今夜放送!『ベイマックス』はなぜ大傑作なのか!?その5つの理由と気付きにくい盲点!

映画コラム
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©2014 Disney. All Rights Reserved.

本日12月23日(金)に金曜ロードショーで放映となる『ベイマックス』。パッと見では癒されるハートフルな映画かと思いきや、スーパーヒーローものとしての魅力がたっぷり、個性的なキャラクターが大好きになれ、尊いメッセージ性をも備えているという大傑作でした。ここでは物語が訴えているものを、気付きにくい細かい盲点を絡めながら書いてみます!

なお、1ページは軽めのネタバレに、2ページ目は重大なネタバレに触れています!鑑賞後お読みいただくことをおすすめします。

1:主人公のヒロは“相手を油断させて”ロボット・ファイトに勝ってきたイヤなやつ!

主人公のヒロは13歳で高校を卒業した天才児。あっと驚く発明を次々にしていくのですが、初めのほうはけっこうイヤなやつっぽいところもありました。

冒頭の“ロボット・ファイト”において、ヒロはあっさり負けてしまうのですが、「油断していたんだ」と言い訳をしてもう1度勝負をします。2戦目では、ヒロの“メガ・ボット”は真っ赤な怒り顏になり、あっという間に相手を倒してしまいました。

ここで注目してほしいのは、ヒロが初戦時にくしゃくしゃになったお札をポケットから出して賭け金にしていたこと、2戦目でジトーッとしたやる気のなさそうな目をしながらコントローラーを操作していたこと、勝った後は「まぐれだよ(原語ではビギナーズ・ラックだよ)」と言っていることです。

この無造作にポケットに入れたようなお金は、ヒロがこの前にロボット・ファイトで敗者から巻き上げたものなのでしょう(2戦目ではおそらく元々持っていたと思われる、輪ゴムで束ねたお札を賭け金として出している)。

つまり、ヒロはロボット・ファイトで何度も勝利していて、それでいて負けたときは言い訳をして再戦を申し出て、2戦目ではやる気のないままでも楽勝だという態度を取り、あまつさえ勝ったら「まぐれだよ」とウソを言ったという……いや、本当にイヤなやつです(笑)。

ちなみに、副読本として出版されている「ヒロの日記(Hiro’s Journal)」では、ヒロはロボット・ファイトで勝った場所を地図にチェックしており、中には「ここでは連続して3回も勝った!あと3ヶ月は近寄らないようにしよう」と書かれたエリアもありました。つまり、ヒロはいろいろな場所で初心者のフリをして、相手を油断させてから勝つという姑息な戦法を取っていたのでしょう。

そういえば、ヒロのメガ・ボットは“普段は笑顔で弱そうだけど、いざという時は怒り顏になる”というものでした。発明したロボット自体も相手を油断させる気満々なんですよね。

もちろん、このうぬぼれ屋の主人公の性格がそのままなわけがありません。このヒロの間違った行動は兄のタダシやキャラハン教授にたしなめられていますし、物語が進むにつれて、ヒロは何が本当大切かであるかを学び、仲間のために行動するリーダーとしての力も身につけていきます。ぜひ、ヒロの成長物語としても、本作を楽しんでみてほしいです。

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2:カーチェイスシーンで仲間たちの性格を表しているところがすごい!

“ビッグヒーロー6”の一員となる仲間たちはみんな個性豊か、すぐに大好きになれる魅力を持っていました。ラボでの初登場時もそうなのですが、カーチェイスシーンでも彼らの性格が手に取るようにわかるようになっています。

・ハニー・レモン
追いかけてくるカイジン(敵)に「命を狙っているかどうかはまだわからないわよ!」と言っている:超が付くほどの楽観的な性格

・フレッド
追いかけてくるカイジンについて「ボスキャラだ(原語ではスーパー・ヴィランだ)!」と喜び、さらに「俺たち何か重大な秘密を知っちゃったのかも?」と言っている:アメリカン・コミックのオタクである

・ワサビ
カーチェイスにおいても赤信号を守り、曲がるときはちゃんとウィンカーを出す:マジメで几帳面、だけど融通が利かない

・ゴー・ゴー
カーチェイスにおいても安全な運転をするワサビに「カーチェイスでは信号は無視だよ!」などとツッコミを入れ、運転を無理やり代わってやる:クールだけどいざという時に頼りになる!

