ラスト2本! 中村吉右衛門版「鬼平」が主演150作フィナーレ

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池波正太郎さんの不朽の人気時代劇『鬼平犯科帳』。二代目中村吉右衛門さん主演の現行シリーズが、2015年12月18日放送の『鬼平犯科帳スペシャル 浅草・御厩河岸』、2016年夏撮影で2016年末~2017年初頭に放送予定の『鬼平犯科帳スペシャル』で有終の美を飾ることが明らかになりました。

最終作の『鬼平犯科帳スペシャル』は前後編2本となり、この作品で中村吉右衛門さん主演の鬼平犯科帳は150タイトルを迎えます。

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池波さん「原作にないものはやるな」

池波さんの遺言に「原作にないものはやってくれるな」という内容があったのはファンなら知るところです。1989年からテレビ放送が始まった中村吉右衛門さん版の鬼平では映像化可能なものはすべて放送し、複数の原作を組み合わせたり、1時間の枠で作ったドラマ版にアレンジを加えたスペシャルドラマの制作を行いました。

そのような現状の中、2016年末からの『鬼平犯科帳スペシャル』(前後編2本)がシリーズ150本目を迎えること、テレビドラマ史に燦然と輝く中村吉右衛門さん版の「鬼平」を理想的な形で終了し、有終の美を飾りたいという想いから、残り2作品の発表でフィナーレを迎えることにし、最終作の制作をスタッフ一丸となって行いたいという考えでこのたびの発表となったそうです。

圧倒的な存在感「吉右衛門版・鬼平」

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テレビドラマ版は中村吉右衛門さんのお父さん・八代目松本幸四郎さん主演で1970年に放送されたのが最初です。以降、1982年までに丹波哲郎さん、萬屋錦之介さんが長谷川平蔵役を演じてきました。12年の間に3人の「鬼平」が誕生したのですが、中村吉右衛門さんは、1989年の第1シリーズから数えて27年もの間演じ続けています。

2001年までの連続ドラマとして全137話。2005年放送の『鬼平犯科帳スペシャル 山吹屋お勝』から今年1月放送の『鬼平犯科帳スペシャル 密告』まで、スペシャルドラマが11本。全部で148本の「吉右衛門版・鬼平」が放送されてきました。

もはや「当たり役」という言葉が陳腐になるくらいの、自らの分身となったのではないでしょうか。その存在感は圧倒的ですし、今の40代以下のファンでも「鬼平」=「中村吉右衛門」という方はとても多いのではないかと思います。その吉右衛門版・鬼平のラスト2作、括目するしかありませんね。

出演はもっと長い

鬼平犯科帳_中村吉右衛門

八代目松本幸四郎さんが長谷川平蔵を演じた時の鬼平犯科帳では、中村吉右衛門さんは長谷川平蔵の息子・辰蔵を演じていました。文字通りの親子共演です。

そして中村吉右衛門さんが小説の中の長谷川平蔵と同じ45歳になった1989年に満を持して主演。辰蔵時代と合わせると30年もの間、中村吉右衛門さんは鬼平に携わっていたのですね。

中村吉右衛門さんプロフィール

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昭和19年5月22日生まれ。東京都出身。初代松本白鸚の次男。母方の祖父・初代中村吉右衛門の養子となる。屋号は播磨屋。昭和23年6月東京劇場『御存俎板長兵衛』の長松ほかで中村萬之助を名乗り初舞台。昭和41年10月帝国劇場『金閣寺』の此下東吉ほかで二代目中村吉右衛門を襲名。

歌舞伎界を代表する立役の一人であり、時代物、世話物、新歌舞伎、舞踊など幅広い芸域で数多くの当り役をもつ。平成14年日本芸術院会員。平成23年重要無形文化財保持者(人間国宝)。

初代中村吉右衛門の俳名を冠した興行「秀山祭」(しゅうざんさい)は、初代の生誕120年にあたる平成18年から行われている。
松貫四の名で自ら筆をとり『再桜遇清水』、『藤戸』、『日向嶋景清』の上演を手がける。
平成18年から24年まで、文化庁による舞台芸術体験事業に参加。小学生に歌舞伎の楽しさを教える活動を行う。
昭和59年度第39回芸術祭優秀賞、第41回日本芸術院賞。平成14年度第57回芸術祭大賞など受賞多数。

