『猟奇的な彼女』、『僕の彼女はサイボーグ』に続くクァク・ジェヨン監督の”彼女”シリーズ第3弾『更年奇的な彼女』が本日4月8日(金)より公開されています。
シネマズではクァク・ジェヨン監督の来日に合わせ、監督と主人公チー・ジアの吹替を担当された藤原紀香さんへインタビューを行いました。
監督には作品の魅力や演出意図などを。藤原紀香さんへんは作品の感想や吹替作業のエピソードなどを伺って参りました。
──監督と藤原さんは本日初対面とのことですが、お互いの印象を教えて下さい。
クァク・ジェヨン監督(以下、監督):初対面ですけれども、お会いした時にジョウ・シュンさん(主人公を演じられた女優)と似ている雰囲気があって驚きました。ジョウ・シュンさんはパワフルな部分がある女優さんですけれど、藤原紀香さんも内面に強いものを持たれているのではないかなと思いました。
藤原紀香(以下、藤原):今までの作品を拝見させて頂き、温かいイメージを持っておりました。実際お会いしてみると、映画自体のイメージと同じでとても優しい方だなと。
──監督は韓国のご出身ですが、日本や中国などでも映画を撮られています。ご自身のグローバルなご活躍についてはどう思われますか。
監督:もちろん私の母国は韓国ですけれども、日本で撮る際は日本が母国、中国で撮る際は中国が母国、そう思って撮影をしています。私にとって重要なのは国ではなく観客のみなさんです。それを重要視しているので、私の映画を好きと言ってくださる方、その方たちのいらっしゃる国で、映画を撮り、そして観て頂くことが何よりも大切です。
──監督へ、今回中国で撮影することになった経緯について教えて下さい。
監督:幸い私が以前撮りました『猟奇的な彼女』、『僕の彼女を紹介します』、『僕の彼女はサイボーグ』を中国でたくさんの方に愛して頂くことが出来ました。そのために中国の方から一緒に映画を撮らないかと声をかけてくださいました。
実は最初は楊貴妃の映画を撮る予定だったのです。しかしその時点では中国の事を全く知らずに中国に行き、苦労も色々してしまいまして…。私にとっては実習期間が少しありまして、色んな経験をすることが出来ました。
そのうちに、そろそろ中国で撮影しても大丈夫かなと思うくらい中国のことを理解することができ、本作を制作することになりました。精神的な苦労もありましたけれど、様々な事を学ぶことができました。
──監督自身は中国映画をよくご覧になられますか。
監督:昔から見ていました。特に韓国では1980年代は香港映画のブームがあり、1990年代に入ってからは中国映画のブームがありました。いずれも私たちが今まで見てきたハリウッド映画とも違う、また日本映画とも違う、新しいものがあったので、様々学ぶことが出来ました。
──監督へ、ジョウ・シュンさんが出演されている映画もご覧になられていましたか。
監督:見ていました。以前ツイ・ハーク監督の『女人不壊』(英語タイトル:All About Woman)のシナリオを書いたことがありまして、その作品の主人公がジョウ・シュンさんでした。そんなご縁もありました。
『ピアノを弾く大統領』という映画のシナリオを私は以前書きまして、イム・スジョンさんのデビュー作ですね。そのイム・スジョンさんとは私が監督を務める『時間離脱者』でご一緒することになりました。
そんなことで、出会いは繰り返すのだなと思っています。ですので、藤原紀香さんとまたどこかでお会いできるのではないかと思っています。
──藤原さんへ、今回の映画をご覧になった最初の感想を教えて下さい。
藤原:随所で泣いてしまうほど、本当に感動しました。このラブストーリーは、国を超え多くの人のハートに刺さるんだなと思いました。とても面白いと素直に思いましたし、温かい気持ちになれるし、声をやらせて頂きたいと心から思いました。
──監督へ、今回の主人公に込めた思いを教えて下さい。
監督:今回の主人公は自己主張が強く自分の意見を言う強い女性です。しかし心に大きな傷を背負っています。それを自分で癒すことが出来なくて、哀れだなと思ってしまうヒロインです。
『猟奇的な彼女』の主人公も以前ボーイフレンドを失ってしまって、心の傷が癒やされていないという部分がありました。私はそういうところを重要視しているのです。
なぜなら、愛というのは完璧な男女が出会って成されるものではないからです。お互いまだ未熟なところがある、どこかしら欠けているところがある男女が出会って、お互いを満たしていくのが愛だと思うので、それをこの映画でも出していきたいと思いました。
