股間の食い込み200%アップ!実はサム・ライミ版「クモ男2」な「変態仮面」続編!

映画コラム

90年代初頭、週間少年ジャンプに連載された大人気ギャグ漫画「究極!!変態仮面」を、2013年に映画化し大ヒットを記録した「HK変態仮面」。

本作「HK 変態仮面・アブノーマル・クライシス」は、その待望の続編だ!前作をはるかに越えるスケールの本作だが、実は主人公のビジュアルやタイトルから受ける印象とは、真逆の正統派スーパーヒーロー映画となっている。

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(C)あんど慶周/集英社・2016「HK2」製作委員会

結論から言おう、これこそ自信をもってオススメできる、日本が世界に誇る「スーパーヒーロー映画」の傑作だ!

ストーリー

ある日突然、世界中から女性のパンティが突如として消えるという怪事件が発生!愛する彼女を失い、同時に自身の変身アイテムであるパンティまでもが消えようとしている中、主人公・狂介の前に史上最強の敵が現れる!果たして狂介は変態仮面に変身できるのか?そして、世界を守る事が出来るのだろうか?

主要キャストが奇跡の続投!自身のキャリアをこの役に賭けた男、鈴木亮平!

前作で驚異の肉体改造を遂げた鈴木亮平が、この続編でもまさかの続投!

前作公開時から、某「クモ男映画」並みに「三部作構想」を明言していた彼だけに、朝ドラでの大ブレイク後にも関わらず、再びこの役を演じるという、その役者魂にまずは拍手を送りたい!

前作「変態仮面」の撮影時には、撮影開始に合わせて完璧に肉体を作り上げたものの、なんと撮影開始が半年延期になるというトラブルが発生!それにもめげることなく、また一から肉体改造をやり直すという、体調管理の徹底振りだったそうだ。その役作りに対する真摯な姿勢こそが、「変態仮面」に対する高い評価となって、鈴木亮平が後に大ブレイクする布石となったことは間違いない。

更には、同じく朝ドラでブレイクした清水冨美加も再びヒロインとして参加するなど、前作公開後に大ブレイクした主要キャストたちが、奇跡の再集結を実現させた本作!
これこそ、前作「変態仮面」がスタッフ・キャストにどれだけ愛され、大事に思われているかの証明と言えるだろう。実際、本作を観た人たちのレビューも、非常に高評価のものが多い。

中でも今回素晴らしかったのが、前作「変態仮面」で悪役の「ニセ変態仮面」を演じた安田顕の存在だ!前作における、独自の変態哲学の熱弁シーンも最高だったが、今回も最終決戦に向かう主人公に修行を授ける謎の変態仙人役で出演。まさにベスト・キッドにおけるミヤギ老人的役割りを、完全に演じきっているので要チェックだ。

本作のように、全編に散りばめられた下ネタと、強烈なビジュアルの主人公の場合、演じる側が照れたり、ふざけて演じてしまうと、観客側も演者以上に恥ずかしくなってしまう。
しかし「変態仮面」では、演技力のある役者が大真面目に真剣にくだらないことをやりきるという、芸術表現としてもかなりハードルの高い領域に挑戦しており、その姿勢は時に観る者の感動を呼ぶほどだ。

とにかく、そのビジュアルですでに笑いの対象としかならない存在に、どうやってヒーローとしての威厳、そして悲しみを表現するのか?実はその部分にこそ、俳優鈴木亮平の抜群の演技力と肉体の存在価値がある。弛んだり中途半端な肉体は、単なる笑いの対象にしかならないが、原作漫画を完璧に再現するかのような彼の肉体は、観る人の感動を呼ぶからだ。そう、鈴木亮平自身の言葉で言うなら、「本気は伝わる」ということになるだろうか。

メイン

(C)あんど慶周/集英社・2016「HK2」製作委員会

実は、正統派のスーパーヒーロー映画だった!

前作「変態仮面」では、まだ製作側も内容的にどこまで吹っ切って良いか、観客との間合いを計っていたように感じられた。しかし、本作ではそんな迷いは全く無く、ついに「年齢制限」をも撤廃!前作の大ヒットを受けて、自信に満ちて製作された本作が試みたのは、実はギャグ要素の拡大ではなく、意外にも正統派「スーパーヒーロー映画」の王道路線の実現だった。

原作マンガにおいても、下ネタはあくまでもギャグ要素として使用されていたのだが、本作での下ネタ要素は前作に比べて、極めて押さえられている。前作の「変態仮面」のように、年齢制限を避けるためだとも考えられるが、マンガの世界観に近く、ギャグ重点で作られた前作に対し、本作が目指したのは、なんと意外にも本家のアメコミ映画版でも成功するのが困難な、ヒーローがヒーローとして戦い、存在し続ける上での葛藤を描くことだったとは!

主人公の特異なビジュアルや下ネタなど、どうしても外側の包装に惑わされてしまいがちなので、ここはぜひ注意が必要なところだろう。

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–{ヒーローだけでなく、悪役も更にスケールアップ!}–

ヒーローだけでなく、悪役も更にスケールアップ!

