(C)2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
「スタートレック」に対して、みなさんはどんなイメージを思い浮かべるでしょうか?
シリーズが長過ぎて入りにくい、専門用語が多くてよくわからない、『スター・ウォーズ』よりも小難しそう…などといった印象を抱いている方も多いかと思います。
その先入観、今すぐ宇宙の彼方に捨ててください!はい、今あなたの先入観捨てた!
と、思わずアツくなってしまうほど、最新作『スター・トレック BEYOND』は超絶アクション満載の快作なんです!
「スタートレック」といえば、人類最後のフロンティアである広大な宇宙で出会う様々な神秘や、異星人やアンドロイドといった「人間ではない存在」を通して逆説的に「人間とは何か」を見出そうとする哲学的な精神、現実社会を写し出した政治ドラマ…といった、インテリジェンスな要素がシリーズの柱です。
しかし、この『スター・トレック BEYOND』はこうした要素は根底にありつつも、エクストリームアクション&大爆発!なエンタテイメント性が全開の作品に!まるで、優等生な科学部の家に遊びに行ったら、部屋の中がアクション映画やロックミュージシャンのポスターでいっぱいのすごくボンクラなヤツだった…みたいなこのギャップ。お前、もっと早く言えよ!となるような、実は気楽に見られる映画ですよ!
というわけで、実はエンタメ度MEGA MAXな『スター・トレック BEYOND』の見どころを語っていきます!
バイク!スペースバトル!大爆発!見せ場ぎっしりなド迫力アクション
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J・J・エイブラムス監督による前2作もあるということで、『スター・トレック BEYOND』には余計な前置きは一切なし!開始早々、主人公カーク(クリス・パイン)が率いるエンタープライズが壮絶かつ容赦なく撃墜される急展開!シリーズの顔とも言える宇宙船が、本当にバラバラに破壊されて、絶望感もMAX…
本作の主要な舞台は、墜落するエンタープライズから脱出したクルーが降り立った惑星アルタミド。そのため、地上での銃撃戦&格闘といった、全体的に砂ボコリっぽいアクションがメイン!
そんな中で活躍するのが、新キャラクターのジェイラ。扮するのは、『キングスマン』(2014年)にて義足の殺し屋・ガゼルを演じて文字通りのキレッキレ(本当に斬る)アクションを魅せた、ソフィア・ブテラ!
ジェイラは、この惑星でたったひとりで生き抜き、棒術で戦い、メカにも強い自立したヒロイン…という、『スター・ウォーズ』で言うと『フォースの覚醒』(2015年)のレイのようなキャラクター。特徴を挙げてみるとそのまんまに見えるな!
このジェイラは格闘術はもちろん、ホログラム技術を使った分身の術を使って敵を一網打尽にしてしまうという、まるで「NARUTO -ナルト-」かのような技も駆使!
そして地上戦だけではなく、クライマックスにはもちろん宇宙空間でのバトルも!宇宙ステーションという舞台設定を活かしたトリッキーなドッグファイトあり、大爆発ありと、これでもかと見せ場がぎっしり!
変動する重力の中での格闘戦や、転送、ホログラムといった「スタートレック」の世界観を存分に活かしたアクションは、J・J・エイブラムスによるダレ場のないスピード感はそのままに、『ワイルド・スピード』シリーズを4作撮ったジャスティン・リン監督にバトンタッチしたことでさらに磨きがかかっています。
カークがバイクで大暴れするシーンは、まさに『ワイルド・スピード』的なアクションに「スタートレック」のSFガジェットを組み合わせた、本作ならでは見せ場!
仲間のために。エンタープライズクルーは「ファミリー」だ!
