第29回東京国際映画祭を振り返り:アニメーション特集「映画監督 細田守の世界」

INTERVIEW
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はじめましての方もそうでない方もこんにちは。

八雲ふみねです。

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今年も大盛況のうちに幕を閉じました、第29回東京国際映画祭。

…というコトで。

八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ vol.82

今回は…。

東京国際映画祭レポート第1弾。
アニメーション特集「映画監督 細田守の世界」をレポートします。


 

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長編アニメーション映画の制作において、日本映画界を牽引し続ける映画監督、細田守。
最新作『バケモノの子』は、昨年公開された邦画でナンバーワンヒットを記録。
全世界約50カ国で劇場公開されました。

国内外の観客、批評家から圧倒的な支持を得る映像作家、細田守監督の初期作品から最新作までを紹介する、細田守監督初の特集上映となった本企画。
上映終了後には連日、トークショーやシンポジウムが行われ、シネマラウンジや大屋根広場では原画展や海外配給時のポスター展も開催。
八雲ふみねは司会として、その全トークに携わらせていただきました。

–{映画監督×映画監督:意外な関係性に、観客も興味津々!}–

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『おおかみこどもの雨と雪』上映終了後のトークショーは、細田守監督と是枝裕和監督。
話題の中心は、両監督の作品性に共通する「父親の不在」。
それぞれの生い立ちから語る「父親」という概念は非常に興味深く、またそれが個々の作品に大きな影を落としているというのも、面白いトコロ。
「細田監督の作品は、不在の“父親”をほかの存在が埋めているというのも面白い」という、是枝監督ならではの分析が印象的でした。

 

 

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さて気になるのは、お二人の次回作。
細田監督は「脚本が決定稿となったところ」。
一方の是枝監督は、現在脚本を執筆中。
「それも“父親不在”の話ですか?」という細田監督の問いかけに、「違う話を書こうと思ったんだけど、書いてみたら結局、父親のいない話で…」と、苦笑いの是枝監督。
「また同じタイミングで海外の映画祭に参加出来るといいですね」と、新作を交えた交流を心待ちしている様子のお二人でした。

 

 

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続いては、「細田守監督×堤大介監督 スペシャルトーク&『ダム・キーパー』『ムーム』上映」。
こちらは、2014年に短編アニメーション『ダム・キーパー』がアカデミー短編アニメーション賞にノミネートされた、堤大介監督とのスペシャルセッション。
「お世辞抜きで一番好きなアニメーション監督」(堤監督)、「堤さんの映画は素晴らしい!」(細田監督)と、お互いをリスペクトし合う仲ですが、細田監督は堤監督の人生に大きな転機を与えた人物なのだとか。

 

 

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堤監督がピクサー・アニメーション・スタジオに在籍していた時代から交流があったというお二人。
「僕がピクサーを辞めるきっかけになったのは、細田さんなんです!」と、堤監督が衝撃の告白。
ピクサー社内で『おおかみこどもの雨と雪』の上映会が行われたことが二人の出会いなのですが「その上映会後の食事会で細田さんと話しているときに、細田さんが『堤さんはアートディレクターじゃなくて監督向きだね』と言ったんです。細田さんにそんなことを言われたら!!!」と、当時を回想する堤監督。
その数年後、堤監督はピクサーを退社。
自らプロダクションを立ち上げ、現在もハリウッド制作活動を続ける堤監督の活躍ぶりを受けて「僕は先見の明があるね」と飄々と話す細田監督に、満員のお客様も大爆笑でした。

–{初期作品の上映に集まったファンに、細田監督は「まるで○○○みたいだね」。}–

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チケット発売と同時に即日完売した「作家性の萌芽 1999-2003 (細田守監督短編集)」。
この日上映されたのは、初監督作品「デジモンアドベンチャー」(1999)をはじめ、長編アニメ「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」(2000)、テレビアニメ 「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」の第40話「どれみと魔女をやめた魔女」(02)、「明日のナージャ」オープニング&エンディング映像(03)、短編ア ニメ「村上隆作品 The Creatures From Planet 66 Roppongi Hills Story」「村上隆作品 SUPERFLAT MONOGRAM」(03)の6作品。
本企画のプログラムアドバイザーであり、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんと共にトークを展開するうち、「ちょっと聞いてみたいんですけれども…」と、おもむろに客席に語りかけた細田監督。
「1999年にスクリーンでデジモンを見たことがある人はこの中に、どれくらいいる?」という質問に、会場から複数挙手が。
さらに、「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」についても同じくリアルタイムで観ていた人を尋ねると、やはり多くのファンから手が挙がりました。
その光景に驚愕した細田監督。
「ありがとう!昔会ったちっちゃな子に再会したようで、おじさん嬉しいよ」と、満面の笑顔。

 

 

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実は、このトークショーの本番直前、「17年前の作品をリアルタイムで観てくれた人って、この会場にいるのかなぁ〜」と、密かに話題にしていたんですよ。
「『おジャ魔女どれみ』を見たとき小学2年生で、それからずっと疑問に思っていることがあって…」と質問する女性や「デジモンの最初の作品を見た当時10歳でした」「小学校中学年の時に『ウォーゲーム』を観て以来、ずっとファンです」と話す男性。
アツい想いをダイレクトにぶつけるファンの皆さんに、細田監督も「まるで同窓会みたい」と、喜びを噛み締めてらっしゃいました。
こういった映画制作者と観客の交流は、映画祭ならではの光景。
細田監督とファンの皆さんのキラキラとした笑顔に、私も幸せな気持ちになりました。

