しい何かを作るための、通り過ぎていくべき道なんです。たとえば、ブロックで何かの動物を作ったりすると、それをいったん壊さないと、次の新しい何かは作れませんよね。あるいは、どこか新しい地に降り立ちたいと思ったら、今までいた古い地を離れなければ、新しい地に行き着くことはできません。何かを作る、得るためには、何かを壊したり、捨てる必要がある、ということも描いているんです。

——しかし、先ほど“大人にとってはちょっと危険な映画”とおっしゃったように、この映画が教育上悪いなどと、怒ってしまう大人もいるかもしれません。そうした大人に対して、反論や、こう考えてほしいという提言などはありますでしょうか。

まず言っておきますが、“大人にとってはちょっと危険”というのは一種の冗談ですよ(笑)。

でも、映画を観たお母さんの中に「子どもたちが映画のように、クレーンの上に登って行ってしまったりするんじゃないか、マネをしてしまうんじゃないかと心配です」と言った方がいましたね。

僕はそのお母さんに、「子どものころに『長くつ下のピッピ』を観ていましたか?」と質問しました。そのお母さんはテレビシリーズをすべて観ていたということなので、「あなたは『長くつ下のピッピ』のように、電車に飛び乗って踊ったりしましたか」と聞きました。「もちろんしません」と答えたので、僕は「あなたがやらなかったバカなことを、あなたの子どもがやると思うのですか?」と言ってやったんです。

そうそう、僕の息子はこの映画を10回以上も観ていますけど、それでも車を走り回すようなことは1回もしていません。大人たちが考えているほど、子どもはバカではありませんよ。

まとめ

ここまでで、本作『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』がいかに楽しく、そして教育的でもある理由をわかっていただけましたでしょうか。

これほどの楽しい映画を親子で観れば、きっと一生忘れられない思い出になるでしょう。“子どもと一緒に観るのはアニメ映画”ということは、ある種の常識のようにまかり通っていますが、本作のように“実写でも子どもが楽しめる映画があるんだ!”ということも広まってほしいですね。ぜひぜひ、劇場情報を確認の上、映画館に足を運んでください!

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(文:ヒナタカ)