驚かされるところにカタルシスがある―映画『残穢』中村義洋監督インタビュー

映画コラム
残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋― 中村義洋監督 インタビュー

2016年1月30日より全国公開となる映画『残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋―』でメガホンをとった中村義洋監督に、シネマズが単独インタビューを実施した。約10年ぶりとなるホラー作品に挑んだ今の思いや、映画化難しいと言われてきた本作をいかにこだわって映像化したかなど、お話を伺わせてもらった。

映画『残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋―』中村義洋監督単独インタビュー

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―

映画『残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋―』は、第26回山本周五郎賞を受賞した小野不由美氏の小説『残穢』を、ミステリーの名手・中村義洋監督が映画化。小野自身を彷彿とさせる主人公「私」に女優・竹内結子、「私」とともに調査を重ねる久保さん役に橋本愛と、本作で初共演する2人に加え、佐々木蔵之介、坂口健太郎、滝藤賢一といった実力派が集結し、予定調和を許さない驚愕のラストまで、片時も目が離せない戦慄のリアルミステリーとなっている。

残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋― 中村義洋監督 インタビュー

――映画を観させていただいて、幽霊などの直接的な描写が少なかったというのが印象に残っています。他のホラー作品とは少し違うなと。

実生活じゃ幽霊って全く出ないんでね、本当に。元々原作でも出ないからというのもあったんだけど、原作の小野先生とも話していて「出るまでじゃないですか?」という話になっったんですよね。幽霊が出るまでが一番怖いよねって。

――最初に原作読まれた時の率直な感想は?

僕は元々怖がりで、ホラーをやっていたりしたら克服できたんです。でも、この原作を読んでいる最中は怖がりに戻されてしまいました。本当に怖かったですよね。

――ホラーって克服できるものなのですか?

撮影してても何も起こらないし、実生活じゃでも何も起こらないからね。

残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋― 中村義洋監督 インタビュー

――そもそもホラー作品は、約10年ぶりとのことですが、どうしてまたホラー作品を撮ることになったのですか?

自分で断ってきたので、さっぱり来なくなったんです。でも、今もしホラーを撮ったらどうなるんだろうかと思っていたところに、出版社経由で話がきたんです。原作の小野先生が僕だったら映画化してもいいと言ってくれたらしく、実際に原作を読んでみたら、自分のやってきた作品と近かったし、小野先生がそう言ってくださるのもうなずける感じだったんですね。なのでタイミングもあって引き受けました。

――監督の作品と近いといいますと?

僕はドキュメンタリータイプのホラーをやっていて、過去にどんどん遡っていくと、元々はこういうことがあったという怖さ。そこが近かったんです。

――そもそもの話で言うと、なんでホラーをやめていたんですか?

昔からホラーを観るのは好きだったんです。心霊系のホラーって最初から怖い雰囲気がセットアップされていて、映画の導入部からその雰囲気が充満している。僕が好きなホラーもそう。だけど僕が普通に撮ると、楽しい世界になってしまうんですよ。その日常の中から幽霊が出たほうが怖いって、昔は思っていて、個人的には怖いと思えるけど、”ホラー映画”を観に来たお客さんにとっては、それはよくないかもしれない。だったら作らない方がいいって思ったのが一番ですかね。

――しかし、監督が作るホラー作品のファンもいますよね。

ホラーを断りだしてから1,2年経った頃に『ルート225』っていう映画を撮ったんです。そのクランクインの日に、身体が軽かったんですよね。「好きに撮っていいんだ」ってことだったんだろうなって。つまり、ホラーを撮るというのは自分の中で、かなりの負荷がかかっていたというのが分かった。だから、今回の作品を撮るときは、かなり自分の中でギアチェンジしてやんなきゃってなりました。

–{ホラーはまたやりたい。}–

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―

――主演の竹内結子さんは、ホラーが苦手だそうで、リングに出演して以来だそうですが、どうして竹内さんを選ばれたんですか?

直感ですかね。竹内さんとは何本もやっているので、彼女の暗いトーンとかを見てきたので、原作の”私”にちょうどよくハマるなというのが見えたんです。

――実際に撮影してみていかがでしたか?

年齢設定とかは原作と若干違うんだけど、ハマりましたね。小野さんと会う前に決めちゃってたんだけど、実際、小野さんに会ってみて、正解だなと思いました。雰囲気が実によく似ている。

――年齢設定が違うというと、橋本愛さんも原作では学生じゃないですよね。

そうですね。僕自体が若い子がいいと言ったわけじゃないんだけど、キャスティングを決める最初の段階で提案があって、やってみたいと思った。あと、竹内さんとの2人の並びを観てみたかったんです。

――それはどうしてですか?

美しいから。

――監督はこれまでも菜々緒さんなど、若手の女優さんを開花させるのが得意だというイメージがあるのですが、橋本さんとやってみて見立てた通りでしたか?

想像していた以上ですよね。すごく越えてきました。

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―

――脚本をされた鈴木謙一さんとは、ホラー作品時代にタッグを組んでいた旧知の仲ですよね。

そうですね。ホラーは鈴木と一緒にやっていたし、小野さんもそれを知っていたからというのもありますね。

――やはり安心感があるという感じでしょうか?

