『湯を沸かすほどの熱い愛』が素晴らしすぎる、5つの理由

映画コラム
湯を沸かすほどの熱い愛 01

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

 日本を代表する女優宮沢りえ主演の最新作『湯を沸かすほどの熱い愛』。とても素晴らしい映画でした。闘病ものと思いきや、そこには深くスポットを当てず、家族のあり方について描かれています。ぴあの満足度でも1位となっている同作の魅力を今回はご紹介します。

1:宮沢りえが演じる「おかあちゃん」が凄い

 宮沢りえの演技力、これはもう語る必要はないかと思います。

しかし、分かっていながらも「また凄い役を演じきった」と思ってしまいます。同作では、旦那に逃げられ娘を育てながらパン屋で働く主婦、冒頭で余命宣告を受けてしまうという役柄。それでも、そんなことを感じさせず元気良く毎日を過ごしつつ、最後の日が来る前にやっておく目標を作り、生きていきます。

 特に娘の前では気丈に振る舞い、強く一人でも生きていけるようにぶつかり合いながら、成長させようと支えていく姿が素晴らしい。
 と思ったら、元旦那に対してはいきなり調理道具のお玉で殴りつけるなど、容赦なく攻撃して笑わせてくれるシーンも。そして、元旦那が逃げていた先の女性の子供を連れてきても受け入れる度量の広さも。まさに日本人が描く「おかあちゃん」像を演じています。

2:娘役の杉咲花が素晴らしい

 聞きなれない女優さんかもしれませんが、かなりできる子です。前の出演作『トイレのピエタ』が強気な女子高生役だったためか、そのようなイメージがあったのですが、今回はとても繊細でいじめられっ子の役。つまり演技の振り幅の広さがよく分かりました。

 序盤はいじめられっ子ですが、母親のやりとりを経て、立ち向かっていくことに。その様子がとても健気で頑張って勇気を出しているって感じがします。

 彼女の今後の活躍がとても楽しみな演技力でした。ちなみにとある映画の監督さんは「度胸があるいい女優」と絶賛していました。同作を見ればその意味がよく分かります。今後が楽しみな女優さんです。

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

–{余命を宣告された主人公の病状がストーリーのメインではない}–

3:闘病もの、というより母親の愛

 余命を宣告された主人公。話が進むにつれて病状も悪化し、弱っていきはするのですが、そこはあまりフィーチャーされません。スパイスであってメインではないのです。

 先立つことがわかってしまった主人公が、逃げた夫を家に戻し、弱気な娘に立ち向かっていく勇気を教え、新しく家族になった娘を受け入れ、家族を再生していく。その様子を時にコミカルに、時に厳しく、時に優しく描いていきます。

 そして終盤には、家族の秘密が明らかになり、それがこの作品に込められた隠しテーマでもあります。予備知識なく見ると、そこでビックリできて、涙腺崩壊すること間違いなしでしょう。本当に熱い愛が感じられました。

4:演出・布石が細かい

 例えば、好きな色の話など、序盤で何気なくでてくる会話が、実は終盤にもまた重要な意味がでてくるなど、結構細かい布石が多かったりします。

 あまり書くとネタバレになってしまうので、劇中のいろいろなものに注目してみましょう。随所に細かく散りばめられているため、「あ、ここで、あのセリフがくるのか」とか、気がつけるとニヤリとしてしまいます。

5:影の主役・温泉の活躍

 主人公家族が経営している温泉が舞台の一つになりますが、メイン舞台となるわけではなく、要所要所に使われます。

 最初は放置されて1年経つ状態から出てくるので結構ボロボロなのですが、話が進むにつれ、だんだん活気を取り戻していきます。おそらく家族関係を温泉の状態で表しているのだと思います。また終盤では意外な使われ方をして、楽しませてくれます。どのような活躍をするかは本編をぜひ。

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

まとめ

 見た人の心に深く刻まれ、大事な作品となる『湯を沸かすほどの熱い愛』。ぴあ映画初日満足度でもNo.1となっています。

 女優陣ばかり褒めていますが、逃げて戻って来る旦那役のオダギリジョーは、相変わらずのダメンズがよく似合ってしました。また出番は多くないですが、松坂桃李も登場。俳優陣は実はとても豪華な作品なのです。

 公開規模がとても大きいわけではありませんが、見た人にとって忘れられない一作となることは間違いありません。普遍的なテーマだからこそ、分かりやすく、心に届く映画。話題作の影に埋もれさせておくにはもったいない一作です。

(文:波江智)