『約束』『旅の重さ』と、斎藤耕一監督の70年代を代表する名作が続々BD化!

音楽

■「キネマニア共和国」

1970年代初頭、『男と女』などのフランスの映像詩人になぞらえて“日本のクロード・ルルーシュ”と呼ばれた映画作家・斎藤耕一監督。そして今……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.75》

斎藤監督の代表作が続々とブルーレイ化されてきています!

約束

(C) 1972 松竹株式会社

たった3日間の男女の激しい愛を描いた岸恵子&ショーケン主演の『約束』

斎藤耕一監督は1929年2月3日生まれ。スチルカメラマンとして映画界入りし、太泉映画(後の東映)、日活と数々の映画のスチル写真を撮り続け、67年に『囁きのジョー』で監督デビューを果たします。

68年からは松竹で『小さなスナック』(68)『落ち葉とくちづけ』(69)といった歌謡映画や松本清張原作のサスペンス『内海の輪』(71)を撮り、そして72年の春に発表した作品が『約束』でした。

『約束』は66年の韓国映画『晩秋』を原案にした作品で、服役中の模範囚・螢子が母親の墓参りを特別に許され、看視官付きで列車に乗り込んだところ、一見軽薄そうな青年・中原からしつこくつきまとわるものの、やがて彼の純粋さを知り……という、たった3日間の短くも燃えあがる愛の情熱を描いたものです。

螢子には名優・岸惠子、そして中原には本作の好演で映画スターとしての地位を築きあげていくことになる萩原健一が扮しています。

劇中の主な登場人物はこのふたりだけで、オールロケで日本海沿いを北上しながら、坂本典隆の流麗なキャメラ・ワークが、冒頭にも述べたクロード・ルルーシュ監督作品を彷彿させる見事な映像美を構築し、ふたりの心情に寄り添っていきます。

音楽を『宇宙戦艦ヤマト』でおなじみ宮川泰が担当しており、叙情性豊かなロマンティシズムな調べを披露しています。

高度経済成長期から取り残されたかのような、当時の寂れた風景の中、ワケありな女と年下の男の恋の行方の果てにかわされた“約束”と、その顛末はぜひご覧になっていただければと思いますが、日本映画にもこんなラブストーリーがあったのかと、今の若い世代などの目には驚嘆しつつも新鮮に映えるのではないでしょうか。

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–{16歳の少女の一人旅を描く青春ロードムービー『旅の重さ』}–

16歳の少女の一人旅を描く青春ロードムービー『旅の重さ』

旅の重さ

(C) 1972 松竹株式会社

『約束』の直後、斎藤監督は続けて同じ年の秋に『旅の重さ』を発表しました(こちらは15年の夏、既にリリースされています)。

これは素九鬼子の同名小説を原作としたもので、男にだらしのない母との生活から飛び出し、まるでお遍路さんのように四国路の一人旅を始めた16歳の少女の軌跡を描いた青春ロード・ムービーです。

緑の草の匂いが画面から濃厚に伝わってくる夏の空気感の中、少女はさまざまな人々と交流し、やがて旅芸人一座と行動を共にしながら、人を知り、性を知り、そして人生の機微のほんの少しの部分に触れていきます。

少女を演じるのは、本作のオーディションに合格して映画デビューを果たした高橋洋子。初々しくも勝気でさわやかな個性と、ヌードも辞さない度胸の良さなど心地よい体当たり演技、そして何よりも自然体の可愛らしさが作品全体のみずみずしさを象徴しているかのようです。

ちなみにこのときのオーディションで2位となり、加代役で出演している小野寺久美子とは、後の秋吉久美子でした。

戦後の解放を経て、固定観念からのさらなる脱却を求めて若者たちが自由にふるまい、それゆえの悩みや苦しみなどが露呈していた1970年代独自の青春像は、それでいて今の時代からも共感を得られるであろう普遍的な魅力を放つ青春映画としても屹立していることに、正直久々にブルーレイで本作を見て驚かされました。

音楽は吉田拓郎。主題歌の名曲『今日までそして明日から』が、少女の旅を後押ししてくれています。

この年、キネマ旬報ベストテンで『約束』が第5位、『旅の重さ』が第4位にランクインし、映画ファンの斎藤監督作品への認知度がぐんと上がります。そして翌73年『津軽じょんがら節』はベスト1を獲得。その後も高倉健と勝新太郎が共演したニューやくざ映画『無宿(やどなし)』(74)や、中村雅俊主演で石原裕次郎最後の実写映画出演となった『凍河』(75)などの話題作を意欲的に撮り続けます。

80年代以降は寡作となりますが、日本の風土には一貫してこだわり続け、『望郷』(93)のような名作も世に放ちました。

今回ブルーレイで発売された2作品を通して、斉藤耕一監督作品の再評価を待望したいものです。

同時に、未だブルーレイもDVD化もされていないような作品にも陽の目が当たりますように(個人的にはビデオ化すらされていない浅丘ルリ子主演の78年度のミステリ映画『渚の白い家』を見てみたいのですが……)。

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(文:増當竜也)

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