『ズートピア』じっくり観てほしい、あまりにも細かすぎる「5つ」の盲点

映画コラム
ズートピア ジュディ・ホップス ニック

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前回の記事に引き続き、本編に登場する、気付きにくい“盲点”を紹介します。なお、2ページ目以降には大きなネタバレがあるので、映画を観た後で読むようにしてください!

【関連コラム】『ズートピア』解説、あまりにも深すぎる「12」の盲点

1.ナマケモノのフラッシュが置いていたマグカップの文に注目!

多くの人が爆笑の渦に包まれた、あのナマケモノが働く免許センターのシーンにも秘密があります。

それは、フラッシュが机に置いているマグカップに“YOU WANT IT WHEN?(いつそれがほしいの?)”と書かれていること。このマグカップを常にそばに置いておくことで、フラッシュは「そんなに早くできませんよ」ということを訴えていたのかもしれませんね。

ただ、“YOU WANT IT WHEN?”はやや幼児的な文であるため「もうちょっと丁寧な文を書いておけよ!」という気もするし、相手側から見えにくいところにマグカップを置いているので、フラッシュにそんな気持ちはさらさらない、それどころか市民にケンカを売っていたのかも(笑)。

ちなみに、この免許センターのシーンをよく見ると、証明写真を撮っているブタの女性の右にある壁に“ひっかき傷”があります。言わずもがな、これは動物たちがイライラするがあまりに付けた傷なのでしょう。

2.ベルウェザー副市長がいた部屋に注目!

ベルウェザー副市長がニックとジュディの捜査に協力していたシーンの部屋をよく見ると……ベルウェザーは机ではなく、流し台の上に板を乗っけたようなところに座っています!

これは明らかに、“急ごしらえ”で改造しただけの部屋ですね。副市長という役職なのに、こんなところを仕事の場にされるなんて! しかもこの部屋をよく見てみると周りにはボイラーみたいなものが……。この後にチーターのクロウハウザーがボイラー室への異動を命じられたことも、意味深です。

また、ベルウェザーが持っていたマグカップには“WORLD’S GREATEST DAD”と書かれていたのですが、DAD(パパ)の部分だけが書き直されASSISTANT MAYER(副市長)になっていました。

自分はこれをベルウェザーが書き直したと勘違いしていたのですが、“ライオンハート市長が、子どもからもらったプレゼントを書き換えてからベルウェザーにプレゼントした”と考えた方が自然ですね。

ライオンハート市長はベルウェザーをあまり大切していませんでした(こき使っていた)。その気持ちが、この雑すぎる、しかも自身の子どもの期待を裏切るようなプレゼントをすることに繋がったのでしょう。

※次ページからは大きなネタバレに触れています。未鑑賞の方はご注意ください。

–{次ページは大きなネタバレあり!!}–

3.ライオンハート市長とベルウェザー副市長にはモデルがいた?

本作は世界中にある偏見や差別を描き切った内容であり、劇中の草食動物を白人、肉食動物を有色人種と捉えることができます。

劇中で肉食動物(有色人種)が差別されること、草食動物(白人)の方が肉食動物よりも遥かに数が多いと示されることは、アメリカという国そのものを示していると言ってよいでしょう。

それに転じて、ライオンハート市長はオバマ大統領、ベルウェザー副市長はその昔に副大統領候補だったサラ・ペイリンを指しているとも考えられるのです。

ライオンハート市長はその名の通りライオンで肉食動物であり、それはオバマ大統領が黒人であることに符合しています。

劇中でライオンハート市長は、凶暴化した肉食動物を隠しておくという方法を取っていたのですが、これはオバマ大統領がたびたび指摘されている“引き延ばし”な政策に重なります(例えば、オバマ大統領は米軍のアフガニスタン駐留について2度撤収を延期した後、2016年末に人員を残して撤退規模を縮小すると発表しています)。

ベルウェザー副市長は物語の黒幕であり、肉食動物への偏見を煽ることを企て、自身は草食動物からの票を集めようとしていました。

サラ・ペイリンは女性から票を集められるということで注目を浴びた人物でしたが、その資質にはたびたび疑問の声が上がっていたりもします。

何よりベルウェザーとサラ・ペイリンはメガネをかけていることもあり、見た目がけっこう似ているんですよね(なお、サラ・ペイリンは2016年大統領選にて、ドナルド・トランプ候補の支持を表明していたりしています)。

これらの共通点は、ライオンハート市長とベルウェザーに“モデルがいた”というよりは、現実の政治家にも同じような人物がいるという“くすぐりを入れている”と捉えるべきかもしれませんね。

4.キャラクターの名前に隠されていた秘密とは?

