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『ズートピア』が大好きすぎて、吹き替え版を1回、字幕版を2回、計3回を劇場で鑑賞しました。正直、あと20回くらい観てもぜんぜん飽きないでしょう!
ここでは、再び鑑賞することで気づいた、吹替版のほうがわかりやすい小ネタ、字幕版でのみわかる“差別や偏見への皮肉”を解説します。
なお、1ページ目では大きなネタバレはありませんが、2ページ目では物語に大きく関わるネタバレがあります。映画をまだ観ていない方はご注意ください!
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1.吹き替え版のほうがわかりやすいセリフ:ジュディが計算を得意な理由
“ニックを脱税容疑で逮捕しようとする”シーンでのジュディのセリフは、吹き替え版のほうがわかりやすくなっています。
ここで、ジュディは脱税の金額をパパッと計算したあと、それぞれでこう言っているのです。
字幕版:「私はマヌケなウサギだけど、掛け算は得意なのよ(I mean I am just a dumb bunny, but we are good at multiplying.)」
吹き替え版:「ウサギは家族が多いせいか、計算が得意なの」
そう……ジュディはオープニングで275匹(!)のきょうだいたちとの別れを告げていましたね。
吹き替え版では計算が得意な理由を「家族が多いから」と直接的に語っていたのですが、原語は“それとなく相手に気づかせる”間接的な表現になっていたのです。
2.吹き替え版のほうがわかりやすいセリフ:『アナと雪の女王』の皮肉
ジュディが事件後に怒られてしまうシーンで、ボゴ署長は字幕版において、こう言っていました。
字幕版:「ミュージカル映画のように歌を歌っても夢が叶ったりはしない。あきらめろ(Life isn’t some cartoon musical where you sing a little song and all your insipid dreams magically come true. So let it go.)」
この最後の「let it go」が吹き替え版でどう訳されていたかと言うと……なんと「ありのままで」になっていました。
これは言うまでもなく、『アナと雪の女王』の主題歌のタイトルであり、もっとも印象的なフレーズですよね。
字幕版ではこの「let it go」が「あきらめろ」と訳されていたので、このパロディにちょっとだけ気付きにくくなっているのです。
しかし……ディズニー映画で「歌を歌っても夢が叶ったりはしない」というセリフを言わせてしまうとは(笑)。
こうしたミュージカルへの皮肉は『魔法にかけられて』でもありましたね。
3.字幕版のみで気づけるセリフ:ウサギへの“かわいい”の意味
ジュディは、のんびり屋のチーター・クロウハウザーに「かわいい(Cute)!」と言われたとき、こう返しています。
字幕版:「あのね、ウサギどうしでかわいいって呼ぶのはいいけど、ほかの動物に言われるのはちょっと……(Ooh, ah, you probably didn’t know, but a bunny can call another bunny ‘cute’, but when other animals do it, that’s a little…)」
吹き替え版:「あのね、ウサギは小さくてかわいいけど、だからって見た目で判断されるのは、あまり、その……」
ここでは原語と吹き替え版で、まったく違う意味になっている!
なぜかと言えば……おそらく、原語ではこの“cute”が“n*gg*r(黒人への蔑称)”を暗に示していていたからだと思います。
n*gg*rは差別用語の代表のような言葉ですが、一方で黒人どうしであると「やあ兄弟!」のような親しみを込めて使うこともあります。
まさに、ここでジュディが指摘している「ウサギどうしはいいけど、ほかの動物に言われるのはちょっと」、そのままなんですね。
本作『ズートピア』では差別と偏見にまつわる問題を描き切った作品。ここでも“黒人差別”をそれとなく示していたのではないでしょうか。
もちろん日本人にとってn*gg*rだと気づける人はほとんどいないと思うので、吹き替え版で“ジュディの見た目で評価されることを嫌っているセリフ”に変えたのも、間違いではないと思います。
4.字幕版のほうが気づきやすいこと:ラジオから聞こえてくる音楽はジュディの気持ちそのまま?
ジュディが聴いていたラジオからは、彼女の気持ちそのままのような音楽(の歌詞)が聞こえてきたりするのですが……これが吹き替え版では訳されていなかったため、ちょっとわかりにくくなっていました。
字幕版で歌詞を読むと、クスクス笑いつつも、ジュディに感情移入できるでしょう。
ラジオからはR.E.M. の「Everybody Hurts」やEric Carmenの「All By Myself」などが流れているので、よく聴いてみることをおすすめします。
※次ページでは『ズートピア』本編のネタバレに触れています!まだ映画を鑑賞していない方はお控えください!
–{ネタバレありのそれぞれの違い、とは!?}–
5.字幕版と吹き替え版ではニックのなぐさめかたが違う!
ニックが泣きじゃくったジュディを抱き寄せて、頭をなでながら慰めていたときのセリフも、字幕版と吹き替え版で異なっています。
字幕版:『ウサギ族は泣き虫だからなあ(Okay, oh you bunnies, you’re so emotional.)』
吹き替え版:『本当がんばるんだから』
字幕版でのニックのセリフは、ウサギという“人種”を指しているようでいて、じつはジュディの“人柄”をみている言葉になっています。
皮肉屋のニックの“らしさ”が出ていて、もう惚れそうでした。
一方で、吹き替え版でのニックのセリフは、“ジュディのがんばりをわかってあげているセリフ”に。
これも大好きです。森川智之さんのイケメンボイスがたまらん!
6.“Try Everything”の合いの手ではスペイン語が使われていた!
本作のラストでは、ズートピアの有名人である“ガゼル”が主題歌である“Try Everything”のライブを行い、いままでの登場人物みんなが踊っていました。
ここでガゼルを演じていた歌手のシャキーラが「前脚を上げて!」などと“合いの手”を入れています。
吹き替え版ではこの合いの手は日本語でしたが……じつは原語では、英語と、スペイン語を交互に叫んでいたのです!
なぜスペイン語でも合いの手を入れていたのかと言えば……シャキーラがスペイン語を公用語とするコロンビアの出身であったことと、アメリカに住んでいるヒスパニック(スペイン語を母国語とする移民たち)にも合いの手を求めていたからなのではないでしょうか。
ヒスパニックの人々と、そうではない人々の間には、言語のほかさまざまな問題があり、いまでも仲違いをしているほか、社会的分裂が問題視されています。
最後にシャキーラが英語とスペイン語それぞれで合いの手を求めていたということは、それぞれの多様性を認め合い、仲良くしてほしいということ……まさに『ズートピア』で語られたテーマそのものが訴えかけられていたのです。
まとめ
なお、『ズートピア』にはこれ以外にも、吹き替え版、字幕版、それぞれの声優の魅力もたっぷりあります。
吹き替え版では森川智之さんのほか、ライオンハート市長役に玄田哲章さん、ボゴ署長役に三宅健太さん、ベルウェザー副市長役に竹内順子さんと、実力と人気を兼ね備えた声優が名を連ねています。
ジュディ役の上戸彩さん、クロウハウザー役のサバンナの高橋茂雄さん、キャスター役で登場する芋洗坂係長も、役にあっていてじつにうまい!
字幕版の声優で注目なのは、ライオンハート市長役のJ・K・シモンズでしょう。よくよく聞いてみると「『セッション』の鬼教師役だ!」と気づけるところが多々ありますよ。
ぜひ2回目以降の鑑賞では、それぞれの違いを楽しんでみてください!
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(文:ヒナタカ)