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遂に、7月29日から全国公開が始まった、超話題作「シン・ゴジラ」! 敵の怪獣を安易に出現させることなく、完全に人間とゴジラ、いや日本国家とゴジラの戦いに焦点を絞り、宣伝ポスターにもある「ニッポン対ゴジラ」のコピー通り、日本という国の存亡を賭けた戦いを、圧倒的な迫力と説得力で描く姿勢に、今や観客は絶賛の拍手を送っています。
我々観客の興味、それは、果たして今回どうやってゴジラを「無力化」させ勝利するのか?
特に今回の「シン・ゴジラ」は、想像をはるかに超えた破壊力を備えたゴジラに対抗すべく、人間の頭脳と抜群のチームワーク、そして日本のお家芸である「工夫」を駆使して繰り広げられる、見事な作戦行動に燃えた!との声が多数上がっており、ハリウッド的な物量作戦とも全く違う、正に「日本でなければ作れないゴジラ映画」だと言えるでしょう。観客の熱狂と絶賛の声、そして興業的大ヒットも納得の内容だけに、まだご覧になっていない方も、ぜひご自分の眼でその迫力を体験して頂ければと思います。
ところで皆さんは、今を遡ること37年前、ある幻のゴジラ漫画が、ひっそりと雑誌「月刊少年マガジン」に掲載されていたことをご存知でしょうか?
そのタイトルは、「`79ゴジラ・エネルギー大作戦」!
諸般の事情により、未だに単行本にも未収録であるこの漫画。実は、ゴジラ映画が復活する1984年よりも、5年ほど前に書かれたものであり、内容的にも敵役の怪獣が登場せず、人類が知恵と作戦でゴジラにどう立ち向かうか?を見事に描いており、正に「シン・ゴジラ」の展開にも通じる内容となっています。
実際、今回「シン・ゴジラ」を劇場で鑑賞した後に、真っ先に思い出したのが、この「エネルギー大作戦」での対ゴジラ撃退作戦でした!
ちなみに、この作品が掲載されたのは、「月刊少年マガジン」1979年11月号。作者は、いしいしんいち先生で、実に50ページにわたる長編漫画となっています。しかし、掲載誌が月刊雑誌であること、未だに単行本に未収録であることなどから、現在では非常に入手困難となっており、高いクオリティを持ちながらも、残念ながら読むことが難しい状況となっています。「シン・ゴジラ」が公開される遥か以前に、こうして人類対ゴジラの頭脳戦を描いた作品が存在していたことに敬意を表して、今回は是非この漫画を取り上げたいと思います。
さあ、次のページでは、気になるその内容と、問題の対ゴジラ作戦の全容を、ご紹介していきます!
「シン・ゴジラ」の展開と似ているため、事実上の「ネタバレ」になりますので、鑑賞前の方は鑑賞後にお楽しみください。
–{「`79ゴジラ・エネルギー大作戦」とは?}–
`79ゴジラ・エネルギー大作戦のあらすじ
小笠原海域の洋上に浮かぶ巨大な研究施設があった。巨大タンカー3隻を繋げて改造した、この「代替エネルギー開発センター」では、滝沢教授と大江戸助教授を中心とした研究チームにより、世界中のエネルギー問題を一気に解決する計画が、今まさに実行されようとしていた。
その画期的な試み、つまり日本海溝の奥底で核爆発を起し、破れた地殻から噴出すマグマの熱を、代替エネルギーとして使用する計画は、見事に成功!
しかし、その直後から海底で続く異常振動により、エネルギー伝達ケーブルが破損してしまう。
核爆発により自然界のバランスが崩れると、密かに計画に反対していた大江戸助教授と、息子の健一。そして計画責任者である滝沢教授の3人を乗せた潜水艇は、破損箇所と原因の調査のために、日本海溝の奥深くへと潜行していく。そこで彼らが見たもの、それは物凄い力で引きちぎられたようなケーブルの残骸だった!そして現れる巨大な生物の影、それこそ核爆発によって眠りを覚まされた大怪獣ゴジラだったのだ!緊急浮上する潜水艇を追って海面に浮上したゴジラによって研究施設は破壊され、そのままゴジラは日本に上陸!
自分達が招いた危機への自責の念に駆られる研究者たちの眼の前で、都市を火の海にして暴れまわるゴジラの恐ろしい姿。
「あんな炎の化け物みたいな奴、氷付けにしちゃえばいいんだ!」健一の発した言葉が、爬虫類で変温動物であるゴジラの、唯一の弱点攻略へのヒントとなった。
研究施設のうち、1隻だけ焼け残った巨大タンカーの上にゴジラをおびき寄せ、超低温ガスを噴射してゴジラの動きを止めて、そのまま日本海溝の真上までゴジラを運び、タンカーごと爆破して残骸を錘代わりに、ゴジラを再び海溝の奥深くへと沈めようというのだ。果たして、人類の存亡をかけたゴジラ撃退作戦は成功するのだろうか?
この漫画の魅力
1975年公開の、シリーズ15作目にして初期ゴジラシリーズ最終作である「メカゴジラの逆襲」。その記憶も新しい時期に書かれた漫画だけに、ゴジラをどうやって再び登場させるか?そして、恐怖の象徴である「破壊神ゴジラ」を登場させるという、原典回帰を意識したその内容には、子供向けから大人の鑑賞にも堪えられる作品へと移行させようという、作者の意図が感じられて非常に興味深いものがあります。
人類自らが、自然のバランスを壊して招いた怒り=ゴジラに、1984年版「ゴジラ」に登場したスーパーXの様な超兵器や、ゴジラと闘う敵怪獣を出現させることなく、あくまでも人間の頭脳と作戦でゴジラに立ち向かう!という展開は、過去に製作された敵怪獣とのバトル路線とは、一線を画すハードな内容であり、きっと「シン・ゴジラ」に熱狂した人たちの心にも、刺さることでしょう。
特に素晴らしいのが、ゴジラが爬虫類=変温動物であるという視点から、その弱点を設定したアイディア!これはシリーズ2作目「ゴジラの逆襲」のラストを思い出させるし、巨大タンカーにゴジラを固定して運ぶ!というのは、このマンガが発表される3年前に公開された、1976年版「キングコング」や、シリーズ3作目の「キングコング対ゴジラ」の影響でしょうか。更に、洋上のタンカーにおびき寄せて捕獲する、という作戦自体は、むしろ大映の「ガメラ」シリーズからの影響が大きいとも言えるでしょう。
1984年の復活以後、平成ゴジラシリーズが次第に敵怪獣とのバトル物に移行していったことを考えても、1979年のこの時代に、人類対ゴジラを前面に打ち出したこの漫画が描かれたことは実に興味深く、ゴジラ史的価値も高いと思います。
「シン・ゴジラ」の成功と観客からの反響を見るにつけ、この「エネルギー大作戦」の方向性は決して間違っていなかったし、正に時代を先取りしすぎた傑作だった!との思いが強くなった、とだけ言っておきましょう。
「シン・ゴジラ」のヒットと関連して、数々の雑誌や書籍が書店の店頭に並んでいますが、この傑作漫画が再び人々の目に触れる日が来ることを、個人的に願わずにはいられません。
(文:滝口アキラ)