4DX全国上映も決定 盛り上がり続けるガルパン旋風!

アニメ

■「キネマニア共和国」

ガールズ&パンツァー 劇場版

(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

前回、劇場版を含む『ガールズ&パンツァー』ことガルパンの魅力をシンプルに一言で表したところ、「こんなんでギャラ払えるかい!」と編集部に怒られてしまいましたので、深く反省して今回は……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~》

今からでも十分間に合う、ガルパンの魅力をとくとご紹介!

戦闘ではなく、あくまでも武道として、乙女の嗜みとしての戦車道⁉

そもそも『ガールズ&パンツァー』は、2012年10月から放映された全12話(+総集編2話)のテレビ・アニメーション・シリーズに始まり、14年にはOVA『これが本当のアンツィオ戦です!』が、そして15年に劇場版が製作されました。

その内容ですが、簡単に言うと女子高校生たちが戦車に乗って他校と試合するというものです。

なんじゃそりゃ? と多くの人が思うかもしれませんが、要は剣があっての剣道、弓があっての弓道、ならば戦車があっての戦車道があってもいいじゃないかという、そんな世界観の中での物語。

つまり戦車道とは戦闘ではなく、あくまでも武道であり、しかも華道や茶道と並ぶ乙女の嗜みといった「そんなわけあるかい!(笑)」と突っ込みたくなるような、何ともぶっ飛んだ設定が設けられています。

華道や茶道と同じように、戦車道にも西住流、嶋田流といった流派もあります。

そして本作のヒロイン西住みほは、西住流戦車道の家元の次女で、熊本の黒森峰女学園の副隊長を務めていましたが、とある事情で戦車道から逃れるように戦車道のない大洗女子学園に転校しました。

しかし、まもなくして何と大洗女子学園でも戦車道が履修科目として復活することになり、唯一の経験者であるみほは、生徒会のごり押しによって戦車道を履修させられる羽目になりました。

かくして、みほを隊長に戦車道を履修する少女たちは全国大会優勝を目指し、さまざまな強豪校たちと試合をしていくのです……。

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(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

およそありえない世界を徹底的に構築していく気持ちよさ

これまで美少女キャラを用いたバトル・アニメーション作品は数多くありましたが、本作が他と大きく異なるのは、あくまでも学校の履修科目のひとつとして授業を受け、試合をしていることで、決して戦争をしているわけではなく、あえてジャンル分けすると、これは剣道や弓道、柔道などと同じスポーツものなのです。

戦車と聞いただけで、戦争をイメージする向きは確かにあるでしょうが、むしろ戦争的な要素を排し、さらには文部科学省の理不尽な仕打ちに対抗する反骨の姿勢までうかがわせながら、戦場の兵器としての戦車ではなく、少女たちをおおらかに、そして優しく包み込むような、そんな頼もしい父親であり恋人であるかのような戦車が魅力的に具現化されています。

また、これは試合なので(不慮の事故でもない限り)、絶対に人は死にません。車内は特殊カーボンでコーティングされているので、乗組員の安全は確保されています。

こういった、およそありえない設定をバシバシ導入していくことで、本作が現実とは異なる映像の中の虚構の世界であることが、見る者にも理解されていきます。

「ンなわけないだろう」と突っ込むのは、もはや野暮。『スター・ウォーズ』みたいに遥か昔のどこか遠くの星のお話といった気持ちで接すればよいのです。

–{戦車愛に裏打ちされた スタッフの究極的こだわり!}–

ガールズ&パンツァー 劇場版

(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

戦車愛に裏打ちされたスタッフの究極的こだわり!

そして、本作の世界観に圧倒的なリアリティをもたせているのが、スタッフの戦車に対するこだわりと思い入れの深さです。

まず、ここに登場する戦車はすべて第2次世界大戦時に各国で用いられたものばかりで、現代のものは一台たりとも出てきません。これは子どもの頃にプラモデルで戦車を作って遊んでいた世代にとってたまらないものがあり、大いにノスタルジーをそそられるとともに、もうひとつ、従来の戦争映画ではなかなか成し得なかったことを本作は見事に実現しているのです。

それは世界中の戦車たちの夢の共演!

