(C)2016 TOHO CO.,LTD.
公開から2週間が過ぎてもまだまだ興奮冷めやらぬ『シン・ゴジラ』。
情報量が膨大ということもあり、「ここはこうだ!」「いや、こう考えるべきだ!」という議論も活発化、今や日本中が熱狂している、映画史に残る作品になったと言い切っていいでしょう。
さてさて、本作は随所に様々な“オマージュ(または元ネタ)”を感じる作品でもあります。ここでは、『シン・ゴジラ』から連想した映画を10作品上げてみます!
なお、前半の5つは大きなネタバレのない範囲で似ている映画を上げていますが、後半の5つは『シン・ゴジラ』のネタバレに触れています。まだ観ていない方はご注意を!
- 1.『日本のいちばん長い日』(1967年版)=お偉いさんたちの会議シーンがたっぷり!
- 2.『機動警察パトレイバー the Movie』=日本におけるシミュレーション映画である!
- 3.『オデッセイ』=みんなで知力を尽くす!
- 4.『ソーシャル・ネットワーク』=とにかく早口でまくしたてる!
- 5.『ガメラ2 レギオン襲来』=その時代の日本の出来事を切り取っている
- 6.『太陽を盗んだ男』=クライマックスが同じロケーション
- 7.『コンタクト』=謎解きの過程がそっくり!
- 8.『風立ちぬ』=直接的には死を描かない
- 9.『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』=描かれているのはこういう国だ!
- 10.『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ=ゴジラの造形そのものが……
- まとめ
1.『日本のいちばん長い日』(1967年版)=お偉いさんたちの会議シーンがたっぷり!
『シン・ゴジラ』はお偉いさんたちによる会議シーンがとにかく多い!でも、それこそがめちゃくちゃおもしろい!という映画でした。
1967年版岡本喜八監督作品『日本のいちばん長い日』も同様、太平洋戦争終結前の24時間という“時間制限”のある物語であり、とにかく多くのおじさんたちが汗水をたらしながら、喋って、喋って、喋りまくる! これがおもしろくてしょうがないのです!
また、『シン・ゴジラ』ではシーンごとに場所やキャラの役職などのテロップが“これでもか”というくらい、たっぷりと表示されていました。これも『日本のいちばん長い日』と同じなのです。
なお、『日本のいちばん長い日』には2015年のリメイク版もありますが、作風は1967年版とだいぶ異なっており、あまり『シン・ゴジラ』らしさはありません。“古い映画だから”と敬遠せずに、ぜひこの機会に1967年版『日本のいちばん長い日』を観てほしいです。
ちなみに、『シン・ゴジラ』の劇中では、1967年版『日本のいちばん長い日』の岡本喜八監督が、写真でのみ登場していたりもします。
2.『機動警察パトレイバー the Movie』=日本におけるシミュレーション映画である!
『パトレイバー』は、警察が“パトレイバー”と呼ばれるロボットを用いて、数々の犯罪に立ち向かう近未来ポリスアクションです。
この劇場版第1作『機動警察パトレイバー the Movie』では、“すでにこの世にはいない者が重要な情報を握っている、” “災害(事件)に対するシミュレーションが綿密に行われている”。という要素があり、これが『シン・ゴジラ』に共通しています。
『シン・ゴジラ』が“日本に巨大生物が現れたらどうなるか”なら、『機動警察パトレイバー the Movie』が“日本で巨大なサイバー(軍事)テロが起こったらどうなるか” というシミュレーション映画と言っていいでしょう。
ちなみに、『パトレイバー』はドラマ『踊る大捜査線』に強く影響を与えている作品としても知られています。会議や会話を重ねてから事件を解決する様は確かに両者で似ていて、『シン・ゴジラ』でも顕著に見られますね。
3.『オデッセイ』=みんなで知力を尽くす!
最近の映画では、こちらを連想する方も多いのではないでしょうか。
『オデッセイ』は、地球にいる知識人たちが、たった一人の宇宙飛行士の命を救うために尽力する物語です(『アポロ13』も似ていますね)。
『シン・ゴジラ』でも、自分の生活を犠牲にしてでも、日本の官僚たちが日本のため、国民を助けたいと願って、知力を尽くす描写がたっぷりとありました。
また、『オデッセイ』と『シン・ゴジラ』は、“バカがいない”ということも共通しています。全員がひとつの作品を決定するために熟考し、凡百のパニック映画によくいるような、場を混乱に導く不遜な者がいないのです。
4.『ソーシャル・ネットワーク』=とにかく早口でまくしたてる!
『ソーシャル・ネットワーク』と『シン・ゴジラ』で共通しているのは、とにかくその早口ぶり。主人公もその友人も、とにかく早口で喋りまくる!
その早口と編集のテンポの良さのおかげで、情報量が膨大であるのに、上映時間が2時間に収まっているということも共通していますね。
なお、同じくデヴィッド・フィンチャー監督作である『ゾディアック』も連想しました。『ゾディアック』は殺人事件そのものよりも、新聞社に送られた暗号文の謎や人間ドラマに焦点を当てた映画で、どこか『シン・ゴジラ』に似ているのです。
5.『ガメラ2 レギオン襲来』=その時代の日本の出来事を切り取っている
『シン・ゴジラ』は初代『ゴジラ』をはじめ、多くの怪獣映画へのリスペクトを感じる作品ですが、あえてひとつだけ上げるとすれば『ガメラ2』です。
両者は自衛隊員と怪獣(巨大生物)との戦いをリアルに描いていることが共通しており、かなり似た雰囲気を感じられるでしょう。
『ガメラ2』の劇中では、怪獣の出現により地下鉄が封鎖され、自衛隊員が地下鉄へと突入していくというシーンがあり、これは地下鉄サリン事件を連想させます。
『シン・ゴジラ』は明らかに東日本大震災および、福島第一原子力発電所事故をモチーフとした場面が出てきます。
初代『ゴジラ』が太平洋戦争、『ガメラ2』が地下鉄サリン事件、『シン・ゴジラ』が3.11以降の日本の姿と……日本人が受けた凄惨な出来事を怪獣映画に置き換えた “時代を切り取った”作品が生まれてきていたのです。
次のページでは、ネタバレありで似ている映画をあげます!