私からすると完璧な女性というのは魅力に欠けている気がするのです。何か心に痛みを感じていたり、悩みを抱えたりしている女性の方が美しく思えたり守ってあげたいと思ったりすると思います。
–{藤原紀香さんが思うヒロインの魅力とは?}–
──藤原さんへ、監督の描くヒロインへの共感や魅力的だと思うところを教えて下さい。
藤原:監督の描くヒロインは、友達からすると、とても手が掛かるし、大変なキャラクターだと思います。
でも、彼女を助けたい、見守りたい、この子は本当に愛すべき人だと男女ともに思えるのは、監督の映画のヒロインが常に自身に正直だからだと思います。そして、それだけではなく、彼女を見守ってくれている周りの人たち愛に気づいて成長していく姿に見ている方が自分を投影させることができるのかなあと。
多くの人間はどこか不完全なのが当たり前で、皆さんそこに共感できると思います。
男性の方はそういうところ、つまり動物的で、直感的で、正直過ぎるところに対して、守ってあげたいって思うんじゃないかなと思います。
──藤原さんの吹替は感情が見事に表現されていて素晴らしかったです。落ち込んでる時や、お酒飲んでる時などが特に。
藤原:毎回アフレコは難しいと思うのですが、今回は特にそう思いました。喜怒哀楽が激しい主人公なので、ブースの中で一喜一憂、主人公と同じように座り込んで泣いたり、喜んだり。
アフレコは人の演技に声を乗せるので、主人公チー・ジアと一緒に一喜一憂し、泣いて、笑って、気付いて、そして一緒に歩き出しました。ブースの中でチー・ジアを生きました。
監督:あのお酒のシーン、ジョウ・シュンさんは本当にお酒を飲んでいるんですよ。だからお酒を飲みながらやってくれても良かったんですよ(笑)
藤原:そうなんですか!(笑)実は私、20数年前ですが、デビュー当時お酒に酔うシーンがあり、実際に少し飲んで現場に行ったことがありましたが、監督に怒られました(笑)それは演技じゃないと。それ以来していません。
監督:私だったら絶対怒らないですよ(笑)
──藤原さんへ、映画の中でのジョウ・シュンさんの演技について何か思ったことはありますか。
藤原:お芝居って、”お茶を飲むシーンでも100人いたら100通り”だと思います。だからアフレコをしているとそういう意味でも勉強になりますね。
今回は発見が多かったです。国も超えてますし、ジョウ・シュンさんの起伏だったり、表現力の豊かさなどとても勉強になりました。
──藤原さんへ、そんなジョウ・シュンさんの演技にうまく声を乗せるのに工夫したことはありますか。
藤原:直球で受け止めました。技とかではなく、感じたまま身体で受け止めて、チージアの人生を生きたという感じでした。
ブースの中で大暴れしたり、泣きすぎて鼻水を止めるのが大変だったりしました(笑)
監督:ジョウ・シュンさんは演技経験が長いので、オーバーになりがちなところでもカメラがここにあると認識して演じてくれました。例えば「ここに30秒居てからカメラがこっちに動くので、そっちに移動して泣いて下さい。」と言えばそうしてくれる。それを計算しているわけではなくて、自分で感情を作ってそう演じてくれていました。
──監督へ、大雨のシーンは実際にあった出来事を参考にされていると覗いましたが。
監督:中国で実際にあった出来事をモチーフにしました。恋人同士が車に乗っていて、洪水に巻き込まれてしまって亡くなってしまったのです。2013年頃ですかね。元々シナリオに無かったのですが、後から入れました。なので中国の方が見るとかなりリアルなシーンかもしれません。撮るときは本当に苦労しました。あの水の中ですからね。
──そのシリアスさの中で笑えるシーンも入れる監督のバランス感は見事だと思いました。
監督:私はそういうのが好きなんですよね。シリアスさの中にコメディを入れる、コメディの中に少し悲しい気持ちを入れるとか。そういうのが好きなのです。車の上に乗って流されていく男性、実は中国で有名なコメディアンの方なんです。
藤原:女友達のシューアルが牛に乗ってるのも面白かったですよ。(笑)
監督:実はあの牛なんですが、最初お願いしたのはイルカだったんです(笑)美術のチームが見つけられなくて牛になりました(笑)幸い牛を持ってきてくれたことによって面白いシーンになりました。
友達役の女優さんが身長が180センチくらいあるのです。彼女のために水を入れる量を増やしました(笑)
──監督の映画の女性はなぜ強い女性が多いのでしょうか。