実際、第2次世界大戦時の戦車をそのまま用いた戦争映画は非常に少なく、戦車映画の代表格と呼ばれる名作『バルジ大作戦』ですら、アメリカのM47パットン戦車などを塗装してドイツ軍戦車に見立てているほどで、要は実物をそろえることがほぼ不可能(本物が多く登場するのは、戦後没収したドイツ軍戦車をフルに使用した『ヨーロッパの解放』シリーズなど、旧ソ連が国力を挙げて製作し続けていた国策戦争映画超大作群くらいでしょうか)。

本作では、みほたちが乗るドイツⅣ号戦車をはじめ、大洗女子学園は各国の中古戦車を使用した混合編成がなされています。
以下、各学校の主な戦車およびキャラクターを記載しておきます(ちなみにすべて日本人です)。

《県立大洗女子学園高等学校》
※各国混合系(寄港地は茨城県大洗)
◎あんこうチーム
:Ⅳ号戦車D型(独)
(搭乗者)
西住みほ
武部沙織
五十嵐華
秋山優花里
冷泉麻子
(※西住みほの苗字は、伝説的な陸軍戦車隊長で40年には『西住戦車長傳』として映画化もされた西住小次郎から採用)

◎カメさんチーム(生徒会チーム)
:38(t)戦車(チェコ)
(搭乗者)
角谷杏
小山柚子
河嶋桃

◎アヒルさんチーム(バレーボール部チーム)
:八九式中戦車甲型(日)
(搭乗者)
磯部典子
河西忍
近藤妙子
佐々木あけび
(※彼女らの苗字は、第18回東京オリンピックで「東洋の魔女」と謳われた女子バレーボール・チームの面々から採用)

◎カバさんチーム(歴女チーム)
:Ⅲ号突撃砲F型(独)
(搭乗者)
カエサル(鈴木貴子)
エルウィン(松本理子)
おりょう(野上武子)
左衛門之佐(杉山清美)
(※彼女らのソウルネームは、それぞれがこだわりのある時代の歴史上の人物から採用)

◎ウサギさんチーム(1年生チーム)
:M3戦車リー(米)
(搭乗者)
澤梓
山縣あゆみ
丸山紗希
阪口桂利奈
宇津木優季
大野あや
(※彼女らの苗字は、女子サッカーのなでしこジャパンから採用)

◎カモさんチーム(風紀委員チーム)
:B1bis(仏)
(搭乗者)
ソド子(園みどり子)
ゴモヨ(後藤モヨ子)
パゾ美(金春希美)
(彼女らのあだ名は、『ソドムとゴモラ』やピエル・パオロ・パゾリーニ監督や『ソドムの市』から採用)

◎アリクイさんチーム(ネット戦車ゲーム・チーム)
:三式中戦車(日)
(搭乗者)
ねこにゃー
ぴよたん
ももがー

◎レオポンさんチーム(自動車部チーム)
:ポルシェティーガー(独)
(搭乗者)
ナカジマ
ホシノ
ツチヤ
スズキ
(彼女らの苗字は、伝説のレーサーから採用)

《聖グロリアーナ女学院》
※イギリス系(母港は神奈川県横浜港)
保有車両:チャーチル歩兵戦車Mk.7など
(主要キャラ)
ダージリン
オレンジペコ
アッサム
ローズヒップ

