イギリスのスパイ、ジェームズ・ボンドが活躍する人気長寿シリーズの最新第24作がいよいよ公開となりますが、今回は作品をより面白く楽しむための要素のいくつかをお伝えしたいと思います……。
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.71》
『007 スペクター』のための下準備!
ぜひとも復習をお勧めしたい前作『スカイフォール』
今回、まずやっていただきたいのは、実は簡単です。
前作『007 スカイフォール』を見直しておくこと!
なぜなら、『007スカイフォール』(12)ではジェームズ・ボンドの生い立ちが描かれていたのですが、今回はその続編になっていて、さらなるボンドの過去がドラマのカギになっていくからです。
また『スカイフォール』では、ジェームズ・ボンドが属するMI6の上司M(ジュディ・デンチ)が死んでしまい、代わって新しいMが赴任しますが、その新しいMに扮するのはレイフ・ファインズ。前作ではどことなくボンドのことを嫌っているような雰囲気もなきにしもあらずでしたが、さて今回は?
さらに『スカイフォール』からMの秘書ミス・マネーペニー(ナオミ・ハリス)や秘密兵器研究開発課のQ(ベン・ウィショー)が登場しました。
彼らはもともとシリーズのレギュラー・キャラクターであったのが、ダニエル・クレイグが初めてボンドを演じた『007 カジノ・ロワイアル』(06)で一度シリーズはリセットされ、リメイクではありませんが、新たなジェームズ・ボンドが007として徐々に確立され、成長していく姿を描いていくものになっています。
その意味では今回は『カジノロワイアル』『007 慰めの報酬』(08)、そして『スカイフォール』と、前3作がすべて密接にリンクした内容になっているので、余裕のある方は3作とも復習していただきたいところですが、時間のない方は『スカイフォール』だけでも見ておくとよいでしょう。
いずれにしましても今回は、Mをはじめマネーペニー、そしてQがボンドの活動にかなりの部分で絡んだり、時に彼の危機を救ったりもします。個人的にはQの見せ場が多いようにも感じましたが、そういうわけで今回はボンドの個人プレイというよりも、MI6のチームプレイとしての映画にもなり得ているのです。
しかし、こういう風にシリーズをリセットして新たなMI6が確立していく中、残されたシリーズ最後の要素とは……。
そう、敵の存在です!
–{ダニエル・クレイグ最後の出演?}–
ジェームズ・ボンドの宿敵たる犯罪組織スペクター
本作のタイトルにある“スペクター”とは、SPecial Executive for Counter-intelligence Terrorism Revenge and Extortion(対諜報活動やテロ、復讐、強要などを行うための特別機関)の頭文字をとってSPECTREとネーミングされた世界的犯罪組織のことで、実は007シリーズ第1作『ドクター・ノオ』(62)から第6作『女王陛下の007』(69)まで登場した、いわばジェームズ・ボンドの宿敵といった存在なのです。
つまり本作でスペクターが登場するということは、ダニエル・クレイグ主演によるリセットされた新007シリーズが、いよいよ本来のシリーズ第1作に至る設定に近づいてきたということなのです。
もっとも今回は、スペクター幹部のひとりフランツ・オーベルハウザー(クリストフ・ヴァルツ)は登場しますが、首領のブロフェルドは登場しません。
このブロフェルド、007シリーズの人気悪役ランキング1位をキープし続ける大物ですが、なかなか姿を現さず、初めて顔を見せたのは第5作『007は二度死ぬ』(67)のドナルド・プレザンスがこれを不気味に演じました。
ダニエル・クレイグは今回が最後のボンド映画出演といった噂も流れていますが、私はブロフェルドが登場するまでは降板してもらいたくないというか、ダニエル・クレイグ版の新シリーズにおけるボンドとブロフェルドの対峙を見てみたいと願っています。
その他、第3作『ゴールドフィンガー』(64)のオッドジョブや第10作『私を愛したスパイ』(77)のジョーズなどを彷彿させる怪力の殺し屋Mrヒンクス(デイヴ・バウティスタ)や、『ゴールドフィンガー』に登場した名車アストン・マーチンの新型が今回登場するなど、過去への目くばせも実は多く、そうなってくると数日かけてもシリーズ全作品を見ておきなさいとも言いたくなるのですが、まあ、そこまでしなくても、単体でも十分に楽しめる作品に仕上がっているのも間違いないので、ご安心のほどを(でも、これを機に、未見の方はシリーズ全作品を見直していただきたいものです)。
–{ボンドガールの資質とは…}–
時代とともに移り変わるボンドガールの資質
肝心のボンドガールに触れずじまいでしたが、今回のヒロイン、マドレーヌ役に知的美女レア・セドウが扮しているあたり、時代の推移を痛感させられます。
そもそもボンドガールはボンドの活躍を彩るセクシー美女として認識されていたのが、時代の流れとともにそれ以上の存在感を要求されるようになり、さらにはソフィ・マルソーやハル・ベリーなど実力派女優がヒロインを演じるようにもなりました。
今回のレア・スドウも単なるセクシー度よりドラマとしての機能を重視してのキャステイングのように思われますが、一方でセクシー熟女モニカ・ベルッチの登場には、往年のボンドガールの個性を委ねているようでもありました。
思えばショーン・コネリー扮する初代ボンドは美女をボンッと突き飛ばしてベッドインするような荒っぽい男でしたが、3代目のロジャー・ムーアはたとえ敵でも女性に対しては笑顔で接するという優しいプレイボーイ風で、5代目ピアース・ブロスナンはその中間をいっているような感じもしたものです。
一方、どこか暗い影を引きずるダニエル・クレイグの6代目ボンドは、これまでは女性に対しての興味が従来のボンドより薄い気もしていましたが、では今回はどうか? それは見てのお楽しみということで……。
結局、今回の『スペクター』をもっとも堪能するためには、やはりシリーズ全作を見ておくことという、ごく当たり前の、身も蓋もない結論に達してしまったようです!?
(文:増當竜也)
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