普通に原作通りにやったら6時間ぐらいになるんですよ。何を落とすかとかそういうのを理論的に受け止めてくれるので、鈴木との仕事は楽しいですよ。

――まだ観ていない方には詳細が話せないのが悔しいのですが、特にラストに向かっていくあたり、あれはもう…ほんとうに嫌で嫌で(笑)

原作自体も途中から「見ても聞いても」というのが出てくるんです。読んでてやだなって思って。映画もそれと同じ感じにしたかったので、ああなった感じですね。実際には、その後の話みたいなのも脚本段階では用意していたんですよ。でも、色々考えた結果、あの終わり方が良いなと。

――監督は、原作の編集者よりも自分のほうが原作自体を好きだと、過去の作品で発言しているのを見たのですが、今回もやはりそうですか?

そうかもしれない。脚本の初稿が書き終わったあとに読んだり、クランクインのギリギリ前に読み直したりして、これに限らずだけど「自分の思っていたものを落としてないか?」ということを確認する。無意識で落としていたりするんだけど、その無意識も信じないといけないから、落としたことが結局正解だったりするんで。その再確認というのは毎回やるかな。そうこうしていくうちに、この原作の事を一番知っているのは俺?みたいに錯覚してくる(笑)

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―

――今回観させていただいて、何が嫌だったって、ありとあらゆる事象が恐怖につながるじゃないですか。ほうきの音とか、もう二度と聴きたくないですよ…。

ほうきの音は、ものすごい何度も録りなおして、いくつかパターンを用意した中でのあれなんですよね。

――音には特にこだわったと?

特にほうきの音はずっとやっていましたね。何度も駄目だしして。

――あれって後から入れたものなんですか?

まず撮影に入る前に録音部が適当にほうきを使って録ったんです。それは役者さんに現場で撮影する時に聴かせるものとして。それで、最終的な音のミックス作業の時にあらたに作り、何種類かあるなかで、結局一番はじめのものをちょっと加工したものに決めました。

――録音部の方が適当に録ったやつですか?

そう。他のがなぜいけなかったかというと、怖がらせようと色々手を加えているんですよね。それをどんどんやっていくと、キャラクターというか、人というか、霊の意思みたいなものが見えちゃうんですよ。そもそも、あれは”ほうきの音”ではないしね。

――そうでした。ほうきの音ではなかったですね。

あくまでも単調が一番怖いというのに結構時間が経ってから気づいて、だったら一番はじめの音をもってこようとなり、再度聴いたら本当に単調で、まったく意思が感じられなくて、それが怖かった。

――監督がいつも言われているように、無理に作りこむんじゃなくて、自然なまま出すのがいいということに繋がるお話ですね。

それとは別かな(笑)

――あら(笑)

幽霊がなんで怖いかって、無差別とか理不尽とかってやつに近いからですかね。ホラー作品って、ヒロインと主人公がいて、自分が住む家とか行った先とかで襲われたりするじゃないですか?それをどう逃げるか、対処するかって話ですよね。

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―

――ホラーをあまり見ない僕としては、完全にそのイメージですね。

それなら恐怖は向かってくるわけなんだけど、これは全然違う。心霊がその部屋に元からいるわけだし。何が怖いかって「こっちに向かっているのかどうか」が、わからないところなんですよね。だから、キャラクターを消して、人がやっている感じを廃してやったんです。

――作品を通していわゆる幽霊みたいな存在の印象が少なかったのが逆に怖くなったわけですね。

けれど、白い服とか長い黒髪とか、この作品には全然出てこないから難敵でしたよ。

――今後もホラー作品はまた撮りますか?

うん、やりたいと思いました。これは、昔は気が付かなかったことなんだけど、自分ひとりじゃないし、録音部とかスタッフのコントロールのさじ加減でこれだけ変わるって、普通の映画じゃできないですよね。もうちょっと役者さんに委ねたり、役者さんの気持ちとか空気感を求めたりするけど、そうじゃないですからね。どこまでくるか、どこでカットを切るかとかで、怖さとか仕上がりが違ってくる。なんというか、趣味の域というか、コツコツコツコツやっていく感じがすごく面白かったですね。またやりたいと思います。

――ホラー苦手な僕でしたけど、不思議とまた観たいと思いました。いや、観たくないけどまた観たいというか…。ホラーってまさにザ・エンターテイメントなんだなって。

ホラーが苦手で、観に行かなきゃいけない状態になって、それで観に行って怖くなかったら、それはそれで損した気分になりますよね?

――そうですね(笑)

僕は観るのが好きなんで、驚かされたりとかっていうところに、爽快感まではいかないけど、そこのカタルシスっていうのはあるんですよ。それをやらずに終わっちゃうと、僕はムッときますね。

――観終わったあと、正直ちょっと動けなかったです。最高に怖いホラー作品でした!

ありがとうございます。

残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋― 中村義洋監督 インタビュー

映画『残穢【ざんえ】 ―住んではいけない部屋―』は2016年1月30日より全国ロードショー。

(C)2016「残穢-住んではいけない部屋-」製作委員会

関連リンク

ワケあり物件専門家・大島てるとのコラボ予告映像?!映画『残穢』
『残穢ー住んではいけない部屋』の完成披露試写会 竹内結子「怖い人はドキュメンタリーとして追いかけてください。」
蔵之介も滝藤も坂口も気持ち悪い―『残穢』スペシャルトークライブ@大阪
竹内結子×橋本愛初共演!映画『残穢【ざんえ)』ポスタービジュアル&予告映像解禁!