監督:振り回されるのが好きなわけはないです(笑)ただ私の周りの女性は強いところを持っていると思うのです。女性は元々強いところを持っていて、ただそれを映画で表現するかしないかの違いかなと思います。以前はそれをあまり表現しなかっただけなのかなと。
『猟奇的な彼女』が公開された時に「あ、これ私の話!」と共感頂くことが多くて、元々女性は強い部分を持っていたのかなと思いました。普段は隠しているのでしょうけれど、私はそういう部分を映画で描きたいと常に思っています。うちの妻や娘からも学んでいます(笑)
–{藤原紀香さんは献身的な男性をどう思う?}–
──監督の映画は男性がとても献身的だなと思います。藤原さんはそういう男性をどう思いますか。
藤原:いや、もう、彼のようなキャラクターは誰もが求めてる男性ではないでしょうか(笑)悩める時も、病の時も、あんな風にそばにいてくれたら女性は幸せになれるんじゃないかなと思います。
この作品のユアンは、最初は頼りなくてタイプじゃないなと思っていましたが、最後には大好きになるほど、素敵なキャラクターでした。
監督:私はそう言った男性を描くのがとても好きなのです。隣にいる時は気付かないのですが、別れた時に気付く、そういう男性いますよね。彼は私のことが好きだったんだな。私も彼のことが好きなんだ、と別れる時に思わせてくれるような。そういう男性像がすごく好きで今回もそういう男性が登場してます。
私は一目惚れの構図が好きじゃないんです。それよりもずっと長く一緒にいて、心から優しくしてあげて、真心を尽くして接してあげて、その愛がどんどん大きくなっていくのが大切だと思いますし、好きなんですね。長く一緒にいることによって情と愛を感じるというのが凄く好きです。
相対的にイケメンで完璧な男性よりも、藤原さんが仰ったように最初はタイプじゃないなと思うちょっと冴えないタイプの俳優さんの方を私は使います。
私自身がそういうコンプレックスをこれで克服しています(笑)
──監督へ、映画の中で印象的だった「亀」と「サボテン」について伺わせてください。
監督:亀ですが、あの亀は元カレがプレゼントしてくれたものですよね。彼女は心の中で見送らなければいけない、離れなければいけないのだけれども、ずっとまだ心の中に留めているという彼女の内面の心理を見せました。
なので一度目は送り出そうとしても戻ってきてしまう。次に本当に水に送り出す時、この時は過去の男性と別れて次の男性と出会う準備が出来たという意味になります。
サボテンですが、サボテンを触ってしまって指から血が出るというシーンがあったと思います。あのシーンは彼女の更年期の症状が消えて、もう一度その前の若かりし頃の女性に戻ったという意味が込められています。サボテンは花を咲かせるのにかなり時間がかかるんですけども、時間がかかって咲いた花はとても美しいという意味も持たせています。
──お二人へ、最後にこの作品を楽しみにしている方へ一言お願いします。
監督:私の作品を見る際は国籍にはこだわらないで、あくまでも登場している人物、ドラマの中の人間として気楽な気持ちで受け入れてほしいと思います。言葉や文化は違いますが、お互い理解し合うために努力をすればまた違った文化も理解できますし、共感できる部分を探していくことで楽しんで頂けると思います。
紀香:最近恋をしてない人や、なんだかトキメキも忘れてしまっている人、そして今恋をしている人など、男女問わず見て頂きたいなと。人を愛すること、恋すること、自分らしく生きることに対して考えることが出来ますし、周りの人の優しさにも気付けるのではないかと。そんな温かく、優しい気持ちになる映画です。これは、是非見て欲しいですね。
インタビュー後記
こちらのインタビューは藤原紀香さんがご結婚の発表をされる前のインタビューでした。
最初から最後まで、隅から隅まで、品よく丁寧に笑顔でインタビューに応えてくださいました。作品の魅力や吹替作業の大変さもわかりやすく応えてくださいました。
また、クァク・ジェヨン監督は作品の魅力だけでなく、印象的なシーンの演出意図なども応えてくださりました。そして、国際的に活躍する中で、特に国境を意識せず制作されている話が印象的でした。また終始笑顔だったのもチャーミングでした。
みなさんもこのインタビューから『更年奇的な彼女』の魅力や見どころを掴んで頂けたら嬉しいです。
『更年奇的な彼女』は4月5日(金)より全国公開中です。
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(取材・文:柳下修平)