《サンダース大学付属高校》
※アメリカ系(母港は長崎県佐世保港)
保有車両:M4シャーマン75mm砲搭載型など
(主要キャラ)
ケイ
ナオミ
アリサ

《アンツィオ高校》
※イタリア系(母港は静岡県清水港)
保有車両:CV33型快速戦車、P40型重戦車など
(主要キャラ)
アンチョビ
カルパッチョ
ペパロニ

《プラウダ高校》
※ロシア系(母港は青森県大湊港・青森港)
保有車両:T‐34/76、KV‐2など
カチューシャ
ノンナ
クラーラ

《黒森峰女学園》
※ドイツ系(母港は熊本)
保有車両:Ⅲ号戦車J型、ティーガーⅠなど
(主要キャラ)
西住まほ
逸見エリカ

《知波単学園》
※日本系(母校は千葉港)
保有車両:九七式中戦車チハ、九五式軽戦車など
(主要キャラ)
西絹代
福田
名倉
玉田
細見
寺本
池田

《継続高校》
※フィンランド系(母港は石川県金沢港)
保有車両:BT‐42
(主要キャラ)
ミカ
アキ
ミッコ
(※彼女らの名前はフィンランド出身のレーサー、ミカ・ハッキネンとミッコ・ヒルポネン、映画監督のアキ・カウリスマキから採用)

 

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(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

試合そのものに着目を!

なお、これだけのキャラクターが一堂に会し、さらには新たな敵チームまで登場する劇場版は、TVシリーズを未見のまま接してしまうと「キャラの区別がつかない」「キャラが多すぎて、わけわからなくなる」といった戸惑いの声もときおり聞こえてくるのですが、劇場版に関しては1回の鑑賞で全てのキャラを把握することなど不可能で、むしろ試合の状況そのものに着目していったほうが得策です(戦車マニアは、戦車の別で見分けるという鑑賞法もあります)。

実はこのガルパン、劇場版を見てからTVシリーズを見るようになったという鑑賞者がかなり多いと聞いています。
つまり、キャラなどは把握できなくても、映画そのものを非常に面白く感じ、ならばもっとこの世界を知りたいと思ってTVシリーズに接し、どんどんはまってしまう大人たち(今、世間では彼らのことをガルパンおじさんと呼んでいます)が急増しているのです。
また、その多くは深夜アニメなどを競って見るヘビーなアニメ・ファンではなく、それこそ子供の頃に戦車のプラモデルを作って遊んでいたような戦車ファンです。

これは即ち、本作に関わるスタッフの戦車に対する並々ならぬ愛情が画面からひしひしと伝わってくることの証左にほかならず、その心意気や、実際画面に映し出されるリアリティあふれる戦車の描写に、みなが圧倒されるとともに、こういう戦車映画を見たかった!という感慨につながっていくのです。

(なお、本シリーズに対して戦車マニアがいくつかおかしな点を指摘したことがあったそうですが、実際に戦車に乗っていた元自衛隊員がそれらの指摘をすべて論破したとのことです。つまり、多少の誇張こそあれど、ここで描かれる戦車描写に誤りはないということです)

音響もすべてその戦車に合わせた個々の音が採用されており、そのリアルな迫力は現在、東京・立川シネマシティにて極上爆音上映センシャラウンド・ファイナル(70年代の映画界で流行したセンサラウンド方式のもじりですね)でフルに体験することができますが、さらなる興奮と感動を求めて2月20日から全国30館での4DX上映が決まったのも大いに納得できるところであります。

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–{映画ファン垂涎! 過去の映画群へのオマージュ}–

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映画ファン垂涎!過去の映画群へのオマージュ

また、映画ファンに強く訴えておきたいのは、本シリーズが映画的オマージュがたっぷり詰め込まれた作品になっていることです。

TVシリーズの段階で、既にウィリアム・フリードキン監督によるリメイク版『恐怖の報酬』(77)や『戦略大作戦』(70)『八甲田山』(77)『レマゲン鉄橋』(69)などなどを用いた仕掛けがあちこち見られましたが、単に作り手の映画ヲタク的自己満足で終わってしまうことが往々にしてある映画オマージュの罠に落ちることなく、すべてがドラマにきちんと機能し得ているのは驚くばかり。

劇場版も『西部戦線異状なし』(30)『戦争と人間』(70~73)『ビルマの竪琴』(56or85)『ヨーロッパの解放』(70~72)『バルジ大作戦』(65)『二百三高地』(80)などの戦争映画はもとより、『ジェット・ローラー・コースター』(77)『シャイニング』(81)などの要素も見つけられますし、さらには時代劇や西部劇、マカロニウエスタンなどジャンルとしてのオマージュも多数。SFテレビ・シリーズ『ミステリー・ゾーン』(59~64)もどきのロゴも登場します。