キャラクターのそれぞれの名前も興味深いものになっています。個人的には、その名前(苗字)は“それぞれが目指していたもの”を示しているかのようにも感じられました。

たとえば、ライオンハート市長のフルネームは“Leodore Lionheart”。Lion Heartは、英語の慣用句で“勇敢な心”を指しており、劇中で彼がこそこそと肉食動物を隠していたことと対照的です。

ベルウェザー副市長のフルネームは“Dawn Bellwether”。“Bellwether”とは、羊の群れの先頭にいる“首鈴付き羊”のことで、転じて“先導者”。“Dawn”とは夜明け、転じて物事の始まりを意味します。

この名前自体が、ベルウェザー副市長の“自分が民衆を先導する人物になる”という野心を表していたとも取れるのです(もっとも、その野心は間違った方法へとつながったのですが)。

海賊版のDVDを売っていたウィーゼルトンの本名は“Duke Weaselton”。Dukeとは“公爵”という意味で、この名前はじつは『アナと雪の女王』に登場するウィーゼルトン公爵から取られており、原語でも吹き替え版でも同じ声優が演じていたりするのです。

“公爵”という立派な名前がついているようですが、苗字の一部にある“Weasel”の意味は“イタチ”に転じて“こそこそしたズルい男”という意味があったりもします。これは“らしい”名前ですね。

なお、“Fox(キツネ)”にも“Weasel”のような“ずる賢い”という意味があるのですが、詐欺師のキツネのニックのフルネームは“Nick Wild”であり、Foxという単語は入っていません。 これは“(こそこそとせず)ワイルドに生きたい”というニックの性格が表れているようでした。

警察官のジュディの苗字である“Hopps”も“らしさ”を感じます。日本でも浸透している“hop-step-jump”という言葉があるように、“はじめのひとっ飛び”を示しているようでした。

さらにさらに、ヌーディストたちのコミュニティにいた、ヨガのインストラクターのゾウの名前“Nangi(ナンギ)”は、ヒンドゥー語で“裸”を意味しているそうですよ。

–{“別れの言葉”にも盲点があった!}–

5.数々の原語での表現に注目しよう!

字幕版の上映が少なかった本作ですので、是非ご家庭ではこちらでもご覧いただきたいです。その理由は違った声が楽しめるということだけではありません。 “原語”でしかわからない表現も満載なのですから。

例えば、肉食動物への偏見を植え付けることになったあの発表の後、ニックはジュディへの別れの言葉として“Adieu”と告げています。

これはフランス語の別れの言葉なのですが、au revoirが英語のbyeに当たる軽い別れの言葉であるのに対し、adieuは“永遠の別れ”を意味しています。この時点では、ニックはジュディに「二度と会いたくない」という意思表明をしていたんですね。

吹き替え版でもうまく訳されていたと感じたのは、ジュディが「“赤杉”と言ってアイスの棒を売ったわ!」と非難するも、「赤過ぎる木だから、“赤過ぎ”と言ったんだ」とニックが返すシーンですね。

英語で樹木の種類を示すRedwoodと、単に“赤い木”を示すRed woodという、スペースが入るだけで違う言葉になるという遊びを、うまく日本語に落とし込めています。

その他、ジュディがニックに謝るときの表現や、最後にジュディがナレーションで語っている内容も、原語と吹き替え版で少し異なっていたりもします。

そして、ラストのジュディとニックの会話が、原語ではさらに彼らが“愛し合っていること”がわかるんですよね。

ニック『You know you love me.(俺のこと好きなんだろ?)』

ジュディ『Do I know that?Yes, yes I do!(どうかしら……ええ!大好きよ!)』

そう、ニックが言っている“好き”はLikeではなく“Love”なのです!日本語ではこの違いが表現できませんものね。

ちなみに、その後にあのナマケモノのフラッシュの“笑”撃のオチが待ち受けているわけですが、そのナンバープレートには”FST NML”と書かれています。これは おそらく“Fast Animal(速い動物)”の略で、彼なりに「俺は速いぜ!」というアピールをしていたんでしょう。

ちなみに、アメリカでは料金を払えば、ナンバープレートの数字だけでなく文字も自由に選ぶことができるそうですよ。

まとめ

ここに挙げた以外にも、ご家庭で『ズートピア』を観れば、さらにたくさんの発見があるでしょう。端々に表れる愛おしいキャラクターの性格、奥深い設定、名言の数々……その全てが宝物のような作品でした。

個人的に、どうしてもソフト版で確認しておきたいのは、ニックが警察の申込書に書いていた内容。ここはどうしても劇場では読めなかったので、さらなるニックの“秘密”が隠されているのではないか、とワクワクしてしょうがないのです!

是非是非、皆さんも『ズートピア』の隅々まで、楽しんでください!

(文:ヒナタカ)

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