(C)フジテレビ

–{中村吉右衛門さん あいさつ文}–

中村吉右衛門さん あいさつ文

鬼平犯科帳_中村吉右衛門

フィナーレを迎えるにあたり、中村吉右衛門さんからあいさつ文が届いていますのでご紹介します。

平素より格別の御贔屓をいただき、誠にありがとうございます。

この度、27年に渡り制作されて参りました『鬼平犯科帳』が、来年の撮影、放送をもってフィナーレを迎えさせていただくことを、ここに御報告申し上げます。平成の年号とともに産声をあげました当ドラマシリーズでございますが、ここまで長きに渡り、沢山の作品をお送り出来ましたのも、ひとえに多くの皆様から厚いご声援を賜ったからこそでございます。心より厚く御礼申し上げます。

思えば、物語の長谷川平蔵の年齢と同じ45歳で原作者の池波正太郎先生から作品をお預かりして四半世紀、大変魅力的な“鬼の長谷川平蔵”という役に、真摯に、そして一所懸命に向き合って参りました。私が常に意識しておりましたのは、原作で描かれる平蔵自身の行動力、生き生きと切れのある立ち回り、市中を駆け巡る軽やかさ、そして静かな中に見せる人情味でございます。それこそが、“鬼平犯科帳の真髄”との考えだからこそでございます。鬼平を溌剌と演じられるうちにフィナーレを迎えるのが最善と思い、来年の撮影で記念の150作となるのを期に決断致した次第です。

これまでを振り返りますと、本当に様々な場面が思いだされますが、江戸家猫八師匠や高橋悦史さん、真田健一郎さん、蟹江敬三さんなど、27年の間に鬼籍に入った大切なキャストやスタッフもおり、改めて月日の流れを感じます。長きに渡り鬼平犯科帳を演じてこられたのも、視聴者の皆様のご声援、キャストやスタッフの皆様のご協力、フジテレビ並びに松竹の関係者の皆様のご尽力があってこそでございます。改めて感謝申し上げるとともに深く御礼申し上げます。

来る12月18日の放送を含めて残り2作。有終の美を迎えられるよう、これからも精進して参ります。ありがとうございました。

–{中村吉右衛門さんの一問一答}–

中村吉右衛門さん 一問一答

また、中村吉右衛門さんとの一問一答が公開されています。

--『鬼平犯科帳』がフィナーレを迎えることについての思いをお聞かせ下さい。

中村吉右衛門さん:「長いようで短かったです。多くの役者さんに出演していただいて、感謝しております」

--26年という長い年月をかけて、長谷川平蔵という一人の人物を演じ続けてこられましたが、改めて長谷川平蔵という人物について、吉右衛門さん自身が抱いてらっしゃる思いをお聞かせ下さい。

中村吉右衛門さん:「原作に描かれているような人物のまま演じられたらいいなと、常々思いながら演らせていただいておりました」

--これまでの『鬼平犯科帳』シリーズの中で、最も印象に残っている作品がございましたら、理由と共にお聞かせ下さい。

中村吉右衛門さん:「“暗剣白梅香”です。長谷川平蔵は、自ら行動する人物として描かれています。まだ若かったのですが、体力の限界まで使い切った作品です。その思いが強く残っております」
※「暗剣白梅香」は、1989年7月12日に放送された、第一シリーズ・第一話。

--『鬼平犯科帳』には、表情豊かで愛すべき人物たちが登場しますが、特に印象に残っている人物がいらっしゃればお教え下さい。

中村吉右衛門さん:「“むかしの女”で山田五十鈴さんが演じられた“おろく”、“血頭の丹兵衛”で島田正吾さんが演じられた“蓑火の喜之助”が印象深いです」
※「むかしの女」は、1990年10月17日に放送された、第二シリーズ・第四話。
※「血頭の丹兵衛」は、1989年8月2日に放送された、第一シリーズ・第四話。