前作では主人公がまだ高校生だったため、高校の制服と下ネタという組み合わせが非常に青臭いというか、一種の背徳感と恥ずかしさを観客に与えていた。

しかし、続編では主人公達も大学生となったため、その辺の居心地の悪さや生々しさがかなり薄れ、変態仮面と悪役との対決を純粋に楽しめる作風となったのは、非常に嬉しいところだ。そう、この続編の重要な成功要因として、「悪役造型の成功」がまず上げられるだろう。思えば前作では数々の敵キャラが登場したが、いずれもチョイ役の出オチ要員扱いにしか見えなかった。悪のボスキャラ「大金玉男」でさえも、何故彼が学園を制圧したいのか?の説明が不十分であり、ラストの決着も少し唐突であっけない印象が強かったのは非常に残念なところだ。

しかし続編である本作では、「大金玉男」の目的が変態仮面への復讐という、強い一本のラインに集約されるため、サブキャラの柳楽優弥の好演と相まって、悪役の存在感が前作以上にパワーアップ!そのためラストの最終決戦へ向けて、変態仮面の「絶体絶命の危機」感が更に際立つことになっており、前作に感じられたラストの「あっけなさ」は、見事に解消されている。

サブ2

(C)あんど慶周/集英社・2016「HK2」製作委員会

実はシリーズ2作とも、共通のテーマを描いていた!

前作を、主人公が自身の「変態性」に目覚めるまでの映画だとすれば、本作は自身がそれを受け入れ、「正義の変態」だと覚醒するまでの映画だと言える。しかし、実はシリーズ2作品とも、同じテーマを扱っていることにお気づきだろうか?2作品とも共通して描いていること、それは「ヒーローが変身出来なくなった時、彼がどう行動し克服するか?」だ。言わば「挫折からの復活」を、シリーズ通して描こうとしている、とも言える。変身のアイテムである下着に頼らずに、自身の中にある真の強さと自身の使命に気付いて変身するという、内なる力の覚醒の瞬間を目にした時、何故か変態仮面のビジュアルが最高にカッコよく感じてくるほどだ。

ここだけ見ても、日本独自のスーパーヒーロー像の描き方として、海外のヒーロー物との差別化がなされているのは、間違いないだろう。

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–{実は「シビル・ウォー」と同じ問題を扱っている!「変態仮面・アブノーマル・クライシス」}–

実は「シビル・ウォー」と同じ問題を扱っている!「変態仮面・アブノーマル・クライシス」

実は変態仮面のマスクは、自身の正体を隠すためだけの物ではない。

それ自体が変身用アイテムとして必要不可欠であり、パワーを得るためには被り続けなければならない物。例えるなら、アイアンマンにとってのアーマーだとも言える。
問題はそのエネルギー源が、ある特定の人物=ヒロインの精神的犠牲の上に成り立っているという点だ。

実は本作のテーマは、「シビル・ウォー」における「一般市民への犠牲問題」に通じるものなのだ。社会全体への被害や犠牲ではなく、もっとミニマムな世界、つまり自分に一番近くて大切な人の不幸の上に成り立つヒーローの存在を描くことで、観客により身近な問題として感じさせることに成功している。

それに加えて、本来原作の「シビル・ウォー」においてのもう一つの重大な問題である、「スーパーヒーローたちが、自身の正体を隠す理由」という部分こそ、実は映画「変態仮面」で描こうとしてきたことなのだ。

ヒーローの正体が明らかにされることで、彼の身近な存在が危険にさらされる描写は、本家「クモ男」の原作でも何度も描かれてきた。実際、本作にも映画版「クモ男」へのオマージュは度々登場するのだが、特に顕著なのは「クモ男2」での電車事故を食い止めるシーンの再現だろう。体を張って自分達を救ってくれたヒーローに対する、一般市民の畏敬の念と感謝を見事に表現した屈指の名シーンの再現は、確かにサム・ライミ版の「クモ男2」の名シーンへのオマージュではあるのだが、本来「シビル・ウォー」で描かれなければならなかった部分である、「ヒーローが自分の正体を隠す必要性」を見事に表現していて、ここだけ取ってみても、本作は「シビル・ウォー」を越えた!と断言できる。(注:あくまでも個人の見解です、念のため)

前作「変態仮面」の大ヒットにより、なかなか日本で成功しなかった、「一般向けのヒーロー映画」が、「下ネタと裸」による一点突破で突き抜け、見事に成功したことは、まさに快挙といっていいだろう。メイキング映像で鈴木亮平自身が語った言葉「この映画は絶対に世界で受ける」が、文字通り実現したと言うわけだ。

待望の続編である、この「変態仮面・アブノーマル・クライシス」こそ、まさに世界市場に通用する日本オリジナルの「ヒーロー映画」誕生の証明だと言える。

サブ1

(C)あんど慶周/集英社・2016「HK2」製作委員会

最後に

「クレヨンしんちゃん」や「ドラえもん」の映画が、実は大人の鑑賞に堪えうる作品内容を持つことは、すでに一般観客にも浸透しているが、どうか本作「変態仮面・アブノーマルクライシス」も、うわべに惑わされて馬鹿にすることなく、是非劇場に足を運んで鑑賞して頂きたい。変身アイテムと主人公のコスチュームが特異なだけで、その本質は普通にヒーロー物の王道を貫いて突き抜けて、更に月まで行ってしまったような内容の作品だけに、普段アメコミ映画を劇場で観ている方たちにこそ、絶対のオススメ作品と言えるからだ。

どうしても「恥ずかしいから、DVDになってから家で観る」という風になりがちな作品だが、幸い今は窓口でタイトルを言って買わなくても、オンラインでチケット予約が出来る時代なので、ここはぜひとも大スクリーンで、鈴木亮平の奇跡の肉体を存分にその眼に焼き付けて頂ければと思う。

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(文:滝口アキラ