個人的にはゴー・ゴーの男らしさに惚れそうでした(笑)。キツい性格かと思いきや、復讐に走ってしまったヒロを真っ先に抱きしめてくれて、「正しいことをするのよ」と教えてくれたのも彼女でしたね。

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–{次ページは重大なネタバレに触れています!}–

3:キャラハン教授がしていた“決めつけ”とは?

キャラハン教授は、ヒロから“マイクロボット”を買い取ろうとする大企業の社長のクレイについて、「この男は科学の発展よりも金儲けを優先して今の地位に着いたんだ。信用できないぞ」などとヒロに教えていました。

そのクレイは終盤に「このキャンパスを作り上げることに人生のすべてを捧げてきました。いくつもの失敗をし、乗り越えることで、我々は強くなり、未来を作るのです」と演説しており、カイジンとして現れたキャラハンは「私の娘を“失敗”を呼ぶのか?」とその言葉に憤っていました。

これらは、キャラハンの勝手な“決めつけ”だったのではないでしょうか。

クレイが金儲けを優先にして出世をしたのは事実だとしても、それは演説の通りに“夢を叶える”ためでもあるでしょうし、その演説のおける“失敗”とは事故に遭ってしまったキャラハンの娘のアビゲイルを指しているものではありません(クレイはこの演説で「我々」と言っており、特定の事実ではなく、普遍的な失敗について語っています)。キャラハンは自分の行動が正しいと信じているのでしょうが、肝心のことが“見えていない”ため、クレイへの勝手な復讐に走ってしまったのですね。

また、クレイはクライマックスでベイマックスとヒロがポータルに飛び込もうとするとき、「不安定になっているんだ!」などとその行動に反対をしていました。クレイにも、自分の判断により友人の娘を事故に遭わせてしまったという負い目があり、もうこれ以上犠牲者を増やしたくない、と思っていたのではないでしょうか。

なお、冒頭のキャラハンとクレイの会話では、クレイは「ロバート」とキャラハンを下の名前で呼んでいました。一方、キャラハンはクレイのことを「クレイさん(Mr.Krei)」と呼んでいます。おそらくなのですが、彼らは元々親友であり、本来であれば下の名前で呼び合うような関係だったのではないでしょうか。クレイが別れ際に「じゃあな、ロバート」と言っていたのは、いがみ合う関係ではなく、また昔のような親友の関係に戻りたい、というクレイの意思表示だったのかもしれません。

4:ベイマックスは本当のケア・ロボットになっていく!

人を救うケア・ロボットとして開発されたベイマックスですが、はじめのほうは“表面上のデータ”ばかりを参考に分析をしていたところもありました。

タダシが亡くなった後、ヒロの目の前に登場したベイマックスは、ヒロの“痛い”という音声データが入る度に物理的な痛みを10段間で知ろうとしたり、彼の今の健康状態を“思春期”と分析したりと、ヒロの最愛の兄を亡くしたという“心の痛み”がわかりませんでした。

ベイマックスとヒロが初めて空を飛んだ時は、ベイマックスはヒロの神経伝達物質がよく分泌されていることを知ったため、水面ギリギリまで落下してから飛行をするという危ないこともやっていました。スリルを与えようとするあまり、命の危険があることをするのはケア・ロボットとしてどうなんでしょうか(笑)。

この後にベイマックスは、空を飛ぶ体験を終えたヒロを分析して、まだカイジンを見つけていないにも関わらず、「満足できたのであれば、ケアを終了します」と素っ気ないことを言っていました。ここでは、ベイマックスはあくまでプログラム化されていたロボットであり、数値でしか人間の感情を測れないのではないか、とも思わせます。