そしてなんといっても劇場版の白眉は、スティーヴン・スピルバーグ監督の『1941』(79)からの映画的引用で、それが何であるかは実際に見ていただくとして、『1941』こそはスピルバーグやジョン・ミリアス、ロバート・ゼメキスなどそうそうたる映画人たちが、ただ単に戦争ごっこをやりたいがためにおよそ70億円もの巨費を投じた戦争コメディ超大作で、当時は評論家から袋叩きにあった作品でしたが(おそらくスピルバーグとしても黒歴史かも⁉)、よくよく見ると『1941』は登場人物が誰も死なないという、戦争映画として画期的内容で、それは戦車試合で誰も死なないガルパン・ワールドとも大いに呼応しあうものがあるのです。

つまりガルパンは『1941』魂に裏付けられたシリーズでもあり、劇場版はその事実を露にしてくれているのです。実はスピルバーグ作品で『1941』が一番好きな私としましては、そのオマージュによってクライマックスの画期的シーンのひとつを構築した劇場版に涙せずにはいられませんでした。

それ以外にも、劇場版初登場の継続高校(ネーミングは継続戦争から採用)の隊長ミカの飄々とした哲学的キャラクターは、フィンランドが生んだ『ムーミン』のスナフキンであることは一目瞭然で、一方で知波単学園が完全に日本軍の欠点を露にしているあたりも妙味(要は突撃することしか考えていない!)
劇場版初登場の生真面目ユニーク美女・西隊長が「吶喊」と叫ぶたび、岡本喜八監督の同名名作映画(75)が脳裏をよぎります。

およそ2時間の上映時間の中で何と1時間半が試合シーン(前半30分と後半1時間)という大胆な構成もさながら、戦車の機能性をフルに生かしながら次々と見せ場を構築していく手腕は、エンタメに未だ不得手な実写畑の映画人こそ見倣っていただきたいほど優れたものがあります。

特に後半のめくるめく展開は、巷でずっとファンの間で囁かれ続けている「ガルパンはいいぞ」としか言えなくなるほどに(いや、そうとしか言いようのない)、秀逸な仕上がりとなっています。

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(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

才人・水島努監督の並々ならぬ力量!

監督の水島努についても記しておきます。1965年生まれの彼は、86年にシンエイ動画に入社し、91年のTV『美味しんぼ』第120話で初演出。94年以降は『クレヨンしんちゃん』シリーズに参加するようになり、99年の短編『クレしんパラダイス!メイドイン埼玉』で映画初監督。そして『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)『同 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』(02)などの絵コンテ&演出を担当し、シリーズ一狂っていると評判の『嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード』(03)や西部劇のオマージュたっぷりの『嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』(04)を監督&脚本。

TVシリーズでは『×××HOLiC』(06)『おおきくふりかぶって』(07)『侵略!イカ娘』(10)『よんでますよ、アザゼルさん』(11)『SHIROBAKO』(14~15)『監獄学園』(15)などなど明朗なものからミステリにコメディ、エロ&グロなものまで多彩な作品群を担当する才人で、13年には第18回アニメーション神戸賞・個人賞を受賞しています。

学生時代は山崎貴などとともに自主映画を手掛けていたとのことで、映画に関する知識も相当なものであることはガルパンを見ればおわかりかと思いますが、こういった才能の持ち主はアニメ業界だけでなく映画業界ももっと注目してしかるべきでしょう。

最後に、ガルパンの舞台のモデルとなった茨城県大洗町は、いわゆる聖地巡礼効果で現在大変な賑わいを見せていますが、東日本大震災で大きな被害を受け、復興に苦労していた折、ガルパンとのタイアップが町の活性化につながったことも特筆すべき事象です。

まだまだ書き足りないところは多々ありますが、とりあえず今回はこんなところで。

でも、要は一言でよいのです。

「ガルパンはいいぞ」

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(文:増當竜也)