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惑星アルタミドの各地に散り散りに上陸したクルーたちはそれぞれ2人組で行動しながら、そのまま敵に囚われてしまった多くの仲間の救出と、惑星からの脱出を目指します。
船長のカークは、広大過ぎる宇宙の開拓という終わりのないミッションにやや疲れ気味。自分の行き先を見失いつつある中で、信頼するクルーと船を一気に失い、自分の信念が揺るがされます。
それでも、仲間だけは見捨てない。絶望的な状況でも、自分を犠牲にして仲間を救おうとするカークの姿勢、そしてクルーのチームワークが発揮されるシーンなど、仲間や絆といった「ファミリー感」が強くなっているのも、ジャスティン・リン監督のエッセンスが強く出ているようです。
また、惑星上で共に行動する各コンビが冒険の最中に交わす会話もウィットに富んでいて笑えます。特にスポック(ザッカリー・クイント)&マッコイ(カール・アーバン)のコンビが最高!ファンにはおなじみの「長寿と繁栄を」、「私は医者だ。~じゃない」の名セリフはもちろん本作にも登場します。
ビースティ・ボーイズの楽曲が、宇宙に鳴り響く!
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過去2作の音楽といえば、マイケル・ジアッキーノによる新シリーズのメインテーマと、ここぞという時に使われるオリジナルシリーズのテーマの双方で盛り上げていますが、『スター・トレック BEYOND』ではノリノリのボーカル曲が最高にアガるバトルシーンを演出!
その楽曲とは、ビースティ・ボーイズの「サボタージュ」!こちらの予告編でも使われています。
本作では、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)か!「マクロス」シリーズか!というような超アツい使われ方で、宇宙にこの曲が鳴り響きます!
ちなみに、この「サボタージュ」は『スター・トレック』(2009年)でも、少年時代のカークが車で爆走するシーンで使われているほか、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013年)でもカークの自室で同じくビースティ・ボーイズの「ボディ ムーヴィン」が流れており、カークとビースティ・ボーイズはなにかと縁があります(J・J・エイブラムスはビースティ・ボーイズのファンで、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にもビースティ・ボーイズのアルバム名をもじったキャラクターが登場します)。
また、音楽といえばリアーナが新曲「Sledgehammer」を本作に提供しているのもトピックのひとつ。宇宙の深遠を感じさせるようなこの曲が、本作のエンドロールを飾っています。
–{「スタートレック」が描く理想に挑戦する悪役}–
シリーズ50周年にふさわしい、「スタートレック」が描く理想に挑戦する悪役
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前作『スター・トレック イントゥ・ダークネス』(2013年)では、ベネディクト・カンバーバッチが悪役であるジョン・ハリソン(カーン)を印象的に演じました。彼が行う破壊行為は憎むべきですが、その動機は自身の仲間を救いたいという、敵対するカークも同じ立場ならばそうしてしまうのでは…と思うほど感情移入出来るものでした。
思えば、J・J・エイブラムス監督による第1作目の『スター・トレック』(2009年)の悪役であるネロ(エリック・バナ)もまた、愛する家族と故郷を失ったことで時空を揺るがす凶行に走る哀しい敵であり、悪役にも悪なりの理屈があることを描いてきました。
今作『スター・トレック BEYOND』の悪役であるクラールは、あっという間に主役機であるエンタープライズを撃沈に追い込むという圧倒的な強さを誇り、次々と犠牲者を増やしていく上に、終盤までその正体や目的がわからない不気味な存在。
しかし、彼もまた過去2作の悪役の通り、悪行を働くことに至った理由があって…
共同脚本のダグ・ユングによるとこのクラールは、「スタートレック」の生みの親であるジーン・ロッデンベリーが描いた、あらゆる異星人・人種が共に手を取り合って未知の世界を開拓していく明るい未来の世界観に挑戦する、「スタートレック」50周年のアニバーサリー作品にふさわしいキャラクターにしたとのこと。
つまり、「協調」や「多様性」とは正反対の「不寛容」こそが、主人公カークたちの敵ということになります。
興味深いのは、アメリカ大統領選の候補であるものの数々の差別的発言を残しているドナルド・トランプに反対する「Trek Against Trump」が9月末にSNSに立ちあがり、J・J・エイブラムス、ジャスティン・リン、クリス・パイン、ザッカリー・クイント、ゾーイ・サルダナ、サイモン・ペッグといった映画のスタッフ・キャストがページにて支持を表明していること。
エンタープライズのクルーは、様々な人種や男女の別なく共に手を取り合って未来を切り拓く、人類の多様性を具現化したような存在。「スタートレック」の世界だけではなく、現実でもエンタープライズのクルーは不寛容との戦いを繰り広げているのです。
クラールを演じるのは、みんな大好き『パシフィック・リム』(2013年)のペントコスト司令官役でおなじみのイドリス・エルバ!本作では特殊メイクでその迫力も二倍増しだ!
