(C)2016「君の名は。」製作委員会
大絶賛の声が相次ぎ、大ヒットとなっている『君の名は。』。観てみれば、オールタイムベスト1位を更新するほどの大傑作でした!その理由を分析し、魅力を一挙に紹介します!大きなネタバレはありません!
1.新海誠監督が、自分の作家性を見つめ直し、プロデューサーや多くの素晴らしきスタッフに恵まれて作られた大傑作だ!
まず、新海誠監督の来歴と、その特徴を簡単にご紹介します。
新海監督は『ほしのこえ』という25分のアニメの監督・脚本・演出・作画・美術・編集を、ほぼすべて一人で手がけ、世に送り出したことから注目された方でした。
第3作目の劇場公開作『秒速5センチメートル』はアジア太平洋映画賞最優秀アニメーション映画賞、イタリア・フューチャーフィルム映画祭“ランチア・プラチナグランプリ”などの映画賞を受賞し、日本ならずとも世界中で知られているお方なのです。
そんな新海作品の特徴を端的に挙げるのであれば、以下のようになります。
(1)少年少女の“心の距離”を描いている
(2)美しい風景の描写
(3)劇中に大量にあるモノローグ
どれも新海監督の“作家性”なのですが、(3)のモノローグの多さは、“気恥ずかしい”“作品のテンポがゆっくりになる”などの理由で、賛否が分かれる要素でした。個人的にも、登場人物が自分の気持ちをずーっと喋っているというのは、まるで“小説を読んでいるような感覚”があり、“登場人物の表情や仕草だけでどういう気持ちかがわかる”映画としてのおもしろみを感じにくかったので、少し苦手でした(監督のファンの方、ごめんなさい)。
それを反映したかのように、ジブリ作品のオマージュが多数ある『星を追う子ども』ではモノローグがほぼ消滅し、続く『言の葉の庭』では少しだけモノローグがあるもののその数は圧倒的に減っていました。これは、監督が自分の作家性を見つめ直し、方向性を模索した結果なのでしょう。
そして、今回の『君の名は。』では、ごく限られた時のみ、登場人物が自分の内面を表す時にだけ、モノローグが使われるようになっています。これによりテンポがよくなったというだけではありません。大切な時だけに独白をするため、画の美しさも相まってその気持ちに同調でき、心の底から感動できるのです!
これは、プロデューサーの川村元気さんが企画に参加したおかげもあるのでしょう。川村さんは『電車男』で頭角を表し、『告白』をミュージックビデオみたいなトーンで作ったり、『バクマン。』にサカナクションの音楽を入れてみるなどの提案をして、多くの作品を大ヒットに導いています。今回も、川村さんは脚本や作品の構造そのものに、様々な建設的な意見を述べていたとのことです。
新海監督もまた、「(この映画は)107分間、一瞬たりとも退屈させないと思って作った自信作」と語っています。
そう言える理由は、新海監督自身の大きな特徴であり賛否両論あるモノローグを最小限に止め、スタッフからの提言を聞いて調整に調整を重ね、その結果として高いエンターテインメント性を誇る作品になったからなのでしょう。
本作の完成度の高さ、おもしろさ、感動の根底にあるのはここです。新海監督の作家性を大切にしつつ、プロデューサーや多くの素晴らしきスタッフに恵まれた結果……『君の名は。』は誰もが楽しめる大傑作に仕上がったのではないでしょうか。個人的に、苦手意識を持っていた新海監督の作家性が大好きになれたという意味でも、本作は大切にしたい作品になりました。
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2.“美しい風景”に見とれよう!
本作は、今までの新海作品の特徴が全て入っていると言っても過言ではありません。先ほど挙げた“少年少女の心の距離感”、“モノローグ”はもちろん、風景(背景)においても同様です。
『雲のむこう、約束の場所』の空を見上げる画、『秒速5センチメートル』の電車というモチーフ、『星を追う子ども』の田舎の風景など……それらはさらに繊細に描かれ、息を飲むような美しさがありました。
本作においては、この画の美しさが、作品のテーマと密接に絡んでいます。例えば、ヒロインは友だちと「日照時間は短いし」「嫁は来ないし」など、“オラこんな村嫌だ”なことを話しているのですが、そこで映される学校の帰り道の風景も美しくして魅力的なのです。
田舎だけでなく、東京というコンクリートジャングルもまた、とても美しく描かれています。それは、新宿駅に出た時の、多くの人が行き交う場所であっても……。
これにより、“いま住んでいる場所”も美しく、かけがえのないものに思えてくるのです。その場所が如何に大切であるかは、終盤の展開を思えば、より説得力を持って理解できることでしょう。
なお、新海監督は「思春期のころの自転車での帰り道、山の後ろに沈んでいこうとする夕日を見て、理由もなく涙を流してしまったことがあったんです」、「美しい風景を見れば、人はやさしい気持ちになれるんじゃないか」と、アニメで美しい風景を描いてきた理由を語っています。
新海監督が描いてきた風景は、現実よりも美しく見え、そして現実でこのような美しさを探してみたい、と思えるものになっています。新海作品が、若者から大きな支持を集める理由は、ここにあるのでしょう。
–{日本文化へのリスペクトがあった!}–
3.RADWIMPSの音楽で抜群の高揚感を得られる!