 

 

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もうひとつ、同窓会的な雰囲気になったのが『時をかける少女』上映後のトークイベント。
劇場公開から10年、いまも多くのファンの心を掴んではなさない名作です。
「2006年公開当時、映画館でご覧になった人は?」と細田監督が客席に向かって質問すると、観客席のあちらこちらで勢いよく手が挙がります。
「当初はほんの数館で始まった興行。それが大ヒットへとつながったのは、最初に映画館で観てくれた『時かけ』ファンの応援があったからこそ」と、しみじみと語る細田監督でした。

 

 

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また『サマーウォーズ』のトークイベントでは、氷川さんがIT技術と細田作品の関連性について言及したのが面白かったです。
『サマーウォーズ』ではiPhoneを劇中に登場させ、当時最先端だったSNSも取り入れているんですよ。
「恐らく、日本映画でいち早く登場させたのが、『サマーウォーズ』はないか…」というのが、氷川さんの見解。
これについて細田監督は「映画って後に残るものだから、あえて時代を感じさせるものを出さない方法もあると思います。でも映画は現代のものをやっても時代劇をやっても、結局描いているのは“現在”。その時代の気分が反映する。それならば、時代がわかるものを刻印した方が潔いんじゃないかっていう考えもあると思うんです」と、解説。
しかしご本人はアナログな一面もあり…。
「僕はむしろ(SNSなどは)使いこなせていない方。ラインアカウントもないんです」とは、意外!!!

–{海外のフィルムメイカーが見た“細田守”とは…。}–

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『バケモノの子』製作時の細田守監督を追ったNHKドキュメンタリー番組「プロフェッショナル 仕事の流儀 アニメーション映画監督 細田守の仕事“希望を灯す、魂の映画”」上映後に行われたトークイベントには、細田守監督をはじめ、トーマス・ナム氏(韓国/アジア・ファンタスティック・フィルム・ネットワーク マネージング・ディレクター)、マリオン・クロムファス氏(ドイツ/ニッポン・コネクション映画祭フェスティバル・ディレクター)、イブ・モンマイヨール氏(フランス/映画評論家)が出席し、グローバルなを展開しました。
「韓国では細田さんは日本のアニメの次期救世主だと思われている」(ナム氏)、「ドイツでは『サマーウォーズ』がとても人気があり、新聞でも絶賛されました」(クロムファス氏)が言うように、各国での細田監督作品の評価は高いとのこと。
それを受けて細田監督は「海外での映画祭に参加するのは、特別な体験なので毎年でも参加したいぐらい。上映が終わった後のQ&Aでは、こちらが考えつかないような意見が出るので楽しみなんです」と、笑顔。
また海外との共同製作に話が及ぶと…。
「一緒に何か作品を作っていける人が日本人だけとは限らない。海外に行くとその国で有名な作家の画集を買ってみることが多いので、いつか現場で一緒にできたらいいなっていう夢はあります」と、笑顔の細田監督。
ゲストスピーカーの方々の国でのご自身の作品がどのように受け入れられているか、興味深く耳を傾ける細田監督の姿が印象的でした。

 

 

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最後は『バケモノの子』上映終了後、細田守監督と東京国立博物館 学芸研究部列品管理課 平常展調整室長である松嶋雅人さんによるトークイベント。
この日のテーマは「日本絵画史からみた細田守作品」。
浮世絵師・歌川国芳や国宝・孔雀明王像といった美術作品と細田監督作品の共通点を次から次へと発表していく松嶋先生に、細田監督もお客様も驚愕の連続。
日本絵画の伝統的表現と細田監督の描く作風が見事に当てはまり、私も何度も鳥肌が立ちました。
松嶋先生が「そういう意識はなく使っていたんですよね?」と問いかけると、「先生からそういう話を聞くと、そういうつもりだったような気がします(笑)」と、ハニカミ笑顔の細田監督でした。

 

 

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フォトセッション時、細田監督が手にしているのは「国宝鳥獣人物戯画」のレプリカ。
「国宝なのに、保存状態が良いね。新品みたい(笑)」というお茶目なコメントに、場内大爆笑!

 

 

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すべてのトークイベントが終了した後、改めてご挨拶に伺うと満面の笑顔で「楽しかったねぇ〜」と仰った、細田監督。
各トークイベントでは細田監督の素朴で飾らない人柄が伝わってきて、私もとても充実した時間を過ごさせていただきました。
ひとりの映画人の作品を一挙に上映、そして作品へのアプローチや知られざるエピソードをじっくりと伺うことが出来るのは、映画祭ならではの体験ですね。
細田監督の新作は、2018年の公開に向けて鋭意制作中とのコト。
次回作も期待しています!

 


 

それでは、また次回お会いしましょう。
お相手は、八雲ふみねでした。

 

 

 

八雲ふみね fumine yakumo

八雲ふみね

大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。
八雲ふみね公式サイト yakumox.com