製作中に亡くなった、2人のメインキャストを悼む
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『スター・トレック BEYOND』の製作期間中、メインキャラクターであるチェコフを演じたアントン・イェルチン、そしてオリジナルシリーズから新シリーズまで代表的なキャラクターであるスポックを演じたレナード・ニモイの2人が亡くなったことは、本作において特筆すべき出来事です。
全米公開直前の2016年6月に急逝してしまったアントン・イェルチンの元気な姿をスクリーンで見るだけで、感慨深い思いになります。チェコフとエンタープライズクルーの相変わらずのチームワークを見ていると、あることに気付かずにはいられません。
それは、これでこのメンバーでの宇宙を駆ける冒険は、もう見られないということ。本当に、悲劇が悔やまれて仕方ありません…
『スター・トレック BEYOND』の日本版ポスターには、「最後のミッションへーー。」という一文があり「いやいや、4作目の製作も決まっているから!」と思ったのですが、チェコフを含めたクルーでのミッションは確かに最後です。シリーズファンはもちろん、アントン・イェルチンのファンは見届けておくべきでしょう。
ちなみに、チェコフの代役は立てないことをJ・J・エイブラムスは明言しています。
そして、2015年に亡くなったレナード・ニモイにも本作は捧げられています。J・J・エイブラムスによる現行シリーズでも、レナード・ニモイが演じたスポックはストーリーの発端を作り、エンタープライズのクルーたちを導くという非常に大きな存在でした。
「スター・トレック」の代名詞ともいえる名キャラクターを演じたレナード・ニモイの逝去に対して、シリーズ50周年のアニバーサリーに公開される映画として何も触れないというのは不自然でしょう。
彼を悼む思いは、現実とストーリーがリンクするかのように『スター・トレック BEYOND』で描かれています。ファンは劇場であっとなり、そして涙することでしょう…
新シリーズ1作目だけ見れば楽しめる!
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「スタートレック」は、5作のTVシリーズと1作のアニメシリーズ、そして映画だけでも13本の作品がある長寿シリーズ。この点が、シリーズに入りにくい印象を与えてしまいやすいのですが、未見の方が『スター・トレック BEYOND』を楽しむには、新シリーズ1作目の『スター・トレック』だけ見ればOKです。
もちろん、出来れば新シリーズ2作目である『スター・トレック イントゥ・ダークネス』も面白いので見て欲しいですが、基本的なストーリーやキャラクターの原点が描かれているのは1作目なので、これだけ見れば大丈夫です。また、新シリーズ以前の作品は仕切り直されているので、とりあえず気にしなくても良し!映画1本だけ見れば追いつける!
もちろん、シリーズを見ていればさらに楽しめる要素も多々あります。今回は、TVシリーズ「スタートレック:エンタープライズ」とのつながりが…
すでに、続編となる4作目の製作も決定している『スター・トレック BEYOND』。トレッキーだけではなく、これまでちょっと敬遠してきた方にも気楽に見て欲しい1作です。
『スター・トレック BEYOND』は、10月21日(金)全国ロードショー。
(文:藤井隆史)