素晴らしいのは、この事実を踏まえた、ヒロとベイマックスの別れのシーンです。ベイマックスは「大丈夫と言っていただかないと、離れられません」とヒロに言っており、表面上はケア・ロボットの“対象者が満足できないとケアを終了できない”というプログラム上の都合から出た言葉のようにも思えます。

でも、ベイマックスがヒロにこう言ったのは、ヒロに直接感情を聞くことで、数値では測ることのできない人間の“心”をわかろうとした……プログラムという概念を超えた、自己を犠牲にしてでも大切なヒロを救おうとしたというベイマックスの感情が表れたようにも思えるのです。

また、ベイマックスがロケットで飛んでいく腕にヘルスケアチップを忍ばせていたところ考えると、ベイマックスは自己を犠牲にする気なんてなく、「いつもヒロのそばにいます(後でまた会えます)」という自分の目的をただただ成し遂げようとした、とも取れますね。

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5:主体的に大切なことを学ぶ物語だった

『ベイマックス』の物語において何よりも大好きだったのは、「復讐はよくない!」といった直接的な言葉からではなく、ヒロが主体的に大切なことを学ぶことでした。

ヒロにヘルスケアチップを抜かれ、戦闘チップだけになったベイマックスは、キャラハン教授を殺害しかけてしまいます。仲間たちのおかげでベイマックスは元に戻りましたが、ヒロはまだ復讐したいという気持ちを抑えられませんでした。

そんなヒロは、ベイマックスの胸に映された、兄のタダシが努力に努力を重ね、困難を乗り越え、84回ものテストを経てベイマックスを開発する記録映像を観ます。

ここでタダシが言った「みんなお前を必要としているんだ」「これからたくさんの人を救うんだ」というのは、ヒロに向けてではなく、あくまでベイマックスに向けた言葉なのですが、ヒロはそこで学ぶのです。「たくさんの人を救いたい」というタダシの思いとは反対に、ベイマックスを復讐の道具として使おうとしていたことを。それを反省し、これから正しいことをしようと……。

この後にタダシがキャラハンに告げていたのは、「こんなことをしても何も変わらない」「僕も同じ気持ちだった」ということでした。ヒロもまた、復讐をやめろとただ言うだけでなく、敵であるキャラハンの気持ちに同調し、説得を試みようとしていたのです。

戦うヒーローである前に、無用な戦いをしようとはしないヒロのことが大好きになりました。ロボットを賭けごとの道具にしていたうぬぼれ屋の少年が、ここまで成長するなんて!

戦いを終えたビッグヒーロー6たちがまったく喜んだ表情をせず、さびしそうに警察に連行されるキャラハンを見ていたのも、どこかで“彼に道を誤らせない方法があったのではないか”という彼らの切ない気持ちが垣間見えました。

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まとめ:“見かたを変える”素晴らしさを描いた作品だ!

本作には“見かたを変えてみよう”というメッセージがあります。

キャラハン教授は、娘を失った悲しみに我を忘れ、クレイをただただ恨み続け、自分を救おうとしてくれたタダシを「バカなやつだ」と侮辱するなど、一辺倒な考え方しか持っていませんでした。そのキャラハンへ復讐をしようとしていたヒロもまた、そのような“見かたを変えられない”人間になっていた可能性もあるのです。

でも……ほんの少し見かたを変えることで、ヒロはマイクロボットのアイデアを思いついただけでなく、タダシが残した記録映像から正しい道を知ることが知ることができました。クライマックスのビッグヒーロー6たちも、見かたを変えることでピンチを脱していましたね。

このように、物事の見かたが一辺倒である危険性、多様な価値観があることの素晴らしさは、“偏見と差別”という形で、この次に公開されたディズニー映画の大傑作『ズートピア』にも引き継がれていましたね。本当に、最近のディズニーは素晴らしい!心の底から「作ってくれてありがとう」と感謝したくなる映画でした!

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(文:ヒナタカ)