本作の音楽を手掛けたのは、気鋭の4人組ロックバンドのRADWIMPS(ラッドウィンプス)。なんと、ボーカル4曲とインスト22曲、計26曲が映画のために作られていたのです! 楽曲の作詞・作曲を担当した野田洋次郎さんは、脚本や絵コンテのやり取りを、映画が完成するまでの1年半ずっと続けていたのだとか。
RADWIMPSの楽曲は、ボーカル曲の歌詞が作品にリンクしていることはもちろん、作中でとある“駆け足”の演出がある時に、とてつもない高揚感を届けてくれました。『君の名は。』はもはやRADWIMPSなしではあり得ない、抜群な相性の良さを見せてくれるでしょう。
4.キャラクターが最高に魅力的だ!
この映画を万人におすすめできる理由のひとつは、メインとなる少年少女だけでなく、小学生の女の子から、おばあちゃんまで幅広い年代のキャラクターが登場すること。多くの人が、自分と重ね合わせる登場人物を見つけられることでしょう。
出色なのは、長澤まさみさん演じる奥寺先輩。彼女は主人公の問題や行動から“一歩引いた”オトナな女性で、こうした少年少女を主人公とした青春映画に対して斜めに構えがちな人にとっても、感情移入がしやすい人物になっていました。
その他では、ヒロイン(中にいるのは入れ替わった男の子)の変な行動にツッコミを入れる妹の四葉、気のいい男の子の勅使河原くんも大好きでした。勅使河原くんが“カフェ”に女の子二人を連れて行き、“いま住んでいる場所で満足しようぜ”と遠回しに訴えていることもたまりません。
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5.スマートフォンがある時代だけど、日本文化へのリスペクトがあった!
『ほしのこえ』では、携帯電話のメールが届くまでの時間が“物理的な距離感”として描かれていました。本作『君の名は。』ではスマートフォンが登場し、LINEのほかクラウド上に置くことができる日記アプリが、ふたりの主人公のコミュニケーションツールとして使われています。
そうした最新の若者のツールがある一方で、古き良き日本の伝統文化にも多大なリスペクトを捧げているところがミソ。具体的にはヒロインが巫女さんを務めているほか、“口噛み酒”というアイテムが登場し、何より彼女が「東京のイケメン男子にしてくださーい!」と叫んだ場所は、鳥居の下だったりするのですから。
つまりは、若者に必要不可欠なデジタルツールはあくまで“(物理的に)遠く離れたふたりのコミュニケーション”にすぎない一方で、若者がその価値を感じにくい日本の伝統文化や超自然的現象ことが、物語を動かし、主人公たちを“つなげている”と考えられるのです。この日本の描写は、海外でも大きな注目を集めるのではないでしょうか。
さらに、本作の企画段階でのタイトルは「夢と知りせば(仮)、男女とりかえばや物語」であり、その名の通り古典の『とりかえばや物語』のほか、小野小町が詠んだ歌が本作のモチーフになっているそうです。
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6.小説2作を読めばさらに理解が深まる!
『君の名は。』には、新海監督本人が手がけた小説のほか、サブキャラクターを掘り下げた特別編『君の名は。AnotherSide:Earthbound』が出版されています。これが、どちらも素晴らしい書籍でした。
映画は“3人称視点”ですが、小説は“1人称または2人称視点”となっているため、キャラクターの心理や行動の理由が、さらによくわかるようになっていました。小説にしかない表現もあるので、作品を補完、理解するのにうってつけでしょう。
『君の名は。AnotherSide:Earthbound』では、ヒロインの体に入った男の子がブラジャーについて悩んだり、ヒロインの妹の四葉がリアリスト(現実主義者)であったり、ヒロインの父の過去がわかったりと、作品をさらにさらに理解できるようになっていました。
どちらの小説も、映画ではサラッとしか描かれなかったシーンが「こういうことだったのか!」とわかる驚きに満ちているので、映画が気に入った方はぜひ読んでみてください。
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7.2回目の鑑賞では、オープニングに大注目!
本作をもう一度観たい、感動したい、と思っている方はきっと多いでしょう。ぜひ、2回目の鑑賞では、RADWIMPSのボーカル曲に合わせて展開する、オープニング映像に注目してほしいです。
その理由は言わないでおきますが、これは結末を知ったからでこそわかる描写が満載なのです。きっと、1度目の鑑賞の時には味わえなかった、新たなる感動があることでしょう!
『君の名は。』は、一生忘れられない映画になりました。ここまで感情を揺さぶり、現実で生きるエールをもらえる作品は、そうそうないでしょうから。悩むことはありません、ぜひ劇場でご覧ください!
(文:ヒナタカ)