--原作の池波先生が亡くなって、今年で25年となります。池波先生への思いをお聞かせ下さい

中村吉右衛門さん:「実父の八代目松本幸四郎の『鬼平犯科帳』に、平蔵の息子・辰蔵役で出演させていただいた際に、先生にご指導いただきました。その後、40歳になった時に、『鬼平犯科帳』のお話しをいただいたのですが、まだ年齢的に若かったですし、どうしても実父・八代目松本幸四郎の『鬼平犯科帳』のイメージが強かったもので、今考えると本当に失礼な話なのですが“できません”とお断りをしてしまいました。それでも5年もお待ちいただいて、45歳の時に改めてお話しをいただき、長谷川平蔵も45歳で火付盗賊改方に就任したこともあり、やらせていただいた次第です。放送が終わって池波先生に“どうでしたか?”とお電話をさせていただいた際には、先生から“いいよ、良かったよ”とおっしゃっていただきました。私のことを大変気遣って下さって本当にありがたかったなぁと、いつも思い出します」

--26年という長い期間、長谷川平蔵を演じ続けてこられた吉右衛門さんに、もし池波先生がお声をかけて下さるとすれば、どんなお言葉だと思われますか?

中村吉右衛門さん:「“ご苦労さま”と言って下さるのではないでしょうか」

–{プロデューサー・能村庸一さんコメント}–

プロデューサー・能村庸一さんコメント

番組のプロデューサー・能村庸一さんからもコメントが届いています。

『鬼平犯科帳』が放送を開始した平成元年は1980年代最後の年でもあり、〈ベルリンの壁崩壊〉など世界に大きな変革の見られた年でした。また国内では〈バブル〉と共に〈トレンディ〉が流行語で、若者たちが久々にテレビに戻った一方で時代劇人気が低迷し、フジもレギュラー編成を休止していた頃です。そんな中での正統派時代劇の復活は勇気ある決断として世間の注目を浴びておりましたから、図らずも番組のプロデューサーを命じられた私としては、大きな期待と共にチョッピリ不安もありました。

しかし番組がスタートするや、幸いにも視聴率は回を重ねる度に上昇し、作品のクオリティの高さが各方面から評価されました。

中でも原作者からの再三に及ぶ要望に応え、満を持して登場した中村吉右衛門丈の長谷川平蔵は、本格的な時代劇を渇望していたファンや池波正太郎作品の愛読者から絶賛されましたし、そのスタイリッシュな名演は多くの女性層を魅了しました。また、〈善と悪とは紙一重〉といった池波哲学が若者の共感を呼びましたし、熟年層では、平蔵の配下への接し方に学ぶものがあるとして、いわゆるエグゼクティブの方たちにも人気の番組となりました。

『鬼平』を取り巻く密偵や与力・同心などを演じた多彩なレギュラーにはそれぞれのファンが付きましたし、他番組ではめったに見られない大物ゲストも話題でした。さらに、江戸料理の権威に御指導頂いた日本の食文化へのこだわりや、四季の彩りで構成したエンディングのタイトルバックとそこに流れるジプシー・キングスのテーマ曲など、様々なチャーミング・ポイントが〈鬼平現象〉とも言うべきブームを呼んだのでした。

そんな名番組を足掛け10年で終了したのは原作が尽きかけたからに他なりませんが、断腸の思いでした。やがて、“同窓会のつもりで一度やってみたい”との声が上り、二時間スペシャルを制作したところ、その『大川の隠居』が好評で、もう一度、さらにもう一度と回を重ねて今日に至りました。

いま、私が何より思うこと。それは、歌舞伎界を背負う重鎮として超多忙な中で鬼平を演じ続けて下さった中村吉右衛門丈を始め、それぞれの持ち役をかくも長きにわたり、ライフワークのごとく勤めて下さったキャストの皆様への感謝の気持ちです。

そしてもう一つ、あえて申し上げたいのは、私共この番組に関わった全ての者たちの幸せです。『鬼平犯科帳』の制作に携わったことは多くの感動をもたらしてくれましたし、誇りでもありました。それを支えて下さったのは他でもない、『鬼平』を愛する全国の視聴者の皆様であることは今さら申し上げるまでもありません。

平成という時代と共に歩んだ『鬼平犯科帳』。来年夏に制作予定の150作目で、七度目のオリンピックイヤーを迎えることになります」

(文/奥野大児)