–{ネタバレありで似ている映画をあげます!}–
6.『太陽を盗んだ男』=クライマックスが同じロケーション
実は、終盤で矢口(長谷川博己)が指揮を取る科学技術館の屋上は『太陽を盗んだ男』のクライマックスと同じ場所だったりします。
『太陽を盗んだ男』は『日本のいちばん長い日』同じく、日本映画の金字塔と呼ばれる傑作であるので、こちらも是非ご覧になってほしいです。
7.『コンタクト』=謎解きの過程がそっくり!
『コンタクト』と『シン・ゴジラ』と似ていると感じたのは、“謎解き”のシーンです。
『コンタクト』では、宇宙人からの暗号のような図画を3次元にしてみることで、その意味がわかるというシーンがあります。
『シン・ゴジラ』では、折り鶴からヒントを得て、折り紙のようにすることで、牧教授の残した図面を解読できていました。この“2次元から3次元への展開で謎が解ける”ことが同じなのです。
ちなみに、『シン・ゴジラ』に登場した折り紙の図面は、タンパク質の比喩になっているという見方があります。
タンパク質はヒモ状の分子ですが、複雑に折り畳まれて立体的な形状になることで機能を発揮するため、しばしば分子生物学において“折り紙”に例えられているのだそうです。
つまり、牧博士が遺した図面は、ゴジラのタンパク質の立体構造を表したものであり、その解明がゴジラの生理機能(どう凍結されればいいか)の解明の手掛かりになったのではないでしょうか。
8.『風立ちぬ』=直接的には死を描かない
『シン・ゴジラ』の劇中では、ほとんど死体を見せることはありませんでした(靴を履いたままの足が瓦礫から見えているシーンはある)。むごたらしい描写ではなく、あくまで破壊された瓦礫などで、“間接的に”死を見せているのです。
アニメーション映画である『風立ちぬ』もまた、零戦の設計者の人生を描きながらも、戦争映画によくある物資不足や空襲も、直接的な死さえも描いていない作品でした。
しかし、“残骸”ではその被害がわかる……戦争で死ぬ人間を描いていないのは“あえて”なのでしょう。
これはごく個人的な印象になるのですが、『シン・ゴジラ』と『風立ちぬ』は、“作り手の、破壊をするものへの、大好きな気持ちと、嫌悪している気持ちが共存している作品”であると感じています。
『風立ちぬ』の監督である宮崎駿さんは、軍事オタクで、飛行機が大好きでありながらも、戦争を否定しているお方です。そうした自身にはらんでいる矛盾が、“戦闘機を扱いながらも(戦争による)死を描かない”という作風につながったのではないでしょうか。
『シン・ゴジラ』で直接的に死を描いてなかったのは、実際に東北大震災で被害に遭われた方への配慮と、それ以上に“大好きなゴジラが人を殺すところを見たくない(見せたくない)”という気持ちが表れた結果のように思えるのです。
9.『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』=描かれているのはこういう国だ!
(C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved
『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』は、前作とまったく変わらない “アメリカ万歳!”“人類皆兄弟”“細けえことはどうでもいいんだよ!”な作風がとっても素敵な映画でしたね(笑顔)。
愛国心が多分に込められているのは、『シン・ゴジラ』も同じです。
おもしろいのは、日本とアメリカという“お国がら”が両者で表れまくっていること。
例えば『シン・ゴジラ』では作戦が成功しても「うおおおー!」な感じの歓声を一切あげないのが日本人らしくて大好きだったのですが、アメリカンすぎる作風の『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』では……(言わずもがな)。
10.『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズ=ゴジラの造形そのものが……
『シン・ゴジラ』は庵野秀明さんが総監督・脚本・編集までを手がけた作品。その代表作である『新世紀エヴァンゲリオン』は、もっとも多くの人が連想する作品でしょう。
レーザーを発射し、ビル群を破壊するゴジラは“エヴァ初号機”そのものです。
会議シーンの雰囲気、カット割りの多さにも、『エヴァ』らしさを存分に感じられました。
英語混じりのルー大柴のような喋り方をするカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)は、英語が堪能で自信家ということが共通している“真希波マリ”というキャラを彷彿とさせますね。
また、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』と同時上映された短編作品『巨神兵、東京に現れる』も、『シン・ゴジラ』との共通点が多い作品です。
これは『風の谷のナウシカ』に登場する“巨神兵”が現代の東京に現れた様子を、特撮技術を用いて描いた作品。この巨神兵が放ったビームの表現や、ビルの破壊表現は、かなり『シン・ゴジラ』に似ているのです。
まとめ
ここで上げた映画以外にも、『シン・ゴジラ』に似ている作品がきっとあるはずです。
本作について議論をする際、こうした“連想する作品”を話のネタにすると、さらに会話に花が咲くでしょう。
ぜひぜひ、“オマージュ(または元ネタ)”を感じる作品を見つけてみてください。
(文:ヒナタカ)